第3章 第3節

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ヨーロッパ経済の先行きに関する主な留意点

ヨーロッパ経済の先行きに関しては、難民問題への対応を含む各国の政治情勢や、ドイツの大手自動車メーカーの排出ガス規制をめぐる問題について、留意が必要である。また、15年11月にフランスのパリで発生した一連のテロ事件が、観光客の減少や消費マインドの低下等を通じてフランス経済に与える影響についても留意する必要がある。

1.ヨーロッパ各国の政治情勢

ギリシャと同様に11年に債務危機に見舞われ、EUやIMFから支援を受けたポルトガルでも15年10月に議会選挙が行われた。同国は過去4年間財政緊縮に取り組み、14年5月に支援プログラムを卒業したが、引き続き緊縮財政に取り組んでおり、今次選挙はコエーリョ政権の緊縮政策への信任を問うものと考えられた。

選挙の結果、中道右派の連立与党が勝利したものの、過半数には届かず、反緊縮の急進左派「左派ブロック(BE)」が議席を倍増した。11月に第二次コエーリョ内閣が発足したものの、政策方針が国会で否決されたことから退陣に追い込まれた。その後、首相の指名権を持つ大統領により、最大野党で中道左派の社会党のコスタ書記長が首相に指名された。今後新内閣が組閣され左派政権が誕生することになるが、連立を形成するBE、統一民主同盟等は反緊縮的政策を掲げており、緊縮政策が見直される可能性がある。同国の経済財政運営如何により、財政規律の悪化が不安視され同国の国債の格付け等に影響するおそれがある。

15年秋以降に実施されている選挙では、移民問題が大きな論点の1つとなっている。スイスでは10月18日に総選挙が行われ、反移民を掲げる右派政党が勢力を拡大した。スペインでも12月20日に総選挙が予定されている。同国では、ラホイ政権が11年以来緊縮政策を実施しており、14年1月に金融支援を終了している。総選挙の行方を占うとみられていた15年5月の統一地方選挙では、首都やバレンシア州等では与党・国民党が第一党の地位を維持したが、単独過半数は得られなかった。一方、反緊縮を掲げる政党ポデモスが支持を伸ばしているが、過半数を占めるまでには至っていない。

英国では17年末までにEU離脱を問う国民投票が行われることになっており、移民問題への取組が主要論点の一つになると見込まれる。

ナショナリズムや反緊縮財政を掲げる極端な政党の台頭は経済全体の不安定要因となる可能性があるため、今後もヨーロッパの選挙動向には注視が必要である。

2.ドイツ自動車大手による排ガス不正問題の影響

ドイツ自動車大手メーカーがディーゼル車の排ガス試験時のみ排ガス量を減らす不正ソフトを世界で約1,100万台に搭載していた問題が発覚したことにより、これがドイツ自動車産業やドイツ経済、ひいてはヨーロッパ経済に及ぼす影響が懸念されている。

ドイツはヨーロッパにおいて最大の自動車生産国であり、かつ、最大の自動車販売市場を持つ自動車大国である。14年の国内乗用車生産台数は560万台(世界全体の7.2%)で、新車登録台数は約300万台(ヨーロッパ全体の19%)だった。自動車・同部品部門はドイツの名目国内総生産(13年)の3.6%を占めており、自動車産業の売上高(14年)は3,679億ユーロ(国内販売1,312億ユーロ、海外販売2,368億ユーロ)と、産業部門全体の売上の約20%を占める国内最大の産業である。

自動車産業は国内最大の雇用分野でもある。自動車産業で44.7万人、自動車部品産業で 29.5万人、トレイラー・車体産業で3.2万人の合計約77.5万人を雇用している。

さらに、自動車はドイツにとって主要な輸出品である。自動車及び自動車部品は、14年のドイツの輸出総額のうち17.9%を占めている。14年の輸出台数は430万台で、生産台数の76.8%を輸出しており、最大の輸出先は英国(19%)、次いでアメリカ(18%)となっている。

このように、自動車産業はドイツの基幹産業であり、展開次第では、同国経済への影響度合いも計り知れない可能性がある。

本問題の全貌は明らかとなっていないが、リコール費用に加えて、制裁金や訴訟費用等の費用負担が増加し、財務状況が悪化すれば、株価の下落や資金調達コストの上昇によって財務状況が更に悪化、経営そのものに影響を与え、設備投資計画の見直しや人員削減に至る可能性も考えられる。

一方、ディーゼル車からハイブリット車、燃料電池車等の代替が加速すれば、関連産業の構造も大きく変わり得る。

15年10月の欧州主要市場(ドイツ、英国、フランス、イタリア)の新車登録台数をみると、当該メーカーは前年同月比で減少または小幅な増加となっているのに対し、他のドイツメーカーは大幅増を記録しており、15年11月現在今回の問題の影響が他のドイツ車への信頼やドイツのブランドイメージの低下を引き起こす状況にはなっていないと言える。

しかし、11月上旬には同メーカーが型式認証の際に、二酸化炭素排出量を過少に申告していたことも発覚し、この対象にガソリン車が含まれることが明らかになった。この問題がどこまで拡大し、ドイツ経済にどのような影響を与えるかは今後も注視が必要である。

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