まえがき
「世界経済の潮流」は2002年春に創刊し、年2回公表しています。第5号にあたる本書は3章から構成されています。
第1章ではアメリカの労働生産性上昇の要因について分析しています。2001年の世界同時減速の後、世界経済が回復に向かうなかで、その牽引役となったのはアメリカであり、アメリカでは景気回復局面において労働生産性は非常に高い伸びとなりました。アメリカの労働生産性上昇率は、90代後半以降、日本や欧米を追い抜いて、高いものとなっていますが、本書では、90年代後半以降、なぜアメリカで労働生産性上昇率が高まったのか、その要因について分析を行っています。また、アメリカの今次景気回復の特徴であり、アメリカ経済における当面の課題でもある「雇用なき」景気回復について、雇用の増加が遅れている原因を探っています。
第2章では主要国における財政収支の動向を取り上げています。2001年の世界同時減速をきっかけとして、主要国の財政収支は悪化しています。アメリカでは、2001年度の財政収支は黒字でしたが、その後、景気減速や減税による歳入の減少や国防を中心とした歳出増加等から財政収支は赤字に転じ、さらに赤字が拡大しています。一方、ユーロ圏では、単一通貨の安定のために、「安定と成長の協定」が結ばれており、各国は財政赤字をGDP比3%以内に抑えることとなっています。しかし、ドイツ、フランスの財政赤字は2002年以降その基準を超えています。このように主要国では財政赤字が拡大しており、各国において財政赤字削減が政策課題となっています。本書では、主要国の財政の現状及び赤字削減に向けた今後の取組について紹介しています。
第3章では2004年の見通しを中心に世界経済の展望を行っています。さらに、資料として国・地域別の経済見通しを掲載しています。
労働生産性や財政の動向、さらには世界経済の展望について理解を深めていただく上で本書が一助となれば幸いです。
平成16年4月
内閣府 政策統括官(経済財政分析担当)
大田 弘子