第1章 先進国経済:金融危機による景気後退の深刻化 |
第1節 世界金融危機後の金融資本市場
2.各国の政策対応
09年に入ってからも、金融機関の財務状況に対する不安や金融市場の機能不全が続いている状況を踏まえ、各国政府・中央銀行は引き続き、金融システム安定化に向けた取組に全力を挙げている。また、国際的にも、09年4月に第2回の金融サミットが開催され、世界的な危機に対する各国の協調と取組の強化が図られている。以下では、各国の対応を概観する(なお、詳細は、アメリカについては第2節、ヨーロッパについては第3節を参照)。
各国における金融システム安定化に向けた取組としては、個別金融機関への支援策と金融市場の機能回復策に分けることができる(第1-1-13表)。
(1)個別金融機関への支援策
個別金融機関への支援としては、金融機関のバランスシートを改善する観点から、各国において追加的な資本注入が行われるとともに、アメリカにおいては、「官民投資プログラム」(Public-Private Investment Program)が創設され、不良資産買取りの取組が開始されようとている。
不良資産の買取りは、(i)金融機関の保有する不良資産額を確定させるとともに、それらをバランスシートから切り離すことにより、金融機関相互のカウンターパーティ・リスクを減少させることに加え、(ii)買取りの過程を通じて、機能不全に陥っている各種資産市場における適正価格の発見にも寄与すると考えられる。したがって、今後、アメリカだけでなく、各国においても、必要に応じて不良資産買取りの取組が円滑に進められ、金融機関の財務状況に対する懸念の払しょくや金融資本市場の機能回復に寄与することが期待される。
また、アメリカでは、大手の金融機関19行に対して、ストレステストが実施され、その結果に基づいて各金融機関において資本増強の取組が行われることとされている。こうした資本増強と不良資産の買取りは、金融機関のバランスシートの改善を図る上での車の両輪であり、相乗効果を発揮して金融機関の経営不安の払しょくにつながっていくことが期待される。
(2)金融市場の機能回復に向けた取組
金融市場の機能回復に向けては、金融危機発生直後に各国で講じられた金融機関の債務に対する政府保証に加え、アメリカ及び英国では中央銀行による特定資産の買取りが進められている。アメリカでは、08年中から行われているCPやMBSの買取りに加え、FRBが長期国債の買取りを開始している。英国においても、CPや社債の買取りに加えて、中長期の国債を含む資産買取プログラムが実施されている。
こうした中央銀行による非伝統的な手段(unconventional measures)は、現下の金融危機時においては、特定の資産市場の機能を維持し景気の回復に必要な信用フローの回復に寄与することが期待される。ただし、こうした措置はあくまでも緊急のものであり、現在の金融市場の混乱に収束の見通しが立った際には速やかに解除していくことが必要である。
●第2回金融サミットの開催
09年4月2日にロンドンで開催された第2回金融・世界経済に関する首脳会合では、世界的な危機には世界的な解決策が必要であるとの認識の下、首脳声明として「回復と改革のためのグローバル・プラン」が発出された(第1-1-14表)。
首脳声明では、成長と雇用の回復に向けて各国が必要な規模の継続した財政努力を行うことにコミットするとともに、中央銀行は、非伝統的な手法を含むあらゆる金融政策の手法を活用しながら、必要とされる間、緩和政策を維持することを誓約している。また、併せて、長期的な財政の持続可能性や物価の安定を確保することについても声明に盛り込まれている。
金融監督及び規制の強化については、「金融システムの強化に関する宣言」が発表され、ヘッジファンド等を含め金融システム上重要なすべての金融機関・商品・市場に規制・監督を拡大することや、信用格付け会社に対して登録制を導入することなど、具体的な進ちょくが図られている。
さらには、保護主義に対抗するとともに、世界的な貿易・投資の促進を図るため、08年11月の第1回サミットにおける、「今後1年間新たな保護主義的な措置を講じない」との誓約を10年末まで延長することに合意するとともに、貿易金融支援のため、国際開発機関等を通じて、2年間で最低2,500億ドルを利用可能とすることが打ち出された。
なお、第1回及び第2回サミットにおけるコミットメントに関する進ちょく状況を点検するため、09年9月24日、25日にアメリカのピッツバーグで第3回サミットを開催することが発表されている。
各国においては、これらの金融システム安定化策とともに、成長と雇用を回復する観点から、景気刺激策や金融緩和策が講じられている。金融市場の安定化は実体経済の回復に向けた必要条件であることから、これらの政策が相乗効果をもって、金融システムの安定化と実体経済の回復に効果を発揮していくことが期待される。