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第3章 世界経済の見通しとリスク

第2節 ヨーロッパ経済の見通しとリスク

2.経済見通しに係るリスク要因

 09年秋頃に下げ止まったヨーロッパ経済は、政策で支えられていた側面が強く、自律的な景気回復の芽が乏しい。また、ギリシャ財政危機等、金融市場の混乱と実体経済悪化の悪循環のリスクも高く、先行きに関するリスクは依然として下方に偏っている。

●下振れリスク
 上記のメインシナリオに反して、以下のような場合には景気は低迷を続けるリスクがある。

(i)ギリシャ財政危機の他国への伝染
 財政の持続可能性への懸念等から、ギリシャの国債利回りが上昇し、ドイツ国債利回りとの金利スプレッドが拡大した。このため、大量の国債償還を控えたギリシャの財政持続可能性への懸念が高まり、市場に更なる混乱をもたらすことになった。ギリシャ財政危機により、同様に財政状況の悪化が著しいポルトガル、アイルランド、スペイン、イタリア等の他のヨーロッパ諸国に対しても、市場が財政の持続可能性について懸念をもち、国債価格が急落(利回りは上昇)するような「コンテイジョン」(伝染)の事態に至れば、金融市場の変動が深刻化し、景気回復が停滞するリスクがある。

(ii)ギリシャ財政危機による金融システムの不安定化
 ギリシャ財政危機が他国にも伝染すれば、こうした国々の国債等を保有する金融機関の損失拡大懸念から、金融システム全体に対する懸念が高まり、金融市場の変動が更に深刻化するリスクがある(第1章第4節参照)。また、ヨーロッパの不良債権処理はアメリカに比べて遅れている(1)。ユーロ圏金融機関の貸出態度は厳格化したまま変化していない状況にあり、貸出の伸びも下げ止まっていない中、更に信用収縮が進むリスクがある。

(iii)自動車買換え支援策の終了による反動の広がり
 ヨーロッパ地域では、自動車買換え支援策等の政策効果が、ヨーロッパ経済全体を下支えしてきた。一方で、こうした支援策が今後数年間の需要を先取りしてしまうことにより、個人消費や自動車関連産業がしばらく低迷する懸念がある(第1章第4節参照)。

(iv)雇用情勢の想定以上の深刻化
 高水準で推移している失業率が、これまで以上に悪化した場合には、所得環境の悪化や消費者マインドの低迷を通じて、個人消費を下押しする懸念がある。

●上振れリスク
 上記のメインシナリオに反して、以下の場合には予想外に早いペースで景気が持ち直す可能性もある。

世界経済の想定以上の回復に伴う輸出拡大
 ユーロ圏の域外輸出は、現在、中国を始めとするアジア向けを中心に伸びている。また、為替市場ではユーロの減価が進行している。今後、主要輸出先であるアメリカ、中・東欧諸国の景気が力強いものになった場合、輸出から生産、雇用、消費へとその恩恵が波及し、景気の回復ペースは比較的速いものになる可能性がある。


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