第2章 インドの発展の特徴と課題(第3節)

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第3節 まとめ

本章では、インドの発展の特徴を確認した。1節では、貿易構造の側面からは、インドでは製造業の発展の立ち遅れから、(i)輸出品目の一次産品から機械製品等への重点シフトが緩慢であること、(ii)中国からの輸入ウェイトが高まっていることを確認した。また、人口動態の側面からは、インドの人口ボーナス期における成長率の高まりは近年転換点を迎える可能性があり、生産性向上の重要性が高まっていることを指摘した。2節では、こうした弱みを克服するための産業・通商政策や、ITを中心としたサービス産業の強みを活かした発展の状況を確認した。

インドでは、1990年代からサービス主導の発展が進み、製造業の発展が相対的に遅れてきたが、直近のデータにおいてもその傾向が継続・強化されていることが確認された。その是正のために政府は「メイク・イン・インディア」や「自立したインド」を掲げ、製造業比率の25%までの引上げ(2025年まで)、輸出額の2兆ドル到達(2030年まで)、といった目標に向けた取組を進めている。

過去の途上国の発展の一般例を踏まえると、サービス業は、生産・消費の近接性が求められる特性もあり、このため国際的には貿易機会も限られることや、資本集約的な製造業に比べ生産性水準も上昇余地が乏しいことから、生活水準の向上と良質な雇用拡大のために製造業の強化が重要とされてきた。近年、インドの製造業比率は目標に反して低下するなど、改革は順調とは言えない。日系企業へのアンケート調査によれば、インドを進出・事業拡大先として選ぶ理由としては、その市場規模・成長性が重視されている。こうした期待を踏まえ、インドは自国での製造力の強化、輸入した資本集約財を活用した輸出力の強化によるGVCの引寄せが重要と考えられる。

しかしながら、インドの資源賦存や文化・社会的事情によっては、製造業の強化だけでなく、IT産業等の輸出競争力のあるサービス業の強みを活かす道も重要であると考えられる。近年の世界的なDX化、GX化の動きや、感染症拡大に伴いリモートワークが更に進められた中で、インドのIT産業における強みは十分に活かされてきた。感染症拡大とウクライナ情勢下で世界的に財貿易の停滞が続く中でも、インドはサービス輸出の強みを活かして堅調な景気回復を続けている。インドはサービス輸出の対GDP比が約8%まで高まる中で、サービス貿易の黒字が財貿易の赤字を補う構造となっており、2023年1-3月期は経常収支が黒字化した。こうした姿は、経済発展の新しい在り方を示しており、世界的な景気変動に対するレジリエンスを高める方法の一つを示しているとも解釈できる。

また、EV化やキャッシュレス化の急速な進展等、新産業の蛙跳び型の発展においては、一部では先進国を上回るような発展を遂げている分野もある。インドは「モノづくり」においては発展途上の部分があったとしても、漸進的な改善は続けられているとともに、IT技術を活かしたサービス産業においては非常に先進的な部分があり、サービス輸出によって諸外国の需要に応えている。IT・ビジネスサービスの輸出先は欧米向けが9割に達している。国内でもITサービス産業の強みが発揮されており、政府のICT促進策「デジタル・インディア」イニシアティブに基づき、政府が開発したプラットフォームを活用してのキャッシュレス決済サービス等が活発化している。対インド直接投資は、モディ政権発足(2014年)後に加速しており、国別では欧米から、業種別ではIT関連が多い。

さらに、インドの発展を見込む際、人口動態が重要である。インドは、2022~2023年に人口規模が世界最多となった見通しである。先に一人当たりGDPを向上させた中国は、従属人口比率の低下とともに高度成長を果たしたが、高齢化の進展により同比率が上昇するにつれて成長が鈍化している。インドでは、2030年頃に従属人口比率の反転が見込まれるが、その後の高齢化は緩やかなものにとどまり、成長制約は相対的に小さい可能性がある。

人口要因に加え、経済成長の源泉は生産性である。インドでは製造業・サービス業等の高生産性部門への労働再配置は緩やかながらも進展しているが、農業部門の就業者は未だ4割を超えている。また、各産業の生産性上昇率は中国の方が高く、インドは引き続き生産性を高めていくことが重要となる。

更なる成長に向けては、(1)外資導入による国内製造業の活性化、(2)ITサービス産業の一層の発展、(3)教育投資等による生産性改善と労働再配置等の各種課題への対応、を進めることが鍵となると考えられる。

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