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第3章 世界経済の見通しとリスク

第1節 アメリカ経済の見通しとリスク

1.経済見通し(メインシナリオ)― 緩やかな回復が続く見通し

 アメリカでは、失業率が高止まるなど下押し要因は依然としてあるものの、政策効果もあり、景気は緩やかに回復している。特に、GDPの約7割を占める個人消費は、09年7〜9月期以来3四半期連続で増加しているが、10年1〜3月期は、雇用の増加や貯蓄率の低下を背景に伸びを高めている。また、回復の遅れていた民間設備投資も、在庫調整が一服し、内外の需要の緩やかな回復に伴う生産の拡大を受けてプラス基調に入るなど、景気回復の自律性が徐々に高まっている。
 先行きについては、世界経済の回復歩調に合わせて内需・外需の回復の動きが続くとともに、10年中は政策による下支え効果が期待できることから、プラス成長を維持するものと見込まれる。ただし、失業率の高止まりや信用収縮の継続等、家計を取り巻く環境の改善の遅れから、個人消費や住宅投資の伸びが緩慢となり、景気の回復テンポは緩やかになると考えられる。この結果、10年全体の実質GDP成長率は、2%台後半となる可能性が高い。なお、失業率は、今後緩やかに低下していくことが予想されるものの、10年は9%台半ばから10%近傍、11年は8%後半から9%前半程度の水準で推移する見通しである。

第3-1-1図 アメリカ経済の見通し

 以下、個別の需要項目について概観する。

(i)個人消費
 失業率の高止まりや信用収縮、家計のバランスシート調整の継続が見込まれるものの、所得税減税及び失業保険給付等の政策支援の延長により、一定の下支え効果が期待されることから、10年中は緩やかな回復に向かうと見込まれる。11年以降は、雇用環境の改善が進むものの、政策による下支え効果がはく落することから、引き続き緩やかな回復が続くと見込まれる。

(ii)住宅投資
 住宅購入減税の延長により、10年1〜3月期は住宅着工の持ち直しがみられたものの、4月末の減税措置終了による反動から、10年半ばにかけて住宅需要が大きく減退することが予想される。他方、住宅取得環境は引き続き良好な状態であり、また所得環境も徐々に改善していることから、10年後半以降は持ち直しの動きが強まると見込まれる。ただし、住宅の差押え件数は拡大傾向にあり、中古市場への流入も継続していることから、住宅投資の回復のテンポは過去に比べて緩慢なものにとどまると考えられる。

(iii)設備投資
 企業の在庫調整が一服し、内外の需要の緩やかな回復を受けて幅広い産業で生産の拡大が見込まれることから、設備投資は引き続きプラス成長を維持するものと見込まれる。ただし、信用収縮、とりわけ中小金融機関の経営悪化により中小企業の資金調達が困難な状況が続くほか、商業用不動産市場の低迷により構築物投資の回復が遅れることが予想されることから、投資全体の伸びは緩慢なものにとどまると見込まれる。

(iv)政府支出
 10年10〜12月期以降、景気刺激策の大幅な減少が見込まれている。また、州・地方財政が急速に悪化しており、広範な地域で歳出削減が行われている。政府による追加対策が検討されているものの、09年2月に実施された対策に比べれば規模は小さいことが見込まれ、政府支出は低調に推移すると考えられる。

(v)外需
 世界経済及び国内経済の緩やかな回復に伴い、輸出及び輸入は増加していくと見込まれる。GDPに対する寄与度では、アメリカ経済が回復のペースを高めるにつれて、輸入の伸びが輸出の伸びを上回ると予想されることから、徐々にマイナスの寄与を高めていくと考えられる。ただし、国家輸出戦略が具体化し、政府による支援が本格化すれば、輸出が拡大し貿易赤字が縮小する可能性もある。


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