第3章 世界経済の見通しとリスク |
見通しに係る下振れリスクは弱まっているものの、依然としてリスクのバランスは下方に偏っている。
●下振れリスク
(i)失業率の高止まりの継続
10年以降、雇用環境は民間部門を中心に持ち直しており、自律的な回復の動きが強まる一方、失業率は10%近傍の高い水準が続いている。この水準が続いた場合、所得環境の改善の遅れから、消費・住宅等の家計部門に及ぼす影響が懸念される。
(ii)信用収縮の継続
政府・FRBによる金融システム安定化策等の効果もあり、金融市場は改善が進んでいるものの、商業銀行部門(貸出部門)では不良債権化率が更に上昇を続けており、厳しい経営状況が続いている。こうしたことから、金融機関の厳格な貸出態度が続き信用収縮が長期化する場合には、資金調達を間接金融に依存する中小企業の経営悪化や、家計による消費や住宅の購入を抑制する可能性がある。
(iii)州財政の悪化による地方経済の低迷
世界金融・経済危機の発生以降、州の財政状況は著しく悪化しており、10年度における州政府全体の財政赤字は、過去最大の規模に達する見通しである。歳入不足を補うために、増税や歳出削減等を実施する州が増加しており、この傾向が続けば、地域経済への影響が懸念される。また、州財政は景気に遅行する傾向があることから、州財政の回復にはしばらく時間がかかると見込まれており、この場合、地域経済の停滞が長期化する可能性がある。
(iv)商業用不動産市場の停滞と中堅・中小金融機関の経営悪化
商業用不動産市場は、価格に下げ止まりの兆しがみられるものの、不安定な状況が続いている。商業用不動産向け貸出は、中堅・中小金融機関を中心に行われているが、同貸出の延滞率、不良債権比率は上昇を続けており、今後も厳しい経営が続くと見込まれる。不良債権の増加による保有資産の劣化が進み、中堅・中小金融機関の経営破たんが拡大する場合には、金融不安が再燃する可能性がある。さらに、同貸出は、10年以降満期が到来し、債務の借換えが本格化する見通しであるが、借換えができないことによる更なる市場の悪化も懸念される。
(v)景気刺激策の効果はく落による景気の減速
10年10〜12月期以降は、景気刺激策の規模が大幅に縮小することから、政策効果のはく落の影響が懸念される。所得税減税や失業保険給付等、一部のプログラムでは延長措置が行われることも見込まれるが、こうした対策が期限を迎える前に民需による自律的な成長に移行できない場合には、景気回復が停滞する可能性がある。
(vi)ヨーロッパ経済の悪化に伴う輸出の低下
ギリシャで発生した財政危機の問題が、経済・財政状況が不安定な南欧諸国に波及し、急速なユーロ安の進展やヨーロッパの実体経済の悪化が進行すれば、輸出が減少し貿易赤字が拡大する可能性がある。
(vii)長期金利の上昇
財政の持続性に対する不安の高まりを受けて長期金利が上昇すれば、国内金利の上昇を通じて個人消費や投資を抑制するおそれがある。また、利払い負担の増加に伴い財政の硬直化が進展すれば、今後の景気動向に応じた弾力的な財政運営を妨げるおそれがある。
●上振れリスク
メインシナリオにおける想定以上に、景気の回復テンポが加速する場合の要因としては以下が考えられる。
(i)雇用環境の改善
世界経済及び国内経済の回復に伴って需要が想定以上に高まる場合には、生産活動の拡大を通じて、雇用環境が大きく改善する可能性がある。この場合、所得環境の改善に伴い消費の拡大が見込まれることから、成長を押し上げる可能性がある。
(ii)信用収縮の緩和
景気の回復に伴って、金融機関の経営状況の改善、家計・企業に対する信用リスクの低下が進展する場合には、金融機関による貸出の抑制が緩和され、消費や投資が拡大する可能性がある。
(iii)資産価格の上昇
金融システムの安定化や景気の回復が加速し、株価や住宅価格が上昇に向かう場合には、家計や金融機関のバランスシート調整に係る負担が軽減され、家計への信用の流れが回復する可能性があるとともに、資産効果を通じて個人消費が拡大する可能性がある。
(iv)世界経済の想定以上の回復に伴う輸出拡大
世界経済の回復に伴い想定以上に各国の需要が高まる場合には、輸出の拡大を通じて景気の回復テンポが加速する可能性がある。国家輸出戦略が具体化し、政府による支援が本格化すれば、輸出が大幅に拡大し成長を押し上げる可能性もある。