平成22年度年次経済財政報告公表にあたって

[目次]  [次へ]

日本経済は、2009年の春に景気の底を打った後、外需と経済対策にけん引される形で着実に持ち直してきており、企業収益は改善し、雇用者所得にも底堅さが見られるようになりました。今後は、自律的回復への移行が期待されますが、同時に、景気回復の「質」が問われることになります。需要の創造と成長力の強化を通じて、デフレ、お金の回りの悪さ、財政の慢性的な悪化といった重石を取り除くとともに、国民が実感でき、外からのショックに強い経済を実現することが求められています。今回の白書では、こうした問題意識に即して、日本経済の現状を分析しました。
まず、最近の景気動向を振り返った上で、デフレや財政悪化について分析しました。我が国経済は、リーマンショック後の景気悪化から脱し、上向きの動きを示している点では他の主要先進国と変わりありません。しかし、デフレに陥ったのは日本だけであり、政府債務も群を抜いて高い水準にあります。デフレの背景としては、バブル崩壊後の調整が長引き、需要不足が続いたこと、こうしたなかで、低い期待物価上昇率が定着したこと等を指摘しています。財政については、長期金利の動向を楽観視すべきでなく、脆弱な歳入構造の克服などを進めることが必要であるとしています。
次に、前回の景気拡張局面では弱さが残った家計部門の課題に焦点を当てました。家計が持続的な成長の一つの原動力となる場合、イノベーションを通じて新たな製品、サービスが次々と市場に現われ、それが家計により消費されることによって所得の増加につながり、さらに消費が増加するという好循環の実現が鍵であると指摘しています。また、高齢者には就労機会、現役世代には休暇という形での時間の再配分も効果的です。住宅投資は量から質への転換が課題となっており、環境性能の向上を含めたリフォームの促進、都市の集積による利便性向上等が重要であるとしています。
さらに、需要面を支える供給面の強化について、主要な論点を取り上げました。我が国の生産年齢人口は減少しており、中長期的には生産性上昇こそが成長への突破口を開きます。その点で、様々な規制の見直しは、潜在需要の顕在化と生産性上昇の両面に働く効果的な手段です。また、環境規制については、中長期的には省エネ、関連製品の売上等を通じたプラス効果も指摘されています。その足掛りとなるのが研究開発であり、それに対しては、安定的な規制枠組みの下で、リスクマネーの供給などによる支援が不可欠です。最後に、日本企業の収益力の弱さ、対内投資の少なさに言及した上で、税負担のあり方や高度人材の確保を含めたビジネス環境改善の必要性を指摘しました。
平成13年に始まった「経済財政白書」も本年で10回目を数えます。日本経済が抱える課題の本質は当時からそれほど大きく変わっているわけではありませんが、それへの対応には難しさが増している面があります。国民に対して説明責任を果たしつつ、適切に経済財政運営を行っていくためには、これまで以上に的確な情勢の把握が求められています。それゆえ、「経済白書」以来、客観的な経済分析の伝統を受け継いできた「経済財政白書」の役割も一層重要となっていると考えます。本白書により、我が国の経済財政に対する認識が深まり、その課題の解決に貢献できれば幸いです。

平成22年7月

経済財政政策担当大臣

荒井聰

[目次]  [次へ]