平成28年度年次経済財政報告公表に当たって

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日本経済の現状をみると、アベノミクスの取組の下、経済再生・デフレ脱却に向けた進捗がみられています。企業収益が高水準で推移し、人手不足感もみられる中で春闘の賃上げ率も3年連続で高い水準となるなど雇用・所得環境は改善しています。2015年度には、名目GDP、実質GDP、GDPデフレーターが18年ぶりにそろって前年比プラスとなり、日本経済がデフレ状況ではなくなる中、税収の増加等を中心に財政の健全化も進んでいます。

他方、現在の日本経済は、世界経済に様々なリスクがみられる中で、経済の好循環を確立していくことが課題となっています。国内では、個人消費や設備投資が力強さを欠くなど経済の所得面から支出面への波及には遅れがみられており、海外経済については、新興国・資源国経済の脆弱性といったリスクに加え、本年6月に英国の国民投票でEU離脱が支持されたことにより、世界経済の先行きに関する不透明感が高まっています。本報告では、こうしたリスクを乗り越え経済の好循環を確立していくためには、日本が誇る人材力を最大限活用していくことと、企業が自ら成長機会を拡大するために一歩前に踏み出すことができるような環境を整えることが重要であるとのメッセージを盛り込んでいます。

人材の活用については、多様な働き方を広め、同一労働同一賃金を目指し、正規・非正規間の賃金格差を是正することなどにより、女性や高齢者など働きたいと思う人が働きやすい環境を整えることが大きな課題です。また、医療・介護等の分野における人手不足に加え、IoT・人工知能(AI)などに代表される新たな成長分野でも人手が不足していることを考慮すると、能力開発の強化や転職市場の機能の向上により、これらの分野への労働力の円滑なシフトを促すことも必要です。

成長力強化に向けては、民間投資が拡大し、企業活動が高い付加価値を生み出していくことが重要です。成長戦略等の政府の取組に加え、近年、企業の間で取組が加速しているコーポレート・ガバナンスの強化を進めていくことも有効であると考えます。

直面するリスクを乗り越えて、好環境を確立するためには、未来への投資となる人材や企業の潜在力を引き出す成長力の強化を図ることが不可欠です。本報告がこうした課題への対応に関する議論に資することになれば幸いです。

平成28年8月

経済財政政策担当大臣

経済財政政策担当大臣 石原伸晃

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