第I部 第1章 アジアのデフレとその要因 |
第1章 アジアのデフレとその要因
アジアの景気は2003年に入って緩やかな拡大基調にある。しかし、物価面には大きな問題が生じている。中国、香港、台湾、シンガポールではデフレ傾向にあり、90年代後半以降に物価が継続的に下落する時期がみられる。また、日本でも緩やかなデフレが続いている。このところは原油価格上昇の影響がみられるが、基本的なデフレ傾向は変わっていない。他方、韓国、インドネシア、タイは97〜98年に通貨危機を経験したが、通貨を大幅に切り下げ、大胆な構造改革を実施することによって回復を実現した。これらの国では、デフレは生じていない。
本章では、これらを踏まえながらアジアにおけるデフレの要因を明らかにしたい。対象は、日本、中国、韓国、台湾、香港、シンガポールにアメリカ、ドイツを加えた8か国・地域である。とりわけ、高成長を続ける中国がデフレに影響を与えているのかについて、比較検討を行う。本章の構成と得られた結論は次の通りである。
第1節では、消費者物価上昇率の費目別差異を明らかにする。デフレ傾向にある国・地域では、財もサービスも価格下落が生じているという特徴がある。
第2節では、デフレの要因を計量的に明らかにし、中国がデフレを輸出しているかどうかを検討する。中国製品の輸出は90年代を通じて急増している。各国における90年代の物価下落圧力から判断すると、中国の影響が貿易相手国に及んでいる可能性は否定できない。しかし、その影響は香港、台湾、韓国、シンガポールでは相対的に大きいが、日米独では小さいという推計結果が得られた。
第3節では、デフレ下で生じている所得面の変化を明らかにする。一つの特徴は、デフレの進行によって利潤や賃金上昇が抑制され、コスト面からの物価上昇圧力が低下している点にある。ドイツでも近年は賃金面で伸び鈍化がみられ、今後のデフレリスクに注意する必要がある。
本章では、物価が継続的に下落するという意味において、デフレという言葉を用いている。また、「国」という表現に「地域」(台湾、香港)を含む場合がある。