第2章 企業・家計のリスク対応力
第1章でみたように、日本経済は海外発のリスクに対して脆弱さを抱えている。その根底にある原因は、国内に十分な成長機会を見出せず、海外の活力の取り込みも弱いこと、そして個々の経済主体がそのために必要なリスクテイクをしていないことである。企業はリスクの高いプロジェクトを回避し、起業活動には活発さがみられない。また家計からのリスクマネーの供給も消極的となっている。その結果、企業も家計も「ローリターン」(低収益)に甘んじている。
それでは、なぜ企業や家計はリスクを取らないのであろうか。まず、「リスクを取りたくても取れない」企業や家計があるだろう。その場合は、どこにネックがあるかを明らかにする必要がある。また、「低い成長機会しか見当たらない」「低い投資収益しか得られない」という声がしばしば聞かれる。その場合の疑問はより根源的なものとなる。「リスクを取らないからリターンが低い」のであろうか。それとも「リターンが低いからリスクを取らない」のであろうか。
以下、本章では、こうした論点について考えていきたい。第1節では、国際的にみた日本企業のリスクテイクの状況を概観する。第2節では、企業がコア事業でリスクテイクをするためにも、それ以外でのリスクヘッジが重要なことを踏まえ、為替レートや原材料価格の変動に対するリスクヘッジの状況を調べる。第3節では、日本企業のリスクテイクについて、事業の「選択と集中」、研究開発投資、M&A、ベンチャー企業といった手段ごとに点検する。その結果を受けて、第4節では、コーポレートガバナンスの形態と企業のリスクテイク行動の関係を分析する。第5節では、家計や金融機関の側から、リスクマネーの供給の在り方についての課題を探る。第6節で、まとめを行う。