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第4節 アジア経済

1.景気の拡大テンポが安定化しつつある中国経済

中国は、実質経済成長率が傾向的に減速する中で、2012年4~6月期以降、前年比で8%を割り込み、13年4~6月期は同7.5%にまで減速した。

その背景としては、ヨーロッパ経済の停滞等による輸出の減速、省エネ家電普及策の打切り等による個人消費の減速がみられたことが挙げられる。

その後、7月には政策対応パッケージが打ち出され、13年7~9月期の実質経済成長率は7.8%となり、輸出、生産でも持ち直しの動きがみられるなど、景気の拡大テンポは安定化しつつある(第1-4-1図)。

以下では、景気の拡大テンポが安定化しつつある中国経済の現状について、マクロ経済運営の状況を踏まえた上で、輸出が持ち直しに転じた背景、消費や投資の持続性、それを支える金融環境といった点から概観する。

第1-4-1図 実質経済成長率:景気の拡大テンポは安定化

(1)新指導部による経済政策の変化

13年3月の第12期全国人民代表大会(以下、全人代:国会に相当)において正式に発足した新指導部は、マクロ経済運営の最優先課題を「経済の持続的で健全な発展」として、金融面での安定性重視、経済構造の転換の重視を打ち出した。

新指導部の中心の一人である李克強国務院総理は、経済政策に対するスタンスとして、景気刺激策や金融緩和策を控え、経済構造・発展パターンの転換、市場の役割の活用(経済の市場化)、経済の質と効率の向上(省エネと環境保護等を含む)による中国経済のグレードアップを目指すことを示した。このようなスタンスは、「リコノミクス(李克強経済学)」73別ウィンドウで開きますという言葉で総称されている。

しかし、13年4~6月期の経済成長率が同7.5%となり、国外のメディア等からも中国経済の失速が懸念されることとなった。

これを受けて、政府は13年7月24日の国務院常務会議(閣議に相当)において、(1)小企業・零細企業向け減税、(2)鉄道建設加速、(3)輸出入促進からなる景気刺激策を打ち出した(第1-4-2表)。このような景気刺激策は、世界的な金融・経済危機に対応した08年来のいわゆる4兆元対策のような大規模なものではなく、政府も「経済を刺激するために単純に『強心剤』を打つのではなく、経済構造の調整と持続可能な発展に資するものである」74別ウィンドウで開きますと説明している。

こうしたこともあり、7~9月期には輸出等が持ち直し、実質経済成長率は前年比7.8%増と3四半期ぶりに前期の伸びを上回った。

7~9月期の経済成長率が発表された直後の10月21日、李総理は1千万人の新規雇用と4%の失業率維持のため、7.2%の成長を必要とすると発言した75別ウィンドウで開きます。これは前述の経済運営の「下限」(安定成長・雇用の維持)のラインを明らかにした発言として注目される。

李総理は経済運営が合理的な区間を下回った場合には、ピンポイント的な政策措置を採る旨表明しており76別ウィンドウで開きます、今後とも、マクロ経済運営においては、下限(安定成長・雇用の維持)と上限(インフレの防止)の範囲内に収めるための微調整的な政策運営を行うものと考えられる。

第1-4-2表 景気刺激策(13年7月)一覧

(2)外需:輸出は持ち直すも、緩やかな動きが続く

輸出の伸びは10年半ばから低下傾向が続き、12年10~12月期、13年1~3月期は一旦伸びが高まったものの、4~6月期には再び伸びが低下した。7~9月期はEUの景気が持ち直しの兆しをみせたことなどから、輸出は持ち直した動きとなっている(第1-4-3図)。

第1-4-3図 貿易:輸出は持ち直し

中長期的に輸出の伸びが鈍化している要因として、世界景気が弱い回復にとどまり海外需要が弱いことや、中国の輸出競争力の低下が挙げられる。

中国の主な輸出先は、アメリカ、EU、香港、ASEAN、日本、韓国、台湾であり、上記の国・地域で全体の約70%を占める。欧州の政府債務問題等を背景にEU向け輸出の伸びは低下傾向であり、ASEAN等の新興国ではアメリカの量的緩和策の動向によりこのところ通貨安が進行しており、これらの地域への輸出は以前ほどの勢いはみられない(第1-4-4図)。

第1-4-4図 国・地域別輸出:EU向けは13年4~6月期は落ち込み

中国の輸出競争力の低下については、中国では貿易黒字を主因とした経常黒字等を背景とした元高圧力77別ウィンドウで開きますが考えられ、市場レートでは13年初と比較して足下では約2%進んでおり、元高傾向で推移している。

加えて、中国国内の賃金は上昇し続けており、労働集約型製品の製造コストが上昇していることも考えられる。

第1-4-5図 為替レート:元高傾向

さらに、外貨流入管理規制を強化したことも輸出の下押し要因として挙げられる。13年に入り香港当局公表の中国からの輸入額と、中国当局公表の香港への輸出額に大幅なかい離が生じている(第1-4-6図)。かい離が拡大した時期は大幅に外貨が流入しており、当局の外貨流入管理規制公表後には、輸出の伸びが大幅に低下し外貨流入額も減少ないしは外貨が流出している(第1-4-7図)。このことから、香港経由の輸出額が水増しされて外貨が流入していたと報じられており、1~3月期の輸出は伸びが高まったものの、この数値は実態以上のものであったことに留意が必要である。

第1-4-6図 香港向け輸出額:13年1~3月期は大幅にかい離
第1-4-7図 外国資金為替残高(前月差):13年1~4月に大幅に流入

(3)消費の伸びはやや低下、投資依存の成長が続く

消費に関する政策については、12年10月の党大会において、20年までにGDP及び一人当たり所得を10年比で倍増させる計画が打ち出された78別ウィンドウで開きますほか、13年3月の全人代においても、「断固として内需拡大を経済発展の長期的戦略方針とし、消費の基礎的役割と投資の重要な役割を充分に発揮させる。内需拡大の難しい点と重点は消費にあり、潜在力もまた消費にある」79別ウィンドウで開きますと報告されたように、引き続き内需、特に消費の拡大が掲げられた。

こうした中で消費(社会消費品小売総額)の状況をみると、13年においては1~9月期までの前年比は11.4%増と、10年(同14.9%増)、11年(同11.6%増)、12年(同12.1%増)80別ウィンドウで開きますを下回っている。

このような消費の伸びの低下の要因として、新指導部発足後に綱紀粛正が強化され、公費による飲食等が抑制されたことが挙げられる81別ウィンドウで開きます。社会消費品小売総額のうち飲食の伸びは、13年に入り著しく低下し、その後も伸び悩んでおり、小売総額全体の伸びを抑制している(第1-4-8図)。

また農村部への家電普及政策(家電下郷)等の消費刺激策が終了したことも挙げられる。同政策終了時の13年1~2月期にかけて駆込み需要による増加がみられたが、その反動で家電の伸びが大きく落ち込んだ(第1-4-9図)。さらに、13年5月に省エネ家電普及策もほとんどの地域で終了し、これも家電製品への駆込み需要とその後の需要の伸びの低迷をもたらした。

このほか、都市部の一人当たり可処分所得の伸びが、13年に入って1~9月期において6.8%増と、12年の伸び(同9.6%増)を下回っていることも、消費の伸びを抑えている要因として考えられる。

第1-4-8図 社会消費品小売総額:13年以降伸び率は低下
第1-4-9図 一定規模以上小売販売総額(家電):各種優遇策終了後、伸びが低下傾向に

固定資産投資は、13年以降もほぼ安定した伸びを維持し、特にインフラ関連投資は、12年10~12月期以降、比較的高い伸びとなっており、このところの景気の拡大テンポの安定化に貢献している(第1-4-10図)。

インフラ関連投資が比較的高い伸びを示してきた背景として、12年5月の政府による重要投資プロジェクトの前倒し実施82別ウィンドウで開きます や、前述した13年7月の景気刺激策における鉄道建設投資の加速等が挙げられる(前掲第1-4-2表)。

第1-4-10図 固定資産投資:インフラ関連投資は比較的好調

消費の伸びが低下した一方、固定資産投資が比較的安定した伸びを維持したことで、最近の経済成長に対する需要項目別寄与度をみると、11年から13年(1~9月期)の最終消費の寄与度は5.3%→4.2%→3.5%ポイントと低下する一方、資本形成の寄与度は12年の3.6%から13年(1~9月期)には4.3%ポイントと再び拡大している(第1-4-11図)。

第1-4-11図 実質経済成長率の需要項目別寄与度の推移:資本形成の寄与度が再び上昇

一方、4兆元の景気対策を通じて過熱した不動産開発投資の伸び率は、政府の規制策にもかかわらず、12年末頃から伸び率が再び上昇し、13年以降は固定資産投資の伸びとほぼ同じ水準にまで高まっている(前掲第1-4-10図)。

このような不動産開発投資の伸びの背景としては、同時期の不動産価格の高騰が投資を誘発していることや、地方政府が、その収入83別ウィンドウで開きますや地域経済成長の源泉として、不動産開発を行うインセンティブがあることも考えられる。

同様に不動産価格も12年後半以降は前月比で価格が上昇する都市が徐々に増加し、13年に入ってからは特に北京、広州、深セン、上海等の大都市で価格の上昇が拡大してきている84別ウィンドウで開きます(第1-4-12図(1))。また新築住宅販売住宅価格をみても、これら大都市の前年比上昇率はすべて20%を超えている(第1-4-12図(2))。

このような12年後半以降の住宅価格の上昇の要因としては、まず12年半ばまでに行われた金融緩和策85別ウィンドウで開きますによって過剰流動性が生じ、その資金が不動産市場に流れていることが考えられる。さらに、13年3月に国務院より不動産価格抑制策が打ち出されている86別ウィンドウで開きますものの、その後政府の関心が主に景気の下支えに移ったこともあって、抑制策が十分に機能せず、新たな規制も打ち出されなかったことや、最近では13年7~9月期に入って海外からの資金流入が増加し、それが不動産市場に流れていると指摘する向きもある。

最近の急激な価格上昇によって不動産バブルの再燃が懸念される中、北京市では、10月に新たな不動産価格抑制策87別ウィンドウで開きます及び、13年内に2万軒分以上の自住型分譲住宅地の供給を確保することなどを取り決めた「中低価格の自住型・改善型分譲住宅88別ウィンドウで開きますの建設を加速することに関する意見」が打ち出された。

同様の不動産価格抑制策は、深セン市や上海市89別ウィンドウで開きますにおいても打ち出されているが、過去の経験からして、抑制策がどれだけの効果を上げられるかは不透明であり、今後とも不動産価格の動向については注目していく必要がある。

第1-4-12図 不動産価格動向:再び上昇

(4)物価は安定的に推移する中、過剰流動性に対する政策動向に変化の兆し

消費者物価上昇率は前年比2%台で推移しており、13年目標値の3.5%前後を下回っている。ただし、このところ食品価格の上昇により、9~10月はやや高まっている(第1-4-13図)。

第1-4-13図 消費者物価上昇率:2%台の安定した伸びが続く

こうした状況の下で、政策金利は12年7月の引下げ以降は変更されておらず、預金準備率にも変更はなく、公開市場操作によって短期金融市場で資金の微調整を行っているが、基本的には金融緩和の状態を保っている。

上記の動きに加え、貿易決済を装った海外からのホットマネー等の資本流入や為替介入等により、マネーサプライは13年の目標の13%を上回る伸びで推移し、マーシャルのk(名目GDPに対するマネーサプライの比)は上昇傾向にある(第1-4-14図、第1-4-15図)。

第1-4-14図 マネーサプライ:目標を上回る伸びで推移
第1-4-15図 マーシャルのk:上昇傾向

これらの動きから市場には過剰流動性が生じ、余剰資金は新規銀行貸出や理財商品、不動産投資等に向けられていると考えられる。

新規銀行貸出額については、13年1~3月期は高い伸びを示しているが、4~6月期では低下し、7~9月期は持ち直している(第1-4-16図)。新規銀行貸出の内訳をみると、個人向けの貸出が堅調に推移しており、個人の住宅ローン残高が増加しているため住宅ローンを中心に伸びていると考えられる。

一方、新規銀行貸出以外の資金調達の項目を含めた社会融資総量をみると、信託貸付等が含まれる「その他」にけん引され、13年1~3月期は前年比60%を超え、4~6月期以降は「その他」を中心に伸びは低下しているが、依然として高い伸びで推移している(第1-4-17図)。

第1-4-16図 新規貸出:個人向けは堅調に推移
第1-4-17図 社会融資総量:信託貸付等の「その他」の取引が減少

資産運用商品である理財商品90別ウィンドウで開きますも残高は増加しており、12年末から13年6月末の半年で残高は約2兆元増加し、発行数も前年比約40%増と販売は好調である。理財商品の収益率は4~5%程度と1年物の預金基準金利よりも高い水準で推移しており、銀行窓口やインターネット等で販売されていることから、個人の資金運用先として選好されていると思われる。不動産投資については前述のとおり、不動産価格が上昇しており、資金が不動産市場に流れていると思われる。

第1-4-18図 理財商品:残高は増加

上記のように、金融当局は基本的には緩和状態を保っているが、過剰流動性に対して一部対応する動きもみられる。

13年6月に上海銀行間取引レートが高騰した際には、中国人民銀行(中央銀行)は市場に資金を追加放出せず、金融に関して厳しいスタンスを示した。その後、中央銀行は流動性管理と資産負債の管理の改善を求める声明を公表したため、短期金利の高騰は過剰流動性問題に対する警告であると思われる。マネーサプライは目標以上で推移し、李総理も市場に資金は十分に存在していると述べていることから91別ウィンドウで開きます、流動性がひっ迫したのは資金の偏在という構造的な問題によるものと指摘されている。

また、海外からのホットマネー流入に対する外貨流入管理強化を実施するなど、過剰流動性の一因について管理強化を行っている。加えて、13年初めから大都市部の不動産価格が上昇(前掲第1-4-12図(1))しているため、投機的な動きを抑制するための規制策を実施しており、理財商品に対しては情報登録義務を課すなどの政策を打ち出している。基本的には金融緩和状態に保ちつつ、過剰流動性問題には個別規制で対応する方針であることが一連の動きからうかがえる。

このような規制策を実施する一方で、13年7月には貸出基準金利の下限を撤廃し、10月にはプライムレート(1年物)の公表を開始するなど、更なる市場化を推進している。前述の三中全会においても、重点改革分野のうちの一つとして人民元の国際化等の金融市場システムの整備を行う方針が定められており、今後の市場化の動向に留意する必要がある。

2.景気の持ち直しの動きがみられた韓国、台湾

韓国及び台湾の景気の現状は、いずれも足踏み状態から持ち直しの動きがみられてきている。産業構造の違い等から持ち直しのテンポには差があるものの、景気のけん引役としてはいずれも輸出の寄与が大きく、以下では内外需の動向の変化について、景気の鍵となる電子・電気分野を中心に概観する。

(1)内外需ともに持ち直しの動き

韓国では2012年7~9月期を底に実質経済成長率は上昇し、13年には4~6月期及び7~9月期はともに前期比年率4%台と約2年ぶりの高成長となった(第1-4-19図(1))。台湾では、韓国より1四半期早く12年4~6月期を底に高まりをみせ、13年以降の成長率はやや低下しているものの、いずれも持ち直しの動きがみられてきた。

このように成長率が高まった背景には、景気の最大のけん引力92別ウィンドウで開きますである輸出の持ち直しが挙げられる。後述するように、韓国、台湾では半導体等のIT財を中心とした輸出の持ち直し等がみられた。

また内需をみても、韓国では徐々にその寄与は高まっている。新政権93別ウィンドウで開きますの経済対策による公的支出増もある中、低迷する不動産価格等の影響は残るものの民間消費等の民需も上向いてきており、輸出ともに景気に寄与している。同様に、台湾でも民間消費や投資の増加等がみられ、両者とも12年に実施された内需の活性化を目的とした景気刺激策94別ウィンドウで開きますによる一定の効果も表れてきていると考えられる。

第1-4-19図 実質経済成長率:内外需に持ち直しの動き

(2)電子部品を中心とするIT財の持ち直し

韓国、台湾の輸出においては、半導体等の電子・電気分野(以下IT財)のシェア95別ウィンドウで開きますがともに最も高く、生産及び輸出動向では中国の景気動向、ひいては世界的な半導体の需要等に左右される点で共通している。

まず、世界の半導体出荷動向をみると、日本では依然弱い動きであるが、韓国、台湾を含むアジア太平洋地域を中心に、13年初以降回復してきた(第1-4-20図)。

第1-4-20図 世界の半導体出荷:アジア太平洋地域を中心に持ち直し

次に、こうしたIT財を含む輸出動向を確認すると、韓国、台湾ともに半導体を含む品目(韓国:電気機械、台湾:電子部品等)96別ウィンドウで開きますが13年4~6月以降持ち直していることが分かる(第1-4-21図(1)、第1-4-22図(1))。

輸出全体では、韓国ではIT財輸出の堅調な増加の一方、その他の財97別ウィンドウで開きますの影響を受けた増減もみられるが、台湾においては比較的輸出シェアの高いIT財の動向が全体をより大きく左右していることが分かる。

第1-4-21図 韓国の輸出動向:IT財や中国向け輸出は底堅い動き
第1-4-22図 台湾の輸出動向:IT財と中国向け輸出には一定の相関も

中国向け輸出をみても、ともに12年末頃から持ち直しがみられ、これがIT財等の品目別の動きにも表れているとみられる(第1-4-21図(2)、第1-4-22図(2))。

一方、13年7~9月期で台湾の伸び率がマイナスに転じており、両者の明暗が分かれている。韓国、台湾とも輸出全体に占める中国向けのシェアは約25%前後と大差ないが、品目別では中国における液晶パネルの在庫調整の影響による光学用機器類の減少が寄与しており、過去の推移からも台湾の方がIT財と中国向け輸出が同調しており、輸出全体に影響する度合いも強いとみられる。

次に、こうした輸出動向を踏まえて、IT財の生産動向をみると、韓国は12年10~12月期の大幅増の後、13年前半は弱い動きとなり、台湾も12年の好調を維持できず、いずれも13年4~6月期にかけて弱い動きとなったが、このところ7~9月期には持ち直している(第1-4-23図)。

第1-4-23図 IT財の生産動向:半導体を中心に持ち直し

IT財に関する背景には、韓国では多機能携帯電話(スマートフォン)やタブレット端末において自国製品の世界シェアが高まるなどのプラス要因がある一方、台湾においてはパソコンや液晶パネル等の需要不振が挙げられる。加えて、韓国では輸出品目がより多様である一方、台湾は輸出品目の約半分をIT財が占めており、IT財に特化した産業構造の影響が強いといえる。

また、半導体の出荷在庫ギャップをみると、足踏み状態にある(第1-4-24図)。例年1~3月期の中国の春節(祝日)後から、年末のクリスマス商戦にかけては、半導体は出荷が増える時期と考えられるが、世界の半導体出荷動向においても持ち直してはいるものの、力強さに欠けた動きともみられる(前掲第1-4-20図)。

第1-4-24図 出荷在庫ギャップ:足踏み状態

今後については、在庫や出荷の動向に加え、両者のIT財の動向に異なる動きが生じるのかなど、IT財の生産及び輸出動向を通じた景気への影響に注視する必要があろう。

(2)消費者物価上昇率はともに安定、金融政策は据置が続き景気を下支え

韓国、台湾ともに、消費者物価上昇率は燃料価格の低下等により低下傾向にある(第1-4-25図)。こうした物価の低位安定により、金融政策は韓国の13年5月の利下げを最後にその後据置が続いている(第1-4-26図)。

第1-4-25図 消費者物価上昇率:低下
第1-4-26図 政策金利:据置が続く

3.景気持ち直しの動きが緩やかになるASEAN諸国

(1)実質経済成長率は総じてやや低下

ASEAN諸国98別ウィンドウで開きますの実質経済成長率の動向は、13年に入り総じてやや低下傾向にあり、内外需ともにやや鈍化がみられる(第1-4-27図)。

共通した背景としては、欧米経済の緩やかな回復や中国経済の拡大テンポが鈍化したことなどから輸出がマイナスの影響を受ける一方、比較的好調な内需による輸入増から、輸出入ネットでみた純輸出(外需)が悪化したことと、これまで政策要因等99別ウィンドウで開きます もあり好調さを維持してきた内需がやや鈍化していることが挙げられる。

一方、各国の政策や天然資源の保有の違い等から、景気にはばらつきもあるため、以下では内外需ごとに各国動向を概観する。

第1-4-27図 実質経済成長率:総じてやや低下

まず、各国の内需の動向をみると、インドネシアでは、内需のうち民間消費は比較的堅調に推移しているが、13年に入り総固定資本形成の鈍化傾向がみられる。特に、4~6月期以降はアメリカの金融緩和縮小観測の影響等により通貨安が進む中、相次ぐ利上げや先行き不透明感等からそれが顕著となっている。

タイでは、自動車購入支援策100別ウィンドウで開きますの12年末終了による駆込み需要の反動減等により、13年に入り内需は消費及び投資ともに弱い動きが続いている。

マレーシアでは、消費刺激策等から民間消費及び政府消費が底堅く推移するものの、大型のインフラ建設工事の実施等により高伸していた総固定資本形成が13年以降、増勢が緩やかになっていることが影響している。

シンガポールでは、12年4~6月期から内需が大きく鈍化している。良好な雇用環境に支えられ、民間消費は鈍化の程度が比較的軽微となっているものの、総固定資本形成は12年4月からの金融引締め等から、設備投資を中心に減速が続いている。また、近年では在庫の変動による寄与が大きい傾向にある。

以上みたように、消費は国によって政策の違い等からばらつきがみられ、投資は総じて鈍化傾向にあるといえる。

次に、外需の動きをみよう。まず輸出動向に着目すると、輸出は実質GDP(除く在庫)と似た動きを示しており、輸出の動向が経済成長率に大きく寄与していることが分かる101別ウィンドウで開きます(第1-4-28図)。

第1-4-28図 実質GDP・輸出・生産:輸出動向が実質GDPに影響

また各国の中国向け輸出102別ウィンドウで開きますの動向をみると、中国の輸出鈍化103別ウィンドウで開きますに伴って鈍化傾向にあることが分かる。各国からの中国向け輸出が鈍化したほか、輸出全体も国際的な分業体制を通じて間接的な影響を受け、ASEAN内の域内貿易が減少したことも考えられる(第1-4-29図)。

第1-4-29図 中国向け輸出:中国からの輸出鈍化に伴って鈍化傾向104別ウィンドウで開きます

(2)消費者物価上昇率と政策金利の動き

消費者物価上昇率は、11年における国際的な原油価格の上昇等の物価上昇圧力が緩和されたこともあり、12年以降総じて安定的に推移していたが、このところ高まりがみられる(第1-4-30図)。

特にインドネシアでは13年に入り、年初の洪水による食品価格の上昇のほか、13年6月の燃料補助金の削減によるエネルギー価格の上昇等から高伸している。そのため、インドネシアでは金融政策は引締めに転じ、13年6月より政策金利を5回引き上げている(計175bp引上げ)105別ウィンドウで開きます

その他のASEAN諸国でも上昇率がやや高まっているところもあり、また各国のドルレートは減価傾向にあり、物価に与える影響が懸念される(第1-4-32図)。

第1-4-30図 消費者物価上昇率:高まりがみられる
第1-4-31図 政策金利:インドネシアは5回利上げ
第1-4-32図 ドルレート:減価傾向

4.減速の続くインド経済

インドでは、経済成長率は11年以降鈍化し始め、13年に入っても低成長が続いている。景気の減速が長期化している背景としては、内外需の不振である。国内需要は慢性的な物価上昇とそれに伴う金利高により伸び悩みが続くものの、実効的な政策対応がとられておらず、先行き不透明感もある。また世界の景気は13年半ばにかけての中国や欧州経済の減速等もあり、純輸出としては依然としてマイナスとなっている。さらに、13年5月以降のアメリカの金融政策の影響によるルピー安の進行等から、金融政策は緩和から引締めスタンスに転じている。

弱まる経済成長と物価上昇から政策運営は困難さを増し、インド経済を取り巻く環境は厳しさが続いている。以下では、インド経済の現状について概観する。

(1)長引く景気減速

インドの実質経済成長率は12年度(12年4月~13年3月)に前年比5.0%と、10年ぶりの低成長となった以降も、13年4~6月期にも同4.4%となるなど、景気は減速している(第1-4-33図(1))。産業別にみると、11年後半以降低迷している製造業に加え、これまでインド経済をけん引役してきた商業・ホテル・運輸・通信等のサービス業も低調な経済活動を反映して12年後半以降伸びが鈍化している。また、需要項目別にみても、引き続き消費や投資といった国内需要の伸びが一段と弱まり、純輸出もマイナスが続いている(第1-4-33図(2))。

第1-4-33図 実質経済成長率:景気は減速

国内需要が低迷する背景には、慢性的な物価上昇とそれに伴う金利の高止まり等が挙げられる。卸売物価上昇率106別ウィンドウで開きますは、景気鈍化や国際商品価格の下落等を受け、12年後半から13年前半にかけてやや低下したものの、依然として高い伸びが続いている(第1-4-34図)。インド準備銀行(中央銀行)は物価上昇率が低下した同時期に、景気配慮から利下げを行ったが、その後、13年5月以降のアメリカの金融緩和縮小観測の影響によるルピー安の進行(後述)等から、金融緩和から再び引締めスタンスに転じ、13年9月に中央銀行総裁に就任したラジャン氏は、インフレ抑制を重視し、同月から政策金利の利上げを行うなど金融引締めを強めている(第1-4-35図)。

第1-4-34図 卸売物価上昇率:依然として高い伸びで推移
第1-4-35図 金融政策:再び引締めへ

(2)金融資本市場における変動とインド経済に与える影響

13年5月下旬にアメリカの金融緩和縮小観測が生じて以来、新興国をめぐる国際金融資本市場は大きく変動した107別ウィンドウで開きます。新興国の中でも通貨ルピーの下落幅は比較的大きく、最も減価した8月下旬には約25%の下落となった108別ウィンドウで開きます

通貨下落となった背景には、慢性的な物価上昇や双子の赤字というインドの脆弱な経済構造があると考えられる(第1-4-36図)。また、資金ファイナンスの構造をみても、中長期的な資金である直接投資よりも、証券投資や借入等のその他投資といった短期的資金へのシェアが高く、金融資本市場の変動にさらされやすい構造にあるといえる(第1-4-37図)。

第1-4-36図 双子の赤字:拡大傾向
第1-4-37図 資本収支:短期資金の割合が高い

通貨安のこれまでの影響をみると、ルピー建て輸出額は増加しており、一定のプラス効果109別ウィンドウで開きますもみられる(第1-4-38図)。一方、貿易を通じた景気への影響よりも、前述のとおり、輸入インフレを通じた物価上昇等の実体経済へのマイナス面が表れており、景気への影響が懸念される。

第1-4-38図 実質輸出入(ルピー建)と為替レートの動向:貿易には一定の効果

また、通貨変動に対するリスク耐性として、外貨準備高の輸入月数や短期対外債務残高の対比を確認すると、適正規模とされる目安110別ウィンドウで開きますを上回っているものの、08年の世界金融危機時より低い水準となっている点にも留意が必要であろう(第1-4-39図)。

第1-4-39図 リスク耐性:適正規模を上回るものの、水準の低下も

インド当局は、短期的な景気の回復だけでなく持続的な発展につながるよう、短期的な対応に止まらず、慢性的な双子の赤字状況からの改善を図るための構造改革を進めるなど中長期的な取組が問われる状況にあるといえよう。

5.アジア経済の見通しとリスク

(2)経済見通し(メインシナリオ)― 成長率は以前より低下

中国では、13年7~9月期の実質経済成長率は前年比7.8%となるなど、12年4~6月期から6期連続で7%台となっており、成長率は以前111別ウィンドウで開きますより低下している。一方で、政府の成長目標(7.5%)に沿うものともなっており、また高成長より経済発展パターンの転換を優先するという政府の基本方針に沿ったマクロ経済運営によるものと考えられ、景気の拡大テンポは安定化しつつあるといえる。先行きについては、こうした安定的なテンポで、緩やかな拡大傾向が続くと見込まれる。

韓国、台湾では、一部に緩やかになる動きがあるも、景気は持ち直しの動きがみられており、先行きについては、世界景気の底堅さが増すに従い次第に持ち直していくことが期待される。

ASEAN諸国では、持ち直しの動きが緩やかになっているものの、先行きについては、比較的堅調な内需とともに、ほかのアジア地域同様、世界景気の底堅さが増すことに従い外需も回復し、全体として持ち直しの動きが続くと見込まれる。

インドでは、景気は減速しており、先行きについても、当面低い成長となることが見込まれる。

国際機関の見通しをみると、14年のアジア経済の成長率は、低めの成長率が見込まれる。中国は12、13年とほぼ変わらず7%台半ば、韓国・台湾は成長率の低下が目立った12年からやや上昇し3%台半ば、ASEAN諸国はやや低下し4%台後半、インドはやや持ち直し5%前後112別ウィンドウで開きますの成長率が見込まれている。

第1-4-40表 アジア各国の実質経済成長率の見通し

(3)経済見通しに係るリスク要因

アジア経済の先行きに関するリスクは、以下のとおり下方に偏っており、特にアメリカにおける金融政策や財政問題の動向如何によっては、アジア経済に与える影響が懸念される。

(i)金融市場をめぐる動向や輸出環境の悪化

アメリカにおける金融政策の変更とそれによる資本市場の変動のうち、特に為替動向や、同国の債務上限問題といった財政問題の対応如何によっては、世界景気の下押し要因となる可能性がある。いずれもアジア経済にとっては最終需要地の需要が縮小し、輸出を通じた影響が懸念される。

また、株価下落等の資産効果を通じた個人消費や、信用収縮に伴う資金調達コストの増加による設備投資の抑制等の内需の縮小、通貨安による輸入を通じた物価上昇等のおそれもある。

(ii)中国経済の減速

12年半ば以降、中国における不動産価格はこれまでの低下局面から反転し、上昇を続けている。そのため、政府は引き続き不動産価格抑制策を継続しているほか、中央銀行による資金供給が引締め的になるなど、不動産価格上昇の背景にある過剰流動性に対する政策に変化の兆しもみられている。

金融政策は緩和的なものとなっているものの、その政策の方向性に変化が生じると、不動産市場だけではなく実体経済にも広く影響が及び、景気の下押し圧力となる可能性がある。その結果、逆に不動産価格の急落が生じ、不動産投資の調達手段の一つとなっているシャドーバンキングに大きな変化が生じる場合には、地方政府の財政悪化等が引き起こされ、シャドーバンキングを通じた金融危機や、投資等の実体経済が急激に冷え込む可能性もある。

なお、中国については、関係国との間で安定的な対外経済関係が維持されていくことが重要であり、こうした点についても注視していく必要がある。

(iii)物価上昇の再加速

アジア地域においては、物価はおおむね安定しているものの、一部の国では、通貨安や資源価格の上昇等を通じた物価上昇もみられている。今後も輸入物価の上昇等により再び物価上昇が加速する可能性もあり、引き続き物価の動向に留意が必要である。

仮に、物価が再び上昇に転じた場合には、実質所得の低下や消費への下押し圧力等を通じ、実体経済面へ影響を及ぼすことが懸念される。

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