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第2章 世界経済の見通し

 世界経済(日本に関係の深い22か国・地域)は着実に回復している。日米欧格差は縮小しつつあるものの、依然としてアメリカが世界経済のけん引役を果たしている。アメリカ経済は、05年は04年と比べれば若干減速したものの、3.5%の成長をし、主要国・地域中、最も高い成長となった。中国では04年以降、直接規制や金利引上げ等のマクロコントロールが実施されているものの、05年は9.9%の高い成長となった。一方、ヨーロッパでは各国間で成長率にばらつきがみられる中での緩やかな景気回復となった。これら22か国の05年の成長率は04年をやや下回り3.3%となった。
 以下では、06年の世界経済見通し、及び今後のリスクポイントを整理することとしたい。

第1節 2006年の経済見通

 2006年の世界経済(日本に関係の深い22か国・地域)は全体として05年並の伸びとなる3.4%程度の成長が見込まれている。これは、アメリカ経済が引き続き堅調なことに加え、ユーロ圏経済の持ち直しが明らかになりつつあることによる。本節では、06年の経済見通しのポイントを地域別に検討する。検討にあたっては民間機関の平均的な見方(4月28日までの公表分)を参考とした(第2-1-1表)。なお、国・地域別のより詳しい動向は別添の資料を参考されたい。
(第2-1-1図)


1.アメリカ
 アメリカ経済は05年には3.5%の成長となった。雇用面では、05年は非農業雇用者数が198.1万人と04年に引き続き堅調に増加した。また所得環境が良好であったこともあって個人消費も05年で増加率が3.5%となるなど、景気は拡大を続けている。しかし、消費は7月の自動車販売台数が大きく伸びた反動もあって、その後は減速したことから、05年10〜12月期の成長率は1.7%と一時的に鈍化した。
 こうした景気拡大を背景に、04年半ば以降政策金利の引上げが慎重なペースながら継続して行われた。また、05年を通して原油価格が過去最高水準を更新する形で上昇し、高止まりする中で、物価上昇等を通じた経済全体への影響が懸念された。しかし、原油価格上昇の川上から川下への転嫁は石油関連商品には波及したものの、エネルギーを除いた消費者物価の上昇は今までのところ落ち着いた動きを示しており、景気への下押し圧力は限定的なものにとどまっている。
 06年の成長率は1〜3月期に05年10〜12月期の反動もあり5.3%と高い伸びをみせたものの、その後はこれまで消費を下支えしてきたといわれる住宅市場の沈静化の影響等により、若干伸びが鈍化するとみられており、06年全体では05年とほぼ同様に3%台半ばで推移すると見込まれる。これは、政府や議会の見通しとも大差ない結果となっており(アメリカ政府:3.4%、議会予算局3.6%)、潜在成長率をやや上回る成長を確保するとみられる。

●住宅市場の過熱懸念について
アメリカにおける住宅投資は、2000年のITバブル崩壊とそれに伴う一時的な景気低迷期においても拡大しており、02年以降ほぼ一貫して増加を続けている。こうした中、住宅価格は大幅に上昇してきた。アメリカ連邦住宅貸付機関監督局(OFHEO)が四半期毎に公表している住宅価格指数によると、90年代半ば以降徐々に高まりをみせた住宅価格上昇率は02年から03年にかけてやや鈍化したものの、03年後半から再び高まりをみせて04年には2桁へ上昇した(第2-1-2図)。更に05年に入ってからは12〜13%台と高水準で推移している。しかし、モーゲージ金利の緩やかな上昇 (第2-1-3図)を受けて05年半ば以降、住宅価格の一部指標で上昇率の鈍化がみられており、住宅市場はピークアウトの兆しをみせ始めている (第2-1-2図)
今後については、長期金利の上昇によりモーゲージ金利の緩やかな上昇が続くことが見込まれており、また、一部地域では住宅価格が所得水準等からみて高水準となっているとの指摘もあり、住宅投資の緩やかな減速が見込まれている(第2-1-4図)。貯蓄率が05年半ば以降マイナスとなる中で(06年1〜3月期▲1.3%)、住宅投資の減速に伴って、住宅価格が大きく下落するリスクも存在し、逆資産効果の発生と消費へのマイナスの影響が懸念されるが(第2-1-5図)、英国等、住宅ブームを経験したほかの諸国に比較しても住宅価格の上昇は緩やかであり、アメリカモーゲージ銀行協会(MBA)は、今後も急激な住宅価格の下落は避けられると見込んでいる(前掲第2-1-2図)

●過去最高水準を上回る原油価格の高騰
 原油価格の動向をWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)
でみると、03年までは30ドル前後で推移していたが、04年春以降は40ドルを超え、10月には50ドル台にまで上昇し過去最高水準を更新した。05年には、ハリケーンの影響もあり8月には70ドルに迫る水準まで上昇する場面もあった。その後、北アメリカ地域が記録的な暖冬であったこと等から需給ひっ迫懸念は相対的に低下したものの、イランの核開発問題等の地政学的不確実性の高まりから、現在は再び70ドル付近で推移している。
 こうした原油価格高騰に対しては、価格上昇圧力等を通じた経済に対する悪影響が懸念された。しかしながら少なくとも06年4月まではコア・物価上昇率は比較的落ち着いた動き(前年比1%台後半〜2%程度)にとどまり、原油価格高騰の実体経済に対する悪影響は顕在化しなかった。この理由としては、エネルギー効率性の向上、エネルギーのほかの財に対する相対的な価格低下等が挙げられる。
 しかし、失業率が5%を切って推移する中、それに合わせて時間当たり賃金も上昇してくるなど、インフレ圧力は次第に高まってきていると考えられ、今後の価格転嫁の状況次第ではインフレの加速、それに対応した政策金利引上げペースの加速等を通じて実体経済に影響を与える可能性も考えられる(詳細は、本章第2節リスク要因参照)。

●FRB(連邦準備制度)はインフレ圧力への警戒姿勢を持続
 このような中、FRBは05年12月のFOMC(連邦公開市場委員会)声明において、「予想される経済資源の利用率上昇とエネルギー価格の高騰は、インフレ圧力を増大させる潜在的圧力となっている」として、「経済資源の利用率上昇」に初めて言及するなど、インフレ圧力の高まりに対して懸念を表明し、その後もインフレに対する慎重なスタンスを保持し続けている。FRBは04年6月以降景気拡大を持続させながらインフレ圧力へも十分配慮するという形で微妙な均衡を維持しつつ、0.25%ポイントずつという慎重なペースで政策金利を引き上げてきた。
 その後、FRBは06年5月のFOMC声明において、インフレリスクに対処するには、ある程度のさらなる金融引締めが、なお必要となる可能性もあるとしたものの、利上げの時期と程度は今後発表される指標等に基づく景気見通しが重要になると強調するなど、先行きについては経済指標次第との内容となっている。


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