第1章のポイント
1.世界的な物価安定: 原油高にも関わらず物価安定と景気回復の続く世界経済 ●世界の物価は安定している。世界の物価上昇率は1990年代初の約30%から4%へと低下している。一方、世界の実質経済成長率は90年代初の2%台から4%前後へと高まっている。2000年以降の世界経済は、成長と物価安定の双方の面でかつてより良好なパフォーマンスを示している。 ●03年秋以降、原油価格は大幅な上昇基調にある。また一次産品価格(商品価格)についても上昇が続いており、CRB先物指数をみると05年には過去最高水準に達している。今回の原油価格高騰の特徴としては、かつてのような供給ショックによるものではなく、需給それぞれの中長期的要因から生じているという点がある。しかし過去の高騰局面に比べると今回は相対的に緩やかなものとなっており、消費者物価上昇率も低水準にとどまっている。
2.原油価格高騰下での世界的物価安定持続の要因:The Great Moderation? ●原油価格高騰下で消費者物価が安定している要因として、第一に原油価格変動が国内物価にもたらす影響の低下が挙げられる。90年代以降、一次産品価格の上昇は、主要国の輸入物価には依然として一定の影響を及ぼしているが、輸入物価の上昇が国内の消費者物価コアに与える影響はほとんど無くなっている。この背景の一つとして原油依存度の低下がある。 ●第二に、物価上昇が賃金に及ぼす影響の低下、コスト上昇圧力を価格転嫁しにくくするグローバル競争の高まり、通信・運輸等の分野における自由化及び規制緩和といった経済構造、企業の価格設定行動の変化が挙げられる。 ●第三に、マクロ経済政策運営の変化が挙げられる。90年代の緊縮的な財政政策による財政赤字の改善や、各国の中央銀行が物価安定を最終目標とし、将来のインフレ期待を重視した金融政策運営を採用したことが物価安定に寄与している。
3.物価安定下の金融政策 ●ITバブル崩壊後の世界経済の減速に対し、主要国では緩和的な金融政策がとられていたが、最近ではアメリカを中心とした景気拡大や原油価格高騰等によるインフレ圧力を受けて、アメリカでは政策金利が緩和的から中立的水準に移行し、ユーロ圏においても利上げが開始されるなど、より中立的な金融政策へ移行しつつある。 ●物価安定の重要性が認識される中、90年代半ば以降、主要国における中央銀行の独立性が高まった。一方、その結果中央銀行はアカウンタビリティ(説明責任)と透明性の向上が求められ、政策決定、議事録等の情報公開を通じた市場との対話を重視するようになった。 ●また、中央銀行は期待形成への働きかけを含めた先見的(フォワードルッキング)な金融政策運営を重視するようになっている。フォワードルッキングな金融政策運営では、現在のみならず将来の金融政策運営の道筋をコミットメントすることで市場の期待を形成し、直接コントロールできる短期金利だけでなく、長期金利など実体経済への影響が大きい他の重要な経済変数に対してもより有効に影響を及ぼすことができるようになる。 ●最近話題となっている政策手法の一つであるインフレーション・ターゲティングは、透明性の観点からも、期待形成の観点からも有用な金融政策運営上の手段の一つである。ただし、政策全体の枠組みの中で実効性を考えつつ、導入の必要性について判断することが重要である。
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