世界経済の潮流　2002年春

第II部　世界経済の展望――景気回復への道筋

第２章　世界同時減速から回復へ

第１節　世界同時減速の特徴

１．世界同時減速の動き

●世界同時減速とは
　2000年後半以降いくつかの経済で景気の減速が生じたが、2001年にはほとんどすべての主要経済が減速したことから、世界同時減速と呼ばれた。
　世界経済の減速はまずアメリカでみられた。経済成長率は、在庫投資の減少と設備投資の鈍化を背景に2000年７～９月期から鈍化し始めた。ＩＴ部門の生産は非ＩＴ部門に比べて急速に減速した。
　アメリカの減速は、世界のＩＴ需要拡大を背景に景気拡大が続いていたアジアに波及した。ＩＴ関連製品の対米輸出の大幅な減少等から韓国と台湾が2000年10～12月期にまず減速し、その後シンガポール、タイ、マレイシア等が成長率を低下させた。2001年半ばには台湾、シンガポール、マレイシアがマイナス成長を記録した。
　一方、欧州では、減税政策、雇用拡大等により2001年初めまでは内需を中心として景気は拡大を続けていた。しかし、ユーロ圏では同年４～６月期から景気の減速が鮮明になり、年末にはマイナス成長に落ち込んだ。
　このように世界経済の減速はアメリカから主要経済に波及していったが、2001年９月の同時多発テロによりアメリカは同年７～９月期にマイナス成長に転じた。これにより世界経済の減速が一層鮮明となり、世界同時不況のリスクが高まった。アメリカに加え、日本、ドイツ、台湾、シンガポール、マレイシア等では景気は後退局面に移行した。
　このように世界同時減速の局面では、アメリカの景気減速による需要の減少を通じて各経済の外需が減少した。それが次第に生産の低下、内需の減少に波及していった。また、今回の景気後退局面に陥った国は、概して産業構造や貿易構造がＩＴ部門に特化しており、そのため景気が比較的早く減速し、しかもその度合いが深かったという特色がある。
　なお、アメリカでは2001年10～12月期には個人消費が持ち直したことなどからプラス成長に転じ、2002年春には景気に底固めの動きがみられた。アジアでも韓国、台湾、シンガポール等では製造業を中心に回復への動きがみられた。一方欧州ではフランスがマイナス成長に陥るなど景気は一段と減速した（第II-2-1表）。

●世界同時減速のきっかけはアメリカＩＴバブルの崩壊
　世界同時減速のきっかけはアメリカのＩＴバブルの崩壊であった。ナスダック総合指数は2000年３月にピークをつけた後下落に転じ、９月以降急落した。これに連動する形で世界各市場のＩＴ関連株価も下落した。この結果、ＩＴ投資ブームの終焉とＩＴ需要の鈍化から、ＩＴ生産は2000年秋以降減少に転じた（第II-2-2図）。
　ＩＴバブルは世界的なインターネットブームの中、ドットコム企業等に対する期待が異常に高まったために発生した。そのため、ＩＴ関連企業の株価は収益状況にかかわらず高騰した。例えば、2000年３月にＩＴ関連企業の株価収益率は67.8倍（ナスダック市場）と、99年１月の49.5倍と比べて大幅に割高になっていた。しかし、光ファイバー事業やブロードバンド事業等に対する需要の伸び悩みや、ドットコム企業の収益に改善の兆しがみられなかったことなどから、ＩＴ関連企業に対する期待は急速に縮小し、2000年９月以降株価が急落、ＩＴバブルは崩壊した。
　ＩＴ投資ブームが終わると、それまでの需要予測が過大であったことから、過剰な在庫や生産設備が発生した。ＩＴ関連企業は、それらを削減するため、大幅な生産縮小、投資削減、雇用調整に迫られた。この動きは2000年半ばからすでに減速していた非ＩＴ部門にも波及し、在庫・資本ストック調整の動きがあらゆる業種に広がった。さらに、雇用調整が徐々に家計部門にも影響し、これに株価下落による逆資産効果も加わったことから、個人消費が鈍化しアメリカ経済全体が減速した。
　アメリカのＩＴバブル崩壊に端を発するＩＴ不況は、金融、貿易を通じて急速に世界経済全体に波及した。金融面では、アメリカのＩＴバブル崩壊を契機に世界の株式市場は下落局面に入った。韓国、シンガポール、日本、台湾、マレイシア等が相次いで下落に転じている。株価の下落は各国で企業部門の調整を招き、2000年夏にアメリカの生産（全産業）が減少に転じると、その後ほぼ半年の間に各国の生産も減少に転じた。貿易面では、ＩＴ部門では国際分業が進展していたため、世界のＩＴ輸入の23.3％(2000年)を占めるアメリカのＩＴ需要の落ち込みが、アジア、日本、ヨーロッパの輸出に連鎖的に波及した。

●アメリカの景気後退を決定づけた同時多発テロ
　アメリカ経済は2000年後半から減速していたが、2001年９月11日にアメリカで発生した同時多発テロは経済の不確実性を高め、景気後退を決定づけた。
　同時多発テロによる一次的影響は、次のようなものがあった。①ワールドトレードセンター破壊等による直接的な物的損害、②旅行や出張等人の流れのストップによる影響（航空、旅行等）、③物流の停滞による輸送・貿易の減少（運送等）、④消費者マインドの落ち込みと消費パターンの変化、⑤「質への逃避」と呼ばれる安全資産への一時的移行である。
　直接的な被害総額（米商務省）は、建物等構築物が162億ドル（2001年７～９月期ＧＤＰ比0.6％）、その他保険費用等の損害が52億ドル（同0.2％）となっている。また、人や物の流れの停滞は、特に航空業界等の収益を悪化させ、企業のレイオフ等により雇用情勢は一段と厳しいものとなった。
　米商務省によれば、直接的な損害に加え個人消費の減少は年率７億ドル、一時的解雇による賃金減少は同33億ドルであり、一方で緊急サービス就業者への支払は同８億ドルとなり、これらを合わせると実体経済への影響は月間のＧＤＰ比で0.1％に上った。これに対して、同時多発テロ後のアフガン空爆の影響等により、10月の軍需資本財受注は前月比で131億ドル増加しており、これは７～９月期名目ＧＤＰの0.5％に相当する。
　また、同時多発テロが及ぼす二次的影響については、①保険や安全対策による営業コストの増加、②航空や列車による運送を避けることによる在庫増加、③リスク選好度の低下による社債スプレッド拡大等リスクプレミアムの上昇、④海外投資抑制等がある。このような二次的な影響は、ＩＭＦの試算によれば成長率を年率で0.2％程度押し下げるとしている。
　こうした結果、アメリカでは景気後退の深化が懸念された。また、その影響が世界に波及し、世界が同時不況入りするのではないかとの懸念が広がった。このような状況に対して、後述するように、金融面では主要国の間で協調利下げが行われ、財政面では安全対策強化や被災者救援等を目的とした支援措置が実施された。

●同時減速の要因
　ここでは、アメリカで生じたＩＴ不況がほとんど瞬時に他の地域へ伝播していった要因を整理してみたい。
　第一は、ＩＴ関連財について、アメリカを中心とする世界の輸出入の連関が深化したことである。これは、いくつかの観点から指摘できる。①世界全体のＩＴ輸入におけるアメリカの輸入シェアは、前述したように2000年は23.3％に高まっている（97年21.8％）。②アメリカの輸入全体に占めるＩＴ関連財の割合は、2000年は17.4％に上っている（97年16.9％）。③2000年のアメリカのＩＴ輸入に占める各地域のシェアは、アジアが53.3％、日本が17.1％、ＥＵが6.3％となっており、アジアのシェアが圧倒的に大きい。④2001年上半期における各国の対米輸出に占めるＩＴ関連財の割合は、マレイシア、シンガポールが70％を超えるのをはじめ、フィリピン、台湾、韓国等も40～60％台と大きな割合を占めている。⑤これに対しヨーロッパは最も割合の大きなフィンランドでも13.2％と、対米輸出に占めるＩＴ関連財の割合は低い。
　このように、アメリカとアジアとの貿易連関が深まっていることから、アメリカのＩＴ需要の減少はアジア経済に大きな影響を与える構造になっている。同時に、アジアのＩＴ需要の減少は、ＩＴ輸出国でもあるアメリカのＩＴ輸出や生産を減少させ、ＩＴ貿易を連鎖的に縮小させる結果となった。
　第二は、ＩＴ生産の世界的な連鎖の深まりにより（後述）、ＩＴ関連財の価格変化が世界に同時に広がることである。今回の減速局面において、半導体価格（ＤＲＡＭ（記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー））の地域別推移をみると、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの各地域で同時に変化している。ＩＴ関連財では標準化が世界で進んでいるため、価格下落が世界で同時に広がったことが生産の同時的減少をもたらした。
　
●同時減速の背景にあるＩＴの新しい生産体制
　アメリカのＩＴ不況が世界に波及していった背景には、ＩＴ分野において進んでいる新しい生産体制がある。それは、サプライチェーン・マネジメント（ＳＣＭ：Supply Chain Management）と呼ばれ、そのグローバルな展開がＩＴ不況の振幅を各経済で大きくした要因になった。ＥＭＳ（Electronics Manufacturing Services、電子機器受託製造サービス）(1)への生産委託により発注元の大手電子機器メーカーは在庫レベルを低下させた一方、ＥＭＳは需給逼迫による部品不足懸念からメーカーの発注以上に部品・材料を大量発注した。そのため、需要が減少すると、メーカー、ＥＭＳ、部品メーカーとサプライチェーンの上流に行くほど実需とのギャップが拡大し、在庫の積み上がり方も大きくなったのである。このようなＩＴ生産の連鎖が世界的規模で進んでおり、これがアメリカの需要減少を各経済で増幅させた。

２．ＩＴ不況の特徴
　過去の局面と比較すると、今回の世界景気減速はＩＴ不況であったと言える。

●過去２回の世界景気後退との比較
　ＩＴ部門の不況が、今回の世界同時減速の主たる要因であった。特に中国を除くアジア主要国では生産減少の100％(2)がＩＴ部門によるものであった。ただし、アメリカではＩＴ部門の落ち込み方は大きいものの、ＩＴ産業の比率が低いため生産全体への影響は小さく10％程度であった。
　過去にも世界の同時的な景気後退は２回あったが、それは原油という生産要素のサプライショックがきっかけとなった不況であった。これらと比較するため、ＯＥＣＤ加盟国についてＧＤＰ成長率、生産、輸入の動向を調べると次のような違いが分かる（第II-2-3図）。

成長率：	今回は、第一次石油ショックよりは落ち方が緩やかである。第二次石油ショックよりは急であるが、第二次石油ショック時は不況が長期化した。
生　産：	第一次、第二次石油ショック時はいずれもショックがあった後、１年ほどたってから減少しているが、今回はショック後半年くらいで急速に減少している。
輸　入：	生産と同様に、今回はショック後半年くらいで減少している。

　以上のように、今回の特色は生産と輸入の落ち込みがショックの発生時点から急速であった点にある。
　この背景として、以下の点が挙げられる。

①	過去２回の石油ショック時はサプライショックであり、交易条件の大きな変化によって、産油国に所得移転が生じ非産油国の直接的な需要減少につながった。その後、各経済の需要減少が貿易連関を通じて世界に広がっていった。
②	今回は、需要減少が引き金となり、ＩＴ関連財の需要と生産の連関が世界的に広がる中で生じた在庫や投資の循環が基本的なメカニズムである。さらにＩＴ関連部門から非ＩＴ部門に波及することで、後退局面が深まった。

　回復への動きを考えるにあたっては、過去２回と今回では次のような差異がある。①過去２回の後退では原油の相対価格変化に合わせて生産構造を再構築する必要があったが、今回は在庫循環が進展するなかで自律的回復メカニズムを期待することができる。②過去２回は高インフレに対処するため金融政策が引き締め基調であったのに対し、今回は金融が緩和されている。このため、今回は回復への重しは軽いと考えられる。

●第一の特徴：ＩＴ生産比率、輸出比率の高いところほど成長率の低下が大きい
　ＩＴ不況であったことから、いくつかの特徴を指摘することができる。
経済別に成長率の減少幅とＩＴ関連財生産がＧＤＰに占める比率（以下、「ＩＴ生産比率」）との関係を調べると、その比率が高いほど成長率の低下が大きいことが分かる（第II-2-4図）。
　ＩＴ生産比率が10％以上である韓国、台湾、シンガポール、マレイシアでは、2001年の成長率の減少幅が６～13％ポイント程度と比較的大きく、景気減速・後退が急速であった。逆にＩＴ生産比率が３％に満たないフィリピン、フランス、イギリスでは成長率の低下幅は小さい。ＩＴ関連財の定義が各国統計の分類により違うなどデータの制約があり、また、メキシコのような例外もあるが、おおむねＩＴ関連財生産の比率が高い国は、今回の景気後退局面において急速な成長率の低下を経験した。
　同様にＩＴ関連財輸出がＧＤＰに占める比率と成長率の低下幅の関係を調べると（第II-2-5図）、これらの比率が高い韓国、台湾、シンガポール、マレイシア等東アジア諸国で成長率の低下幅が大きい傾向があることが分かる。
　以上のように、アジア通貨危機後の回復においてＮＩＥｓ、ＡＳＥＡＮ等の東アジア地域は、ＩＴ関連機器の世界的な需要増加を背景に電子・電気機器の輸出を大幅に増加させていたため、今回の景気後退がより厳しいものになったと考えられる。

●第二の特徴：ＩＴ生産の連鎖が弱いところでは景気減速にずれ
　世界経済が同時に減速したが、ＮＩＥｓが最も強い影響を受けた一方で、イギリス、フランスでは波及伝播が遅れた。また、フィリピン、中国、オーストラリアのように大きな減速を免れた国・地域もある。こうした違いの背景には、①産業の発展段階や特定品目に関する輸出依存度の差といった経済構造の違い、②内需が好調で比較的外需変動の影響を受けにくかった国とそうでなかった国との差があると考えられる。
　イギリス、フランスではアジアより遅れて景気の減速が始まり、影響の度合いも比較的小さかった。特に、ＩＴ輸出においてアジアは2001年初に減少に転じた経済があった一方で、欧州主要国はその時点では増加を続けていた。これは、①欧州とアメリカのＩＴ製品の産業内貿易指数が大きく貿易連関は高かったが（後述）、ＩＴ輸出に占める対米輸出の割合が小さかったこと、②通貨統合の好影響や主要各国の減税政策が個人消費を下支えしたこと、③ユーロ安により輸出競争力が高まり外需が成長に寄与していたこと、などが理由として挙げられる。一方、ドイツが早くから景気後退に陥ったのは、イギリスやフランスと比較してＥＵ域外に対する輸出依存度が高かったことなどが考えられる。
　アジアでは、フィリピンの経済成長が堅調である。総輸出に占めるＩＴ関連輸出のシェアやＩＴ輸出に占める対米輸出シェアがかなり高いにもかかわらず、2001年10～12月期で３％台の実質経済成長率を維持している。これは、①ＧＤＰに占める製造業部門の比率やＩＴ部門の生産比率（ＩＴ生産/名目ＧＤＰ）が他のアジア諸国と比較してかなり小さいこと、②農業部門とサービス部門が大きく、両部門が最近好調であったこと、③金利の低下や物価の安定等により個人消費が堅調だったことが理由として挙げられる。
　中国では、世界経済減速の影響を受けたのが遅く、比較的高い経済成長を続けた。輸出増加率も2001年10～12月期においては前年同期比で6.6％増（ＩＴ輸出では７～９月期で同6.6％増）と、低下幅は小さい。これは、①中国とアメリカのＩＴ製品の産業内貿易指数が小さいことから貿易連関は比較的低いこと（後述）、②輸出依存度や総輸出に占めるＩＴ関連輸出のシェアが小さいこと、③政府の景気刺激策により個人消費や固定資産投資等の内需が好調であったことなどが要因である。
　また、オーストラリア経済は、アメリカを第二位の輸出相手先としているにもかかわらず、2000年７月の財貨・サービス税の導入後、一時的に落ち込んだ以外好調さを維持している。これは、①ＩＴ生産・ＩＴ輸出の依存度が低く世界的なＩＴ不況の影響を受けにくかったこと、②鉱業や農業分野のウエイトが比較的高く、豪ドル安により主要輸出品目である食料品、石炭等の輸出が好調であったこと、③住宅ローンの低金利や住宅購入促進策等の実施により内需が底固かったこと等が挙げられる。
　
●前回のＩＴ不振が景気減速につながらず、今回は景気後退に陥った理由
　ＩＴの不振は90年代後半にも起こった。①96年に半導体（特にＤＲＡＭ）の供給過剰により世界的な価格の暴落が起こり、96年から98年の半導体市況は低迷した。②同期間に、アメリカではそれまで二桁で拡大してきたＩＴ（コンピュータ、コンピュータ周辺機器、半導体、通信機器）貿易が、96年に急激に減速し、97年にはいったん増勢を戻したものの、98年には再び輸入が減速、輸出は減少となった。③ＮＩＥｓやＡＳＥＡＮ等のＩＴ輸出や生産は96年に急激に減速し、その後はマレイシアとフィリピンを除き、98年まで減速傾向が続いた。
　しかし、こうしたＩＴ関連の市況悪化は99年には回復し、アジアのＩＴ生産及びＩＴ輸出は99年から2000年にかけて急速に拡大した。例えば、①主要輸出品目であるＤＲＡＭ価格暴落により96年、98年とＩＴ輸出減少に見舞われた韓国では、99年初めからＩＴ輸出は２桁台の伸びを続け、2000年のピーク時には前年同月比で50％を超える伸びとなった。②アメリカでも99年にはＩＴ貿易は再び拡大し、2000年には輸出が前年比23％、輸入が同21％の伸びとなった。
　この期間に日本の景気後退やアジア通貨危機が生じたが、世界同時減速には至らなかった。このような違いを考える際に重要なポイントの第一が、アメリカの景気である。前回のＩＴ市況悪化が起きた90年代後半はアメリカの景気が好調であり、ＩＴ関連生産は一貫して増加を続けた。アメリカは90年代を通じて世界最大のＩＴ製品輸入国であり、好景気によってアジア地域等からのＩＴ関連製品需要の下支えを続けた。それに対し、今回はアメリカから需要の減少が起こり、景気の後退を深めた。
　第二が、アジア経済におけるＩＴシフトである。99年から2000年にかけては世界的なＩＴブームによって急速にＩＴ関連の需要が伸びた。そのため、アジア通貨危機からの回復過程にあった東アジアの国では、ＩＴ輸出が回復の原動力になった。その結果、96年と比較してＩＴ関連製品への依存度が高まった。特に韓国、台湾、マレイシアでは、この期間にＩＴ生産比率が大幅に高まっている(第II-2-6図)。また、シンガポール、タイ、マレイシア、フィリピンでは、96年からＩＴ輸出のＧＤＰ比率が急速に高まった。このような二つの要因が重なって、今回のＩＴ不況が世界に広がり、景気後退が急速かつ厳しいものになったと考えられる。

●同時減速の背景となった世界貿易の深まり
　ここでは、世界貿易構造を詳しくみることによって、貿易連関の深まりが世界の急速な同時減速につながった点を考察しておこう。
　アメリカのＩＴ需要減少が急速に他地域へ波及していった背景には、産業内貿易の進展がある。産業内貿易は、同一の産業部門における製品の相互取引のことである。このような水平貿易の高まりは、当該地域間で分業体制が進展し貿易連関が深まっていることを示す。ＩＴ製品について主要国・地域間の産業内貿易指数を算出すると、以下のような特徴がある（第II-2-7図）。なお、指数が100に近いほど産業内貿易の進展を示す。

①	アメリカは、日本、アジア、ＥＵと貿易連関が強い（ＩＴ製品に関する産業内貿易指数が高い）。このうち、日本とアジアは、アメリカのＩＴ製品輸入におけるシェアが高く、日本は17％（2000年、以下同）、アジアは53％に達する。したがって、アメリカのＩＴ生産や需要の減少は、これらの地域に大きな影響を及ぼす。
②	日本は、アジアと中国に対して貿易連関が極めて強い。このため、アメリカのＩＴ製品需要の減少は、前述のとおり日本とアジアに共に影響を与えると同時に、影響が相互に増幅される関係にある。
③	ＥＵは、アメリカのＩＴ製品輸入に占めるシェアは６％とそれほど大きくないが、ＩＴ製品貿易についてアメリカとの連関が強いためにアメリカから影響を受けるほか、アジアとの関係でも日本と同様アメリカからの影響が増幅される関係にある。

　また、図にはないが、アジア地域はＩＴ製品の域内貿易比率が高く、アジアのＩＴ製品輸出の47％がアジア域内向けである。このことからＩＴ製品分野での域内分業が進展しており、アメリカからの影響がアジア域内でも相互に増幅し合う関係であると考えられる。
　このような貿易連関の構造が働いているために、世界のＩＴ製品の４分の１を輸入するアメリカで起こった需要の減少は、他の地域へ増幅されて広がっていったと考えられる。

●変わるＩＴ製品の比較優位
　次に、ＩＴ関連財の貿易でアジア地域の比較優位がどのように変化しているのかを調べてみたい。ＩＴ関連製品で主要11か国経済につき顕示対称比較優位指数（ＲＳＣＡ、指数はマイナス１からプラス１の値をとり、プラスの値が大きいほど比較優位にある）を算出した（第II-2-8図）。データの制約で、アジア地域は日本、中国、韓国、香港、台湾しか含まれないが、この11か国経済で世界のＩＴ輸出の７割を占める（2000年）。
　第一の特徴は、アジア地域が圧倒的に比較優位にあることである。
　第二の特徴は、アジア地域の中で比較優位に変動が生じていることである。①中国の躍進が著しく、事務用機器、コンピュータ、電気通信機器で大幅に上昇している。②韓国、台湾は全般的に優位を続けており、コンピュータ、半導体等での強さが目立つ。③日本は、海外へ生産拠点が移転していることもあり、比較優位指数が低下する結果となっている。
　なお、データの制約上ここにＡＳＥＡＮの国が含まれないが、別のデータを用いてＩＴ製品の世界全体に対する比較優位指数（ＲＳＣＡ、2000年）を算出すると、アメリカが0.1、日本が0.2であるのに対し、シンガポールは0.6、マレイシア0.5、フィリピン0.6、タイ0.3となり、明らかに優位を持っていることが分かる。

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