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第3章 世界経済の見通しとリスク

第4節 世界経済全体の見通しとリスク

2.経済見通しに係るリスク要因

  短期的な見通しに係るリスクは、以下の上振れ、下振れの両方があるが、リスクは下方に偏っている。

(1)下振れリスク

(i)ヨーロッパのソブリン・リスク再燃による金融システム不安の再拡大
  ギリシャをはじめとする南欧諸国等のソブリン・リスク問題が再燃している。これを背景にヨーロッパの金融システム不安が再び高まり、国際金融市場全体に懸念が広がれば、株価の下落等資産効果を通じて世界各国の個人消費の伸びを抑制するほか、ヨーロッパの景気の悪化を受けて、アメリカ、中国等の輸出が減速する可能性がある。この場合、ヨーロッパを震源に、再び景気が世界的に低迷するおそれがある。

(ii)一次産品価格の更なる上昇
  先進国において緩和的な金融政策が継続していることにより、世界的に過剰な資金が滞留している状況にある。こうした資金が投資先を求めて、原油、金属、穀物等の国際商品市場に流入し、一次産品価格が更に上昇していく場合には、実体経済に悪影響を及ぼす可能性がある。また、中東・北アフリカに位置する産油国における政治的混乱が、原油価格に影響を与える可能性がある。

(iii)新興国への過度な資金流入とバブル崩壊
  先進国では、緩和的な金融政策が継続しており、先進国と比較して好調な成長見通しであることなどを背景に、アジア新興国に資金が流入している。こうした資金の大量の流入は、アジア新興国の資産価格の急速な上昇をもたらしており、一部では資産バブルの懸念が高まっている。これに対し、アジア新興国の一部の国・地域では、政策金利を引き上げるなど金融引締め策を採っている。仮に、こうした引締めの効果が予想以上に現れた場合には、資産価格の急落を通じて内需の冷え込みをもたらす可能性がある。他方、もし何らかのきっかけで国際金融市場の流れが変わり、アジア新興国から急激に資金が流出した場合には、新興国の金融システムやマクロ経済全体の安定性を脅かす可能性がある。世界金融危機発生以降、アジア地域は世界の成長のけん引役となっており、アジア経済が大幅に減速した場合には、世界全体の景気回復が阻害されるおそれがある。

(iv)東日本大震災の予想以上の影響
  日本経済の弱い動きが予想以上に続き、日本向け輸出の縮小が継続した場合、日本製部品の調達難が続き、アジア各国・地域の生産が予想以上に停滞した場合、日本製品の代替需要が期待どおりに発生しなかった場合などには、アジアを中心とする一部の国・地域の景気を下押しするおそれがある。

  なお、上記のほか、アメリカにおける与野党の対立の激化により法定債務上限が引き上げられず米国債に対する市場の懸念が高まることによるリスクや、2012年にアメリカやフランスをはじめ多くの国で選挙を控えていることに伴い政策の継続性に対する不透明感が高まることも考えられる。また、第1章でみたとおり、グローバル・インバランスが再拡大し新興国の潤沢な資金がアメリカの財政赤字をファイナンスする構図は、アメリカの財政規律の緩みや、金融機関が過度に高リスク、高利回りを求めて新興国に資金が再流入することによる新興国のバブルの可能性といった、世界経済にとって重要なリスク要因を内包する。また、金融機関の寡占化、巨大化による金融システミック・リスク増大の可能性もある。世界経済の先行きには、こうした様々なリスクが底流にあることに留意すべきである。

(2)上振れリスク

資産価格等の上昇
  前述のように、世界的に過剰な資金が滞留している状況にあり、こうした資金が投資先を求めてアジアや中南米の新興国に流入し、一部で資産価格の上昇をもたらしている。既に一部の国・地域では、資本流入規制や不動産価格抑制策を採っているものの、資産価格の上昇が今後も継続する場合には、資産効果を通じて短期的には成長率を高める要因となる。ただし、資産価格の上昇が続き、景気が過熱する場合には、更に大幅な金融引締めを行わざるを得なくなり、この場合、結果として資産価格が急激に下落し、実体経済に悪影響を及ぼす可能性がある。

第3-4-1図 IMFによる各国・地域の実質経済成長率見通しと世界経済へのインパクト
第3-4-2表 国際機関による主要国・地域別経済見通し
第3-4-3表 民間機関による主要国・地域別経済見通し


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