第3章 高齢化・人口減少への挑戦

我が国においては、世界においても例をみないスピードで高齢化が進行している。また、少子化の影響により、生産年齢人口は既に1995年をピークに減少に転じているほか、総人口についても2006年をピークに減少に転じることが見込まれている。我が国では戦後一貫して人口増加が続き、豊富な労働力の投入や需要の拡大等を通じて高い経済成長を実現してきた。この中で、社会保障を中心とする公的部門も若者が多く高齢者が少ないという人口構造を前提として構築されてきた。近年の高齢化や今後迎える人口減少は、こうした前提を突き崩すものであり、我が国の経済社会は従来からの経済成長パターンや公的部門の在り方についての見直しが迫られている。こうした現状を前に、将来に対する展望はとかく悲観的になりがちである。

しかし、悲観論を叫ぶだけでは、自己実現的にその悲観的なシナリオが現実化するだけである。今必要なことは、人口構造の変化による労働投入等へのマイナスの影響を最小限に抑制しつつ、そのようななかでも維持・発展が可能な経済社会システムへの転換を図ることである。第3章では以上のような問題意識に基づき、高齢化・人口減少の下での我が国経済社会がとるべき方向を検討する。本章は以下の3つの節から構成される。

まず第1節においては、高齢化・人口減少の要因を分析するとともに、行き過ぎた出生率の低下を反転させるためにはどのような方策を講じるべきかを検討する。さらに、出生率の低下に歯止めをかけたとしてもなお進行すると見込まれる生産年齢人口の減少の影響を緩和するため、女性と高齢者の労働力を有効利用する方策を検討する。それを受け第2節では、高齢化・人口減少の下での経済成長に対する悲観的な見方、楽観的な見方を整理した上で、クロスカントリー・データ等により個々の論点を検証し、今後の経済成長の姿を展望する。第3節では、高齢化・人口減少の公的部門への影響を国民負担率の上昇の観点から取り上げ、国民負担の拡大が経済社会の活力を阻害しないよう、国・地方の行財政制度や年金・医療を中心とする社会保障制度を、経済の低成長や人口構造の変化に対応したものにするにはどうすべきかを論じる。

本章の検討を通じて、(1)高齢化・人口減少の急速な進行は、今後の経済成長に大きな影響を及ぼすことになるが、その具体的な姿は、今後の政策努力によるところも大きいこと、(2)高齢化・人口減少は、経済成長への影響とあいまって財政・社会保障制度の持続可能性に問題を生じさせているが、制度改革は途半ばであり、将来世代にこれ以上の負担の先送りをしないためにも、早急な改革が必要とされていること、(3)制度改革にあたっては、人口動態や経済成長の下方リスクをも考慮して、頑健な制度の確立を目指すことが重要であること、が明らかになる。