目次][][][年次リスト

第1章 歴史的転換期にある世界経済:「全球一体化」と新興国のプレゼンス拡大

第4節 歴史的転換期にある世界経済

3.日本も含めた先進国の経済政策への示唆

  これまでみてきたとおり、世界経済は歴史的転換期を迎え、新興国のプレゼンスの拡大と全球一体化により、世界経済に関するリスクが増大している。これを踏まえると、経済政策の方向性としては、国際社会がいかにリスクを軽減するかといった視点で政策協調に向けた努力を継続しつつも、リスクが発現してショックが起きた場合でも、危機が自国に伝播しないよう、経済・金融システムの強靭性を高め、比較的速くかつ軽微なダメージで乗り越えることができるようにすることが重要である。
  例えば、リーマン・ショックにおいては、我が国の金融システムは、サブプライム住宅ローンを裏付け資産とする証券化商品を金融機関があまり多く保有していなかったこともあり、ショックに対して比較的強靭であった。一方、世界的な実体経済の落込みの中で、我が国の輸出の6割は世界中で需要が急減した機械類及び自動車であったことから、輸出は急激に落ち込んだ。片や輸入は内需の減少幅が小さかったことなど(5)により輸出ほど減少しなかったことから、外需の減少を通じたGDPの落ち込みは先進国の中で最大となった。その結果、世界金融危機の震源地ではないにもかかわらず、大規模な政策対応が必要となった。
  こうしたことを踏まえると、今後とも、様々な形で世界経済のリスクが実際に発現することを常に念頭におき、経済の強靭性を高めることを目指した経済政策運営が必要と考えられる。例えば、財市場については、世界的な需要拡大により一次産品価格が上昇し続けるであろうことを大前提に、中長期的なエネルギー戦略や食料安全保障を推進すべきである。また、輸出型産業においては、製品差別化により非価格競争力を伸ばし、一次産品価格が高騰しても交易損失が発生しないような貿易構造とすることも重要である。金融資本市場については、グローバル・インバランスの再拡大やそれを背景とする新興国のバブルやアメリカの財政規律の緩みといった懸念、金融機関の寡占化による金融システミック・リスク増大の可能性を直視し、金融監督の強化や金融システムの健全性を確保するためのマクロ・プルーデンス政策が重要である。さらに、国際金融環境がいかに厳しく、変動が大きくても、日本国債の信認を確固として維持するため、財政の持続可能性確保に向けた取組を強化することが極めて重要である。労働市場については、外需の動きに雇用が大きく左右されないよう輸出型産業に過度に依存しない経済を目指すべきである。
  リスクの管理は、ともすると効率性の追求と相反することも多く、バランスが重要である。しかしながら、新興国のプレゼンスの拡大と全球一体化の進展により、かつてよりも世界経済のリスクは高まっており、リスク管理と強靭な経済構築の重要性が増している。国際社会全体として、リスクをいかに軽減するかという視点を持って政策協調を深めていくことが極めて重要であり、我が国としてもこれに向けた努力を惜しんではならない。一方、異なる所得水準の多様なプレイヤーが多数いる国際社会においては、政策協調をスムーズに行うことが難しい場面も多いことが考えられる。したがって、関係府省や中央銀行等政策当局が一体となって、世界経済にリスクが多いことを前提に、リスクの点検を頻繁に行い、先行きのリスクについて認識を共有するとともに、歴史的な転換期にある世界経済にあって、いかなるショック、いかなる市場の激変にさらされても耐え得る強靭な経済を構築するための不断の努力が不可欠である。


目次][][][年次リスト