見通しに係る下振れリスクは半年前に比べて弱まっているものの、依然としてリスクのバランスは下方に偏っている。
●下振れリスク
(i)失業率の高止まりの継続
10年5月以降、雇用の回復テンポは緩やかとなっており、失業率は10%近傍の高い水準が続いている。雇用のミスマッチが解消されない場合には、所得の回復の遅れから、消費・住宅等の家計部門に及ぼす影響が懸念される。
(ii)信用収縮の継続
政府・FRBによる金融システム安定化策等の効果もあり、金融市場は改善が進んでいるものの、商業銀行部門(貸出部門)では不良債権比率は高い水準にあり(第3-1-2図)、特に中小金融機関では厳しい経営状況が続いている。金融機関の厳格な貸出態度が続き信用収縮が長期化する場合には、資金調達を間接金融に依存する中小企業の経営悪化や、家計による消費や住宅の購入が抑制される可能性がある。
また、10年7月に成立した金融規制改革法に基づき、今後、金融規制の詳細が決定されるが、規制が著しく厳しい内容となる場合には、金融機関の経営悪化を通じて信用収縮が拡大するおそれがある。
(iii)デフレに陥るリスク
10年初以降、コア物価上昇率は低下傾向にあり足元では統計開始来最低の水準に達したほか、賃金上昇率も09年以降低下傾向にある。大幅なマイナスのGDPギャップの存在を考慮すると、物価上昇率は更に低下する可能性がある。また、現実の物価上昇率や賃金上昇率の低下により人々の期待インフレ率が適応的に低下していく場合には、コア物価上昇率が更に低下し、デフレに陥るリスクがある。
(iv)州財政の悪化による地域経済の低迷
世界金融・経済危機の発生以降、州財政は著しく悪化しており、州政府全体では11年度も引き続き大幅な歳入不足となる見通しである。一部の州では、歳入不足を補うために増税や歳出削減等を実施しており、こうした状況が更に続けば地域経済への影響が懸念される。また、州財政は景気に遅行する傾向があることから、州財政の改善にはしばらく時間がかかると見込まれており、この場合、一部の地域経済の停滞が長期化する可能性がある。
(v)商業用不動産市場の停滞と中堅・中小金融機関の経営悪化
商業用不動産市場は、価格が再び下落しており、不安定な状況が続いている(第3-1-3図)。商業用不動産向け貸出は、中堅・中小金融機関の収益の中核を担っているが、同貸出の不良債権比率は上昇を続けており、今後も厳しい経営が続くと見込まれる。不良債権の増加による保有資産の劣化が進んでおり、今後更に中堅・中小金融機関の経営破たんが拡大する場合には、金融不安が再燃する可能性がある(第3-1-4図)。加えて、同貸出は、今後数年間で満期が到来するものが多く、借換えができないことによる更なる市場の悪化も懸念される。
(vi)政策の継続性に関するリスク
10年10~12月期以降は、景気刺激策の規模が大幅に縮小し、政策効果のはく落の影響が懸念される。このうち、所得税減税(Making Work Pay)や失業保険給付等、一部のプログラムについては延長措置が検討されているものの、議会の調整が難航しこれらの措置が大幅に縮小あるいは見送られる場合には、景気回復が停滞する可能性がある。また、政策の継続性に対する不透明感が高まり、景気の先行きに対する不安が高まる場合には、家計や企業のマインドを低下させ需要を抑制するおそれがある。さらに、万が一ブッシュ減税が延長されない場合には、増税と同様の効果をもたらし、景気が再び後退するおそれがある。
●上振れリスク
メインシナリオにおける想定以上に、景気の回復テンポが加速する場合の要因としては以下が考えられる。
(i)信用収縮の緩和
景気の回復に伴って、金融機関の経営状況の改善や家計・企業に対する信用リスクの低下が大きく進展したり、追加金融緩和策によって金融機関の信用創造が喚起され、貸出が増加する場合には、消費や投資が拡大する可能性がある。
(ii)資産価格の上昇
追加金融緩和策の効果が想定以上に発現し、株価や住宅価格が上昇に向かう場合には、家計や金融機関のバランスシート調整に係る負担が軽減され、家計への信用の流れが回復する可能性があるとともに、資産効果を通じて個人消費が拡大する可能性がある。
(iii)期待インフレ率の上昇
追加金融緩和策の効果が想定以上に発現したり、ドル安が更に進行し輸入物価が上昇するなどにより、期待インフレ率が大幅に上昇した場合には、消費や設備投資の伸びが高まる可能性がある。
(iv)家計貯蓄率の低下による消費の拡大
家計がバランスシート調整を進めず、貯蓄率が想定以上に低下する場合には、個人消費が一時的に拡大する可能性がある。ただし、中長期的には、再びバランスシート調整による消費の停滞が起こる可能性がある。
(v)世界経済の想定以上の回復に伴う輸出拡大
世界経済の回復に伴い想定以上に各国の需要が高まる場合には、輸出の拡大を通じて景気の回復テンポが加速する可能性がある。また、ドル安が更に進行したり、国家輸出戦略による支援が成果を挙げる場合には、輸出が更に拡大する可能性もある。