第1章 新型コロナウイルス感染症下の世界経済(第1節)
第1節 新型コロナウイルス感染拡大と政策対応
1.概観
(感染の発生及び拡大)
新型コロナウイルス感染症1は、2019年12月、中国(湖北省武漢市)において初の感染者が確認され、20年1月半ば以降、中国で新規感染者数が急速に増加し始め、それから約1か月で世界中に感染が広まった。まず、1月中旬には、タイ、日本、韓国等アジアの周辺国でも感染者が確認され、次第にこれらの国でも感染が広がった。また、1月下旬になると、ヨーロッパに飛び火し、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン等でも感染者が確認された。1月末になると、中国の累積感染者数が約1万人に膨れるに至り、世界保健機関(WHO)が1月30日「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。
2月下旬になると、中国における感染者数の増加が落ち着きを見せる中、ヨーロッパが新たな感染源となった。ヨーロッパにおける新規感染者数は、2月の間は緩やかな増加にとどまっていたが、イタリアでは2月末から、フランス、ドイツ、スペインでは3月に入り感染の急拡大が始まった。英国ではやや遅れて感染が広がり、3月中旬以降に急拡大が始まった。
アメリカでは、1月中旬に初めての感染者が報告された後、しばらくの間は感染者数の増加が緩やかだったものの、3月に入り感染者が拡大し、3月下旬には累積感染者数が中国やイタリアを抜いて世界最多となり、以降11月に至るまで、世界最多の累積感染者数となっている。
こうした状況を受け、3月11日、テドロスWHO事務局長がパンデミック(世界的流行)相当との認識を表明した。また、この頃から、欧米主要国において、感染防止策として人同士の接触を防ぐため外出制限を始めとする経済活動抑制策が採られるようになり、各種の経済対策も講じられるようになった。
こうした対策も奏功してか、4月下旬になると、欧米主要国における感染は落ち着きを見せ始め、その後、各国は経済活動の段階的な再開に取り組むようになった。
しかしながら、アメリカでは、6月以降新規感染者数が再び増加に転じて再拡大が始まった。7月下旬から9月中旬にかけて減少する局面もあったが、その後再度拡大に転じ、10月下旬にはこれまでの最大の新規感染者数を超え、更に拡大を続けている。ヨーロッパにおいても、7月中旬以降、スペインやフランスを中心に感染が再拡大し、8月下旬にはスペイン、フランスともにこれまでの最大の新規感染者数を超え、更に拡大している。また、ドイツやイタリアにおいても10月に入ってから急拡大している。
感染症は、主要先進国のみならず、新興国や途上国にも広がった。3月下旬にはブラジルにおいて、4月になるとロシアやペルー、インド等において、新規感染者数が1,000人を突破し、その後猛威を振るうようになった。5月になると、インド、ブラジル、ロシア、コロンビア、ペルーの5か国2の新規感染者数合計がアメリカのそれを上回るようになり、6月になると、これら5か国の累積感染者数合計がアメリカのそれを上回ったことから、感染源が新興国や途上国に移ったとみられる。11月時点において、ブラジル等では、一時期より感染に落ち着きがみられる一方で、ロシア等では、直近で新規感染者数に再拡大がみられる。また、インドでは、新規感染者数が9月中旬頃まで急増した後に減少に転じたものの、11月時点でも依然として高い水準となっている(第1-1-1図)。
(経済への影響)
感染症の世界的な拡大により、世界経済は極めて厳しい状況に陥った。
世界各国は、感染拡大防止のため経済・社会活動や人の移動を制限せざるを得ず、経済活動の基盤である人・モノ・カネの流れが制約された。これにより、各国ともに、国内に加え、海外からの影響も重なり、経済への打撃は甚大なものとなった。
まず、最初に感染拡大が生じた中国経済が打撃を受けた。20年1~3月期の実質経済成長率は、前年比6.8%減と初のマイナス成長3となった。しかしながら、経済活動の段階的再開に伴い、4~6月期には、同3.2%増とプラス成長に戻し、他国が大きなマイナス成長となる中(後述)、世界の経済成長を中国一国でけん引する状況となった。また、7~9月期には、同4.9%増とプラス幅を拡大させた。
欧米経済への打撃は、主に4~6月期に生じた。ユーロ圏の実質経済成長率は、20年1~3月期は前期比年率14.1%減と28四半期ぶりのマイナス成長に陥り、4~6月期には同39.5%減と過去最大のマイナス成長4となった。各国における個別指標の動向も踏まえれば、ユーロ圏経済は4月に最も大きく落ち込み、5月以降は経済活動の段階的な再開の影響もあり持ち直しの動きをみせ、7~9月期には同61.1%増と3四半期ぶりのプラス成長となった。また、アメリカの実質経済成長率は、1~3月期は前期比年率5.0%減、4~6月期は同31.4%減と大幅な減少となった。アメリカでも欧州と同様、経済への打撃は4月が最も深刻で、5月以降は持ち直しの動きをみせ、7~9月期には同33.1%増と3四半期ぶりのプラス成長となった。
また、新興国への打撃も甚大なものとなった。実質経済成長率について、例えば、インドでは1~3月期は前年比3.1%増であったが、4~6月期は同23.9%減に転じ、ブラジルでは1~3月期は前年比0.3%減で、4~6月期は同11.4%減と更に落ち込むなど、4~6月期における影響が深刻なものとなった(第1-1-2図)。
(国際金融市場への影響)
感染症拡大の影響を受け、国際金融市場は大きく変動した。株式市場では、世界の主要株価指数は大幅に下落し、為替市場では、ドル流動性に対する需要が急速に高まり一部の新興国通貨は大きく減価した。20年3月後半以降は、各国における政策対応や経済活動の段階的再開を背景に、金融市場は落ち着きを取り戻し、主要株価指数は回復しつつある。また、為替市場においても、ドルに対する需要は落ち着き、新興国通貨の対ドルレートも20年初の水準に近付きつつある。以下では、株式市場と為替市場について、20年初以降の動向を概観する。
(i)株式市場
20年1月23日、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中国武漢市が移動制限措置を実施すると、中国上海総合指数は下落した。翌24日から春節(旧正月)に入り、中国株式市場は休場となった。春節は当初30日までの予定だったが、中国政府は春節休暇を2月2日まで延長した。連休明けの2月3日、上海総合指数は大幅に下落したが、中国の中央銀行である中国人民銀行が、公開市場操作を通じた大規模な資金供給により金融市場の安定化を図ったことで、更なる下落は回避された。
しかし、2月下旬以降、イタリア、韓国等において感染者数が急速に増加したことをきっかけに、世界の主要株価指数は大幅に下落し、3月後半にかけて大幅な上下を繰り返しながら、20年初から3~4割程低い水準まで急落した。
3月後半以降、欧米主要国が経済対策の導入を表明したことや、3月23日、連邦準備制度理事会(FRB)が無制限の量的緩和を発表したことなどから、先進国の主要株価指数は反発した。その後4月以降は、各国において政策対応や経済活動の段階的な再開が実施されたことや、ワクチン開発が進展したことなどを背景に上昇し、主要株価指数はおおむね回復をみせている(第1-1-3図、第1-1-4図)。
(ii)為替市場
先進国通貨の対ドルレートをみると、2月下旬にアメリカでの感染拡大を受けドル安・各国通貨高となったが、3月に入ると、リスク回避姿勢が強まり、ドルに対する需要が急速に高まったことから、ドルが上昇した。しかし、FRBが、ドル・スワップ協定を通じたドル供給の拡充や、9中銀との新たなドル・スワップ協定の締結、FIMAレポ・ファシリティの設置等、国際的にドルを潤沢に供給する方針5を示したことから、その後は落ち着きを見せた。7月以降は、アメリカでの感染再拡大等を背景に、ドル安基調となっている(第1-1-5図)。
新興国通貨の対ドルレートをみると、3月には、上述のとおりリスク回避姿勢が強まったことから、ドル高・各国通貨安となったが、3月末以降は、FRBによるドル供給の拡充等もあり、ドル需給のひっ迫は改善された。各国の対ドル為替レートも20年初と同水準に近づいているが、20年初と比較して、感染症の影響が比較的少ない中国(元)、韓国(ウォン)、台湾(台湾ドル)は通貨高になる一方で、感染症の影響が甚大又は経済の回復がみられないインド(ルピー)、インドネシア(ルピア)、タイ(バーツ)は通貨安になるという傾向もみられる(第1-1-6図)。
コラム1-1:2020年1月以降の原油市場の動向と見通し
20年1月以降の原油市場をみると、感染症拡大を受けた経済活動の縮小により原油需要が減少したことや、協調減産に関して産油国間の足並みの乱れがみられたことなどから、原油価格は大幅に下落し、また、シェールオイル関連企業の破綻も相次いだ。5月からは、欧米諸国の経済活動の再開や主要産油国の減産による需給バランス平常化への期待を背景に、原油価格は回復したが、感染再拡大もあり、先行きは不透明となっている。ここでは、20年1月以降の原油市場の動向と見通しについて概観する。
(1)原油価格の動向と協調減産の動き
原油価格の動向をみると(図1)、感染症の拡大による世界経済減速への懸念から、20年1月から2月上旬にかけて下落した。これを受け、OPECプラス(注1)の合同専門委員会(JTC:Joint Technical Committee)は2月4~6日の会合において、日量170万バレルとなっている協調減産規模を、暫定的に60万バレル拡大させることを提案したが、ロシアが追加減産に慎重な姿勢を示したこと、また、2月中旬に原油価格が上昇に転じたこともあり、議論は立ち消えとなった。感染が世界的に拡大し始めた2月下旬以降、価格が大幅に下落したことを受け、3月5日のOPEC総会において、OPEC加盟国が減産規模を日量150万バレル拡大させることで合意したが、翌6日の非加盟国を加えたOPECプラス総会において、ロシアが減産拡大に反対したことから協議は決裂し、原油価格は急落した。3月10日、サウジアラビアが4月から原油生産量を2割強増産する旨を公表すると、原油価格は一段と下落した。
4月8~9日に開催されたOPECプラス総会では、5~6月に日量1,000万バレルの減産を行うことで暫定合意がなされた。メキシコが賛成しなかったことから協議は延長されたが、協議の結果、5~6月に日量970万バレルの減産、7~12月に日量770万バレルの減産、21年1~4月に日量580万バレルの減産と、減産量を段階的に縮小させていくことで最終合意がなされた。しかし、市場では減産規模よりも需要減少規模が上回るとの見方がされ、原油価格は下落傾向が続いた。20年4月20日には、原油の供給過剰や需要減退で貯蔵余力がひっ迫したことを受け、WTI原油先物(5月物)が、21日の取引最終日を前に大幅に下落し、史上初めて、価格がマイナスとなった。
その後は、5月1日からOPEC加盟国・非加盟国による協調減産が開始されたことや、欧米諸国において経済活動を段階的に再開する動きが広まったことなどを受け、原油価格は上昇した。協調減産は、上述のとおり、7~12月は日量770万バレルの減産で合意されていたが、6月6日に開催されたOPECプラス総会において、7月末までは日量970万バレルの減産を継続し、また、5~6月に割り当てられた減産量を達成できていない国は、未達成分を含めた減産を7~9月の間に行うことが合意された。
7月15日、OPECプラスは、8~12月の協調減産規模を日量770万バレル以下とする方針を示した。規模を縮小しながらも協調減産が継続されることが見込まれる中、感染再拡大の先行き不透明感もあり、7月以降、原油価格は横ばい傾向となっている。
(2)アメリカのシェールオイル関連企業の業績低迷
20年2月下旬以降、感染症の拡大を受けて世界経済の先行き不透明感が高まる中で、株価が世界的に急落した。エネルギー部門は特に大幅な下落となり、S&P500をみると、全体は年初に比べ約30%の下落となる中、エネルギー関連部門においては約60%の下落となった(図2)。また、原油価格の下落と需要の減少を受け、アメリカの原油採掘企業はリグの稼働数を減らしており、生産を抑えていることがわかる(図3)。このように、シェールオイル関連企業への影響が大きくなる中、これら企業を支えてきたハイイールド債市場では3月に利回りが大幅に上昇した(図4)。これにより、シェールオイル関連企業の資金調達環境が悪化したことで、企業の経営状況は更に悪化し、4月から5月にかけてアメリカのシェールオイル関連企業で破綻事例が相次いだ。既存の生産井を維持するのに必要な原油価格は30ドル/バレル程度とされており(注2)、3~5月はこの水準を下回る場面があったが、6月以降は同水準を上回って推移している。今後、同水準を下回ることがあれば、シェール関連企業の更なる破綻につながる可能性がある。
(3)原油需給の動向と見通し
世界の原油需給についてみると、需要は20年に入ってから大幅に減少し、20年4~6月期においては、19年10~12月期と比べ約2割減の水準となった(図5)。アメリカの原油在庫を確認すると、20年3月以降、大きく増加し、7月には減少に転じたものの、依然高水準となっている(図6)。
原油需給の見通しを確認すると、協調減産により20年の供給は減少が見込まれているものの、需要はそれよりも更に低い水準となることが予想されている。21年には需要の回復が見込まれるが、今後の経済活動の再開状況にも依存し、今後の動向については留意が必要と考えられる。
(注1)20年8月現在、OPEC13か国、非OPEC9か国の合計22か国。
(注2)ダラス連銀の20年第1四半期における調査による。
2.感染の拡大と経済活動の抑制
(1)感染の拡大
(i)中国での発生
中国では、19年12月に湖北省武漢市において感染者が確認され、20年1月半ば以降、湖北省で新規感染者数が急速に増加し始めた。中国国家衛生健康委員会の発表によると、累積感染者数は1月25日に千人を超え、2月2日には1万人、6日には2万人を超えるなど非常に速いペースで増加し、累積死者数も2月11日に千人を超えた(第1-1-7図)。同時に、1月半ば以降、湖北省以外の地域でも感染者が確認されるようになり、1月末には全ての省市(直轄市、自治区含む。)で感染者が確認され、感染は中国全土に拡大した。2月半ば以降は徐々に新規感染者数は減少し、8月23日時点で累積感染者数は約8.5万人(うち湖北省が約80%)、累積死者数は4,634人(うち湖北省が約97%)となっている。
(ii)ヨーロッパへの拡大
ヨーロッパでは、20年1月末にフランスで新型コロナウイルスの最初の感染者が確認され、その後ドイツ、イタリア、スペイン、英国等においても相次いで確認された。新規感染者数は、2月の間は緩やかな増加にとどまっていたが、イタリアでは2月末から、フランス、ドイツ、スペインでは3月に入り感染の急拡大が始まった。英国ではやや遅れて感染が広がり、3月中旬以降に急拡大が始まった。これを受け、各国政府は、外出制限や生活に必要不可欠でない店舗・施設の閉鎖といった都市封鎖に踏み切り、更なる感染拡大の防止を図った。
(ドイツ)
ドイツでは、1月28日に最初の感染者が確認された。新規感染者数は1~2月にかけて緩やかに増加し、2月末時点の累積感染者数は57人となった。ところが、3月に入り新規感染者数は急速に拡大し、3月16日には1日当たりの新規感染者数は1,000人を超える水準となった(第1-1-8図)。それ以降も新規感染者数は増加の一途をたどり、3月21日に1日における新規感染者数は7,000人を超えてピークとなった。その後、4月上旬頃までは3,000~5,000人台で推移していたが、4月中旬以降増加傾向が緩やかになった。4月中旬以降、各州において段階的に経済活動の再開が進められたが、7月中旬以降、新規感染者数は再び増加に転じた。感染が再拡大した州においては、経済活動再開の延期や再停止措置が採られたが、8月12日には1日当たりの新規感染者数が1,000人を超える水準になるなど8月23日時点では増加傾向にある。
ドイツでは、累積感染者数は23万2,000人を超え、累積死亡者数は9,000人を超えており6、それぞれ世界で19番目、16番目7に多くなっている。
(フランス)
フランスでは、1月25日にヨーロッパにおける最初の感染者が確認された。新規感染者数は1~2月にかけて緩やかに増加し、2月末時点で累積感染者数は57人となった。その後、3月に入るとともに新規感染者数は急増し、3月13日には1,300人、19日には1,800人を上回り、深刻さを増していった(第1-1-9図)。政府は、3月半ばから休校や外出・移動制限等の措置を採ったが、その後も感染拡大の勢いは衰えず、24日以降は1日当たりの新規感染者数が2,000人を超える水準で増加していった。4月1日に新規感染者数が7,500人に達しピークを迎えた後、緩やかな減少傾向に転じた。ところが、経済活動の再開が進むにつれ再び感染が拡大しており、8月21日以降、新規感染者数が4,000人を上回る日が生じるなど、大きく増加している。
フランスでは、累積感染者数は22万3,000人を超え、累積死亡者数は3万人を超えており、それぞれ世界で20番目、7番目に多くなっている。
(イタリア)
イタリアでは、1月31日に最初の感染者が確認され、政府は同日に非常事態を宣言した。その後2月中旬までは緩やかな増加に止まっていたが、他の欧州諸国に先駆けて2月末から新規感染者数が急増し、2月末時点で累積感染者数は888人となった(第1-1-10図)。特に感染状況が深刻となったのは、経済都市ミラノや代表的な観光地であるベネチアを擁する北部地域であった。3月8日の北部地域封鎖、10日の全土封鎖にもかかわらず、新規感染者数及び死亡者数は3月中旬以降も増加の勢いを増し、同月下旬には1日当たりの新規感染者数は6,000人を超えてピークになった後、緩やかに減少している。
イタリアでは、累積感染者数は25万8,000人を超え、累積死亡者数は3万5,000人を超えており、それぞれ世界で17番目、6番目に多くなっている。
(スペイン)
スペインでは、1月31日に最初の感染者が確認された。新規感染者数は1~2月にかけて緩やかに増加し、2月末時点では32人となった。ところが、3月に入り新規感染者数は急速に拡大し、3月14日には1日当たりの新規感染者数は1,000人を超える水準で推移した(第1-1-11図)。それ以降も新規感染者数は増加の一途をたどり、4月1日に、1日における新規感染者数は9,000人を超えてピークとなった後、4~5月は増加傾向が緩やかになっている。5月上旬以降、各州において段階的に経済活動の再開が進められたが、7月上旬以降、新規感染者数は再び増加に転じた。感染が再拡大した州においては、経済活動再開の延期や再停止措置が採られたが、8月中旬以降、1日当たりの新規感染者数が5,000人を超える日が続くなど、大きく増加している。
スペインでは、累積感染者数は38万6,000人を超え、累積死亡者数は2万8,000人を超えており、それぞれ世界で10番目、8番目に多くなっている。
(英国)
英国では、1月31日に最初の感染者が確認された。その後、新規感染者数は3月半ばまで緩やかな増加にとどまっていたが、3月中旬以降急増し、4月24日には4,800人以上確認され、ピークとなった(第1-1-12図)。5月に入っても新規感染者数の大幅な減少はみられなかったものの、その後は、増加傾向が緩やかになっている。しかしながら、7月下旬にイングランド北部等の一部地域で感染者が再び増加したこともあり、1日当たりの新規感染者数が1,000人を超えるなど、8月中旬以降増加傾向にある。
英国では、感染拡大に伴う政府対応が遅かったことも指摘されており、累積感染者数は32万4,000人を超え、累積死亡者数は4万1,000人を超えており、それぞれ世界で12番目、5番目に多くなっている。
(iii)アメリカへの拡大
アメリカでは、1月19日に初めて新型コロナウイルスの感染者が報告され、しばらくの間は感染者数の増加は緩やかだったものの、その後増加のペースが加速することとなった(第1-1-13図)。2月28日、アメリカ国内で初の死亡者が報告され、3月4日には国内での累積感染者数が100人を、3月13日には1,000人を超え、3月26日には累積感染者数が中国やイタリアを抜いて世界最多となった。
州別の感染者数をみると、特にニューヨーク州において人口当たりの感染者数が大きく増加した。同州では、3月1日、初めての感染者が報告され、その後急増した。3月12日、感染者が多く発生した地区周辺の学校や教会等の施設を2週間閉鎖する措置が採られたが、感染者数はその後も増加した。
感染の拡大は、金融市場にも大きな影響をもたらした。2月24日以降、感染症拡大による世界景気の下振れ懸念により、ニューヨークダウは大きく下落し、1週間で3,583ドル(12.4%)の下落幅となった。その後、次章でみるように様々な財政金融政策が打ち出されたが、株価の下落は止まらず、3月23日には18,592ドルと、最高値を記録した2月12日の29,551ドルと比較して10,960ドル(37.1%)の下落幅となった(第1-1-14図)。
3月以降、アメリカ国内では様々な感染防止策が採られた。ニューヨーク州内では、新規感染者数は4月中旬にピークを迎えた後、減少に転じ、アメリカ全体でみても、新規感染者数は4月後半に一度はピークを迎えた。感染者数の増加が落ち着きを見せたことにより、4月下旬以降、各州において段階的に経済活動の再開が進められたが、アリゾナ州やフロリダ州を始めとする一部地域においては、6月以降、新規感染者数が大きく増加し、アメリカ全体でみても新規感染者数は再び増加に転じた。感染が再拡大した州においては、経済活動再開の延期や再停止措置が採られ、7月下旬以降は、新規感染者数は再び低下傾向となった。
(iv)アジアへの拡大
アジア各国・地域をみると(本章では、韓国、台湾、インドネシア、タイ、インドを対象として扱う。)、タイ及び韓国では1月中旬に、台湾及びインドでは1月下旬に初めての感染者が確認され、インドネシアでは他の国・地域より遅く3月初に初めての感染者が確認された。感染拡大状況には差がみられ、8月23日時点で、累積感染者数は(台湾以外はWHO、台湾は衛生福利部の発表による)、韓国約1.7万人、台湾487人、インドネシア約15.1万人、タイ3,395人、インド約304.5万人となっている。なお、インドの累積感染者数は、アメリカ、ブラジルに次いで世界第3位となっている。また、累積死者数は、韓国309人(対累積感染者数比1.8%)、台湾7人(同1.4%)、インドネシア6,594人(同4.4%)、タイ58人(同1.7%)、インド約5.7万人(同1.9%)となっており、インドネシアでやや死亡の割合が高くなっている。
国ごとに、新規感染者数の推移をみると、韓国では、2月中旬まで一桁台で推移していたが、2月19日以降、宗教団体における集団感染をきっかけに大邱広域市及び慶尚北道の一部地域において新規感染者数が急増し、その後韓国全土で急速に増加し、2月末に最多(800人超)となった(第1-1-15図)。その後減少傾向となったが、5月半ば以降やや増加し、横ばい程度で推移した後、8月半ば以降は再び三桁台に急増している。台湾では、1月21日に最初の感染者が確認され、3月半ば以降、新規感染者数は二桁台に増加したが、4月以降はおおむね一桁台で推移している。インドネシアでは、3月半ばから増加ペースが速まり、8月23日時点でも増加傾向が続いている。タイでは、3月中旬から4月上旬にかけて三桁台に急増したが、その後減少傾向に転じ、4月末以降はおおむね一桁台で推移している。インドでは、3月下旬から増加ペースが速まり、6月以降一層加速し、6月末に約1.9万人、7月末に約5.5万人、8月23日時点で約6.9万人となっている。
(2)経済活動の抑制
(i)欧州の対応
ヨーロッパでは、1月に初めて新型コロナウイルスの感染事例が確認された後、3月以降に爆発的な勢いで拡大し、特に感染状況が深刻な地域の一つとなった。感染はヨーロッパ中に拡大し各国で感染者数が急増したことから、多くの国が感染の封じ込めを図り、都市封鎖を実施した。
(ドイツ)
ドイツ政府は、3月10日に、1,000人を超える大規模イベントの中止を要請した(第1-1-16表)。3月16日には、店舗・施設の閉鎖(市民生活に必要不可欠な食料品店や薬局等を除く。)、レストランの営業時間の制限8、国内外の旅行の自粛要請等9を決定した。3月22日には、飲食店(配達・受取サービスを除く。)、理髪店等の閉鎖、買い物や通勤、医療機関の受診、運動、その他必要な外出を除く外出の制限、3人以上での集会の禁止、公共空間における他人との距離制限10等ドイツ全土において社会生活上の接触制限措置を決定した。こうした一連の措置によりドイツ国内は都市封鎖状態となり、市民の消費行動や企業活動が大幅に抑制されることとなった。
(フランス)
フランス政府は、3月中旬より、学校の休校や飲食店を始めとする店舗の閉鎖、大規模な集客イベントや宗教儀式の開催禁止等の措置を導入した(第1-1-17表)。また、企業に対しテレワークの実施を推奨したこともあり、パリでは公共交通機関が減便され、平時に1日500万人いた利用者は50万人程度まで減少するなど、人同士の接触機会は大幅に減少した。これらの措置に続き、政府は、感染症の拡大を国民の健康に脅威となる公衆衛生上の問題であると位置づけて、3月24日~5月24日までの2か月間について「公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。封鎖措置の解除時期は無期限とされ、政府は国民の健康を守るために権利を制限すること、また、違反者については罰金刑や禁固刑に処することなどが可能となった。これにより、フランス全土は都市封鎖状態となり、市民の消費行動や企業活動が大幅に抑制されることとなった。政府は感染症の早期の封じ込めに注力したが、3月~4月上旬にかけては感染状況に落ち着きがみられなかったことから、政府は度々制限措置の延長を表明した。
(イタリア)
イタリア政府は、2月末に1日の新規感染者が100人を突破したことを背景として、3月5日から国内全ての小・中学校、高校及び大学を休校とした(第1-1-18表)。また、9日より経済都市ミラノや観光都市ベネチアを含む北部地域4州14県の都市封鎖を、10日より国内全土の都市封鎖を実施し、市民の不要不急の外出を原則禁止とした。また、12日以降、市民生活に必要不可欠な店舗(食料品店や薬局等)以外の全ての店舗・施設の営業を禁止したことに加え、23日以降、必要不可欠でない企業の生産活動も原則禁止とした。こうした一連の措置により、企業の生産・サービス活動や個人の消費行動が大幅に制限され、イタリア経済は停滞状態に陥った。
(スペイン)
スペイン政府は、3月14日に、15日間にわたる「警戒事態」を宣言した。同宣言の下、食料品店と薬局を除く全ての店舗・施設の閉鎖、イベント・行事の中止及び延期、生活必需品の購入や通勤、医療機関の受診等必要不可欠な移動を除いた全ての移動の原則禁止、航空便を含む公共交通機関の運行頻度減少等が決定された(第1-1-19表)。19日には、全土における宿泊施設等の閉鎖が決定されスペイン全土は都市封鎖状態となり、市民の消費行動や企業活動が大幅に抑制されることとなった。その後も新規感染者数が加速度的に増加したことから、29日には、3月30日から4月9日まで必要不可欠な部門を除く全ての生産活動の停止を義務化する措置法を成立させるとともに、「警戒事態」の期限延長をするなど、更なる対策を講じることとなった。
7月上旬以降、新規感染者数が再び増加に転じ、8月に入ってからは2,000人を超える水準で推移した。このような事態を受けて、スペイン政府は、8月14日、全国的な規制措置を発表した11。同規制措置では、(1)義務的措置として、飲食店の利用制限12や夜間営業のバー等の営業禁止、大規模イベント開催の制限をすることなどを、(2)推奨的措置として、会合の人数を最大10人までとすることなどを決定した。
(英国)
英国政府は、3月3日、感染症に関する行動計画を公表した。同計画において、英国政府は感染者が大きく増えた場合に備え、休校や在宅勤務、大規模イベントの中止等の対応を示したが、実際にはそうした措置を直ちに実行に移さず、3月中旬までは、自粛要請レベルの対応に止まっていた。しかし、3月半ばを過ぎた頃から、感染者数の急増もあり、英国政府は、他の欧州主要国に続き、3月20日から休園・休校13、23日から外出制限14、必需品以外の店舗の休業や3人以上の集会、葬式以外の社会的イベントの禁止をした15ことで、都市封鎖状態となり、企業活動や市民の消費行動が大幅に抑制されることとなった(第1-1-20表)。
(ii)アメリカの対応
20年2月末以降、各州において、感染拡大を防止する措置が採られ始めた。2月29日、ワシントン州が非常事態を宣言し、以降、他の州においても非常事態宣言が発表された。ニューヨーク州では、3月7日、非常事態が宣言され、3月12日には、感染者の増加が激しい一部地域の学校や教会が閉鎖されることとなった(第1-1-21表)。
連邦政府の対応についてみると、3月12日には、トランプ大統領が演説を行い、13日から30日間、英国及びアイルランドを除く欧州からの外国人入国を制限することが発表され16、16日には英国及びアイルランドからの外国人入国も禁止されることとなった。18日、アメリカ・カナダ・メキシコ間の渡航を21日から制限する旨が発表され17、19日には、連邦政府が国民に対し全世界への渡航中止を勧告した(第1-1-22表)。
また、入国制限の他にも様々な措置が実施された。3月16日、トランプ大統領が、同日から2週間、10人超の集会、外食、不要不急の旅行等を自粛することを要請した。3月29日には、同内容の自粛の期限が4月30日まで延長され、各州においても、休業・外出制限・移動制限といった措置が広がっていった。
(iii)中国・アジアの対応
(中国)
感染症の急速な拡大を受けて、1月20日、習国家主席は、感染症の予防・抑制に全力で取り組むとの重要指示を行い、以降、中央政府及び地方政府により感染拡大防止措置が採られた(第1-1-23表)。特に、感染が深刻であった湖北省では強力な封鎖措置が実施された。
湖北省武漢市では、感染者数が急速に増加し始めたことを受けて、1月23日に公共交通機関の運行停止等の措置を実施し、近隣都市でも同様の措置が実施された。また、2月16日には、湖北省政府は、省内全域で住民の外出を厳しく制限するなどの措置の実施を発表した。なお、こうした移動や外出を制限する措置は、湖北省以外の都市でも実施された18。
また、全国的な措置として、海外向けも含め団体旅行等を停止したほか、企業の休業措置が実施された。具体的には、春節休暇を延長し、さらに春節休暇終了後も、上海市や広東省を始めとする多くの省市政府が企業に操業再開を2月10日以降にするよう求めた19。特に、湖北省では、当初操業再開を2月14日以降とするよう求めていたが、感染症の拡大が深刻な状況が続き、3月11日以降、順次再開することとされ、同時に、省内の移動も一部再開した。ただし、武漢市では、感染症の予防・抑制関連や生活必需品関連等を除く企業の再開は3月21日まで延長されることとなった。
(韓国・台湾)
韓国、台湾では、感染症の拡大防止策として、都市封鎖等の強い防疫措置は実施されず、社会的距離の確保の要請等を実施している。
韓国では、2月19日以降、宗教団体における集団感染をきっかけに大邱広域市及び慶尚北道の一部地域において感染者数が急増し、これを受けて、韓国政府は、21日、両地域を「感染症特別管理地域」に指定した(第1-1-24表)。また、23日には、感染症危機警報を最高段階の「深刻」に引き上げるとともに、「中央災難安全対策本部」を立ち上げ、感染防止への対応を強化し、集団感染が発生した大邱地域の居住者及び訪問者に対しては、最低2週間の外出自粛や移動制限を要請した。感染症流行が全国的に拡大すると、韓国政府は、3月22日、全土において同日から15日間、「強化された社会的距離の確保」を実施することを発表し、出勤・退勤以外の不必要な外出の自粛や在宅勤務等を要請した。「社会的距離の確保」は、途中一部措置を緩和しつつ、5月5日まで延長して実施された。
また、国外からの流入防止策については、2月4日、過去2週間に中国・湖北省に滞在した全ての外国人の入国を禁止し、その後も、3月19日から入国者全てを特別検疫対象とするなど、感染症流行が世界的に拡大する中、徐々に対応を強化した。
台湾では、早期から海外からの感染症流入抑制に取り組んだこともあり、感染症の大規模な流行には至らなかった。具体的には、中国湖北省武漢市が原因不明の肺炎患者が複数発生していることを発表した19年12月31日に、衛生福利部が記者会見を開き、武漢からの直行便について機内検疫を実施することを発表した(第1-1-25表)。また、台湾で初めての感染者が確認される前の20年1月15日に新型コロナウイルス感染症を指定感染症に定め、検疫時の隔離措置等の実施を可能とし、1月20日には対策本部(中央感染症指揮センター)を設置し、体制を強化した。さらに、1月26日に中国湖北省在住の中国人の入境を禁止し、その後も、3月19日以降は外国人の入境を原則禁止するなど、感染症流行が世界的に拡大する中、対応を徐々に強化した。このように、台湾では主に域外からの流入防止策の強化により対応してきたが、これに加え、域内の集団感染を防ぐため、3月25日に、大規模な集会やイベントの自粛を要請した。
(タイ)
タイ政府は、3月17日、感染症流行が拡大傾向にあることから、特にバンコクから他地域への拡大を軽減するため対応措置を採る必要があるとし、帰省に伴い人の移動が多くなる旧正月の祝日(当初4月13日~15日を予定)の延期や、バンコク首都圏(バンコク及び近隣5県)でスポーツ競技場や映画館、マッサージ店等の閉鎖等を決定した(第1-1-26表)。また、バンコクにおいては、3月22日以降、ショッピングモール等の商業施設が閉鎖され、近隣県及びその他複数の地域においても同様の措置が実施された。
さらに、タイ政府は、3月26日、全土に非常事態宣言を発令し、外国人の入国の原則禁止、各種施設の閉鎖、集会の禁止等の措置を実施、4月3日からは、夜間の外出を原則禁止した。非常事態宣言は当初4月末までとされていたが、その後措置内容を緩和しつつ、延長されている。
また、国外からの流入防止策については、2月23日に中国や日本、韓国、シンガポール等感染症が拡大している地域からの入国に対し14日間の自宅観察や公共交通機関の利用を控えるよう要請し、その後も、3月13日に中国を含む19か国・地域の到着査証の発給を停止するなど、感染症流行が世界的に拡大する中、対応を徐々に強化した。
(インドネシア)
インドネシアでは、感染拡大を受け、3月15日、ジョコ大統領は政府に対応の強化を指示するとともに、地方政府にも一部公務員の在宅勤務の方針策定、大規模イベントの延期等必要な措置を採ることを要請し、これを受けて各地方政府で感染拡大措置が採られるようになった(第1-1-27表)。
ジャカルタ首都特別州では、3月20日、州知事が同日から4月2日までを新型コロナウイルス感染緊急対応のフェーズとすることを宣言し、在宅勤務の要請や交通機関の利用制限等を実施した。4月3日には「新型コロナウイルス即応のための大規模な社会制限に関する保健大臣令」が制定され、各地方政府は、学校、職場、宗教活動、交通機関等の分野について、「大規模な社会制限(PSBB)」を実施することができることとなり、法令に基づく措置として取組が一層本格化した。まず、ジャカルタ首都特別州において、4月10日からPSBBが実施に移された。当初期間は2週間とされていたが、措置内容を緩和しつつ、延長されている。その後、10以上の州(州内の一部自治体での実施も含む。)でも実施された。また、中央政府は、4月24日から大規模な人の移動による感染拡大を防ぐため、レバラン(断食明け大祭)に伴う帰省を禁止し、また、ジャカルタ首都圏等の感染拡大地域とそれ以外の地域間の交通移動手段の運行・使用を原則禁止した。
また、国外からの流入防止策については、2月5日から中国とインドネシア間の航空便の運行を停止するなどし、その後も、3月20日以降、全ての国・地域からの訪問者に対し短期滞在の査証免除や到着査証の発給等を停止するなど、感染症流行が世界的に拡大する中、対応を徐々に強化した。
(インド)
3月19日、モディ首相は、国民向けに演説を行い、感染症の拡大を抑えるため、22日の午前7時から午後9時まで外出を控えるよう要請した。その後、3月24日に、モディ首相は再度演説を行い、翌25日から21日間、インド全土において都市封鎖を実施し、外出を原則禁止することを発表した(第1-1-28表)。その後、都市封鎖は3度の延長により5月31日まで実施された。ただし、6月以降も、感染が特に深刻な地区(封じ込めゾーン:containment zones)ではこれまでと同様の措置が引き続き実施されている。
また、国外からの流入防止策については、2月5日に中国から渡航する外国人に既発行の査証を無効化し、その後も、3月13日に外交等を除く全ての査証の効力を停止するなど、感染症流行が世界的に拡大する中、対応を徐々に強化した。
3.感染防止策と経済活動再開に向けた動き
(1)アジア
前述のように、アジア各国・地域では、世界的な感染症流行による外需の悪化に加え、それぞれ程度は異なるものの、感染症拡大防止のために採られた防疫措置により経済活動が制限あるいは自粛が要請されたことにより、景気は大きく悪化した。その後の感染症の流行状況については、増加傾向が続くインドネシアやインド、ほぼ収束がみられる台湾等、国によって大きく状況が異なるが、いずれの国・地域でも、経済活動の再開・正常化に向けた動きが開始されている。
(中国)
中国では、湖北省を除き、2月10日以降、感染拡大防止策を実施しつつ、企業の生産・操業が再開されることとなった。他方で、地域によっては、企業の生産・操業再開の条件として地方政府に対する申請や事前承認が求められ、速やかに再開できない場合等もみられたことから、2月11日、中国国家発展改革員会は、そうした措置は停止すべきとの見解を示した。また、2月17日、国務院は、地方政府に対し、人口や感染症の流行状況等に基づき、域内の地域を科学的にリスク分類し(低・中・高リスクの3分類)、感染症の予防・抑制と経済社会秩序の回復を差別化して進めていくよう指示し、さらに、2月21日に、生産・操業再開にあたっての感染予防・抑制措置の指針を示すなど、業務・生産再開に向けた取組を加速した。経済再開を並行して進めながらも新規感染者数は減少傾向となり、3月12日に国家衛生健康委員会は感染症流行のピークは既に過ぎたとの認識を示した。感染症の中心地であった湖北省でも、3月11日に生産・操業や省内の移動が一部再開し、3月25日に武漢市を除く地域で省外への移動制限が解除され、4月8日に武漢市でも市外への移動制限が解除された。なお、感染症の拡大防止にあたって、北京市、上海市、湖北省等多くの都市において、個人の健康状態をQRコードで表示するスマートフォンのアプリが活用されている。地方により名称等は異なるが、おおむね名前や身分証明書番号等の個人情報、健康状態や感染者との接触履歴等を入力すると、緑・赤・黄等に色分けして健康状態が表示され20、緑であれば、公共施設・交通機関、商業施設等に自由に出入りでき、その他の色では一定期間の隔離等が必要になるといったものである。多くは、各都市内で使用できるものとなっているが、市民に加え市外からの訪問者にも取得を求める場合もあり、地域によっては相互認証も実施されている。
このように、国内での感染拡大が収束に向かう一方で、国外からの入国者の感染が多く確認されるようになり、国外からのウイルスの流入への警戒を強める動きが強まった。3月半ば以降、北京市や上海市等複数の省市において、国外からの入国者について14日間の隔離観察を行うことが発表された。さらに、3月26日には、中国政府は、28日から現在有効な査証及び居留許可を有する外国人の入国を暫定的に原則停止とすること、また、29日からは中国と外国との国際航空旅客便について、1社1路線で週1回の運航にすることを発表した。
こうした措置により、輸入症例数も4月半ば以降減少傾向となり、新規感染者数はゼロに近づいたが、その後も集団感染が散発的に発生している。5月には吉林省や武漢市で小規模な集団感染事例の発生がみられ、吉林省では交通機関の運行停止等の措置を実施し、武漢市では全市民に対するPCR検査を実施した。5月22日に開幕した全国人民代表大会(全人代)では、感染症の現状について「感染症対策は大きな戦略的成果を収めている」としつつも、「感染症は今なお収束しておらず、発展の任務は極めて重い」との認識が示された。その後も、6月半ばに北京市、7月に新疆ウイグル自治区、遼寧省大連市において集団感染が発生しており、感染症流行の完全な収束はみられていない。
経済の状況をみると、厳しい措置が採られた2月には、需要・供給面ともに大幅な落ち込みとなったが、同時に操業再開を進めたことで、3月以降、景気は徐々に持ち直している(詳細は第3章第2節中国経済 を参照)。ただし、旅客輸送量をみると、2月の大きな落ち込みからは増加傾向にあるものの、6月時点でも前年の5割程度となっており、感染症再流行への警戒感も残る中、移動が引き続き抑制されていることもうかがえる。
他方、国外からの入国について、制限を緩和する動きもみられる。5月1日から、中国・韓国間で、商用等目的の入国者に対する手続き迅速化(ファストトラック)が始まり、その後、ドイツやシンガポール等にもその対象を拡大している。また、6月4日、国際航空旅客便について、運航が認められていなかった航空会社にも1路線週1回の運航を認め、入国後のPCR検査で陽性となった乗客が3週間連続でゼロだった場合、最大週2便とすることも可能とした。他方、同一航空路線において陽性となった乗客が一定数に達した場合は運航停止措置が採られるなど、緩和措置は慎重に進められている。
(韓国)
韓国では、4月半ば以降新規感染者数が減少したこともあり、4月20日には、「社会的距離の確保」を5月5日まで継続するものの、運営を停止している公共施設のうち国立公園等の屋外分散施設を段階的に再開するなど、措置の一部を緩和した。5月6日には、新規感染者数や集団発生の件数、感染経路の不明比率等が安定したことから、「社会的距離の確保」を終了し、感染予防活動を徹底しつつ、日常生活と経済・社会活動の正常化を図る「生活防疫」に移行した。「生活防疫」では、基本的な距離の確保と防疫指針を遵守しつつ、原則として会食、会合、外出等の日常生活を許容し、公共施設や宗教施設等も段階的に再開することとされた。
しかし、移行直後に、ソウル市のナイトクラブで集団感染が発生し、再び感染拡大がみられたことを踏まえ、5月29日から首都圏地域(ソウル、仁川、京畿)において防疫措置が再び強化された。さらに、8月初旬に、ソウル及び京畿道地域において集団感染が多発し、新規感染者数が急増したことから、16日に両地域において「社会的距離の確保」が第2段階に引き上げられ21、23日からは全国でも同様とされた。
また、国外からの人の流入については、6月1日から長期在留外国人に対して、再入国にあたり医療機関が発給する診断書を所持し、現地搭乗時及び入国審査時に提出を義務付けるなど、引き続き慎重な姿勢であるものの、5月1日に、中国・韓国の両国間において、商用等目的の者の迅速な入国を保証する「ファストトラック制度」22が開始されるなど、部分的に制限を緩和する動きもみられた。
経済の状況をみると、世界的な感染症流行の影響による外需の減少に加え、国内でも防疫措置が強化されるに伴い、景気は厳しい状況となった。4月半ば以降は国内の防疫措置が緩和されたことや政策効果もあり、景気は依然として厳しい状況ながら、下げ止まりつつある(詳細は第3章第2節 コラム3 を参照)。
(台湾)
台湾では、3月半ば以降の感染症の拡大を踏まえ、4月1日に「社会的距離」確保の行動指針を策定し、2段階に分けた対策を発表した。第1段階は、強制力のない要請の段階であり、展覧会やスポーツの試合、コンサート等の近距離での接触のある活動への参加や娯楽施設への入場を控えること、密集・混雑した場所におけるマスクの着用、マスクを着用しない場合は、室内では1.5メートル、室外では1メートルの距離の保持を推奨した。また、近距離での接触の頻度が比較的高く、1.5メートルの距離を確保できない場所については、事業主は営業を停止すべきとした。その後、感染状況が深刻化すれば、強制力を持つ第2段階へ移行し、医療や公務、生活維持等の必要な活動を除き、娯楽活動を始めとする全ての不要の活動を禁止するとしたが、感染状況が落ち着いたため、第2段階に移行することなく、4月30日に要請を緩和することとなった。
新型コロナウイルスの感染状況が安定的に抑えられていることに鑑み、政府は、4月30日から「防疫新生活運動」を推奨し、生活・経済の正常化を進めていく方針を発表した。個人での防疫措置(手洗い、社会的距離の確保が困難な場合や公共交通機関を利用する場合のマスクの着用等)を維持しながら、屋外型の音楽会、舞台、スポーツ大会等への参加や旅行、防疫措置が採られたレストランでの食事等を推奨した。具体的には、5月8日に、営業を見合わせている事業者について、各自治体が防疫と安全の条件に合致していると判断すれば営業を再開できる旨を発表、また、事業者が採るべき防疫・安全措置として、室内では1.5メートル、室外では1メートルの距離を保ち、着席の場合は距離を取るか衝立を使用、マスク着用、検温、入り口等での手指の消毒等の実施、利用者・入場者の実名記録、動線管理と施設の消毒を行っていることなどを示した。
また、5月15日には、政府は、交通・観光に係る防疫措置を、年内に3段階で緩和していく方針を発表した。さらに、海外への渡航歴のある人を除き台湾域内での新規感染者が56日間にわたりゼロの状態が続いたことから、6月7日からは生活に係る防疫措置を一段と緩和した。観光地や文化イベント、夜市、レストラン、映画館、プロ野球観戦等での人数制限を解除したほか、公共交通機関において社会的距離の確保又は他人との間に仕切りがある状態であればマスクを外すことが認められ、高速鉄道や国内線飛行機におけるサービスの提供や飲食が解禁された。また、外国人の入境についても、6月29日から、ビジネス等の目的について条件付き(出発前3日以内に受診したPCR検査で陰性等)で許可するなど、緩和を開始している。
経済の状況をみると、感染症の流行が大きく拡大せず、経済活動を大幅に制限する措置が実施されなかったこともあり、景気は著しい悪化までには至らず、減速するにとどまった。その後も、感染症の流行が抑制され、防疫措置の緩和が順調に進む中で、景気は下げ止まりがみられる(詳細は第3章第2節 コラム3 を参照)。
(タイ)
タイでは、国内外における経済活動の制限に伴い、これ以前から弱い動きとなっていた景気は一段と悪化し、景気は極めて厳しい状況となった。他方で、新規感染者数は4月末には一桁台まで減少し、4月28日、タイ政府は、非常事態宣言を5月末まで延長しつつ、経済活動の再開を開始することを発表した。外国人の入国禁止、県をまたぐ移動、夜間外出、大規模集会を引き続き禁止することとしたが、商業活動に関しては、感染リスク及び経済重要度に基づき業種を区別し、4段階で再開していくことを発表した。まず、第1段階として、5月3日以降、市場、飲食店、小規模小売店等の一部の商業施設の再開を認めた。第2段階として、5月17日から、夜間外出禁止令の対象時間を1時間短縮し、また、百貨店、ショッピングセンター等の大型商業施設や図書館、美術館等の公共施設の営業再開を認めた。これと同時に、政府は、事業者向けの追跡アプリケーション(「タイ・チャナ」)を導入した。事業者がこのアプリを導入すると、QRコードを割り当てられ、消費者が店舗を訪れる際にQRコードを読み取り、入店・出店情報を登録する仕組みとなっている。店舗で感染者と接触した者を検査に呼ぶことや、店舗がとるべき感染対策をとっていない際に消費者がこのアプリを通じて報告できるとされている。その後も新規感染者の大きな増加はみられなかったが、タイ政府は、5月26日に非常事態宣言の6月末までの再延長を決定した。ただし、制限の内容は一段と緩和し、6月1日から、県境をまたいだ移動の制限を当局の規則に従うことなどを条件に緩和し、夜間外出禁止令の対象時間を更に1時間短縮した。また、商業活動再開の第3段階として、マッサージ店や映画館等の営業再開が認められた。さらに、14日夜から夜間外出禁止令が解除され、15日から、商業活動再開の第4段階として、ホテル、劇場、会議場等における各種活動の再開が認められた。その後、非常事態宣言は更に8月末まで再延長されたが、7月以降、再開が先送りされていたパブやカラオケ店、ナイトクラブ等についても営業が許可され、営業時間や距離の確保等一部規制はあるものの、おおむね全ての商業活動が再開された。さらに、7月15日からは、国内旅行の交通費や宿泊費等を補助する、国内旅行振興策(「ウィー・トラベル・トゥギャザー」)を開始した。他方で、国外からの入国制限の緩和については、7月から、一部の外国人の入国について、入国時の検査などの防疫措置に従うことを条件に許可したが、限定的となっている。
経済の状況をみると、外需への依存が高い経済構造のため、厳しい状況が続いているものの、感染拡大が抑制される中、経済活動の再開を段階的に進めており、下げ止まりつつある(詳細は第3章第2節 コラム3 を参照)。
(インドネシア)
インドネシアでは、4月以降、ジャカルタ首都特別州や周辺州を始め、複数の地方でPSBBが実施され、数回にわたり延長された。全土的な都市封鎖ではなかったものの、PSBBが実施された地域のうちジャカルタ首都特別州と周辺の西ジャワ州、バンテン州だけでも19年の名目GDPの約4割を占めており、経済への影響は大きなものとなった。経済が大きく悪化する中、6月以降、経済活動の再開に向けた動きも開始されている。ジャカルタ首都特別州では、6月4日、新規感染者数及び死者数は減少傾向にあるが感染拡大のリスクは引き続き高いとし、3回目となるPSBBの延長を発表したが、それと同時に、6月を移行期間第1フェーズと位置づけ、経済活動の再開を徐々に進めるとした。具体的には、5日以降、宗教施設での宗教活動、屋外スポーツ施設等を再開するほか、公共交通機関について定員減を維持しつつ運行時間の短縮を解除するとした。また、8日以降、事業所について勤務時間帯を分散しつつ全従業員の半数までの出勤を認めるほか、独立店舗の飲食店・小売店、博物館・図書館等の社会文化施設等を再開、13日以降公園等、15日以降ショッピングセンター等、20日以降屋内外のレジャー施設等を再開するとした。併せて、6月末に移行期間第1フェーズの評価を行い、制限の更なる緩和及び活動再開の対象拡大について検討を行う予定としていた。しかし、感染拡大のリスクが続いているとして、その後もPSBBは再延長されている。
経済の状況をみると、6月以降、ジャカルタ首都特別州を始めとして経済活動の再開が段階的に進められているものの、他方で、新規感染者数が5月末時点の700人から、8月23日時点で2,000人超となるなど、感染症の流行は拡大傾向が続いており、景気は厳しい状況が続いている(詳細は第3章第2節 コラム3 を参照)。
(インド)
インドでは、3月25日から5月末まで全土における都市封鎖が実施され、経済活動が広範に制限されたため、経済への打撃は非常に大きなものとなり、これ以前から弱い動きであった景気は極めて厳しい状況となった。こうした経済への影響に鑑み、都市封鎖の延長が発表される都度、規制内容の部分的な緩和も発表されていった。都市封鎖第2期(4月15日~5月3日)には、4月20日から、感染が抑えられているリスクの低い地域において、都市から離れた農村部で行われる工業や建設、特別経済区や工業団地等に立地する工業施設等、一部の分野について再開が認められた。都市封鎖第3期(5月4日~17日)には、公共交通機関、州を越える移動、教育機関、映画館・ショッピングモール・ジム等、集会、宗教施設、不要不急の夜間の外出は引き続き全域で禁止とされたが、それ以外の活動について、感染リスクの状況に応じて全国の行政地区を4つに区分けし、ゾーンごとに制限を緩和することとされた。具体的には、(1)「グリーンゾーン」(感染者がいない又は過去21日間に感染者が出ていない地区)では、全域で不可の活動以外はすべて認められ(バスの乗車率を5割以下にする等の条件あり)、(2)「レッドゾーン」(感染が拡大している地域)では、タクシー、バス、理髪店等の再開は禁止される一方、都市部では工業、建設、店舗につき一部再開、農村部ではすべての工業、建設、ショッピングモールを除く店舗の再開が認められたほか、民間のオフィスは全従業員の33%まで出勤を可能とされ、(3)「オレンジゾーン」(それ以外の地域)では、全域で不可の活動に加えてバスの再開は禁止されたが、乗客2人以下を条件にタクシーの再開を可能とした。ただし、レッド・オレンジゾーン内でも特に感染者が多い地域(封じ込めゾーン)では、引き続き厳格な制限が採られることとされた。なお、ソーシャルディスタンスの確保等を始めとする職場における諸条件の一つとして、4月から無償配布されている携帯電話の位置情報を用いて感染者との接触履歴をトレースするアプリ("Aarogya Setu")について、全ての従業員による利用が義務付けられた。都市封鎖第4期(5月18~31日)には、第3期における全域での禁止事項のうち、鉄道、バス、州を越える移動、スポーツ施設(無観客)の再開が認められ、また、封じ込めゾーンでは引き続き厳格な制限が採られるものの、それ以外の地域では全域の禁止事項を除きすべての再開を認めることとされた。ただし、州政府の判断により必要があればより厳しい規制を課すことも可能とし、また州間の移動も両州の合意を必要とするなど、実際の運用は州政府に委ねられる部分も多くなっている。
こうした3度にわたる都市封鎖延長を経て、5月30日、インド政府は、6月以降、封じ込めゾーンにおいては都市封鎖を延長しつつ、その他の地域では段階的に解除していく旨を発表した。6月の第一段階では、8日から宗教施設、ホテル・レストラン等、ショッピングモールの再開が認められたほか、夜間の外出禁止の対象時間が4時間短縮された。7月の第二段階、8月の第三段階では、おおむね第一段階の内容が踏襲されたが、8月からは夜間の外出禁止が解除された。なお、解除段階においても、州政府の判断により封じ込めゾーン以外の地域においてより厳しい規制を課すことは引き続き可能とされており、地域により実施状況は異なっている。
経済の状況をみると、新規感染者数が4月末時点の1,700人超から、8月23日時点で6.9万人超となるなど、感染症の流行は拡大傾向が続く中、景気は極めて厳しい状況が続いているものの、経済活動の再開を段階的に進めるにつれ、下げ止まりつつある(詳細は第3章第2節 コラム3 を参照)。
(2)米欧
(アメリカ)
アメリカでは、州ごとに経済活動の抑制措置が採られていたが、各州での経済再開に先立ち、連邦政府は4月16日、「アメリカ再開のためのガイドライン」を公表し、経済活動の再開に関する指針を示した。本ガイドラインでは、州が経済活動再開を判断するにあり、直近14日間の類似症状の報告数が減少傾向にあること、直近14日間で確認された症例又は検査総数に対する陽性の検査結果の割合が減少傾向にあること、危機対応なしで全ての患者が手当てされ、感染リスクのある医療従事者のための抗体検査を含む検査環境が整っていることという3つの基準を満たす必要があるとし、経済活動の再開にあたっては3つのフェーズにより段階的に進めることとされたが、その実施基準は州・地方政府において決定することとされた。
その後、4月下旬以降、各州において順次、経済活動の再開が進められた。4月において人口当たりの感染者数が最大となっていたニューヨーク州では、5月11日、経済再開プランを発表し、ニューヨーク州内を10地域に分け、7つの基準をすべて満たした地域から、4段階に分けて経済を再開していくこととされた(第1-1-30表)。5月15日、州内10地域中、5地域が経済活動を再開(第1段階へ移行)し、6月8日には、ニューヨーク市が第1段階へ移行したことにより、ニューヨーク州内の全地域において経済活動が再開され、その後も、段階的な経済活動の再開が進められた(第1-1-31表)。
経済の状況をみると、感染防止策が採られ始めた3月に景気は下押しされ、4月に急速に悪化したが、5月頃から経済活動が段階的に再開されたことにより、持ち直しの動きがみられるようになった(詳細は第3章第1節 アメリカ経済 を参照)。
しかしながら、一部の州においては、6月下旬以降に感染が再拡大したことを受け、経済活動の再開を一部延期又は再停止する動きがみられた。フロリダ州では、5月18日に州内全域において小売業(店内販売含む)やレストラン(店内飲食含む)が再開され、バーの営業も再開され始めていたが、6月26日、州内全域においてバーにおけるアルコール飲料の販売が再禁止され、7月9日には、州内で最大の人口をもつマイアミデード郡において一定の規模以上のレストランの店内営業が再禁止された。また、カリフォルニア州においても、4月下旬以降、州内の各郡において段階的な再開が進められていたが、6月28日、州が州内7郡に対しバーの営業停止を指示し、7月1日には州内19郡に対して少なくとも3週間レストラン等の店内飲食禁止が、13日には州内全域においてレストラン等の店内飲食禁止が決定された。8月に入り、感染者数は減少傾向となったものの、経済活動の全面的な再開には至っておらず、今後についても不透明な状況となっている(第1-1-32図)。
(EU)
EUは20年3月17日以降、非EU加盟国の国民がシェンゲン協定23加盟国に入国することを原則的に禁止とし、この制限措置はその後2度の延長を経て6月中旬まで延長された。6月に入ると、欧州各国で新規感染者の減少に伴い段階的な制限緩和が進んだことから、EUは、渡航制限の解除に向けた方針を表明するとともに、加盟国に対し6月中にシェンゲン域内での入国制限を撤廃するよう推奨した。これにより、6月15日までに多くの加盟国が域内での国境開放に踏み切った24。また、EUは、シェンゲン域外(特に西バルカン諸国)との渡航制限についても7月1日より撤廃するよう推奨した。なお、EUは、7月以降の渡航制限緩和について、主に(1)当該国の感染状況及び対応能力がEUと同等以上であること(2)当該国がEUへの渡航制限を解除していることを判断基準として、加盟国間で段階的かつ協調的に解除対象国を決定する方針を表明しており、この方針に基づき、7月1日より日本を含む14か国の域外諸国の渡航制限を解除した25。ただし、EUは解除対象国を2週おきに見直すこととしており、7~8月にかけて感染状況が悪化したセルビア、モンテネグロ、アルジェリア、モロッコは再び除外され、新たに解除された国がないことから、8月末現在で解除対象国は10か国にとどまっている。
EUの経済状況をみると、各国で感染防止策が採られ始めた3月に景気が下押しされ、4月に急速に悪化したが、5月頃から経済活動の段階的な再開が進んだことを受け、持ち直しの動きがみられるようになった。
(ドイツ)
ドイツ連邦政府は、3月中旬より順次、感染拡大防止を目的に、各種制限措置を採ってきた。連邦政府による一連の制限措置が奏功してきたこともあり、4月15日、連邦政府は各州政府との間で制限措置の緩和に係る合意事項を発表した。同合意事項では、(1)接触制限等の措置を5月3日まで延長すること、(2)公共交通機関の利用や買い物に際しマスクの着用を強く推奨すること、(3)カフェやレストラン、バー、デパート等は引き続き営業禁止とすること、(4)800平方メートル以下の全ての店舗及び自動車・自転車取扱業者、書店等は4月20日以降に営業を再開すること等が決定された。これを受け、各州において順次経済活動の再開が進められたが、その後も、新規感染者数の減少傾向が継続したことから、5月6日、連邦政府は、各州政府との間で更なる制限措置の緩和に係る合意事項を発表した。同合意事項では、(1)接触制限等の措置を6月5日まで延長すること、(2)全企業において今後も可能な限り在宅勤務を行うこと、(3)全店舗で営業を再開すること、(4)レストランや宿泊施設で段階的に営業を再開すること等が決定された26。しかしながら、6月に入って一部の地域で感染者数が増加したことから(前掲第1-1-8図)、6月17日、連邦政府は、各州政府との間で、接触制限措置を引き続き延長すること、大規模なイベントについては10月末まで開催禁止を継続することなどを発表した。さらに、7月16日には、感染症の局地的な集団発生が発生した際の措置に関する連邦政府と各州の合意事項について発表し、(1)集団感染発生の際には、集団感染が発生したクラスターや接触者のクラスターについて、隔離措置、接触追跡、検査の実施等の措置を採ること、(2)7日間累積で10万人あたり50人以上の新規感染者数の増加がある場合、又は実際の感染拡大に対する不確実性が存在する場合、早期にその地域に対して局地的に制限措置を採ることなどを決定した。
ドイツへのEU域外からの渡航については、7月2日より、EUの勧告に基づき8か国27を対象として制限を解除した。しかしながら、欧州諸国の中で感染者数が再び増加した国・地域があることを受けて、連邦保健省は8月8日より、リスク地域からの入国者28に対するPCR検査の義務化29、ドイツ入国前14日以内にリスク地域に滞在履歴がある場合の14日間の隔離措置の義務化を発表した。
段階的な経済活動再開と感染防止策により、ドイツ全体の新規感染者数は4月中旬以降増加傾向が緩やかになったものの、7月中旬以降、新規感染者数が1,000人を超える水準になるなど足元では再び増加傾向に転じている(前掲第1-1-8図)。このような事態を受けて、8月27日、連邦政府はマスク着用義務違反者に対する罰則30の導入、大規模イベント開催禁止の12月末までの延長等を決定した。経済の状況をみると、各種制限措置の緩和、撤廃により、企業の景況感は改善しつつあるが(第1-1-33図)、先行きには注視が必要である。
(フランス)
フランス政府は、3月15日以降、順次、感染拡大防止を目的とした厳しい制限措置を導入した。4月13日、感染者数の減少傾向を踏まえ、外出制限を5月10日まで延長する一方で、11日より制限措置を段階的に解除する方針を示した。
政府は4月28日、「移動制限解除に向けた国家戦略」を公表し、経済活動の再開に向けた基本方針として、「段階的」、「地域ごと」、「ウイルスとの共生」の3点を掲げた。再開時期及び条件の目安として、1日当たりの新規感染者数を3,000人以下と想定し、5月7日時点の感染者数次第では解除の中止またはより厳格な条件下での解除を行うと表明した。制限解除の時期と期間については、第1段階を5月11日~6月1日、第2段階を6月2~14日、第3段階を6月15日以降と、3段階に分けるとともに、ウイルスの流行、病院の受け入れ能力、PCR検査の能力の3つの指標に基づき、フランス全土を赤ゾーンと緑ゾーンに分類し、各ゾーンで異なる制限緩和措置を採ることを決定した。
第1段階では、レストランやカフェ、映画館等を除く店舗の営業再開が許可された。政府は、企業に対し引き続きテレワークを継続することを推奨し、さらに感染防止のための業種別対応マニュアルを拡充・公表した。製造業についても、大手自動車製造のルノーを始め、感染対策を強化した上で4月末以降徐々に生産を再開する動きがみられた。また、国民に対してはソーシャルディスタンスを確保することを推奨し、公共交通機関については座席数を半減させた上でマスクの着用を義務付けるなど、多くの感染防止対策を導入した。
こうした対応が奏功し、感染状況に目立った混乱がみられなかったことから、政府は、当初の予定どおり第2段階の開始日となる6月2日から飲食店の営業再開を許可することを決定し、また、パリを含むイル・ド・フランス圏等について、状況の改善がみられたことから、赤ゾーンから警戒レベルを1段階引き下げたオレンジゾーンに指定し、それ以外の地域圏を全て緑ゾーンに指定した。さらに、政府は15日より、フランス全土を緑ゾーンに指定するとともに、シェンゲン協定圏内国に限り入国制限を終了し隔離義務を撤廃することを決定した。22日より、高校を除く学校の再開や映画館、リゾート施設の営業再開も決定した。一方で、スポーツの観戦や宗教的儀式等の大規模な集会・イベントについては8月末まで開催禁止を継続することとした。
フランスへの渡航については、7月1日より、EUの勧告からアルジェリアを除いた13か国を対象として制限を解除した。また、8月1日より解除対象を拡大し、アメリカを含む4か国については搭乗の72時間以内に実施したPCR検査の陰性証明書を提示すること、アルジェリアを含む12か国についてはフランス到着時に空港においてPCR検査を実施することを条件に、入国が可能となった。
段階的な経済活動再開と感染防止策により、フランス全体の新規感染者数は7月中旬にかけて減少したものの、それ以降、新規感染者数が4,000人を上回る日もあり再び拡大傾向に転じた(前掲第1-1-9図)。これを受けて、特に拡大が深刻なパリでは、全域において屋外でマスク着用を義務付けることが決定された。経済の状況をみると、各種制限措置の緩和、撤廃により、企業の景況感は製造業、サービス業ともに改善しつつあるが(後掲第3-3-7図)、先行きには注視が必要である。
(英国)
英国政府は3月23日より、感染拡大防止を目的に、必要最低限の買い物等の外出制限、必需品以外の店舗の休業や3人以上の集会等の禁止をしていた。欧州主要国が先んじて経済再開を進めるなか、5月10日、ジョンソン首相は5月11日から段階的に制限措置を緩和する計画31 32を発表した。同計画では、(1)5月11日から、基本的には在宅勤務としながらも、建設や製造業等在宅勤務ができない者は出勤を奨励(公共交通機関ではなく車、自転車、徒歩の利用を推奨)し、5月13日から、屋外運動や外出を緩和、(2)早ければ6月1日以降、必需品以外の小売店や小学校を再開、(3)早ければ7月以降、レストラン、ホテル等の接客業、礼拝堂等の公共施設、映画館等のレジャー施設の一部を再開するとした33。
イングランドでは、5月11日及び13日、それぞれ計画どおり緩和措置を実施した。6月1日には、小学校の段階的な再開、屋外マーケットや自動車のショールーム等の営業再開のほか、社会的距離の確保を条件に屋外での6人以下での集会も許可された。一方、デパート等の必需品以外の小売店は6月15日から営業再開となった。さらに、7月4日、飲食・宿泊のほか、映画館等も営業を再開34し、人数や屋内外に関わらず、2世帯までの集まりも許可された。さらに、7月11日、オペラなどの屋外劇場での公演が再開され、7月25日から屋内ジムや屋内プール等の施設が再開された。8月1日から再開が予定されていたボーリング場やカジノの営業は、感染再拡大の兆候が見られたことから、8月15日に延期して再開された。
一方、感染症拡大の第2波の防止策として、英国では経済活動が徐々に再開される中で、国境を跨ぐ移動を引き続き厳しく制限した。EU諸国がEU域内の移動の制限を次々と解除しているのと対照的に、6月8日から、医療関係従事者等やアイルランド等からの渡航者等を除く英国への入国者を対象に、英国での滞在情報の提供35及び事前に申告した滞在先における14日間の自己隔離を行うこととした。しかし、各国と相反する施策に対する航空業界からの批判もあり、7月10日、感染リスクの低い国・地域(日本、韓国、香港、台湾、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア等36)からのイングランドへの入国者に対し、隔離措置を撤廃したものの、各国の感染状況に応じ、感染者数が増加している国からの入国者に対し、自己隔離を再度義務付けるなどの対応をしている。また、6月15日から小売店の再開に伴い、公共交通機関で、7月24日からスーパーや商業施設等で、8月8日から映画館や美術館、礼拝所などで、マスク着用を義務付けた。さらに、感染者が再び増加したイングランド北部では、7月下旬に他の世帯との交流と禁止したほか、スコットランド一部地域では、8月上旬に飲食店の休業や通勤・通学以外の外出を控えるよう要請するなどの措置を採った。
慎重な経済活動再開と感染防止策により、英国全体の新規感染者数は、減少傾向であるものの、前述した一部地域では感染が拡大しており、休校や必需品以外の店舗の休業などの規制を再び実施している。それでも、8月中旬以降、新規感染者数が1,000人を越えることもあり(前掲第1-1-12図)、企業景況感は製造業、サービス業ともに改善しつつあるが、(後掲第3-3-37図)、経済活動の先行きには注視が必要である。
コラム1-2:スウェーデンにおける感染症対策
本コラムでは、スウェーデンにおける感染症対策についてまとめる。
スウェーデンは、他国と異なり都市封鎖や厳格な国境封鎖を行っておらず、また、飲食店や小売店に対して営業自粛を要請していない。これは、スウェーデンの憲法において、何人も公共機関による個人の自由をはく奪することから保護されるとともに、スウェーデン国内外の移動の自由を保証される、と明記されており、都市封鎖の実施が禁止されていると解されているためである(注1)。また、スウェーデンは他国に比べて政府に対する信頼度が高い(図1)ことから、都市封鎖という強制力のある措置でなくても国民の大半は政府機関のアドバイスに従うと考えられたためである。こうした背景から、スウェーデンが集団免疫(注2、3)を獲得することを目指す独自の政策を実施しているといわれている。
スウェーデンは都市封鎖を実施していないこともあり、感染者数は他国に比べて増加している。スウェーデン、イタリア、英国の人口10万人あたりにおける新規感染者数の推移(7日間移動平均)について、イタリアが3月末に、英国が4月にピークを付けた一方、スウェーデンは7月にピークを付けており、8月以降、再び増加に転じている(図2)。
これを受けて、WHOは、6月25日、スウェーデンを含む欧州11か国(注4)で感染症の感染者数が再び増加していると警告を出している。また、スウェーデンと国境を接するノルウェーとフィンランドでは、6月15日よりデンマークやアイスランド等との間で観光目的の往来を許可しているが、スウェーデンについては感染状況に鑑みて除外されている。
しかしながら、スウェーデン政府は何も対策を講じていないわけではなく、感染症の拡大を防ぐため、次の措置を実施している。
まず、50人以上の集会を禁止している。また、レストランやバー、ナイトクラブ及びカフェに対して、テーブルでのサービスのみを許可し、カウンター等の使用を禁止するとともに、顧客グループ間に1メートル以上の距離を空けることを求めている。さらに、高齢者施設や見舞いを目的とした病院への訪問を原則として禁止している。
こうした措置に対しては、スウェーデン国民の間では政府の方針がおおむね支持されている。感染症への政府の対応に関する世論調査では、4月時点で63%の支持を獲得しており、6月時点では45%とやや低下するも、半数近くが支持をしている(注5)。
スウェーデン経済については、都市封鎖を行わず経済活動を維持したことに加えて、他国同様、感染症による経済への影響を抑えるための経済対策を実施していることもあり(表3)、他国が1-3月期でマイナス成長となる中、スウェーデンはプラス成長となっている(図4)。
しかし、感染症による経済への影響は4月以降、大きく出ている。4-6月期の実質経済成長率は、前期比年率29.3%減と大幅に落ち込んだ(図4)。また、4月の家計消費は感染症拡大による影響で外出機会が減ったことから、衣料や宿泊・飲食が落ち込み、全体では前年同月比10.7%低下し、財輸出も4月は同19.6%落ち込んだ。さらに、失業率は4月に7.9%、5月に8.5%、6月、7月に9.2%と上昇している(図5)。こうした中、スウェーデン政府は20年の成長率が前年比6%減とマイナスになるとの予想を発表した。欧州委員会の夏の経済見通しでは、スウェーデンにとっての主なダウンサイドリスクは自国や貿易相手国での感染症第2波の到来と指摘している。
(注1)スウェーデン憲法第2章8条。また、公衆衛生庁は20年6月12日の会見で、「スウェーデンでは伝統に基づけば強制的な封鎖措置や罰則は避けるというのがコンセンサスである」と述べた。なお、同国の伝染病法では、特定の病気の伝染を調査するといった場合にのみ、一部地域のみでの封鎖を認めている。
(注2)集団において、一定割合の人が自然感染等を経てウイルスに対する抗体を獲得することで、感染の拡大を抑える手法。
(注3)集団免疫に関して、20年4月17日にスウェーデンの疫学者が「5月中にストックホルムで集団免疫を獲得する可能性がある」との見解を示した。ただし、同国政府は公式に集団免疫を目指すとは表明していない。
(注4)アルメニア、スウェーデン、モルドバ共和国、北マケドニア、アゼルバイジャン、カザフスタン、アルバニア、ボスニアヘルツェゴビナ、キルギス共和国、ウクライナ、コソボ。
(注5)SVT(Sveriges Television)が発表したNovusによる調査。