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第3章 世界経済の見通しとリスク

第4節 世界経済全体の見通しとリスク

2.経済見通しに係るリスク要因

   上記のメインシナリオに対しては、以下の下振れリスク要因があることに十分留意する必要がある。

●下振れリスク
(i)金融危機と実体経済の悪循環
   10年になっても、金融市場が安定化に向かわず、金融危機と実体経済悪化の悪循環が持続する。この場合、欧米の景気後退は長期化し、世界経済も停滞が続くおそれがある。

(ii)雇用情勢の悪化から保護貿易へ
   各国における雇用情勢の急速な悪化は、所得環境の悪化を通じて消費を下押しするのみならず、社会不安にもつながるおそれがある。この場合、各国の保護貿易的な政策が誘引されるおそれがあり、世界的な貿易・投資の阻害要因となることが懸念される。

(iii)原油価格の上昇
   世界経済のメインシナリオでは、原油価格については、50〜60ドル程度で推移していることを前提としているが、09年2月中旬以降上昇傾向にある原油価格が更に上昇を続けるような場合には、交易条件の悪化を通じて、原油輸入国、とりわけ、アメリカの消費を押し下げることが懸念される。

(iv)新型インフルエンザの感染拡大
   既に各国に広がりつつある新型インフルエンザの感染が更に世界的に拡大し、生産活動や観光など、経済活動に深刻な影響を与えるおそれがある。

コラム3-2:新型インフルエンザの影響

   09年4月24日、アメリカは初めて国内でインフルエンザA/H1N1の7人の感染確定症例をWHOに報告した。この新型インフルエンザは、09年6月1日現在、全世界53か国・地域に広がり、感染者数が1.5万人を超える規模となった(表1)。感染防止のため、メキシコでは一部の工場の操業を一時停止するなど、経済的にも影響が出ている。
   近年、感染症が世界的に流行した例としては、SARS(重症急性呼吸器症候群)が挙げられる。02年11月〜03年7月に流行し、感染者数は約8,000人に達した(表2)。SARSに対し、各国政府は出入国制限や隔離政策を実施、企業・個人は出張や旅行、外出を自粛したため、中国では航空会社が株式上場を延期するなど、各国の運輸、観光、飲食等のサービス業が影響を受けた。このため、03年4〜6月期の実質経済成長率の前年比は、台湾、香港、シンガポールでマイナス成長となった(図3)
   また、インフルエンザの世界的な流行による経済への影響について、世界銀行とアメリカ議会予算局(CBO)が、香港風邪(1968〜69年)やアジア風邪(57年)、スペイン風邪(1918〜19年)を想定した試算を行っており、重度(スペイン風邪と同様の感染を想定)の場合にはそれぞれ、世界の経済成長率を約5%、アメリカの経済成長率を4%以上押し下げると試算している(表4)
   今回の新型インフルエンザは、これまでのところ、SARSや鳥インフルエンザと比べて致死率が高くなく、感染者数もスペイン風邪ほど増えていないが、今後更に感染が世界的に拡大した場合には、世界経済にも大きな影響を与える可能性があるため、動向を十分に注視していく必要がある。


 

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