<2005年の経済>
2005年の経済成長率は6.4%となった。年前半は、GDPの約4分の1を占める製造業が、世界的なIT市況が調整局面にあったことからIT関連財輸出の伸びが低下したほか、医薬品の生産が低迷したことから、年初はやや減速したものの、年央には両財共に回復し、7〜9月期には前年同期比7.6%となった。10〜12月期は、世界的なIT関連財市況の回復の本格化に伴い、IT関連財の生産や輸出が増加し、経済をけん引した。こうした外需の好調を背景に、年後半には、マイナス成長が続いていた設備投資はプラスに転じた。失業率も01年4〜6月期以来の低水準となり、賃金も上昇していることから個人消費も回復している。
<2006年の経済見通し>
2006年の経済成長率は5%程度になるものと予測される(政府見通し5.0〜7.0%(06年5月時点)、民間機関29社の平均5.5%(06年4月時点))。民間機関の見通しは、半年前(05年10月時点4.5%)に比べ上方修正されている。 成長を支える要因としては、世界経済、特にIT市況の回復を背景とする輸出の堅調な拡大の持続や、雇用環境の着実な改善を背景に個人消費の回復が一層加速することが挙げられる。 下方リスクとしては、原油価格高騰によるインフレ圧力の急激な高まりや、IT需要が年末にかけて腰折れすることが懸念される。
<財政金融政策の動向>
財政政策については、2006年3月9日、政府は06年度の予算案を可決し、05年度の財政収支が222億9,800万シンガポール・ドル(GDP比6.9%)の黒字となったことを受け、本予算案において特別移転支出を大幅に拡大し、従来と異なり景気への積極的な取組を示した。同支出は05年度の8億7,000万シンガポール・ドルから、06年度には35億9,000万シンガポール・ドルへ大幅に増額され、その内26億シンガポール・ドルが「進歩のためのパッケージ」に充てられている。これは、全ての成人シンガポール人に総額14億シンガポール・ドルの「成長の配当金」、及び低所得労働者に「労働ボーナス」を一時金として支給するなど、低所得層を中心とした所得支援策となっている。しかし、本予算案は5月6日に実施された総選挙を意識したものであり、これらの特別移転支出は一時的なものにとどまり、長期的な財政の健全性には影響はないとみられている。政府は、この特別移転支出の増額により財政収支は06年度は赤字に転じるとしている。
金融政策については、為替レートを重視した金融政策を実施してきたが、04年4月以降、シンガポール通貨庁(MAS)はインフレ圧力を抑制するため、シンガポール・ドルの名目実効為替レートが緩やかに上昇することを容認している。06年4月末のシンガポール・ドルは米ドルに対して05年末より4.4%増価しており、06年3月に発表された半期経済報告でも、今後も引き続きこのスタンスを継続することで物価安定を図る方針が示されている。