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第3章 世界経済の見通しとリスク

第2節 ヨーロッパ経済の見通しとリスク

2.経済見通しに係るリスク要因

  ヨーロッパの経済の先行きに関しては、上振れリスクと下振れの両方が考えられるが、リスクのバランスは依然として下方に偏っている。

●下振れリスク

(i)財政の持続可能性への懸念と金融システム不安の再燃
  財政の持続可能性への懸念は、ギリシャ財政危機後も依然として高まっており、ギリシャ同様に財政状況の悪化が著しいポルトガル、アイルランドを始めとする南欧諸国や中・東欧諸国の国債利回りやソブリンCDSは上昇している(前掲第1-4-26図第1-4-27図第1-4-30図)。また、スペインは、住宅バブル崩壊後の景気後退により失業率が20%以上と雇用の悪化が著しく、加えて、金融システム問題と景気後退の悪循環が懸念されており、財政状況が更に深刻化するおそれがある。こうしたことから、国債価格の急落(利回りは上昇)やソブリンCDSの急騰により、金融市場の混乱が深刻化し、景気回復が停滞するリスクがある。
  また、財政の持続可能性への懸念から、財政状況が悪い国々の国債を保有する金融機関の健全性や、財政状況が悪い国々への対外与信残高が多い金融機関の経営に対する懸念が広がるリスクがある。

(ii)アメリカ、アジア経済の減速に伴う輸出の減少
  今回の回復局面では、中国向けの輸出は、ユーロ圏の域外向け輸出構成比の6.5% (09年)と小さいが、伸びは大きいので輸出全体の伸びに占める寄与が大きい。
  ユーロ圏の域外向け輸出構成比の11.9%(09年)を占めるアメリカ経済や、ユーロ圏の域外向け輸出構成比は小さいものの伸びが大きい中国経済が、これまでより減速した場合、景気のけん引役である輸出が減少する上、輸出の増加を背景に持ち直していた生産や個人消費への影響も考えられ、景気を下押しするリスクがある。

(iii)雇用情勢の想定以上の深刻化
  ヨーロッパ全体の失業率は、10%近傍で推移しており高止まっている。景気が自律的な回復に至らず、失業率がこれまで以上に上昇した場合には、所得環境や消費者マインドの悪化を通じて、個人消費を更に下押しするリスクがある。

●上振れリスク
  上記のメインシナリオに反して、以下の場合には予想外に速い景気の回復ペースとなる可能性もある。

世界経済の想定以上の回復に伴う輸出拡大
  主要な輸出先であるアメリカ、中国の景気が力強いものになった場合、輸出から生産、雇用、消費へとその恩恵が波及し、景気の回復ペースは比較的速いものになる可能性がある。また、ドイツ等のヨーロッパ主要国は、貿易、投資等を通じて中・東欧諸国経済との結びつきを深めている。中・東欧諸国経済の景気が下げ止まってきているため、中・東欧諸国向けの輸出が増加する可能性がある(第3-2-3図)。


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