第2節 アメリカ経済
アメリカ経済は、2009年6月より景気回復局面に入り、それ以降、経済の7割を占める個人消費が緩やかな増加傾向を続けるなど、全体として緩やかな回復を続けている。他方、財政問題については、13年初にいわゆる「財政の崖5」問題をめぐる議会での調整難航があり、10月には14年度予算についての調整難航から一部連邦政府機関の閉鎖、債務不履行(デフォルト)懸念の高まりといったかく乱要因があった。また、金融政策では、FED(連邦準備制度)による資産購入額縮小観測から、市場金利の上昇等の動きがみられた。
本節では、こうしたアメリカ経済の動向について、まず、実体経済の回復の強さについて分析した上で、引き続き懸案が残る財政問題と、これまでの経済下支えからの縮小を模索する金融政策の現状と先行き、課題について概観する。
1.緩やかな回復を続けるアメリカ経済
アメリカ経済は09年6月の回復局面入り以後、実質経済成長率では11年1~3月期にマイナス成長を記録したものの、その後2年半にわたりプラス成長を維持している。雇用環境はペースに波はあるものの着実に改善しており、また、12年半ば以降住宅価格は上昇ペースが拡大し、好調な企業業績を背景とした株価上昇とあいまって資産効果を通じて家計消費を下支えしている。また、設備投資は年初のいわゆる「財政の崖」の大部分が回避されたことや、欧州政府債務問題が落ち着きをみせ、中国経済も安定がみられること等から持ち直しの動きがみられる(第1-2-1図)。
しかしながら、財政問題については、14年度の政府予算案等をめぐる調整難航による10月の連邦政府機関閉鎖や債務不履行(デフォルト)懸念は当面回避されたものの、14年初にも再び今回のような緊迫した状況に陥る可能性もあり、マインドの低下を通じた個人消費の低下や設備投資の抑制が懸念される。また、金融政策については、5月にバーナンキFRB議長が、現在FEDが実施している資産購入額の縮小を示唆すると住宅ローン金利が上昇し、12年半ば以降増加していた住宅着工件数の伸びが鈍化する等住宅市場に動きがみられたことから今後の動きが注目される。
(1)緩やかな増加傾向が続く個人消費
個人消費は13年7~9月期に1.5%成長となるなど、緩やかな増加傾向にある(第1-2-2図)。この背景として、所得環境の改善が続いていること、株価・住宅価格の上昇による資産効果が挙げられる。このうち、所得面については、雇用情勢が改善を続けている中で、物価が安定的に推移し実質ベースの所得環境が安定していること、さらに、財政健全化の動きが可処分所得を下押しする程度が小さかったことが挙げられる。以下では、これらの視点から個人消費の増加傾向の持続性を評価する。
まず、所得環境の動きについて名目可処分所得の内訳を寄与度でみると、給与(社会保障)税減税の失効等により13年初の社会保障負担や所得税負担が増加し、マイナスの寄与となっている6。一方、雇用者報酬は安定的に推移しており、株価上昇等を背景に資産収入等の増加もあって、可処分所得全体としてはその後徐々に回復してきている様子がうかがえる(第1-2-3図)。
次に、所得環境を支える雇用情勢に目を向けると、雇用者数の伸びは10月に前月比で20万人増となるなど引き続き増加しているほか、失業率は低下傾向にあり、雇用情勢は改善が続いている。このうち、製造業における雇用者数の伸びについては、12年以降13年初にかけて増加傾向にあったものの、3月以降減少傾向で推移するなど不安定な動きを示している一方で、サービス業では堅調に増加しており、全体として雇用者数が増加する結果となっている。サービス業の中では、小売業やレジャー・接客業が12年後半以降の雇用者の増加7をけん引しているが、こうした業種では平均賃金が低いこともあって、雇用者報酬全体の伸びを抑制している(第1-2-4図)。
一方、家計所得全体の動きをみると、10年以降平均所得は伸びているものの、中位所得は07年以降おおむね横ばいで推移している。こうしたことから高所得者層の所得が増加し所得格差が拡大8していることが考えられ、依然として低所得層を中心に厳しい環境にある者の存在がうかがわれる。ただ、厳しい環境にある者も今後住宅価格の上昇とともに、景気回復が次第に加速することで所得環境が更に改善してくれば、個人消費に厚みが増すことが期待できる(第1-2-5図)。
こうした所得面の改善が緩やかである一方、家計のバランスシート調整はかなり進展している。負債側では消費者ローンが増加している一方で、住宅ローンは減少9しており全体としては横ばいで推移している。一方、資産側では住宅価格が12年以降上昇を続け、株価も一時史上最高値を更新するなど上昇傾向にあることから、不動産を始めとした実物資産や株式等金融資産が増加している。これらの結果、債務残高は総資産比、可処分所得比のいずれでも低下している(第1-2-6図)。住宅価格回復がピークの8割にとどまっており、所得格差が拡大していることから、個別には依然としてバランスシート調整が進展中のものも存在すると考えられるが、全体としてみれば、家計のバランスシート調整は終盤を迎えている。
なお、住宅バブル崩壊で、住宅価格が大きく下落したことにより、「ネガティブ・エクイティ10」件数が急増した。しかし、住宅価格の上昇を背景に同件数は減少しており、住宅ローン所有件数全体に占める割合は、直近ピークの11年10~12月期の25.2%から13年4~6月期には14.5%まで減少している。また、件数自体も11年10~12月期と比べると41.3%減と、半分程度となっている(第1-2-7図)。ただし、全体でみれば減少しているものの、地域により差があり、住宅価格が元の水準に戻りきれておらず差押在庫率も高水準のフロリダ州やネバダ州では、依然30%強がネガティブ・エクイティとして存在している11。
金融機関の貸出態度をみると、FRBが四半期ごとに調査している結果からは、自動車等の消費者向けローンに対する貸出態度がやや緩和している様子がうかがえる。所得環境が緩やかながら改善しており、家計のバランスシート調整も終盤を迎えていることから貸出需要が回復しているといった指摘もあり、自動車ローン等の非リボルビング信用12を中心に信用の拡大につながっていると考えられる(第1-2-8図、第1-2-9図)。
なお、前回の景気の谷である01年11月13前後の貸出態度と09年6月が景気の谷となる今回の状況を比べてみると、今回の方が景気の谷前後で金融機関の貸出態度が非常に厳しくなっている一方、徐々に緩和していく様子にはそれほど差がないことが分かる。ただし、今回の景気回復局面においては、景気の谷での貸出態度がより厳しかったこともあり、一定期間に貸出態度を緩和する割合は高い。
こうした自動車ローン等の非リボルビング信用を中心とした信用の伸びは可処分所得の伸びを上回って推移しており、信用全体の可処分所得比は緩やかながら上昇傾向にある(前掲第1-2-9図)。一方、金融機関における不良債権比率はおおむね10年1~3月期をピークに低下14している。また、5月以降住宅ローン金利には上昇がみられたが、自動車ローン金利等は低水準で推移しており、所得環境の改善が続く一方で信用の質の悪化がみられなければ金融機関の貸出態度が今後厳格化せずに推移し、個人消費を下支えすることが期待される(第1-2-10図)。
一方、消費者マインドの動きをみると、世界金融危機前と比較すれば7割程度の水準にとどまり、また、「財政の崖」や歳出の自動削減15が発現する時にいったん消極的な動きがみられたが、大きな流れでみれば09年初を底に改善基調で推移している(第1-2-11図)。また、家電や自動車、住宅に関する今後半年以内の購入予定16も、幅はあるものの、低下基調はみられず、危機後の最高水準となっている。ただし、10月1日から16日まで連邦政府機関が閉鎖されたこと等から、7月以降危機後の最高水準にあった指数は10月に大きく低下しており、この状態が続きマインドの低下が個人消費の鈍化につながることが懸念される。
(2)住宅市場を取り巻く環境の変化
(i)最近の住宅市場の動き
家計の主要な投資行動と位置付けられる住宅投資は、住宅バブルの崩壊以降、回復の途上にある。GDP統計の住宅投資でみると、10年の10~12月期に伸び率がマイナスからプラスへ転じて以後、プラス成長を続けており、12年7~9月期からは二けた成長を5四半期連続で維持している。
一方、住宅着工件数の変化でみると、12年後半に伸びが急速に高まったが、13年春先以降は弱い動きとなっている。こうした伸びの鈍化の主な要因としては、金利の上昇が多く指摘されており、それを背景に住宅ローン申請件数が低下しており、このほかでは供給面でのボトルネックや、新築住宅から中古住宅へのシフトという要素もある。以下ではこれらの項目を個別に概観する。
まず、金利動向に関しては、12年9月にQE3によるMBSの追加購入決定17により、住宅ローン金利が一段と低下し、12年11月に史上最低の水準になったことがある。また、12年末に終了した「満期長期化プログラム18」に代わり中長期のアメリカ国債を毎月450億ドルのペースで購入する決定や、12年末から13年初のいわゆる「財政の崖」の多くが回避されたこともあり、12年12月にかけて住宅着工が加速した。こうした動きは、住宅着工件数の先行指標である住宅許可件数の動向からもみてとれる(第1-2-12図)。
しかしながら、市場に金融緩和縮小懸念が生じた13年5月以降、金利19が4月の3.4%から6月の4.5%へと1%ポイント強上昇し、約2年ぶりの高い値をつけるなど、金利が上昇した20。こうしたことから、住宅着工件数は6月以降横ばいで推移している。また、住宅購入時に住宅ローンを利用する人は全体の約2/3を占める21が、金利上昇を受け、住宅ローン新規申請件数は減少へと転じており、消費者が住宅ローンの申込みを躊躇していることがみてとれる(第1-2-13図)。一方で、住宅着工件数が伸び悩んでいる背景の一つとして住宅市場の回復が予想より早まったことや急激なものとなったことで、建築資材や建築可能な用地、さらに熟練労働者の不足といった供給側の要因を指摘する向きもある。
住宅着工件数の動きを需要側の動きから確認するため、住宅販売件数を住宅着工の動きに一致する「新築」とそうではない「中古」に分けてみると22、世界金融危機以後、新築住宅が伸び悩む一方で中古住宅が堅調に推移している(第1-2-14図)。元々アメリカの住宅需要は中古住宅の割合が9割程度23を占めるが、最近は中古住宅に需要がシフトしている。中古住宅が相対的に有利な理由としては、金融緩和縮小観測による金利先高観がある現状を踏まえ、新築住宅の完工を待つのではなく、中古住宅を購入したほうが、低い金利で借入れコストを確定できることがある。また、両者の中位価格のかい離(新築住宅中位価格-中古住宅中位価格)は小さくなったものの、依然4万ドルを下回らない水準で推移しており(第1-2-15図)、価格の手頃な中古住宅を選択する動きもあるといえる。
(ii)住宅市場の先行き
前項では住宅市場が12年後半以降、改善ペースを加速させつつも、13年春以降はペースが鈍化してきた様子を概観した。ここでは、住宅市場の先行きについて、今後の人口推移を踏まえて概観するほか、現在低水準にある在庫件数の先行きを住宅価格とも関連付けながら概観し、最後に住宅取得環境等について確認していく。
人口伸び率は鈍化するとはいえ、人口総数は将来的に増加することが見込まれている。特に16年をピークとし、ベビーブーマーの子供にあたる世代が20歳後半から30代に達し、新たな世帯形成を通じ住宅購入が加速するといった見方もできることから、今後も住宅に対する需要は底堅いと考えられる。また、金利の先高観はあるものの、雇用環境の改善が続き、住宅ローンの貸出態度の緩和等が実現すれば、現在、勢いが鈍化している住宅市場は次第に回復していくことが期待される(第1-2-16図)。
一方、住宅価格は、上昇を続けている。これは、在庫件数が依然低水準で推移し、在庫販売比率も適正と言われている6か月を下回ったままで推移していることが背景にある(第1-2-17図)。また、「隠れ在庫(Shadow Inventory)24」も185万件(前年比22.3%減)と減少傾向にあることや、市場価格の約2割引25で販売され住宅価格の下押し要因となり得る差押件数26も緩やかな減少傾向にあることから、引き続き在庫件数は低位で推移することが見込まれる(第1-2-18図、第1-2-19図、第1-2-20図)。なお、差押件数減少の要因としては10年からロボサイナー問題27が指摘されていた。この手続上の瑕疵を理由に差押手続の差止め請求が全米規模で多発したことで、差押件数は一時的に低下するものの、裁判の結果次第で隠れ在庫が急増することが危惧されることとなった28。しかし、その後も差押件数は減少し、隠れ在庫も着実に数を減らしていることから、こうした隠れ在庫の問題も解決に向けて着実に前進している。
住宅価格上昇に伴い、住宅購入と収入の相関を表す指標である住宅取得可能指数(アフォーダビリティ)は低下傾向にある(第1-2-21図)。この低下により、消費者の住宅購入が減少することが懸念されているが、依然住宅ローンに対する収入の基準値である10029を上回る水準で推移しており、住宅購入者にとって比較的買いやすい状況にあるという見方は変わっていない。また、住宅価格上昇や雇用環境改善の継続等がこれまで住宅を購入したくても購入できなかった層による住宅購入を促進することが期待され、さらには、前述したように、今後はベビーブーマーの子供にあたる世代が新たな世帯形成を通じて住宅購入が増加することも期待される。同様の見方ができる指標として、新築一戸建て住宅販売に対する建築業者のマインド指数を表すNAHB住宅市場指数30の動きとも整合的である(第1-2-22図)。11年後半から、堅調に上昇しており、建築業者が住宅販売市場に対し楽観的な見方を強めていることを示唆している。
(3)先行き不透明な中での企業動向
企業の設備投資は緩やかに持ち直している。GDP統計の民間設備投資でみると、リーマンショック後の10年1~3月期に前期比伸び率がプラスに転じ、それ以降はおおむねプラス成長で推移している。
13年1~3月期は前期の設備投資減税終了31に伴う駈込みの反動減から、構築物32、機械機器が減少し、前期比年率4.6%減とマイナスとなった。(第1-2-23図)
13年4~6月期は同4.7%増、7~9月期は同1.6%増と回復しているものの、1~3月期の大幅減を踏まえると緩やかな持ち直しとなっている。構築物は総じて回復しており、減少が続いた商業施設、製造業が増加に転じている。機械機器は自動車販売の好調等により輸送機器が伸びているほか、情報機器(ハード)等も回復を示していたが、13年7~9月期はマイナスとなっている。知的財産投資33では10年7~9月以降ソフトウェア投資34がおおむねプラス寄与となっている。こうした設備投資の動向について、先行指標の動き、設備投資計画の動きをみた上で、企業の景況感、収益の動向、設備稼働率の動向を概観する。
まず、設備投資の先行指標は強弱混在している。機械機器投資の先行指標であるコア資本財受注は13年初と比較して増加基調で推移していたが、9月は前月比1.3%減となっている。一方で、構築物投資の先行指標である民間非住宅建設支出の動向は緩やかな増加基調で推移している。
次に設備投資計画をみると、ニューヨーク連銀とフィラデルフィア連銀の製造業業況調査における企業の設備投資動向では、財政の不透明感の緩和と海外要因の改善がみられた6月以降設備投資意欲は総じて高まった(第1-2-24図)。また、10月1日より連邦政府機関の一部が閉鎖されるなど財政の不透明感が高まる中で調査された10月の結果においても、指数の低下はみられたものの、大きく減少することはなく、企業経営者はそれほど悲観的にみていないと考えられる35。
この背景にあるものとしてまず、企業の景況感指数の推移をみると、同様の動きがみられる。12年末には「財政の崖」問題の回避により持ち直したものの、13年3月以降に歳出の強制削減等の財政問題をめぐる不透明感から低下した。しかし、その後、財政問題の先行き不透明感の緩和、海外需要回復期待もあり、7月以降、ISM製造業、ISM非製造業、中小企業の景況感を示すNFIB楽観指数も総じて上昇しており、企業の景況感の改善が進んでいる36(第1-2-25図)。
また、企業収益は堅調に推移している。しかし、企業には設備投資よりも内部資金を蓄積する動きが継続しており、企業は内部資金(余剰資金)を自社株買いや増配に充てる傾向がある。財政の強制削減をめぐる不透明感や、これまでの海外需要が弱かったことが、積極的な投資を抑制した一因と考えられるが、前述したように企業マインドは好転しており、今後こうした動きが改善すれば投資に向かう可能性がある。
設備稼働率は新規投資の目安とされる80%の水準を前に足踏みが続いている(第1-2-26図)。生産能力を増強し、増産を目指す設備投資は、仮に業績が悪化すると収益への足かせになる。このため、生産の変動に対しては、生産性の向上もあって雇用者の増減で調整していると推察される。企業はリーマンショック以降テールリスクを意識する傾向から、能力拡大より効率化により対応し、大きな設備投資に踏み切れない状況といえる。企業マインドが示すように、今後需要に対する不透明な状況が払拭され、設備投資が増加するかが注目される。
鉱工業生産の動向をみると、12年末にかけてのハリケーン・サンディの復興需要が一巡し37、13年3月の歳出の自動削減による影響の不透明感、世界経済の減速懸念により、おおむね横ばいで推移したが、足下で生産は緩やかに持ち直している。(第1-2-27図)。
このうち製造業の生産は業種によりまちまちであり、コンピュータや電子機器等のハイテク産業が底堅く推移している。自動車産業は、一時的な輸出の減少により弱い動きをみせる場合もあるが、国内で堅調な販売が続いており、8、9月は前月比5.2%増、2.0%増となるなど製造業全体をけん引している38。
このように鉱工業生産は緩やかに持ち直している一方で、企業の景況感は高水準で推移しておりかい離がみられる。そこで90年以降のISM製造業景況指数と鉱工業生産の推移を比較すると、マインドは景気に影響を与える事象に対し、特に景気の変わり目において実体よりも強く反応する傾向があることがわかる39(第1-2-28図)。
13年7月以降の財政問題をめぐる不透明感の緩和、海外需要の回復期待により、景況感が実態よりも強く反応し、先行きへの期待を示していることが考えられ、実際にこうした諸問題が前進するなど解決に向けた動きを続けることによって、生産活動も改善することが期待される。
外需については、09年以降の新興国経済の拡大等内外の需要回復の結果、輸出入は堅調に増加した。11年に発生した欧州債務危機等による世界経済の景気減速により、財・サービスの輸出入への影響がみられたものの、前年比10%を超える伸び率で推移した。
しかしながら、12年は海外経済の景気減速が深刻化したことから、輸出は同4.6%増、輸入は同2.8%増にとどまり伸び率は鈍化した。中でも財輸出は11年の同15.8%増から12年は同0.6%増へと拡大ペースが大きく鈍化した(第1-2-29図)。
13年に入っても前半はおおむね横ばいの状態が続いたが、夏以降財輸出は持ち直しの動きもみられる。ヨーロッパが債務危機の鎮静化により景気の底入れがみられ、中国においても景気の拡大テンポが安定化しつつあるなど外部環境の改善により、13年6月には月間の財輸出額の過去最高を記録した。一方、財輸入は堅調な国内需要を背景に拡大している。貿易赤字は輸出の回復もあり縮小傾向にあったが、直近では輸出を上回る輸入の増加により赤字幅は拡大している。
12年以降の財輸出を品目別でみると輸出品構成比で43%を占める資本財・自動車同部品の需要が大きく寄与した。一方で鉱業原材料が中国等新興国経済の成長減速により12年後半にかけて寄与はマイナスで推移した。直近ではヨーロッパ、中国の景気減速懸念の緩和により自動車・同部品の輸出回復の動きがみられる(第1-2-30図)。
国・地域別でみると12年は全ての地域で輸出の伸びが鈍化した。特に輸出シェア17.2%のEU向け輸出は債務危機の影響で、12年は前年比1.2%減となり、単月では12年7月以降12か月連続前年比マイナスで推移した。しかしながら、前述したように景気に底堅さもみられることから、13年7月にはプラスへ転じた(第1-2-31図)。また、中国向け輸出も持ち直しの動きが見られ、自動車・同部品等輸送用機器とコンピュータ・電子機器の輸出増加がけん引している。
2.財政・金融政策の動向
(1)財政政策等をめぐる政府の動向
(i)連邦政府の動向
アメリカ財政は世界金融危機に対応した財政出動の後、財政健全化を進めている。13年度には財政収支の改善が大きく進み、GDP比▲4.1%となったが、こうした動きについて、金融市場の動きと併せて概観するとともに、州・地方政府の動向について確認する。
12年末に給与(社会保障)税減税や高所得者に対する所得税等の減税措置の一部等は失効した。また、13年初に実施が予定されていた歳出の自動削減は2か月実施が延期された。その間、オバマ大統領と議会指導者との間で財政再建策についての調整が進められたが、こうした調整が不調に終わったことから3月1日には自動削減が開始40された。加えて、景気が緩やかな回復を続けていることから、税収が当初見込みよりも増加したほか、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)、連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)といった政府支援機関(GSE)からの配当金が国庫に充当されたことから、13年度の財政赤字は大きく減少することとなった(第1-2-32図)。
財政政策をめぐっては、当初より歳入・歳出のバランスのとれた政策を推し進めるオバマ大統領・民主党と、歳出削減により財政再建を進めたい共和党との間で調整が難航していた41。そうした中、14年度からは医療保険への個人の加入義務付けを内容とする医療保険改革法(いわゆるオバマケア)が本格的に実施されることから、共和党は14年度予算にオバマケアの実施に伴う予算を認めない方針を示していた(第1-2-33表)。13年度末が迫る中、オバマ大統領・民主党と共和党とのあつれきは激しくなり、結局年度末を迎えても決着はつかず、10月1日に96年以来の連邦政府機関閉鎖42という事態を招くこととなった43。
アメリカでは12年末に債務残高が法定上限44に達した後、法律上の規定に基づく異例の措置45による国庫の調整により対応し、債務不履行を回避していた。その後、13年2月には債務上限を定めた法の適用を停止し、5月19日に5月18日時点で発行している国債の金額まで債務上限を引き上げる法案が成立した。しかしながら、新たな債務上限46が設けられた5月19日が到来してもオバマ大統領・民主党と共和党との間で調整はつかず、その後も債務上限を引き上げることはできなかったため、国庫の調整により対応する状態が続くこととなった(第1-2-34図)。前述のように、当初見込みより税収が増加したことやGSEからの配当金の受領により財政収支が改善したこともあって、資金調達は当面確保できることとなったが、ルー財務長官は議会に対して、「(現在実施している)異例の措置による財政措置は10月17日までに尽き、その時点での資金は300億ドル程度となる」との書簡を送り、議会に対して可及的速やかに責任を果たすよう促した。
しかし、政府閉鎖から2週間が経過しても事態は打開されず、アメリカ国債の債務不履行(デフォルト)のおそれが生じる17日にかけて、金融市場の一部では次第に緊張感を増していった。10月17日以降に償還されるアメリカ国債の金利が急速に上昇したほか、共和党が多数となる下院でオバマケアの実施のための予算措置を講じない14年度予算が可決された9月20日以降、アメリカ国債のデフォルトリスクを織り込むようにCDS(Credit default swap)も上昇傾向となった(第1-2-35図)。
こうした中、上下両院では断続的に協議が進められ、10月16日に当面の措置としての2014年度暫定予算、債務上限の引上げを盛り込む法案が成立した(第1-2-36表)。当面政府閉鎖が解除され、デフォルトの危機が遠のいたとはいえ、オバマ大統領・民主党と共和党との隔たりは大きいままであり、今後その溝が埋まらなければ再び今回のような緊迫した状況に陥る可能性もあり、今後の動向が非常に注目される。
(ii)州・地方政府の動向
世界金融危機後に悪化した地域経済の影響により州・地方政府の税収は減少し、失業保険給付等が増加したことからこれら政府の財政は悪化した。しかしながら、州・地方政府は職員の削減等財政赤字削減策に取り組んだほか、地域経済も次第に緩やかな回復基調となったことから、09年をピークに財政赤字が減少傾向にある47。その一方で、実質経済成長率は11年半ば以降徐々にマイナス幅が縮小傾向で推移しており、13年7~9月期は前期比年率1.5%増となっている。また、雇用者数は09年に減少に転じて以降マイナスが続いていたが、13年は1月から10月までの累計で7.4万人増加しており、景気への下押し圧力は無くなりつつあると考えられる(第1-2-37図、第1-2-38図)。
(2)金融政策の動向
(i)資産購入額の縮小に向けた動き
FED(連邦準備制度)は12年9月、追加金融緩和48(いわゆるQE3)を決定した。決定時のFOMC声明文に「資産購入の規模やペース、構成を決定するに当たっては、委員会は常に、想定される効果とコストを適切に考慮する」との一文が追加された。
資産購入を目的とする効果は金融緩和を通じ、経済成長、ひいては雇用を下支えすることである。数人のFOMC参加者はMBS購入は住宅部門を直接的に刺激するため、中・長期国債購入よりも経済成長を支える効果があると主張していた。
一方、資産購入のコストとしてバーナンキFRB議長は12年8月の講演において、(1)流動性が低下し、証券市場の機能を損なうこと、(2)FEDの出口戦略に対する信認が低下し、インフレ期待が上昇する可能性があること、(3)長期的な低金利が過度なリスクテイクを助長し、金融安定を脅かすリスクがあること、(4)不測の金利上昇によりFEDが損失を被る可能性があること、の4つを挙げている。
以下では、QE3開始後、実際に過度なリスクテイクを助長し、資産価格にゆがみが生じていたのか、金融政策はどのような対応をしたのかみていく。
まず、金融資本市場の状況をみると、NYダウ平均株価は13年3月に史上最高値を約5年5か月ぶりに更新し、その後も右肩上がりで上昇を続けた(第1-2-39図)。ただし、株価収益率(PER)については過去の水準と比較しても特に高くはなく49、PERに着目すれば資産価格にゆがみは生じていないと考えられる。
一方、社債についてみてみると、12年9月以降にハイイールド債50の発行額が増加している(第1-2-40図)。また、ハイイールド債を構成銘柄とするETF(上場投資信託)の価格も上昇していた。
社債利回りと国債利回りのスプレッドは、世界金融危機前の04~07年の水準は上回っているものの、11年半ば以降縮小している。また、低格付の社債ほど縮小の程度が大きく、リスクのある債券を選好する様子がうかがわれる(図1-2-41)。
このような状況を指し、アメリカの金融資本市場における資産価格は高くなりすぎている(U.S. financial markets were becoming too buoyant)との懸念を数名のFOMC参加者が4~5月のFOMCで表明した51。
バーナンキ議長は5月の議会証言において、「経済見通し、特に労働市場の見通しが改善し持続可能と判断できれば、今後数回のFOMCにおいて資産購入額を縮小することは可能」といった旨の発言も行い、当面は金融緩和策を継続すると見込んでいた市場参加者を大いに驚かせた。また、6月のFOMC後の記者会見においては、「経済指標がFOMCの見通しとおおむね一致すれば13年内に資産購入額の縮小を開始し、その後の経済指標も見通しとほぼ一致すれば14年央頃に資産購入を終了する」と資産購入額縮小に関する具体的な時期に踏み込んだ発言を行った。
5月の議長発言以降、株価やハイイールド債の価格は下落し、ハイイールド債の発行額は急減した(前掲第1-2-39、第1-2-40図)。このような状況にかんがみれば、金融市場がやや過熱していた可能性がある。実際、バーナンキFRB議長は13年7月に、「QE3の減額スケジュールを示さなければ混乱が起こり、FOMCの期待から市場の期待が離れていくおそれがあった。レバレッジを高めたり、過度に危険なポジションを拡大するおそれもあった。この状態の巻き戻しが、これまで(13年5月22日以降)に観測された乱高下の一因と考えている」といった発言を行い、13年5~6月の発言は、バブルの芽を事前につぶす目的があったことを示唆している。こうした「バブルの芽をつぶす」という目的に照らせば、バーナンキFRB議長のコミュニケーション戦略は成功したと考えられる。しかし、副作用として金利が急上昇してしまう結果となった(第1-2-42図)。
金融資本市場の引き締まり、特に金利の上昇が続けば景気回復、労働市場の改善を遅らせるとの懸念もある一方で、強弱はあるものの、おおむね経済指標は改善を示していた中、大方の予想に反し9月のFOMCにおいて資産購入額の縮小開始は見送られた。この点に関して、バーナンキFRB議長はFOMC後の記者会見において、資産購入額を縮小することについて経済指標が十分に裏付けてはいないとしたほか、金利上昇による金融市場ひっ迫が続けば経済へ悪影響を与える可能性について言及し、予防的に資産購入縮小を見送ったことを示唆した。
(ii)最近の雇用情勢
12年12月のFOMCにおいて、異例に低水準のFF金利が妥当となる期間として、「失業率が6.5%を上回り続け、1~2年先のインフレ率が2%+0.5%以内、かつ、長期的なインフレ期待も十分抑制されている限り妥当となる見込み」とされた。以下では、こうしたフォワードガイダンスにも示されている雇用と物価の動きについて概観する52。
失業率は13年9月53時点で7.2%と、追加金融緩和決定直前に公表された12年8月の8.1%から大きく低下している(第1-2-43図)。ただし、労働参加率も63.5%から63.2%へ低下している。労働参加率が12年8月の水準から変化がないと仮定し失業率を推計すると7.7%54となり、労働参加率の低下が失業率の低下に寄与していることが分かる。
アメリカの労働参加率は、2000年初をピークに、ベビーブーマー世代の高齢化等を背景に低下傾向にある55が、年齢層によって動向に違いがみられる(第1-2-44図)。
まず、中年層(25~54歳)の労働参加率は低下している。これは、自動化(automation)や雇用機会の海外移転56により、中スキル労働需要が低下したことによる。また、職を失った中スキル労働者の一部は低スキル労働へ就いたと考えられる。
若年層(16~24歳)については、ほかの年齢層と比べて労働参加率の低下が大きい。高学歴なほど収入が高いこと(第1-2-45図)、前述のとおり10代の若者が担うことが多かった低スキル労働に中年層が参入したことから、スキルアップを図り中・高スキル労働へ就くために大学へ進学する人数が増加したことが背景にある(第1-2-46図)。
一方、高齢層(55歳以上)については世界金融危機後の資産価格下落により老後の蓄えが十分でなくなったこと、高齢女性の労働参加率の上昇57等により、労働参加率は上昇している。
また、このところの労働参加率の低下については、上記のような構造的要因に加え、景気循環的な要因も影響していると考えられる。
(iii)最近の物価動向
物価上昇率については13年9月時点でPCE総合は前年比ベースで0.9%、PCEコアは同1.2%とFEDの長期的な目標である2%を下回る状況が続いている(第1-2-47図)。PCEコアの上昇率については12年初から低下が続いていたが、サービス価格の低下に歯止めがかかるなど、13年春以降低水準ながらもおおむね横ばいで推移している。
こうした動きの背景としては雇用環境とエネルギー価格の動向が挙げられる。前述のとおり雇用環境は緩やかながらも改善を示している。失業率は低下しているものの、FEDの長期的な見込み(5.2~5.8%)と比べると高水準にあること、週当たり賃金の伸びは12年半ばを底に上昇しているものの、世界金融危機前の水準までは達していない。一方で、エネルギー価格については、ガソリン価格等が12年に前年比で3.5%と大きく上昇したものの、13年は同▲2.1%と低下した。こうしたことから物価上昇率を押し上げるに至っていないと考えられる。
また、13年7月のFOMCにおいては、低い物価上昇率は経済成長にとってリスクとなり得るとの見方を示し、低い物価上昇率について懸念を示している。
ただし、低い物価上昇率は一時的であり、中期的には景気が回復するにつれて需給ギャップは解消し、目標である2%に向かって戻るであろうとの見通しに変化はなく、13年9月に公表した経済見通しでは15年末頃には2%まで上昇すると見込んでいる。
(iv)今後の金融政策に関する注目点
現在のバーナンキFRB議長は14年1月末で任期末を迎え、2月からは新たな議長58の下で金融政策が進められることとなるが、引き続きQE3の縮小開始、終了時期については大きな注目が集まると考えられる。また、これまでのFOMCでの議事録等からは現行のフォワードガイダンスについて修正を行うかどうかの検討もなされていることが確認でき、こうした動きも関心が集まると考えられる。
3.アメリカ経済の見通しとリスク
アメリカ経済は、現状では緩やかな回復傾向が続いているが、以下ではアメリカ経済の先行きに係るメインシナリオとそれに対するリスク要因について概観する。
(1)経済見通し(メインシナリオ)-緩やかな回復傾向が続く
アメリカでは、雇用者数の伸びが引き続き増加しており、失業率は低下傾向にある。家計のバランスシート調整は、雇用環境の改善や住宅価格、株価の上昇等を背景に全体としては終盤にあると考えられ、また、ガソリン価格等も低下基調にあることなどにより個人消費は緩やかに増加している。住宅市場では、住宅価格は上昇を続けている一方で、住宅着工件数は住宅ローン金利の上昇等により13年夏以降横ばいで推移している。企業に目を向ければ、生産は自動車販売が回復していることなどを背景に緩やかに増加しており、設備投資も12年7~9月期に6四半期ぶりに前期比マイナスとなった後、緊縮財政や世界経済の影響はみられるものの、持ち直しの動きもみられる。こうした結果、アメリカ経済は緩やかな回復傾向が続いている。
先行きについては、物価上昇率が落ち着いている下で、引き続き雇用環境等の改善が見込まれることから、消費は緩やかな増加が続いていくとみられる。住宅投資は、バーナンキFRB議長によるFEDの資産購入額縮小が示唆されて以降、住宅ローン金利が上昇し、住宅着工等に影響を与えているが、雇用環境の改善や住宅価格の上昇等が続けば再び増加基調になることが期待される。また、設備投資は好調な企業収益等を背景に持ち直しの動きが続くことが予想されるが、個人消費等も含めて財政問題の対応をめぐる不透明感に留意する必要があると考えられる。一方、政府支出については、3月以降歳出の自動削減が実施されるなど財政緊縮が続いており、10月には連邦政府機関閉鎖等が実施されるなど13年10~12月期を中心にGDPを下押しすることが想定されるが、その影響は次第に薄らいでいくことが見込まれる。その結果、14年全体としては引き続き緩やかな回復傾向が維持される見通しであり、14年全体の実質経済成長率は前年比2%台半ば程度になるとみられる(第1-2-48図)。
以下、個別の需要項目について概観する。
(i)個人消費
13年初には「財政の崖」に伴う12年末の賞与支給や配当支払いの前倒しの反動がみられたが、雇用者報酬は増加傾向にあり、物価上昇率も低めに推移していることから実質可処分所得は緩やかな伸びが続いている。また、失業率は低下しており、雇用者数も増加が続くことが見込まれるなど雇用環境の改善が期待され、引き続き可処分所得の増加が続くと考えられる。さらに、株価や住宅価格の上昇によりバランスシート調整も一層進展が予想される。こうした状況を踏まえると、消費は緩やかに増加していくことが見込まれる。
(ii)住宅投資
雇用環境は改善しているが、FEDの資産購入額縮小が視野に入ってきたことから住宅ローン金利は上昇した。こうしたことから順調に回復してきた住宅着工件数は伸びが鈍化した。しかしながら、引き続き雇用環境の改善や住宅価格の上昇が見込まれること等から住宅着工件数は増加基調で推移するとみられる。一方、住宅在庫が減少していることから住宅価格が上昇を続けており、金融機関の差し押さえた物件が保有されたままとなっているような「隠れ在庫(Shadow Inventory)」も確実に減少してきていることから、住宅価格は今後も上昇が続く見通しである。
(iii)設備投資
設備投資については、3月に開始された歳出の自動削減が今後も引き続き実施される可能性があるほか、14年度予算や債務上限をめぐる問題も解決していないなど、財政の先行き不透明感が残り、企業の本格的な投資が抑制されやすい状況が続くことが考えられる。一方、企業収益は堅調に推移しており、また、欧州政府債務問題が落ち着きをみせ、中国経済も安定がみられること等から外需環境は次第に上向くことが期待される。こうしたことから、設備投資も徐々に持ち直していくことが見込まれる。
(iv)政府支出
13年10~12月期に連邦政府機関閉鎖の影響が現れることが予想され、また、2011年予算管理法に基づく財政赤字削減や、3月に開始された歳出の自動削減が引き続き実施される可能性59があるなど今後も連邦政府支出の縮小が想定される。一方、州・地方政府においては、景気の緩やかな回復等を背景に支出の底打ち傾向がみられることなどから、政府支出全体としてはマイナスの寄与が緩和していくと見込まれる。しかしながら、財政をめぐる問題は解決しておらず、14年初に再び連邦政府機関閉鎖やデフォルト危機となるおそれがあり、留意が必要である。
(v)外需
世界の景気は、欧州政府債務問題が落ち着きをみせ、中国経済も安定がみられるなど、次第に底堅さが増していくことが期待されることから、14年には外需も徐々に上向きの動きとなると見込まれる。
(2)経済見通しにかかるリスク要因
見通しのリスクバランスは、依然として下方に偏っており、具体的には以下のものが想定される。こうしたリスクが発現した場合、改善を示してきた雇用動向等にも再び影響する可能性がある。
(i)下振れリスク
(ア)財政問題への対応による影響に伴う成長鈍化
連邦政府機関の閉鎖やデフォルト懸念は当面回避されたとはいえ、オバマ大統領・民主党と共和党との隔たりは大きいままであり、14年初には再び連邦政府閉鎖やデフォルト危機が発生する可能性がある。また、13年3月から実施されている歳出の自動削減についても、両者の歩み寄りがみられない場合には継続することとなる。民間需要が緩やかながらも堅調に推移していることから全体としては緩やかな回復傾向が期待されるが、財政緊縮も含めて財政問題への対応による影響が過度に発現する場合には、政府支出の減少のみならず、民間需要にも大きな影響を与えるおそれがある。
(イ)資産購入額縮小に伴う住宅投資等の減少
バーナンキFRB議長が5月にFEDによる資産購入額縮小を示唆して以降、住宅ローン金利等が上昇し、住宅着工の勢いが鈍化した。経済情勢次第ではあるが、議長は早ければ年内にも資産購入額を縮小するとしており、こうした動きが想定以上に金融市場に悪影響をもたらす場合には、住宅ローン金利の上昇を通じて住宅市場が冷え込むおそれがあり、また、耐久消費財の購入等にも悪影響を及ぼす可能性がある。
(ウ)欧州政府債務危機の再燃
12年秋以降、欧州政府債務危機をめぐる緊張が緩和し金融市場には落ち着きがみられる。しかし、ヨーロッパ地域の一部の国で再び債務危機による混乱が生じた場合には、金融資産の価値下落、信用収縮の拡大等を通じて、実体経済に悪影響を及ぼすおそれがある。また、債務危機の深刻化により底入れがみられるヨーロッパの実体経済が再び悪化したり、リスク回避によるドル高が進展する場合には、輸出が減少するおそれがある。
(エ)新興国経済の減速長期化
新興国は、資源を始めとする先進国の輸入動向によって経済が左右される面が強く、先進国の景気下振れ等により、新興国の成長鈍化の局面が長期化する場合、当該国への輸出減少を通じアメリカ景気が下押しされる悪循環に陥るおそれがある。また、バーナンキFRB議長によるFEDの資産購入額縮小が示唆されて以降、新興国の金融市場に混乱がみられる。こうした混乱の結果、資本流出等の発生により新興国の成長が阻害され、成長鈍化を長期化させるおそれがある。
(ii)上振れリスク
メインシナリオにおける想定以上に景気の回復テンポが加速する場合の要因としては、以下が考えられる。
(ア)資産価格の上昇
雇用環境の改善や企業業績の好調が持続し、また、金融政策における資産購入額の縮小及びその不透明感による影響が軽微にとどまり、株価や住宅価格が更なる上昇に向かう場合、家計のバランスシート調整が大きく進展して家計の負担が一層軽減されるとともに、資産効果を通じて個人消費が拡大する可能性がある。
(イ)信用リスクの低下
景気の回復や住宅価格の上昇に伴って金融機関の家計に対する信用リスクが低下し、また、資産購入額の縮小及びその不透明感による影響が軽微にとどまることにより、金融機関の信用創造が喚起され、貸出が増加する場合には、個人消費や住宅投資が拡大する可能性がある。