ここでは、韓国、台湾及びASEAN地域の景気の現状及び先行き等についてみる。ASEAN地域については、主としてシンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンを取り上げる。以下では特に、10年10月頃から電子産業を中心に生産や輸出が好調となっている、韓国、台湾を中心にみることとする。
(1)韓国・台湾
(i)景気の動向:10年半ばに回復テンポはやや緩やかになったものの、11年に入って再び回復基調
韓国、台湾の景気は、09年1~3月に底を打ち、中国の内需を中心とする景気回復にもけん引され、欧米に先駆ける回復をみせた。しかし、台湾では10年4~6月頃から、韓国でも7~9月頃から、中国の景気拡大テンポの鈍化を背景とする中国向け輸出の鈍化やそれを背景とした在庫調整などから、回復テンポがやや緩やかとなった。
11年に入ると、韓国、台湾では景気は回復テンポを再び速めている。この背景には、(1)中国の景気拡大テンポが再びやや加速し中国向け輸出が増加したこと、(2)スマートフォンなどIT需要が増加し、IT製品を中心に輸出の増加がみられたこと、(3)輸出にけん引され、韓国、台湾の電子産業が好調に推移したこと、こうした中で(4)IT関連の在庫調整が終了したことなどが挙げられる(第2-2-63図)。
こうした景気の動向を、輸出や生産の動きで確認してみよう。
まず、輸出をみると、韓国、台湾では、世界金融危機発生以降も、中国向けが堅調に推移してきたことなどを背景に、09年初から10年5~6月頃まで回復を続けた。その後、中国向け輸出がやや鈍化したことなどから10年半ば頃から台湾では弱い動きとなったが、10年11月頃から台湾では持ち直しの動きがみられ、韓国でも増加となっている(第2-2-64図)。この背景には、韓国、台湾ともに、10月頃から中国向け輸出が盛り返してきたことに加え、台湾では、10年末から11年に入って電子機械・部品輸出が増加基調となり、これが輸出全体の増加に寄与したものとみられる。また韓国でも、電子機械輸出が10年に入って高水準で推移したことが挙げられる。
こうした輸出の好調を背景に生産も増加している。韓国、台湾の生産は、09年初以降回復傾向が続いてきたが、10年4~6月頃より台湾では横ばい、8月頃から韓国では減少に転じるなど総じて弱い動きとなった。その後、10~11月頃から持ち直しの動きがみられ、10年末から11年に入ると増勢を強めている(第2-2-65図)。
このように輸出や生産が好調となっている背景には、スマートフォン、タブレット端末等高機能電子製品が相次いで登場し、これが世界的に爆発的な売り上げをみせたことが挙げられる(第2-2-66図)。
韓国、台湾には、こうした電子製品の主要メーカー、部品供給メーカー、組立企業等が複数存在しており、携帯電話、半導体等の電子産業が生産全体をけん引している(第2-2-68図)。生産に占める電子産業の割合は、韓国では19.7%、台湾では33.7%となっている。ちなみに、スマートフォンの主要メーカーである韓国のサムスン、台湾のHTCのスマートフォン出荷台数は、10年にサムスンでは前年比約320%増、HTCでは同約170%増と大幅に増加している。
また、タブレット端末の主要製品の一つである米企業のiPadは10年4月に発売され、約1年後(11年3月)にはiPad2が発売された。これらは、欧米のほか、香港、韓国、シンガポールなど世界各地で発売されているが、iPad及びiPad2の組立は台湾企業が行っており、部品のサプライヤーには、韓国、台湾メーカーが多く組み込まれている。
タブレット端末は、10年10~12月期に出荷台数が前期に比べ120%増となるなど、10年後半になって大幅な伸びをみせている。民間調査機関の見通しによれば、タブレット端末の出荷台数は10年の1,740万台から15年には2億台を超える見込みとなっている(第2-2-67図)。
韓国、台湾では、生産や輸出が10年末頃から11年に入って好調に推移しているが、これが投資、雇用及び消費等にどのような広がりをみせているかについてみてみよう。
まず、韓国の投資をみると、10年10~12月期前期比年率▲3.4%の後、11年1~3月期同▲16.0%(実質GDPベース)と減少が続いている。雇用や消費の動向をみると、雇用状況については、就業者数の伸びは高まっており、失業率も4月に低下するなど、消費環境は改善をみせている。しかしながら、消費をみると、10年10~12月期前期比年率1.2%増の後、11年1~3月期は同2.2%増(実質GDPベース)となっており、消費の伸びそのものは低めである。これらのことから、韓国では、輸出の好調が経済全体をけん引してはいるものの、投資、消費への広がりは現時点では限定的であるといえる。
他方、台湾をみると、投資は10年10~12月期に前年比13.0%増となった後、11年1~3月期は同▲1.0%とマイナスに転じている。雇用や消費の動向については、失業率は低下を続けており、平均賃金もプラスが続いている。こうした消費環境の改善を背景に、消費は堅調に推移しており、10年10~12月期前年比2.8%増の後、11年1~3月期は同4.8%増と伸びを高めている(実質GDPベース)。こうしたことから、台湾では、投資へのプラスの影響は限定的ではあるものの、消費は高い伸びとなっており、韓国に比べ内需への広がりが大きいといえる。
(ii)景気の先行き:回復傾向が続く、ただし物価上昇率の高まりに留意
韓国、台湾の先行きをみると、これらの地域は輸出依存度が高いことから、景気は世界経済の動向に影響を受けやすく、特に中国の景気に依存するところが大きい。中国経済の先行きは、前述のように拡大傾向が続くとみられることから、韓国、台湾の景気も回復傾向が続くとみられる。さらに、スマートフォンの出荷台数は10年に前年比74.4%増と大幅に増加したものの、携帯電話総出荷高に占める割合は約2割にとどまっており、漸次高機能端末へと移行していく流れは強いと考えられることから、生産・出荷は今後も増加していくものとみられる。なお、民間調査機関の見通しによれば、スマートフォンの出荷台数は、10年の約3億台から11年には約4億台に達する見込みとなっており、タブレット端末の出荷も大幅に増加する見込みとなっている。これに関連した半導体等の需要も増加することが考えられる。
ただし、韓国では、11年に入って物価上昇率が高まってきており、足元ではインフレ目標(消費者物価上昇率総合:3±1%)を超えている(4月4.2%)(第2-2-68図)。こうしたことから、韓国では、10年7月から政策金利の引上げを4度にわたって行っており、今後とも物価上昇によるリスクには留意が必要である。なお、台湾でも、まだ消費者物価上昇率は4月に前年比1.3%と低めであるものの、高まる傾向にある。
(2)ASEAN地域
(i)景気の動向:10年後半頃からタイ、マレーシアでは景気の回復テンポは緩やか
ASEAN地域の景気は、09年1~3月期に底を打ち、中国の内需を中心とする景気回復にもけん引され、欧米に先駆ける回復をみせた。その後、シンガポール、タイでは10年4~6月頃から、マレーシアでも7~9月頃から、中国の回復テンポの鈍化等から回復テンポがやや緩やかとなった。しかし、11年に入ると、シンガポールでは景気は回復テンポを再び速め回復基調となっている。
インドネシア、フィリピンでは、実質経済成長率は10年10~12月期前年比でそれぞれ6.9%、7.1%と堅調に回復している。他方、タイ、マレーシアでは、景気の回復テンポは10年半ば頃から、依然としてやや緩やかなままとなっている(第2-2-69図)。
総じて堅調な回復がみられるASEAN地域の中にあって、タイ、マレーシアの回復テンポがやや緩やかなものにとどまり、シンガポール等のような回復軌道に向かわない背景には、これらの国では生産の回復が遅れていることが挙げられる(第2-2-70図)。タイ、マレーシアの生産に占める電子産業の割合をみると、タイでは約16%、マレーシアでは約21%となっており、タイ、マレーシアでも生産に占める電子産業のウエイトはある程度大きいことがわかる。しかし、電子産業のウエイトが高いといっても、例えば、こうした国では、スマートフォン等、需要が増大している電子製品に関連した生産や部品供給の割合が低く、そのため、韓国や台湾でみられるような生産の増加につながっていないものと考えられる。タイの電子製品の中心はテレビ等の家電やハード・ディスク・ドライブとなっており、マレーシアの電気電子製品に占める品目別割合も、コンピュ-タ・周辺機器が5.3%、テレビ・ラジオ・ビデオが2.5%、半導体が4.8%等となっている。マレーシアにおいてシェアの大きいコンピュータは、10年に入ってタブレット端末の躍進によって世界的にも需要が伸び悩んでいる。
(ii)景気の先行き
景気の先行きについては、回復傾向が続くと見込まれるものの、総じて輸出のGDP比率が高く、中国や欧米の景気動向に依存するところも大きい(第2-2-71図)。また、ASEAN地域では、エネルギー価格や食料価格の上昇等を背景に、総じて消費者物価上昇率が高まってきており、物価上昇のリスクに留意が必要である(44)(第2-2-72図)。この物価上昇率の高まりを受けて、ASEAN各国では、10年に入って政策金利の引上げを数次にわたって実施している。