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第3章 世界経済の見通しとリスク


第1節 アメリカ経済の見通しとリスク

2.経済見通しに係るリスク要因

   先行きについては、金融危機と実体経済悪化の悪循環が生じていることから、不確実性が高い。特に、以下のリスク要因があるため、リスクは下方に強く偏っている。

●下振れリスク
   上記のメインシナリオに反して、以下のような場合には、10年になっても景気の持ち直しがみられず、景気後退が長期化することが懸念される。

(i)金融市場と実体経済の悪循環の長期化
   金融安定化は実体経済回復の前提条件であるが、政府やFRBの取組によって金融市場や住宅市場が安定化しなければ、金融市場と実体経済の悪循環が長期化することが懸念される。また、金融市場が安定化しなければ、これまでの景気刺激策も十分に効果が発揮されず、景気後退が更に長期化するリスクが高い。

(ii)雇用情勢の深刻化
   雇用情勢は急速に悪化を続けており、失業率は、10年のピーク時には、10%を超える水準まで上昇するとみられるが、労働市場の悪化により、失業率が、第二次石油危機後のピーク(10.8%)を超えて、更に上昇していく場合には、所得・雇用環境の悪化から、個人消費を更に下押しするおそれがある。

(iii)財政収支の著しい悪化に起因する長期金利の上昇
   アメリカの財政収支は、景気後退に伴う税収減に加え、金融システム安定化策や財政刺激策の実施に伴い著しく悪化しているが、これが財政の持続可能性への不信を通じて、長期金利の上昇をもたらす可能性がある。その場合には、個人消費や投資が抑制され、景気の回復が更に遅れるおそれがある(コラム3-1参照)。

(iv)デフレのリスク
   08年後半からの資源価格下落に加え、足元では、世界的な景気後退による需要減退もあって、消費者物価上昇率(総合)は、09年3月には、前年比でマイナスに転じている。また、これまで高止まりしていた賃金上昇率も伸びが低下しつつあり、需要不足を背景として、持続的な物価下落、すなわちデフレに陥る可能性がある。

コラム3-1:アメリカの財政収支の悪化

   アメリカの連邦財政収支(以下、「財政収支」という)については、2008年度に4,590億ドルの赤字(GDP比▲3.2%)となり、単年度として過去最大となった。オバマ大統領が発表した予算教書によれば、09年度の財政赤字については、08年度の約4倍となる1兆8,410億ドル(GDP比▲12.9%)となることが見込まれている。GDP比でいえば、双子の赤字といわれたレーガン元大統領時代の6%台を大きく超過し、統計をさかのぼることができる1934年度以来、戦中(42〜45年度)を除いて過去最大となる。この要因としては、09年2月に成立したアメリカ再生・再投資法や度重なる金融安定化策によって歳出が大幅に増加することに加え、景気後退等に伴い所得税収や法人税収が減少することなどが挙げられる。さらに、10年度についても1兆2,580億ドル(GDP比▲8.5%)と、2年連続で1兆ドルを突破すると見込んでいる。
  現下の類をみない金融危機と実体経済悪化の悪循環に対しては、財政政策を含むあらゆる措置を尽くして阻止することが最優先である。財政規律を強調し過ぎた場合には、必要十分な対策が採れず、政策の信頼性を失うおそれもあることから、一時的な財政収支の悪化はやむを得ないと考えられる。しかしながら、他方で、財政政策の実施を確保するためには、財源となり得る米国債の国際的な信認を維持し、将来的な財政再建について取り組む姿勢を示すことも必要であり、両者のバランスを図ることが重要である。
   オバマ大統領は、ホワイトハウス内での財政規律会議(注)において、ブッシュ前大統領から引き継いだ財政赤字を任期1期目の終わり(13年1月)までに半減させると発言した。予算教書によれば、13年の財政赤字は5,120億ドルと、09年度財政赤字の3割程度まで減少すると見込まれており、目標は達成される公算となっている。ただし、基準年となる09年度の財政赤字は財政刺激策等の一時的な政策措置で大きく膨らんでいることに加え、その後の財政収支の見通しの前提となる経済見通しについては、楽観的であるとの見方もある(図)。このほか、オバマ大統領は、クリントン元大統領時代に財政収支黒字化を達成した要因の一つであるPay-as-you-go原則 (義務的歳出の増加や減税に際しては、他の歳出削減や増税により財源を確保するスクラップ・アンド・ビルドの原則)といった財政ルールの復活や、実効性の乏しい予算プログラムの削減等の歳出削減案を提示しており、将来的には財政再建を目指す姿勢を示している。

●上振れリスク
   上記のメインシナリオに反して、09年終わりにも景気が回復に向かい、その後の回復の足取りもしっかりとしたものとなる可能性がある。

  資産価格の上昇

   資産価格の上昇 金融システム安定化や景気回復に向けた動きが進展し、株価や住宅価格が上昇に向かう場合には、家計や金融機関のバランスシート調整にかかわる負担が軽減され、家計への信用の流れが回復する可能性があることに加え、資産効果を通じて、消費の伸びを高める可能性もある(1)
 

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