アジア経済の先行きに関しては、以下の上振れ、下振れの両方のリスクが考えられるが、リスク全体でみると、上方と下方は均衡している。なお、中国については、今後の金融政策や消費刺激策を始めとする様々な政策の方向性に依存するところも大きく、政策次第で上振れ、下振れ両方の可能性があり得る。また、中国の動向により、韓国・台湾・ASEAN地域についても影響を受ける可能性がある。
●下振れリスク
(i)中国における不動産価格の上昇とそれに対応した引締め強化による内需への影響
中国では、世界金融危機発生後の金融緩和を背景に、不動産向け貸出が急増し、09年半ば頃から不動産価格が上昇するなど、不動産市場過熱が懸念されてきた。10年に入り、4月、9月の2回にわたって、不動産価格抑制策が打ち出されたものの、なお不動産価格は上昇している。今後、不動産価格の上昇が更に加速し、更なる引締め策が採られ、その効果が予想以上に強く現れた場合には、資産価格の急速な下落や内需の急激な冷え込みをもたらし、景気減速につながるおそれがある。さらに、中国の景気減速により、中国向けの輸出の増加が現在の景気の回復の一因となっている韓国、台湾等の景気をも減速させるおそれがある。
(ii)中国やインドにおけるインフレの加速とそれに伴う消費への下押し圧力
中国では、消費者物価上昇率が高まってきており、10年10月には4.4%となった。現在の物価上昇は、天候要因等による食品価格の上昇が主因であるが、コア消費者物価上昇率も、低水準ながら緩やかに上昇しているなど、警戒が必要な状況となっている。また、インドでも、食品価格の上昇や内需拡大を背景に、物価上昇圧力が高まっており、10年に入り、6回の政策金利の引上げを行い、インフレの沈静化を図っているが、卸売物価上昇率はなお高水準で推移している。両国において、今後も更なる物価上昇が続いた場合には、消費への下押し圧力となることが懸念される。
(iii)過度な資金流入
先進国における緩和的な金融政策が、先進国と比較してアジア等新興国の好調な成長見通しと結びついて資金流入をもたらしており、一部で資産価格の大幅な上昇や為替の増価がみられる(第3-3-3図)。これに対し、10年半ば頃から資本流入規制や不動産価格抑制策の強化等の措置が採られているが、こうした措置にもかかわらず、今後も資金流入が継続する可能性が高い。それにより、為替の著しい増価が続いた場合には、輸出競争力への影響を通じて、景気を下押しするおそれがある。
また、資産価格の更なる上昇は、短期的には資産効果を通じて成長率を高める効果をもたらすことが考えられ得るが、何らかのきっかけで国際金融資本市場の流れが変わり、アジア等新興国から急激に資本が流出した場合には、将来的に金融システムの安定性を脅かす可能性も考えられる。
(iv)先進国の景気回復の停滞に伴う輸出の低迷
欧米では、景気は回復しているが、そのペースは緩やかとなっており、さらに、高水準の失業率や信用収縮の継続等、依然として景気の下押し圧力が存在している。欧米の景気回復が停滞すれば、輸出への影響を通じて、特に、国内市場の小さい韓国、台湾、シンガポール等においても景気回復のペースが緩やかになるおそれがあり、また、中国においても景気拡大ペースが緩やかになるおそれがある。さらに、韓国や台湾において、主要産業であるIT製品を中心とした在庫調整局面が長期化するおそれがある。
●短期的な上振れリスク
景気の短期的な上振れ要因として、以下の点が考えられる。
資金流入を背景とした資産価格の上昇
上記のように、先進国における緩和的な金融政策により資金流入がもたらされており、一部の国を中心に資産価格の大幅な上昇がみられる。資産価格の上昇が続く場合には、資産効果を通じて短期的には成長率を高める要因となり得る。