第1章
1.世界経済の概観
世界の景気は、2014年以降緩やかに回復している。本レポートは14年後半から15年1~3月期の世界経済を主に分析しているが、この間、新興国の景気は減速感がやや強まってきており、先進国の景気は総じて回復傾向となっている。
アメリカでは、15年1~3月期の実質GDP成長率は前期比年率▲0.7%と減速したが、雇用情勢の改善を背景に景気は回復が続いている。
ユーロ圏では、景気は持ち直している。14年夏頃にはやや景気減速感がみられたものの、ユーロ安を背景として輸出に持ち直しの動きがみられ、個人消費も緩やかに増加している(第1-1-1図)。
一方、新興国の景気は、全体としてはやや弱含みの状況である(第1-1-2図)。中国では、固定資産投資や輸出の伸びの低下等を背景に、景気の拡大テンポが一段と緩やかになっている。ブラジルやロシアでは、資源価格下落の影響を受けていることもあって、景気は悪化している。加えて、ブラジルではインフレ抑制のために高金利が課せられていることから設備投資が伸び悩んでいることや緊縮財政の実施、ロシアでは欧米の経済制裁の影響も景気低迷の要因として挙げられる。一方、インドでは、消費に回復の兆しがみられる上に、生産が内需向けを中心に増加していることから、景気は持ち直しの動きがみられる。
(1)世界の輸出は14年後半に伸びがやや加速
内閣府1では、世界経済の回復が緩やかなものにとどまっていることから、(1)アメリカと中国の輸入(両国の輸入の合計は世界の輸入の2割強を占める)が過去の景気回復局面と比較して伸び悩んでいること、(2)先進国の賃金の伸びが過去の景気局面と比較して緩やかになっていること、(3)物価の上昇テンポが緩慢であること、の3点の特徴的な現象がみられることを挙げた。
3点の現状を確認すると、大きな変化はみられない。(1)アメリカと中国の輸入をみると、14年後半から15年4月にかけて伸び悩みの状況に変化はない。(2)物価は、原油価格下落によって上昇率が更に低下している。(3)先進国の賃金をみると名目賃金の伸びは変わっていないものの、物価上昇率が低下したことから実質賃金は上昇している。
世界の輸出量の伸びをみると、世界金融危機前のトレンドには戻っていないものの、14年10~12月にはアメリカの個人消費が堅調だったためアメリカの輸入の伸びが高まったこともあって、14年後半にはわずかに加速した(第1-1-3図)。一方中国では、内需の伸び悩み等を受けて15年に入って輸入量は減少に転じている。なお、15年に入ってからの伸び悩みは、アメリカの西海岸の港湾労働者の労使紛争や、新興国における輸出が15年初頭以降、IT製品の需要が落ち込んだ影響等を受けているためとみられる。
(2)実質賃金の伸びは物価下落が寄与
先進国の名目賃金をみると、アメリカでは13年後半以降前年比2%程度でおおむね横ばい、英国も振れを伴いながらも同1%程度でおおむね横ばいで推移している。ドイツでは14年後半以降伸びがやや高まり、同2%弱となっている。一方、実質賃金は、14年後半からの原油価格下落の影響を受けて物価上昇率が低下しているため、伸びが高まっている(第1-1-4図)。
2.原油価格下落の世界経済への影響
世界経済を取り巻く環境をみると、14年後半の原油価格の下落が大きなインパクトを与えている。
原油価格は14年6月末頃をピークに下落傾向にある(第1-1-5(1)図)。特に、石油輸出国機構(OPEC)の総会が開催された14年11月末以降2 、下落ペースが速まった。14年6月末から15年1月末にかけての下落率は50%を超え、09年以来の水準まで下落した(第1-1-5(2)図)。また下落率も、08年の世界金融危機時、85~86年に次いで、過去3番目の大きさとなった。
15年1月後半以降、アメリカの供給量見通しが下方修正されたことなどにより、底入れの兆しがみられるものの、依然として価格水準は低い。
国際機関の試算によると、原油価格の下落は世界経済にプラスの影響を及ぼすとされている(第1-1-6表)。IMFの世界経済見通し(15年4月)では、原油価格の40%の下落が最終価格に完全に転嫁された場合、15年の世界経済全体の実質GDPを+0.7%ポイント押し上げるとしている。また、世界銀行(15年1月)も原油価格の30%の下落は15年の世界経済全体の実質GDPを+0.5%ポイント押し上げると見込んでいる。
また、原油価格は、アメリカエネルギー省(EIA)の見通しや原油先物市場の動向によると、20年にかけて緩やかに上昇するとみられる(第1-1-7図)。
以下では、原油価格下落の背景を探るとともに、世界経済に与える影響を先進国、アジア新興国、産油国、国際金融市場のそれぞれについて概観する。