[目次]  [戻る]  [次へ]

第1節 世界経済の概観

1.世界の景気動向:弱い回復が続く中、一部に底堅さもみられる

世界経済は、12年中は弱い回復が続いていたが、13年に入ってからは一部に底堅さもみられている。12年以降の世界的な金融緩和や各種政策対応の結果、13年に入りアメリカ等の先進国及び中国経済が底堅く推移しているほか、ヨーロッパでは政府債務や銀行部門の問題等により依然弱さが残っているものの、13年後半は景気に持ち直しの兆しが出ている。一方、その他の新興国では、13年初めからの景気減速の動きが金融資本市場の動向による影響もあり、その回復は緩やかなものとなっている。本節では、こうした状況を踏まえて、13年の世界経済の動向とその背景について概観する。

(1)先進国を始めとした成長の持ち直し

世界経済は、12年中は弱い回復が続いていたが、13年に入ってからは一部に底堅さもみられている。各国・地域の動きで確認すると、アメリカ及び中国は底堅く、ユーロ圏も持ち直しに向けた動きがみられるものの、その他の新興国は景気が鈍化している。その結果、世界経済は全体として回復が続いている中で、先進国と一部の新興国の動向にはばらつきが出てきている。

(i)13年以降の世界経済の動向

まず、主要地域・主要国の実質経済成長率をみると、アメリカでは成長の加速が続いており、G20全体の成長への寄与を拡大させている。ユーロ圏も13年4~6月期に実質経済成長率がプラスに転じ、7~9月期もプラス成長を続けるなど、下げ止まりから持ち直しの動きを示している。一方、新興国をみると、中国は13年後半に拡大テンポの安定化がみられるものの、中南米諸国の落込み等からその他の新興国は成長ペースを鈍化させている(第1-1-1図)。このように、13年後半には、それまで弱い動きであった先進国の成長が高まったことで、G20全体の実質経済成長率は3%程度で推移している。

第1-1-1図 G20の実質経済成長率:13年初から持ち直し
(ii)世界の生産・貿易の動向

次に、世界の生産・貿易の動向を確認すると、13年はマインドの回復もあっていずれも堅調であり、増加傾向にある。しかしながら、09年以降の金融危機からの回復は11年初めには一服しており、その後は2000年代前半の上昇局面と比べても、13年は弱い回復が続いているといえる(第1-1-2図)。

第1-1-2図 世界の生産・貿易動向:弱い回復が続いている

次に、主要国の生産活動を先進国と新興国に分けてみてみると、実質経済成長率の動向と同様に、アメリカでは緩やかな回復傾向が続いており、ユーロ圏も下げ止まりから持ち直しの動きがみられる。新興国では、中国は着実に増加しているが、13年前半はブラジル、インド、ロシアでおおむね横ばいないしやや減少している(第1-1-3図)。

第1-1-3図 生産の動向:アメリカ、中国が増加傾向

一方で、主要国の財・サービスの輸出動向をみてみると、先進国では13年は緩やかな増加傾向にある。新興国では、12年以降はおおむね横ばいで推移しており、投資等が堅調に拡大している中国を除き、輸出の伸び悩みが新興国における景気の押下げ要因となった可能性がある(第1-1-4図)。

第1-1-4図 財・サービス輸出の動向:緩やかな回復が続いている

(2)国際金融

国際金融の動向も、先進国と新興国で違いが出ている。12年の金融市場は、欧州政府債務危機の影響でヨーロッパの景気後退の度合いが強まり、新興国でも景気減速の動きが広がったことを受け、一部で不安定な動きが続いた。13年は、主要中央銀行における金融緩和政策や欧州政府債務危機の落ち着き等を背景に、世界経済に明るい兆しが出てきたことなどから、全体としてみると、金融市場は落ち着きを取り戻している。ただし、13年5月以降はアメリカにおける財政・金融政策の動向による影響が一部で懸念され、新興国を中心に株式市場や為替には不安定な動きもみられている。

まず、株式市場についてみてみると、先進国の株価は、13年に入ると世界金融危機前の水準を取り戻すなど、上昇傾向で推移した。投資家の先行きへの不安感を示すとされるVIX指数が低下傾向となる中で、13年後半にはアメリカやドイツで株価は史上最高値を更新するに至った。一方、新興国の株価は、13年に入ると、先進国の動きとは異なり徐々に横ばいの動きとなり、13年春から同年半ばにかけて大幅に低下し、その後やや持ち直したものの、不安定な動きを続けている(第1-1-5図)。

第1-1-5図 株式市場の動向:先進国と新興国でかい離

13年半ば以降の株価の動向の違いの背景には、アメリカにおける金融政策の動向の影響が挙げられる。新興国では、13年半ば以降、アメリカでの金融緩和が縮小に向かうとの観測から資本流出や物価上昇等が続き、数次にわたる利上げに踏み切る例もみられた。その後、早期緩和観測が後退し、先進国では、金融緩和姿勢が維持される中で株価の調整は一時的なものにとどまり、株価は上昇基調を続けることになった。

こうした動きに合わせて、長期金利の動向も、13年半ば以降は新興国では一部で金利の上昇が続いている。一方、アメリカやヨーロッパでは、利回りにやや高まりがみられたが、その後は落ち着きを取り戻している(第1-1-6図)。

第1-1-6図 長期金利(10年債)の動向:新興国等では一部で高止まり

為替をみると、ヨーロッパや中国では景気の持ち直しを受けて13年は緩やかに増価している。その他の新興国等の為替についてみると、アメリカにおける金融政策の動向の影響もあり、総じて自国通貨安で推移している。韓国は13年に入ると前年の反動もありドル安傾向で推移しているものの、ブラジルレアル、インドルピー及びインドネシアルピアは13年5月以降、ドルに対しては減価傾向で推移している(第1-1-7図)。

第1-1-7図 為替レートの動向:総じてドル高の動きへ

(3)グローバル・インバランスの動向

世界経済は弱いながらも回復しており、国内の貯蓄投資バランスや財政収支の不均衡を抱える国を中心に、グローバル・インバランスが今後、再び拡大する可能性もある。そこで、世界経済におけるリスクの一つとして掲げられていた主要国・地域における経常収支差に着目すると、08年の世界金融危機以降、世界的な需要の減退を受けて一時的に縮小し、その後、10年頃から世界的な景気回復とともに再び拡大した後、横ばいで推移している。しかしながら、世界金融危機前と比べると、その大きさは縮小している。

経常収支差を世界金融危機前後で比較すると、最大の経常収支赤字国であるアメリカの貿易赤字が縮小した一方で、最大の経常収支黒字国である中国の貿易黒字が縮小し、世界的な対外不均衡が縮小していることが分かる。また、世界金融危機の影響以外にも、欧州政府債務危機の影響でユーロ圏の経常収支赤字国の赤字幅が縮小したことや原子力発電の停止等の影響によりエネルギー輸入が増加したことなどを背景に日本の経常収支黒字幅が縮小したことが分かる。一方で、インド、ブラジル等の他の新興国では、経済成長に伴う需要の拡大を背景に輸入が増加し、経常収支赤字が拡大している国もある(第1-1-8図)。

第1-1-8図 グローバル・インバランスの動向:世界金融危機以後縮小している

(4)対外直接投資の動向 

一部の新興国で成長の伸びが鈍化している背景として、先進国からの対内直接投資の鈍化が考えられる。そこで、直接投資の動向をみると、12年は、景気の減速を受け、欧米における直接投資が対内・対外ともに減少した。特に域内での取引が減少したEUにおける直接投資が対内・対外ともに大きく減少した。また、先進国における対外直接投資の取引が低調になったことから、中国をはじめとする新興国向けの投資についてもおおむね横ばいとなった。13年は、先進国向けの直接投資が引き続き低調であるが、13年前半に大規模案件があったロシア向けの対内直接投資持ち直しの動きがみられる。一方で、中国及びその他の新興国向けの対内直接投資は伸び悩んでおり、先進国の直接投資は対内・対外ともに減少が続いている(第1-1-9図)。

第1-1-9図 直接投資の動向:先進国は低調、新興国に持ち直しの動き

以上、13年以降の先進国及び新興国の経済状況を概観すると、欧州債務危機以降の落込みは一巡し、先進国を始めとして持ち直しの動きがみられ、中国の拡大テンポも安定化しつつある。その一方で、先進国の金融緩和策の動向の影響を受けた一部の新興国においては、経済の景気の拡大テンポが緩やかとなる動きがみられる。また、グローバル・インバランスは縮小傾向にあり、新興国向けの対内直接投資も伸び悩みが続いている。

2.先進国の動向

先進国では、13年半ばにかけて成長率が上昇し、世界経済への成長寄与を高めた。この中では、アメリカはヨーロッパに先行して景気が持ち直しに向かい、緩やかな回復傾向にある。また、ヨーロッパ地域は、政府債務危機下の景気低迷の影響が残るものの、景気の足踏み状態から持ち直しの兆しもみられる。このように回復の段階には違いもみられる中、物価上昇率が徐々に低下傾向にあるなど共通する動きもみられる。こうした動きの背景及びその影響について、主要な経済指標を用いて比較することとする。

(1)雇用改善に支えられるアメリカの回復

まず内需の動きについてみると、消費については、アメリカとユーロ圏ではその回復状況に大きな違いがみられる。アメリカは09年以降、緩やかな増加傾向にある。ユーロ圏では11年以降は減少していたものの、13年半ばからは下げ止まっている(第1-1-10図)。また、消費の伸びを支える雇用情勢についても、アメリカとユーロ圏で対照的な動きとなっている。アメリカの失業率は改善傾向にあるが、ユーロ圏では失業率が依然高止まりしている(第1-1-11図)。

第1-1-10図 消費の動向:アメリカとユーロ圏で回復状況に違い
第1-1-11図 失業率の動向:アメリカは改善、ユーロ圏は依然高止まり

投資についても、同様にアメリカとユーロ圏では大きな違いがみられる。アメリカの設備投資は11年以降緩やかに持ち直している。ユーロ圏では、11年以降は減少していたものの、13年半ばからは下げ止まりの動きがみられる(第1-1-12図)。また、設備稼働率についても同様の傾向がみられる。

第1-1-12図 投資の動向:アメリカとユーロ圏で大きな違い

(2)ディスインフレの進展

アメリカとユーロ圏においては、以上のような内需の動向の違いはある中で、物価上昇率はともに低位で推移している(第1-1-13図)。特にユーロ圏では、13年10月の消費者物価上昇率が前年比0.7%と1%を切る水準まで低下した。12年以降でみても傾向的に下がってきており、その主因はエネルギー価格の低下である一方、より大局的にみれば構造問題を背景に景気回復力が弱いこともあり、日本のようなデフレ状況に向かっているのではないかという懸念も指摘されるようになってきた。

そこで、先進国の物価について、最近の動きをみてみよう。その際、それぞれの物価変動要因の動きを踏まえつつ、過去の日本との比較も含めて概観する。

まず、消費者物価の変化を比較すると、13年10月は前年同期比でアメリカは1.0%、ユーロ圏は0.7%、英国は2.2%、日本は1.1%となっている(第1-1-13図)。なお、98年7~9月期の日本は▲0.2%であった。このうち、食料品やエネルギーは一時的な変動もあることから、基調的な物価変動をみるためにこれらの要因を除いてみるとアメリカとユーロ圏の差がより顕著になる(第1-1-14図)1別ウィンドウで開きます

第1-1-13図 消費者物価の動向:ユーロ圏・アメリカは低位で推移
第1-1-14図 消費者物価の目別寄与:ユーロ圏とアメリカの差が顕著に

次に、物価と連動する傾向がある賃金の動向を比較してみる。時間当たり賃金の前年比をみると、アメリカは2.1%、ユーロ圏は1.4%、英国は0.9%、日本は▲0.1%となっている(第1-1-15図)。日本では、長引くデフレや賃金水準が相対的に低いパート比率の高まり等から時間当たり賃金がマイナスとなっているが、ユーロ圏や英国でも上昇幅が小さい。

第1-1-15図 時間当たり賃金の変化:ユーロ圏、英国はアメリカより上昇幅が小さい

所得環境という観点からは、賃金上昇率が低くても、物価上昇率が低ければ実質賃金の低下はその分軽減される。景気が好転すれば賃金の上昇から消費の拡大が期待できる。しかし、後述するようにユーロ圏は、金融部門の問題や政府債務問題等から景気回復力が弱い。そのため、需給ギャップの縮小が円滑には進まず、賃金上昇率は低くとどまり、ひいては物価上昇に関する人々の期待も低下、更に物価が上昇しにくくなるというような悪循環も考えられる。

こうした悪循環へ向かわせる要因が経済全般にわたって広がることで、デフレに陥るリスクがどの程度あるかをみるため、IMFの研究に基づくデフレリスク指標を上記の各国に当てはめてみよう(第1-1-16表)。日本が長期のデフレ状況に向かいつつあった98年は、この指標から見る限りデフレリスクは相当に高かったことが分かる。現時点では、マイナスのGDPギャップと為替レートの増価等から、ユーロ圏のデフレリスクがやや高くなっている。ただし、デフレリスクの程度は98年時の日本ほど高くはなく中程度に収まる。一方、現在の日本は、消費者物価指数(食料・エネルギー除く)やGDPデフレーターの前年比がマイナスとなっているほか、マネタリーベースの増加テンポと比べて通貨供給の伸びが低いものの、それ以外の指標には該当せずデフレリスクは低くなっている。

このように、先進国は全般的に物価上昇率が低い中でユーロ圏が相対的に物価上昇率の低下要因に広がりがみられる。ただし、過去の日本との比較でみれば、短期のうちにデフレに陥るリスクはまだ低いと考えられる。

最後に、ユーロ圏の中でもギリシャ、スペイン、ポルトガル等のいわゆる周縁国については、物価上昇率がユーロ圏平均よりも低い水準で推移しており、前年比マイナスもしくはゼロ近傍となっている国もみられる(第1-1-17図)。これらの国では、賃金上昇率も概してユーロ圏全体よりも低くなっている。しかし、ユーロ圏の各国にとっては通貨安という調整手段がない状況では、賃金コストの低下を通じて製品の価格競争力を向上させることにより、ユーロ域内も含め輸出増加を図ることは経済悪化からの脱却プロセスと考えられる。こうした前向きの動きが経済を好転させていくためには、これらの国にとっての外需に相当するドイツ、フランス等のユーロ圏経済の中心となる国の需要の着実な増加が重要である。したがって、一国の物価下落だけでみるのは一面的になるおそれがあり、ユーロ圏内全体としての需要の強さ等、ユーロ圏全体の観点から総合的に判断することが重要である。

第1-1-16表 デフレリスク指標:ユーロ圏及び英国は物価の下振れリスクに注意が必要
第1-1-17図 ユーロ圏の消費者物価の動向:周縁国の一部がマイナス

(3)マクロ政策の展開

世界金融危機後の大規模な財政出動により、多くの先進国では景気下支えを行った。この結果、財政状況が悪化したためこれらの国・地域では財政再建に向けた取組を進めており、これが最近にかけての景気の下押し要因ともなっている。ただし、財政再建に先行して取り組んだユーロ圏とアメリカでは状況が異なっている。財政再建の取組を示す構造的財政収支をみると、ユーロ圏は11年に最も大幅に赤字を削減したが、アメリカでは収支の改善幅が徐々に増加し、13年には前年と比較してGDP比3%を超える改善となる見込みである(第1-1-18図)。

第1-1-18図 主要先進国の一般政府構造的財政収支改善幅:ユーロ圏が先行

金融政策については、11年以降、世界的に緩和的な金融政策が継続している。世界の景気は、弱いながらも回復しており13年以降は底堅さもみられている。しかしながら、

いまだ高い失業率等、経済の供給余剰があることを踏まえると、金融緩和政策は当面継続すると考えられる。アメリカでは、金融緩和政策の縮小に向けた動きがみられるが、こうした背景を踏まえ、その実施にあたっては慎重な判断がなされることが見込まれる。いずれにせよ、金融緩和縮小のペースは、各国・各地域の景気情勢等を踏まえ、異なるものとなるであろう(第1-1-19図、第1-1-20図)。

第1-1-19図 政策金利の動向:ゼロ近傍で推移
第1-1-20図 マネタリーベースの動向:アメリカ、英国で拡大

3.新興国の動向

中国では、後述のように景気の拡大テンポは安定化しつつある。その一方で、その他の新興国では景気減速の動きがみられる。この背景として、新興国は経常赤字国が多く、そのファイナンスを海外からの資金に依存している国が多いことが挙げられる。国際金融市場においてリスクに寛容な時期には、新興国に資金が流入し、リスクに敏感となる時期には安全資産とされる先進国に資金が還流する傾向がみられる。以下では、13年における中国以外の新興国経済の減速の要因と現状を整理するとともに、資金流出が生じた場合の影響や耐性について分析する。

(1)資本流出入の状況

13年初めより、一部の新興国においては、中国経済の減速やヨーロッパ経済の停滞を背景に株価の低下がみられていた。さらに、5月以降、アメリカの金融緩和の縮小観測の高まりを背景に、新興国市場において資本流出懸念から株価や為替が大幅に下落した(第1-1-21表、第1-1-22図)。

第1-1-21表 主な新興国の概況
第1-1-22図 主な新興国の株価の動向:5月以降、多くの国で下落

(2)マクロパフォーマンスの状況

その後の動きをみると、為替や株価が持ち直す国もみられるなど、新興国の中でもばらつきがみられる。そこで、各国の経済動向をみてみよう。新興国では、12年は外需依存度の高い国は中国経済の減速の影響も重なり、景気の減速がみられた。13年は、ユーロ圏に持ち直しの兆しがみられ、中国の拡大テンポも安定化しつつあるため新興国では総じて拡大傾向にある。その中で、海外からの資金に依存している国については景気が鈍化する傾向もみられる。

通貨が大きく減価している国は、構造問題を有しているという共通点がある。インドネシアやインド等の経常収支赤字国は資金流出の影響を受けやすく、また自国通貨の減価で輸入物価が上昇傾向にあることやそうした動きを受けた利上げもあり、景気が減速している。加えて、ヨーロッパ経済への依存度が高い国についても減価が進む傾向にある(前掲第1-1-21表)。

(3)各国の対応とリスク耐性

新興国では、為替の下落が大きい国については、前述のとおり政策金利の利上げを行うなどの対策を行っている。また、外貨準備は過去の通貨危機時と比較すると高い水準を維持している。さらに、各国中央銀行間では為替スワップ協定が締結されており、外貨準備を補完している。13年9月には、BRICS五か国基金(1,000億ドル)が創設されたほか、中国も二か国協定を推進している。

加えて、一部の新興国については、通貨の下落抑制策として一時的に資本規制策を強化している2別ウィンドウで開きます。例えば、ブラジルにおいては、金融取引税等の一定の資本規制による短期資金流入を調整する動きがみられたほか、インドにおいては、資金流出を抑制するため、自国企業が対外直接投資を行う際の自己資本比率に基づく上限の引下げや、個人による海外送金の上限の引下げを行った。

海外からの資金に依存することの多い新興国では、国際的な金融のショックの際に各国が抱える構造問題に焦点が集まりやすい傾向にある。そのため、経済のファンダメンタルズの改善が持続的な発展を遂げるためには不可欠であるといえる。

4.世界経済の見通しとリスク

世界経済は、先進国を中心に持ち直しの動きがみられている。新興国では、中国の景気の拡大テンポが安定化しつつある一方、先進国の金融緩和策の動向等の影響を受け、その他の新興国の成長ペースが緩やかなものとなっているなど、ばらつきが出てきている。以下では、14年までの経済見通しとそのリスク要因について概説する。

(1)経済見通しとメインシナリオ

先進国では、アメリカ経済は民需を中心に緩やかな回復傾向が続き、ヨーロッパ経済も弱さが残るものの、次第に持ち直しに向かうとみられる。一方、中国経済は安定的な拡大テンポで、緩やかに回復が続くことが考えられる。また、日本経済が自律的な回復力を高めながら世界経済の成長に寄与していくことが期待されている。このような主要国・地域の動きにけん引されて、新興国も含め世界経済は全体としても徐々に底堅さを増していくことが予想される。こうした中、世界の実質経済成長率は、市場レートベース3別ウィンドウで開きますで、13年にはおおむね2%台半ば、14年にはおおむね3%強となることが見込まれる。各機関の見通しを市場レートベースでみると、13年は2%台前半、14年は3%程度となっており、これらと比較すると成長率は同程度かやや高めになる可能性がある4別ウィンドウで開きます(第1-1-23図、第1-1-24表、第1-1-25表)。

第1-1-23図 IMFによる各国・地域の実質経済成長率見通しと世界経済へのインパクト
第1-1-24表 国際機関による見通し
第1-1-25表 民間機関による見通し

(2)経済見通しに係るリスク要因

アメリカにおいては、14年度予算を含めた今後の財政の対応いかんによっては、市場や企業、消費者等のマインドを押し下げ、景気の下押し要因となる可能性がある。加えて、金融緩和縮小が実施された場合の実体経済への影響等にも引き続き留意が必要な状況である。また、雇用情勢を中心に、アメリカ経済の回復の持続可能性には注視が必要である。

中国においては、景気は緩やかな拡大テンポが続いているものの、過剰な不動産投資や生産能力の抑制策が強化された場合、金融や実体経済が想定以上に急激に縮小するリスクがある。

欧州においては、比較的落ち着きがみられるものの、一部の国々における財政の先行き不安が完全に払拭されているとまではいえず、欧州政府債務危機が依然リスクとして残存している。同時に、財政緊縮や高い失業率の継続等による、経済的・政治的な影響にも注視が必要である。

新興国においては、国ごとにばらつきがあるものの、一部では物価上昇等に対応するための利上げによる影響や輸出需要の低迷等から、景気が減速する動きがみられている。今後も金融引締めが続く場合、景気が更に減速する懸念があるため、注視が必要である。

加えて、中東情勢の悪化ないし周辺国への拡大による原油価格の上昇等、地政学的リスクについても留意が必要である(第1-1-26図)。

第1-1-26図 原油価格の推移:中東情勢の影響等から一時的に高騰
[目次]  [戻る]  [次へ]