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第3章 世界経済の見通しとリスク

第3節 アジア経済の見通しとリスク

2.経済見通しに係るリスク要因

  アジア経済の先行きに関しては、以下の上振れ、下振れの両方のリスクが考えられるが、リスク全体でみると、上方と下方は均衡している。

(1)下振れリスク

(i)中国における不動産価格の上昇とそれに対応した引締め強化による内需への影響
  中国では、世界金融危機発生後の金融緩和を背景に、不動産向け貸出が急増し、09年半ば頃から不動産価格が上昇するなど、不動産市場過熱が懸念されてきた。10年以降、4月、9月、11年1月の3回にわたって、不動産価格抑制策が打ち出されたものの、なお不動産価格は上昇している。今後、不動産価格の上昇が更に加速し、更なる引締め策が採られ、その効果が予想以上に強く現れた場合には、資産価格の急速な下落や内需の急激な冷え込みをもたらし、景気減速につながるおそれがある。さらに、中国の景気減速により、中国向けの輸出の増加が現在の景気の回復の一因となっている韓国、台湾等の景気をも減速させるおそれがある。

(ii)物価上昇の加速
  原油等の一次産品価格や食料価格の上昇に加え、景気の過熱を背景に、消費者物価上昇率の高まりがアジア全般に広がっている。中国では10年秋頃から引締めを加速しており、インドでも10年初から始まった預金準備率や政策金利の引上げは11年に入ってからも継続しており、韓国、台湾、ASEAN地域においても10年前半までにはほぼ全ての国・地域で引締め政策に転換した。しかしながら、中国では消費者物価上昇率は高まっており、インドでは卸売物価上昇率は高水準で推移している。今後も更なる物価上昇が続いた場合には、消費への下押し圧力となることが懸念される。

(iii)過度な資金流入
  先進国における緩和的な金融政策が、アジア新興国の好調な成長見通しと結びついて資金流入をもたらしており、一部で資産価格の大幅な上昇や為替の増価がみられる。これに対し、10年半ば頃から資本流入規制や不動産価格抑制策の強化等の措置が採られているが、こうした措置にもかかわらず、当面資金流入が継続する可能性が高い。それにより、為替の著しい増価が続いた場合には、輸出競争力への影響を通じて、景気を下押しするおそれがある。
  また、資産価格の更なる上昇は、短期的には資産効果を通じて成長率を高める効果をもたらすことが考えられ得るが、何らかのきっかけで国際金融市場の流れが変わり、アジア新興国から急激に資本が流出した場合には、将来的に金融システムの安定性を脅かす可能性も考えられる。

(iv)東日本大震災の予想以上の影響
  日本経済の弱い動きが予想以上に続き、日本向け輸出の縮小が継続した場合、日本製部品の調達難が続き、アジア各国・地域の生産が予想以上に停滞した場合、日本製品の代替需要が期待どおりに発生しなかった場合などには、一部の国・地域の景気を下押しするおそれがある。

(v)先進国の景気回復の停滞に伴う輸出の低迷
  欧米では、景気は緩やかに回復しているが、原油価格の高止まりや欧州ソブリン・リスク問題の深刻化等、下振れリスク要因も多い。欧米の景気回復が停滞すれば、輸出への影響を通じて、特に、国内市場の小さい韓国、台湾、シンガポール等においても景気回復のペースが緩やかになるおそれがあり、また、中国においても成長のペースが緩やかになるおそれがある。

(2)上振れリスク
  景気の上振れ要因として、以下の点が考えられる。

資金流入を背景とした資産価格の上昇

  過度な資金流入により、資産価格の大幅な上昇がみられる場合には、資産効果を通じて短期的には成長率を高める要因となり得る。


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