第1章 第1節

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中国経済の減速と世界経済

1.下方修正の続く世界経済

世界の景気は、中国を始めとするアジア新興国等では弱さがみられるものの、全体としては緩やかに回復している。

アメリカでは、15年1~3月期にはドル高や原油価格下落の企業部門へのマイナスの影響等もあって成長がやや減速したものの、雇用・所得環境の改善が続く中で個人消費が堅調に推移しており、景気は回復が続いている。ユーロ圏では、失業率が高水準ながら緩やかに低下する中で実質所得が増加することで個人消費が好調に推移し、景気は緩やかに回復している(第1-1-1図(1))。

一方、新興国に目を向けると、中国では、投資や輸出、生産が弱い動きとなるなど、景気は緩やかに減速している。中国経済減速の影響を受けて、アジア新興国の景気もやや減速している。ブラジルやロシアでは資源価格下落の影響に加えて、政治的な要因などもあってマイナス成長が続いており、景気は悪化している。一方、インドでは内需が好調であるため、景気は持ち直している(第1-1-1図(2))。

第1-1-1図 主要国の実質経済成長率-新興国は緩やかに減速
第1-1-1図 主要国の実質経済成長率 (備考)(1)先進国 各国統計及びブルームバーグより作成。 (2)新興国 各国統計及びブルームバーグより作成。

IMFは、15年の中国の成長率見通しを段階的に引き下げ、本年4月には前年比6.8%としたものの、その後は据え置いている。一方で世界全体の成長率見通しは、14年4月時点では3.9%だったが、その後公表のたびに下方修正され、15年10月時点の見通しでは3.1%となっている。(第1-1-2表)。その要因としては、韓国やASEANなどのアジア諸国に中国経済減速の影響が予想以上に及んだことや、商品価格の低下等を背景にブラジルやロシアの経済の落ち込みが想定よりも大きくなったことが挙げられる。

第1-1-2表 世界経済の見通し
第1-1-2表 世界経済の見通し 前年比 世界全体 2014年実績 3.4% 2015年見通し 14年4月時点  3.9% 10月時点  3.8% 15年4月時点  3.5% 7月時点  3.3% 10月時点 3.1% アメリカ 2014年実績 2.4% 2015年見通し 14年4月時点  3.0% 10月時点  3.1% 15年4月時点  3.1% 7月時点  2.5% 10月時点 2.6% 中国 2014年実績 7.3% 2015年見通し 14年4月時点  7.3%  10月時点  7.1% 15年4月時点  6.8% 7月時点 6.8% 10月時点 6.8% ユーロ圏 2014年実績 0.9% 2015年見通し  14年4月時点  1.5% 10月時点  1.3% 15年4月時点 1.5% 7月時点 1.5% 10月時点 1.5% 新興国 2014年実績  4.6% 2015年見通し 14年4月時点 5.3%  10月時点  5.0%  15年4月時点 4.3% 7月時点 4.2% 10月時点  4.0% (備考)IMFより作成。

中国政府は15年の実質経済成長率の目標値を7%前後と定め、14年の目標である7.5%成長よりも低い目標を設定していた。実際の成長率は、15年1~3月期、4~6月期のいずれも前年同期比7.0%、7~9月期が同6.9%とおおむね政府目標に沿って推移している(第1-1-3図)。

個々の経済指標をみると、固定資産投資、生産はいずれも期を追うごとに前年比の伸び率が低下している(第1-1-4図、第1-1-5図)。輸出金額は15年4~6月期、輸入金額は14年10~12月期から前年比でマイナスに転じている。輸入金額は15年に入って大きく減少しているが、内需が弱いことに加えて、原油価格下落に伴い鉱物性燃料の価格が低下していることも影響している(第1-1-6図)。

第1-1-3図 中国の実質経済成長率:緩やかに減速
第1-1-3図 中国の実質経済成長率 (備考)中国国家統計局より作成。
第1-1-4図 中国の固定資産投資:弱い伸び
第1-1-4図 中国の固定資産投資 (備考)1.中国国家統計局より作成。伸び及び金額はすべて名目値。 2.インフラ関連投資は、水利(ダム)・鉄道・道路等への投資額の合計。
第1-1-5図 中国の生産:伸びが鈍化
第1-1-5図 中国の生産 (備考)中国国家統計局より作成。
第1-1-6図 中国の輸出入:輸出は弱い動き
第1-1-6図 中国の輸出入 (備考)中国海関総署より作成。

2.意識される中国リスク

中国経済が実体面で緩やかに減速する中で、金融市場では急激な変動が生じた。

上海株価指数は14年10月頃から上昇し始め、15年6月12日に世界金融危機後の最高値(5,166ポイント)をつけた。その後株価は下落に転じ、8月26日(2,927ポイント)までに約43%の急落となった。このような状態について、周小川中国人民銀行総裁は、G20財務相・中央銀行総裁会議(15年9月)において「6月中旬以前、中国の株式市場はバブルが絶え間なく蓄積していた1」と発言している。

この間、8月11日の人民元の切下げに端を発し、世界の金融市場は大きく動揺した(第1-1-7図)。人民元の切下げは対元の基準値のある11通貨に対して11、12、13日と3日連続で実施され、主要通貨に対する切下げ幅は対ドルで▲4.6%、対ユーロで▲5.6%、対円で▲3.7%となった。切下げの理由について、中国人民銀行は、基準値を市場実態に合わせた算出方法(市場の前日終値等を参考に決定)に変更するものであると説明したが、7月の輸出が前年比▲8.3%と大幅に減少したことに対する措置であるとの見方も多い。

第1-1-7図 人民元の推移:8月11~13日に切り下げ
第1-1-7図 人民元の推移 (備考)ブルームバーグより作成。

8月21日には、民間機関が実施するPMI(製造業購買担当者指数)の速報値が47.1と、09年3月以来の低水準になったことにより中国経済の減速が更に投資家に意識され、上海市場の大幅な下落が世界的な株安にまで波及した(第1-1-8図、1-1-9図)。投資家心理を反映するとされるVIX指数2は、不安心理が高まった状態の目安となる20を超え一時40台を付け、世界金融危機後最大の値を記録した(第1-1-10図)。

第1-1-8図 中国PMI:低下傾向
第1-1-8図 中国PMI (備考)中国国家統計局、財新/マークイットより作成。
第1-1-9図 主要国の株価:15年8月に世界同時株安
第1-1-9図 主要国の株価 (備考)ブルームバーグより作成。
第1-1-10図 VIX指数:一時期40超え
第1-1-10図 VIX指数 (備考)ブルームバーグより作成。

人民元切下げの背景には、短期的に素早く動く資金、いわゆるホットマネーの動きがある3。中国のホットマネーは14年後半頃から流出が続いており、内外の投資家が中国市場から資金を引き揚げていたことが分かる(第1-1-11図)。ホットマネーの流出は元安要因となるものであるが、中国人民銀行は資金流出を防ぐための元高誘導を行っていたと言われている。これは、中国の外貨準備が減少傾向となっていることからもみてとれる(第1-1-12図)。

第1-1-11図 ホットマネー:14年後半頃から流出が続く
第1-1-11図 ホットマネー (備考)中国人民銀行より作成。
第1-1-12図 中国の外貨準備と米国債保有額:外貨準備は減少傾向
第1-1-12図 中国の外貨準備と米国債保有額 (備考)アメリカ財務省、中国人民銀行より作成。

いわゆる「国際金融のトリレンマ」によると、(1)独立した金融政策、(2)為替相場の安定(固定相場制)、(3)自由な資本移動の3つの目標を同時に全て満たすことは不可能であり、どれか1つの目標を放棄しなければならない。中国は後述するとおり資本移動の自由化を漸進的に進めてきている一方で、為替は管理フロート制を採っている。中国は14年11月以降6回にわたって利下げを行っているが、資本自由化を進める中、金融政策に効力を持たせるためには、為替相場を市場に委ねることは不可避であり、外貨準備を用いた元の買い支えには限界がある。

海外投資家が中国経済への懸念を強めた一因に、中国のGDP統計が経済の実体を正確に把握できていないといった統計の信任の問題が指摘されている4。このため、GDP統計の代わりに、いわゆる「李克強指数」が用いられることがある。同指数は電力消費量、鉄道輸送量、中長期貸出残高の3指標から構成され、これらを合成した指数を作成すると、GDP成長率よりも急速に低下していることが見てとれる。一方、これらの3指標は製造業の動向を把握することには適しているものの、サービス業等への移行が急速に進む中、経済全体の動向を把握するには適していないとの指摘もある。例えば、中国の物流の多くが陸上輸送に移行してきているため、鉄道輸送量を貨物輸送量全体に置き換えた試算値を作成すると、低下傾向に変わりはないものの、低下のペースは緩やかなものになる(第1-1-13図)。

第1-1-13図 李克強指数:低下傾向
第1-1-13図 李克強指数 (備考)1.中国電力企業連合会、中国鉄道総公司、中国国家統計局、中国人民銀行より作成。 2.点線は、鉄道輸送量のみの伸びを用いた指数、実線は鉄道輸送にトラック輸送、船舶輸送等を加えた貨物輸送量全体の伸びを用いて試算している。 3.電力消費量、貨物(鉄道)輸送量、中長期貸出残高の3か月移動平均値の前年比を求めた上で、各項目を均等ウェイト(各33%)で平均した内閣府試算値。

3.中国経済下振れの影響

世界経済は、世界金融危機以降14年までは、先進国経済が伸び悩む中、中国及び新興国経済がけん引してきた(第1-1-14図)。しかし、15年はアメリカやヨーロッパ経済が回復する中で、中国経済の減速がアジア新興国等を中心に景気の下押し要因となった。アメリカ及びヨーロッパ経済の回復に支えられ世界経済は全体としては緩やかに回復しているものの、中国を始めアジア新興国等の経済の先行きは依然としてリスク要因となっている。

IMFの試算によると、中国経済が1%減速した場合、アジア地域及びアジア以外の地域の成長率はそれぞれ0.33%ポイント、0.17%ポイント程度押し下げられる。アジアの中でも、中国と関係の深いASEAN諸国へのマイナスの影響はアジア全体よりも若干大きく出ることが見込まれている。また、OECDは、中国の内需が2年にわたって2%ポイント低下し、世界の株価が10%下落するとともに株式のリスクプレミアムが0.2%ポイント上昇した場合、世界の実質経済成長率は初年度で0.4%ポイント、次年度は0.5%ポイント程度押し下げられ、日本については、初年度0.55%ポイント、次年度0.62%ポイント程度押し下げられると試算している(第1-1-15表)。

第1-1-14図 新興国(及び中国)の世界経済の成長への寄与:新興国の寄与が低下
第1-1-14図 新興国(及び中国)の世界経済の成長への寄与 (備考)1.IMF、OECD、欧州委員会、各国統計、Oxford Economics、Consensus Economic、Fathom Financial  Consulting Limitedより作成。 2.各国・各地域の実質経済成長率を前3年間の名目GDP(ドル・市場レート換算)のシェアで按分して積上げ。 3.その他先進国には、オーストラリア、カナダ、日本、韓国が、その他新興国には、アルゼンチン、ブラジル、 インド、インドネシア、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコが含まれる。 4.四半期のグラフには、サウジアラビアは含まれていない。
第1-1-15表 中国経済減速の影響(国際機関の試算、まとめ)
第1-1-15表 中国経済減速の影響(国際機関の試算、まとめ) IMF アジア ▲0.33 ASEAN5 ▲0.35 アジア以外 ▲0.17 試算の前提 中国の経済成長率が1%ポイント低下した場合の1年後の経済成長率の平均的な変動幅。 OECD 日本 16年 ▲0.55 17年 ▲0.62 米国 16年 ▲0.30 17年 ▲0.31 EU 16年 ▲0.24 17年 ▲0.31 世界 16年 ▲0.41 17年 ▲0.51 試算の前提 (1)中国の内需が2年間で2%ポイント低下、(2)世界の株価が10%低下、及び(3)全世界で株式のリスクプレミアムが0.2%ポイント上昇 ドイツ連邦銀行 中国 1年目 ▲2.3 2年目 ▲4.1 日本 1年目 ▲0.5 2年目 ▲0.8 韓国 1年目 ▲0.8 2年目 ▲1.5 米国 1年目 0.0 2年目 0.2 EU 1年目 ▲0.2 2年目 ▲0.2 試算の前提 中国の内需(実質)が基準値から1年目に6%、2年目に9%低下。 (備考)IMF、OECD、ドイツ連邦銀行より作成。

(1)貿易面への影響

(アジア新興国・資源国等の中国依存の高まり)

中国の貿易は輸出輸入ともに01年12月のWTO加盟以降加速度的に増加し、世界貿易の中で大きな地位を占めるようになっている。輸出は09年以降世界一を維持しており、輸入もアメリカに次ぐ第2位となっている。

中国の輸入は、2000年代には前年比20%近い勢いで増加を続け、世界金融危機の影響で一時的に減少したものの、11年まではこのペースを維持していた。品目別にみると、2000年代は中国内需の拡大と加工貿易用の輸入により、電気機器・一般機械が大きく寄与していた。その後、人民元の上昇、生産拠点の移転などにより、加工貿易用の輸入が減少したことに加えて、内需も伸びが鈍化したために、電気機器・一般機械の輸入は急速に鈍化した。

一方、鉱物性製品の輸入も10年、11年には高い伸びとなった(第1-1-16図)。鉱物性製品の輸入は中国の需要増加を反映して大幅に増加し、世界の資源消費に占める中国のシェアは年を追うごとに上昇した(第1-1-17図)。

第1-1-16図 中国の輸入:11年まで高い伸び
第1-1-16図 中国の輸入 (備考)1.中国海関総署より作成。 2.その他は化学製品、卑金属類、輸送機器類、光学機器、精密機器、宝石・貴金属類など。
第1-1-17図 世界の資源消費に占める中国のシェア:上昇傾向
第1-1-17図 世界の資源消費に占める中国のシェア (備考)WSA、BP、ブルームバーグより作成。

この結果、中国の資源輸入において上位を占める国では、輸出の中国依存度が年を追うごとに高まっている(第1-1-18表)。その中には比較的経済規模の小さい国も多く含まれており、中国の動向に経済が左右される国が増えてきていることが分かる。

資源国以外の国でも中国への輸出依存度が高まる傾向がみられる(第1-1-19図)。先進国においても程度の差はあれ、中国への輸出依存度が高まっている。

第1-1-18表 中国の資源輸入上位5か国の中国依存度
第1-1-18表 中国の資源輸入上位5か国の中国依存度 (1)原油 1位 サウジアラビア 2000年 2.3% 07年 6.8% 14年 12.9% 2位 アンゴラ 2000年 21.7% 07年 26.8% 14年 47.8% 3位 ロシア 2000年 5.0% 07年 4.5% 14年 7.6% 4位 オマーン 2000年 27.5% 07年 27.1% 14年 43.3% 5位 イラク 2000年 4.6% 07年 1.7% 14年 21.2% (2)石炭 1位 インドネシア 2000年 4.2% 07年 8.2% 14年 10.0% 2位 オーストラリア 2000年 5.6% 07年 14.2% 14年 33.6% 3位 ロシア 2000年 5.0% 07年 4.5% 14年 7.6% 4位 モンゴル 2000年 49.8% 07年 74.7% 14年 79.8% 5位 北朝鮮 2000年 3.5% 07年 32.7% 14年 78.4% (3)鉄鉱石 1位 オーストラリア 2000年 5.6% 07年 14.2% 14年 33.6% 2位 ブラジル 2000年 2.0% 07年 6.7% 14年 18.0% 3位 南アフリカ 2000年 1.1% 07年 6.0% 14年 9.6% 4位 シエラレオネ 2000年 0.1% 07年 1.9% 14年 84.3% 5位 ウクライナ 2000年 4.3% 07年 0.9% 14年 4.9% (備考)1.IMF“Direction of Trade 2015 Oct”より作成。 2.数値は各国の輸出に占める中国向けのシェア。順位は14年の中国の輸入に占める各国シェアで順位づけ。
第1-1-19図 輸出の中国依存度:上昇
第1-1-19図 輸出の中国依存度 (備考)1.各国貿易統計より作成。 2.グラフ中の数値は14年時点シェア。

輸出の中国依存度が高まっていることに加えて、日本・中国・韓国・ASEAN域内の貿易・投資関係も強まっている。

貿易関係をみると、01年から14年までの間に中国以外の各国・地域では、中国やASEANへの輸出比率が高まったことから、域内での貿易比率が大幅に上昇している。一方、中国は域内貿易比率が低下しており、代わりに中東、アフリカ、中南米への輸出が増加している(第1-1-20表)。

投資関係をみても、07年から12年までの約5年の間に域内での関係が深まっている(第1-1-21表)

第1-1-20表 日本・中国・韓国・台湾・ASEAN内の貿易関係
第1-1-20表 日本・中国・韓国・台湾・ASEAN内の貿易関係 2001年 輸出元 日本 輸出相手国 中国 13.4% 台湾 5.8% 韓国 6.3% ASEAN5 9.7% 計 35.2% 輸出元 中国 輸出相手国 日本 12.3% 台湾 1.6% 韓国 3.5% ASEAN5 4.1% 計 21.5% 輸出元 台湾 輸出相手国 日本 10.3% 中国 26.6% 韓国 2.7% ASEAN5 8.5% 計 48.1% 輸出元 韓国 輸出相手国 日本 11.0% 中国 18.4% 台湾 4.0% ASEAN5 8.0% 計 41.4% 輸出元 ASEAN5 輸出相手国 日本 16.5% 中国 8.4% 台湾 4.4% 韓国 3.7% ASEAN5 8.0% 計 41.0% 2014年 輸出元 日本 輸出相手国 中国 23.8% 台湾 5.4% 韓国 7.5% ASEAN5 11.9% 計 48.6% 輸出元 中国 輸出相手国 日本 5.9% 台湾 1.6% 韓国 3.8% ASEAN5 8.2% 計 19.6% 輸出元 台湾 輸出相手国 日本 6.3% 中国 39.7% 韓国 4.0% ASEAN5 12.1% 計 62.3% 輸出元 韓国 輸出相手国 日本 5.6% 中国 30.1% 台湾 2.3% ASEAN5 10.3% 計 48.4% 輸出元 ASEAN5 輸出相手国 日本 11.6% 中国 15.9% 台湾 2.7% 韓国 4.0% ASEAN5 12.4% 計 46.5% (備考)1.IMF ”Direction of Trade Statistics”より作成。ただし、台湾の貿易額は収録されていないため、台湾貿易統計を使用。各国から台湾への輸出額は、台湾の輸入額(CIFベース)に0.9を乗じFOBベースに換算。 2.中国は、香港を含む数値。ASEAN5は、インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム。
第1-1-21表 日本・中国・韓国・台湾・ASEAN内の投資関係
第1-1-21表 日本・中国・韓国・台湾・ASEAN内の投資関係 ストックベース 2007年 投資元 日本 投資先 中国 8.6% 台湾 1.4% 韓国 2.2% ASEAN5 8.0% 計 20.2% 投資元 中国 投資先 日本 0.0% 台湾 0.0% 韓国 0.1% ASEAN5 0.2% 計 0.3% 投資元 台湾 投資先 日本 0.9% 中国 56.3% 韓国 0.2% ASEAN5 5.4% 計 62.8% 投資元 韓国 投資先 日本 2.1% 中国 32.7% 台湾 0.4% ASEAN5 9.7% 計 44.8% 投資元 ASEAN5 投資先 日本 - 中国 - 台湾 - 韓国 - ASEAN5 - 計 - 2012年 投資元 日本 投資先 中国 10.7% 台湾 1.3% 韓国 2.5% ASEAN5 8.2% 計 22.7% 投資元 中国 投資先 日本 0.1% 台湾 0.0% 韓国 0.2% ASEAN5 0.5% 計 0.8% 投資元 台湾 投資先 日本 1.3% 中国 63.7% 韓国 0.3% ASEAN5 5.2% 計 70.5% 投資元 韓国 投資先 日本 1.8% 中国 30.7% 台湾 0.3% ASEAN5 10.6% 計 43.4% 投資元 ASEAN5 投資先 日本 1.3% 中国 8.8% 台湾 0.4% 韓国 0.1% ASEAN5 14.8% 計 25.5% (備考)1.UNCTAD ”BILATERAL FDI STATISTICS 2014”、台湾経済部投資審議委員会統計より作成。 2.中国は、香港を含む数値。ASEAN5は、インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム。 3.2007年のASEAN5は、統計の制約から「-」とした。

前述のとおり、中国の資源消費が世界に占める割合は上昇しており、中国の内需の減速と資源輸入の減少は資源価格の下落要因となっているとみられる(第1-1-22図)。

第1-1-22図 資源価格と中国の輸入量の推移:資源価格が下落
第1-1-22図 資源価格と中国の輸入量の推移 (備考)中国海関総署、ブルームバーグより作成。

そのため、中国への輸出依存度の高い国・地域では、中国への輸出の減少を通じて中国経済減速の影響が既に表れている(第1-1-23図)。とりわけ、台湾やオーストラリアでは、これまで中国への輸出が成長のけん引役であったものの、現状では逆に成長のマイナス要因となっている。

輸出の減少が著しいオーストラリアと台湾について財別に中国への輸出をみると、オーストラリアは鉱物資源が大幅に減少しており、中国の需要減に加え、鉄鉱石の価格低下の影響が表れているとみられる。一方、台湾では石油製品や光学機器等が減少している(第1-1-24図、第1-1-25図)。

第1-1-23図 各国の中国向け輸出:減少
第1-1-23図 各国の中国向け輸出 (備考)各国貿易統計より作成。
第1-1-24図 オーストラリアの対中輸出額:鉱物資源が大きく減少
第1-1-24図 オーストラリアの対中輸出額 (備考)1.中国海関総署より作成。 2.14年のオーストラリアからの輸入額に占める鉱物資源の割合は74%。
第1-1-25図 台湾の対中輸出額:光学機器などが減少
第1-1-25図 台湾の対中輸出額 (備考)1.台湾財政部より作成。 2.14年の台湾からの輸入額に占める機械・電気機器の割合は62%。
(過剰生産業種の影響)

後述するように、中国経済は生産過剰問題を抱えており、これを輸出増加によって解消しているという指摘がある。

いわゆる過剰生産4業種(粗鋼、板ガラス、セメント、アルミニウム)について、生産動向をみると、アルミニウムは15年に入って前年比で大きく増加しているものの、粗鋼や板ガラス、セメントは前年比マイナスで推移している(第1-1-26図)。

一方、輸出動向をみると、粗鋼の輸出は14年以降増加が続いており、直近の15年9月でも30%以上増加している。板ガラスやセメント、アルミニウムは前年比でマイナスとなっている。

以上より、過剰生産業種のうち、粗鋼については国内の過剰生産を輸出に振り向けている可能性が示唆される。粗鋼を含む卑金属の輸出価格は、14年10~12月期以降、前年同月比でおおむね低下しており、中国の粗鋼生産が世界全体の約半分(49.4%、14年)を占める中5、中国の粗鋼の輸出増加は各国の鉄鋼メーカーに影響をもたらしている。例えば、アメリカでは大手鉄鋼メーカーは中国からの輸入品増加等の影響により、15年1月に大規模なレイオフに踏み切った。中国の輸出攻勢に対して、南アフリカのように、ダンピング認定に踏み切り関税引上げを講じる国も出てきている。

第1-1-26図 中国の過剰生産業種の生産と輸出:粗鋼輸出は増加が続く
第1-1-26図 中国の過剰生産業種の生産と輸出 (備考)中国国家統計局、中国海関総署より作成。

(2)金融面でも高まる中国の影響力

上海株式市場の時価総額は14年後半から大きく拡大し、15年4月には一時的に東京市場を抜いて世界2位となったが、10月時点では東京市場と同程度となっている(第1-1-27図)。上海市場の規模が大きくなるにつれて、日経平均やDAX指数は上海株価指数に相関するようになってきている(第1-1-28図)。

中国の株価は、14年後半から15年6月にかけて、信用取引を伴う投資家の新規参入によって大きく上昇した。代表的な株式市場である上海証券取引所の口座数は14年5月末から15年5月末の間に約24%増加し、その間、信用口座数は約350万件から700万件以上へ、信用融資残高も約5,000万元から2兆元以上へと急増した(第1-1-29図)。

このような状況に対し、証券監督管理委員会は6月12日、株式市場のリスク抑制に向け、証券会社が提供する信用融資残高の上限を資本金の4倍に規制する案を公表した(15年11月現在も未実施)。14年末の証券各社の資本金をベースにすると、信用融資残高の上限は2兆7,000億元程度となり、規制案の公表時点で融資残高が2兆2,000億元を超えていたことから、信用取引を伴った投資家の新規参入による株価上昇のメカニズムが働かなくなることを懸念した投資家による利益確定の売却が進んだとみられ、株価は6月11日をピークに調整局面を迎えた。株価の下落により信用取引の強制決済(損切り)が連鎖的に発生したとみられ、信用融資残高は急減した。

第1-1-27図 世界の主要株式市場の時価総額:上海株式市場の時価総額は一時期東京市場を上回る
第1-1-27図 世界の主要株式市場の時価総額 (備考)WFEより作成。
第1-1-28図 中国株とその他主要国の株価の相関係数(四半期毎):上海市場と主要国の株価指数の相関が高まる傾向
第1-1-28図 中国株とその他主要国の株価の相関係数(四半期毎) (備考)1.ブルームバーグより作成。 2.毎期の相関係数は直近66日営業日(およそ3か月間)の変動から算出。 3.相関係数は1に近いほど正の相関が強く、-1に近いほど逆相関が強い。
第1-1-29図 中国株式市場における信用融資残高・信用口座数:株価の上昇に伴い急増
第1-1-29図 中国株式市場における信用融資残高・信用口座数 (備考)ブルームバーグより作成。
(人民元の国際化と資本取引の自由化)

中国は世界金融危機以降、人民元の国際化を進める方針を採っている。具体的には、貿易決済における元の地位向上、IMFにおけるSDR構成通貨入りに向けた働きかけ、通貨スワップの締結等を進めている。

人民元は09年7月から貿易決済通貨としての規制緩和が進められ、人民元の国外への持ち出しが可能となった。人民元建て貿易決済額は年々増加し、10年の7,995億元から14年には6兆5,600億元となり、同年の中国の貿易総額の24.8%を占めるに至った。

金融機関間の国際的な決済に関するネットワークであるSWIFTによると、貿易等の決済に使われた通貨における人民元のシェアは14年1月には1.39%と7位であったが、15年8月には2.79%となり、円を抜いて世界4位となった。人民元を決済に使用する金融機関数のシェアは、13年8月には世界全体の31%であったが、15年8月には36%まで上昇した6

一般的に国際的通貨としての地位を確立するためには、SDRの構成要件に示されるとおり、国際取引上の支払を行うために広範に使用され、かつ主要な為替市場で広範に取引されていることが必要と考えられる。一方で中国では、貿易・直接投資での元の使用は自由化されているものの、証券投資は認可制を採っており、資本取引の自由化は完了していない(第1-1-30表)。中国は96年12月に国際収支を理由に為替取引制限を行うことのできないIMF8条国に移行し、経常項目(貿易、対外・対内投資)における人民元と外国通貨の兌換が可能となった。02年11月には適格海外機関投資家(QFII:Qualified Foreign Institutional Investors)制度が導入され、中国政府が認定する海外の機関投資家が中国本土における証券を売買することが可能となった。06年には逆に国内の適格機関投資家(QDII:Qualified Domestic Institutional Investor)制度が導入され、認可された国内投資家(機関投資家及び個人)が海外の証券投資を行うことが可能となった。また、2011年には元建て適格海外機関投資家(RQFII)が発足し、外国人が保有する人民元を中国本土の証券に投資することが可能となった。

第1-1-30表 資本自由化の進展度合い
第1-1-30表 資本自由化の進展度合い 1996年 IMF8条国へ移行。経常取引(貿易、対外・対内投資)における人民元の自由な利用が実現される。 2002年 QFII(適格外国機関投資家)制度発足。認可された外国人投資家が本土証券市場へ参加を開始。(14年末時点で669.23億ドルが認可) 2006年 QDII(適格国内機関投資家)制度発足。認可された国内投資家が海外投資を開始。(14年末時点で833.23億ドルが認可) 2009年 貿易の元決済が自由化される。 2011年 RQFII(元建て適格外国機関投資家)制度発足。外国人が保有する人民元の本土証券市場への投資が可能となる。 (備考)中国人民銀行、各種報道より作成。

14年11月には、上海市場と香港市場の相互取引が開始された。これによって、外国人投資家は個人投資家も含めて、香港市場経由で上海市場の売買が可能となった(第1-1-31図)。

第1-1-31図 上海-香港市場の相互乗り入れ
第1-1-31図 上海-香港市場の相互乗り入れ (備考)上海証券取引所、各種報道より作成。

以上のように、人民元建ての対内/対外の直接投資及び証券投資は制度上可能とはなっているが、完全自由化にはまだ道半ばである。

また、09年ごろから人民元をIMFにおけるSDRの構成通貨に採用するよう働き掛ける動きが出ていた。09年3月に中国人民銀行の周小川総裁は「SDRを構成するバスケットを全ての主要国の通貨が含まれるように拡大すべきである」と主張する論文を発表した。SDR構成通貨の見直しは5年ごとに行われおり、その構成要件には「過去5年間の物品・サービス輸出額が最も多い加盟国・地域の発行通貨であること」、「自由利用可能通貨であること」の2つが挙げられている。2010年の見直しでは、人民元は前者の要件を満たしていたものの、後者は満たしていなかったとして、SDRへの採用は見送られた。その後も中国は人民元のSDR構成通貨への採用に向けて努力を続け、IMFは15年11月30日に人民元のSDR構成通貨入りを決定した。実際に人民元がSDRの構成通貨入りするのは16年10月からとなっている7。SDRへの採用は人民元の国際化の象徴的な意味を持つことになるが、国際的な通貨として責任が高まることを契機に、中国が取り組んできた金融・資本市場改革が今後一層強化されることが期待される。

さらに、中国はアジアやヨーロッパ諸国等との通貨スワップ協定の締結を進めるなど、人民元の利用を促進している(第1-1-32表)。スワップ協定を締結した国の輸出の対中依存度にはばらつきがみられ、経済関係の強さ以外の要因も勘案しスワップ協定が結ばれていることが示唆される。

第1-1-32表 中国の通貨スワップ協定
第1-1-32表 中国の通貨スワップ協定 アジア 相手国 韓国 締結時 2008年12月12日 輸出に占める対中依存度 25.4% 相手国 香港 締結時 09年1月20日 輸出に占める対中依存度 53.9% 相手国 マレーシア 締結時 09年2月8日 輸出に占める対中依存度 12.0% 相手国 インドネシア 締結時 09年3月23日 輸出に占める対中依存度 10.0% 相手国 シンガポール 締結時 10年7月23日 輸出に占める対中依存度 12.6% 相手国 ニュージーランド 締結時 11年4月18日 輸出に占める対中依存度 20.6% 相手国 ウズベキスタン 締結時 11年4月19日 輸出に占める対中依存度 - 相手国 モンゴル 締結時 11年5月6日 輸出に占める対中依存度 79.8% 相手国 カザフスタン 締結時 11年6月13日 輸出に占める対中依存度 17.3% 相手国 タイ 締結時 11年12月22日 輸出に占める対中依存度 11.0% 相手国 パキスタン 締結時 11年12月23日 輸出に占める対中依存度 10.2% 相手国 オーストラリア 締結時 12年3月22日 輸出に占める対中依存度 33.6% 相手国 スリランカ 締結時 14年9月16日 輸出に占める対中依存度 1.5% 相手国 ネパール 締結時 14年12月23日 輸出に占める対中依存度 4.6% 相手国 タジキスタン 締結時 15年9月5日 輸出に占める対中依存度 4.0% ヨーロッパ 相手国 ベラルーシ 締結時 09年3月11日 輸出に占める対中依存度 1.8% 相手国 アイスランド 締結時 10年6月9日 輸出に占める対中依存度 0.8% 相手国 ロシア 締結時 11年6月23日 輸出に占める対中依存度 7.6% 相手国 トルコ 締結時 12年2月21日 輸出に占める対中依存度 1.8% 相手国 ウクライナ 締結時 12年6月26日 輸出に占める対中依存度 4.9% 相手国 英国 締結時 13年6月22日 輸出に占める対中依存度 3.4% 相手国 ハンガリー 締結時 13年9月9日 輸出に占める対中依存度 1.5% 相手国 アルバニア 締結時 13年9月12日 輸出に占める対中依存度 7.1% 相手国 EU(ECB) 締結時 13年10月9日 輸出に占める対中依存度 3.1% 相手国 スイス 締結時 14年7月21日 輸出に占める対中依存度 4.3% アメリカ州 相手国 アルゼンチン 締結時 09年3月29日 輸出に占める対中依存度 6.2% 相手国 ブラジル 締結時 13年3月26日 輸出に占める対中依存度 18.0% 相手国 カナダ 締結時 14年11月8日 輸出に占める対中依存度 3.7% 相手国 スリナム 締結時 15年3月18日 輸出に占める対中依存度 2.3% 相手国 チリ 締結時 15年5月25日 輸出に占める対中依存度 24.7% 中東 相手国 アラブ首長国連邦 締結時 12年1月17日 輸出に占める対中依存度 - 相手国 カタール 締結時 14年11月3日 輸出に占める対中依存度 7.7% アフリカ 相手国 南アフリカ 締結時 15年4月10日 輸出に占める対中依存度 9.6% (備考)1.各種報道、IMF”Direction of Trade 2015 Oct”より作成。 2.カザフスタンの数値は13年時点。

(3)中国及び各国の政策対応

中国経済が減速する中、中国及び中国減速の影響を受けている国や地域では各種の政策対応が採られている。

(中国の政策対応)

中国の公的債務残高のGDP比は41.1%程度と高くはないものの(後掲第1-1-38図)、財政出動で景気を下支えし構造改革を先送りすれば、一層の過剰設備や過剰債務を抱えることになる可能性が高いことから、過去のように超大型の景気対策は発動しづらい状況になっている。李克強国務院総理は15年9月のサマーダボスフォーラムにおいて、「国内において長年累積した多層的矛盾が徐々に顕れている」、「必要かつ限定的で、時機に合った、精密な調整・コントロール措置を採っているところ」と発言している。

このような中、15年6月以降の株価急落を受けて、中国政府は矢継ぎ早に株価対策を打ち出した(第1-1-33表)。

第1-1-33表 中国の政策対応のまとめ
第1-1-33表 中国の政策対応のまとめ 株価対策 6月27日 利下げ、預金準備率引下げ(翌日実施、中国人民銀行) 6月29日 地方政府が管理する公的年金基金に株式運用が許可される方針。7月13日までに意見を求める。(年金基金) 7月5日 政府系ファンド(SWF)の一部門である中央匯金投資がETFを買い入れたと発表。額、時期は明言せず。(中央匯金投資) 7月8日 大株主を対象に6か月間株式売却を禁止。企業が一部の自社株式の買戻しをできるよう規制を緩和。(中国証券監督管理委員会) 7月8日 保険会社の優良株への投資上限を総資産の5%から10%まで引上げ。(中国保険監督管理委員会) 7月8日 国有企業に対し、上場子会社の株式売却を禁止。(国有資産監督管理委員会) 7月9日 7日物資金供給オペを実施。350億元を放出。(中国人民銀行) 財政支援策等 7月8日 中央予算内投資資金(規模は239億元)を建設中の重大プロジェクトへ投入し、更に鉄道・農村道路・水利建設を加速。 8月31日 一軒目の住宅購入ローンを完済した世帯が2軒目の住宅をローンで購入する場合の最低頭金比率をこれまでの30%から20%に引下げ。 9月1日 総額600億元規模の国家中小企業発展基金を設立し、うち150億元を中央財政から出資。中小企業の資金調達難、融資コスト高の緩和、雇用拡大、創業促進等を図る。 9月8日 安定的な成長を支援するための財政政策措置を発表。小規模・零細企業に対する減税基準をこれまでの年間所得課税額20万元以内を30万元以内に引上げ、PPP(官民連携)の推進等。 9月13日 国有企業改革の深化に関する指導意見を発表。 9月29日 排気量1.6リットル以下の乗用車の車両購入税を半額に引下げ(15年10月から16年12月末まで)、新エネルギー車支援策を整備し、動力用バッテリー、燃料電池車等の研究開発を支援。 (備考)各種資料、報道より作成。

また、15年9月には財政支援策が公表された。内容は既存の政策や方針を確認し、具体化を促すものが中心であり、新たな財政措置は限定的であった。

更に同月13日、「国有企業改革の深化に関する指導意見」も打ち出され、2020年までに民間投資を呼び込むために国有企業と民間企業の混合所有制を発展させていくことなどが盛り込まれた(第1-1-34表)。また同月24日に発表された「国有企業の混合所有制経済発展に関する意見」では外国資本も順次混合所有制に参加していくことが盛り込まれた。しかし、11月に公表された第13次5か年計画の草案における国有企業改革に関する言及は限定的であり、国有企業改革の優先度については疑問が残る。

一方、金融政策をみると、14年11月以降6回にわたって利下げが行われており、預金準備率の引下げとあいまって、大規模な金融緩和措置が打ち出されている(第1-1-35図)。利下げが可能となっている要因としては、消費者物価が15年4~6月期には前年同期比1.4%、7~9月期には同1.7%と、低水準で安定していることが挙げられる。ただし、後述するとおり、過剰生産能力の調整から生産者物価指数の下落が続いており、企業の実質金利が高止まりしているため、利下げの効果が発揮されにくい状況になっている面がある。

第1-1-34表 「国有企業改革の深化に関する指導意見」の概要
第1-1-34表 「国有企業改革の深化に関する指導意見」の概要 1.2020年までに国有企業改革の重要分野について決定的な成果を挙げる。具体的には、(1)民間企業との混合所有制の導入(2)国有資産の監督管理の強化(3)国有企業のイノベーション・資源環境保護における模範的役割の確立等 2.混合所有制については、国有企業の株式公開の促進、民間企業との株式交換等の方式を通じて行われ、特にスケジュールを設けず、条件が整ったものから推進する。 3.取締役会の設立を推進し、法に基づいて経営権や報酬分配等の権利を保護することや、外部取締役を置く等 (備考)中国国務院資料より作成。
第1-1-35図 金融政策:数次にわたって利下げ
第1-1-35図 金融政策 (備考)1.中国人民銀行より作成。 2.預金準備率は大手金融機関の数値。

以上のように、15年10月現在までに打ち出された政策は、大規模な財政出動を伴っていないことが特徴となっている。

(各国の政策対応)

中国の景気減速による外需の落ち込み等の影響を受けた各国でも政策対応が取られている。オーストラリアや韓国では金融緩和が行われている(第1-1-36図)。ベトナムでは、人民元の切下げによる同国経済への影響を考慮し、15年8月に通貨を切り下げた。一方、ブラジルでは、景気は悪化しているものの、高インフレへの対応のために政策金利は高止まりしている。次章で分析するとおり、アメリカでは15年中の利上げ開始が見込まれていることから、新興国では今後、景気下支えと資金流出・通貨下落の防止の両にらみで金融政策を運営しなければならないという困難に直面することになる。

また、アジア諸国では財政政策による景気下支えも行われている(第1-1-37表)。ほとんどの対策が8、9月に決定されており、各国政府が景気減速に対して迅速に対応している様子がうかがえる。なお、アジア諸国における財政状況を比較すると、政策余地には国によってばらつきがみられる(第1-1-38図)。

第1-1-36図 アジア諸国をはじめとした金融緩和の動き:緩和傾向
第1-1-36図 アジア諸国をはじめとした金融緩和の動き (備考)ブルームバーグより作成。
第1-1-37表 各国の財政政策(まとめ)
第1-1-37表 各国の財政政策(まとめ) 韓国 発表時期 7~9月 ○6.2兆ウォン(約6,500億円)の歳出拡大を含む、15年度補正予算の決定 ・MERS(中東呼吸器症候群)対策として、医療機関への施設拡充支援、被害企業への資金支援等(2.5兆ウォン) ・干ばつ及び治水対策として、貯水池修繕、河川整備等(0.8兆ウォン) ・若年層への就職支援、壮年・若年雇用に取り組む企業への人件費支援等(1.2兆ウォン) ・消防・安全に関するインフラ投資拡大及び地域経済の活性化(1.7兆ウォン) ○消費刺激策 ・自動車と高級家電製品に対する個別消費税率を5%から3.5%に引下げ等(15年末まで) 台湾 発表時期 10月 ○40.8億台湾ドル(約150億円)規模の消費促進措置(15年11月7日~16年2月末まで) ・省エネ・節水基準を満たしたエアコン、コンロ、テレビ、冷蔵庫、洗濯機等の購入に対し、1台当たり1,000~2,000台湾ドルの補助金を支給 ・小型農機具の購入に対し、最大40,000台湾ドルの補助金を支給 ・台湾域内の観光に関し、宿泊代、テーマパーク利用料、交通費に対し補助金を支給等 インドネシア 発表時期 8月~ ○石油精製等特定産業における1兆ルピア(約80億円)以上の新規投資について減税等 ○経済政策パッケージ(第1~6弾)の発表 ・産業用燃料・ガス・電気料金の引下げ、輸出を行う中小企業への低利融資、農業保険導入、最低賃金の枠組み改定等 タイ 発表時期 9月 ○総額1,360億バーツ(約4,500億円)の農村向け景気対策 ・農村基金を通じた低所得者層への無利子貸付(600億バーツ) ・全国の行政村への開発資金支給(360億バーツ)、公共事業(400億バーツ) ○総額2,000億バーツ規模の中小企業向け景気対策 ・政府系金融機関を通じた低利融資、債務保証、法人税減税等 マレーシア 発表時期 9~10月 ○総額280億リンギ(約7,600億円)規模の景気対策 ・200億リンギを政府系ファンドに注入し、国内株式を買い支え(6業種対象) ・中小企業の運転資金保証スキームに20億リンギを追加投入 ・製造業の一部の輸入品目(スペアパーツや調査機材等90品目)の関税免除 ・中国とインドを含む大手市場からの医療観光客誘致に向け8,000万リンギを投入 (備考)各種資料、報道等より作成。
第1-1-38図 各国の財政状況:アジア諸国の財政政策余地にはばらつき
第1-1-38図 各国の財政状況 (備考)(1)1.IMFより作成。2.14年時点。 (2)1.IMFより作成。2.14年時点。

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