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第2章 財政再建と経済成長、金融システム

第4節 先進各国の財政状況と財政再建の取組

5.フランス

(1)財政の現状

  フランスでは、91~93年にかけて景気が後退したことに伴い、財政赤字が急速に拡大し、90年には▲2.4%だった財政収支GDP比は、93年には▲6.4%にまで悪化した(36)。その後、ユーロに参加するための歳出削減や付加価値税の増税の実施等により、97年には財政収支はGDP比▲3.0%となってユーロへの参加が決定し、さらに、景気回復も加わり、2000年まで財政収支の改善が続いた。
  しかし、01年以降、財政収支は再び悪化し、一時改善がみられる時期があったものの、世界金融危機による影響等により、09年には財政収支はGDP比▲7.6%に達し、債務残高のGDP比は78.1%となった。この間、フランスは、03年6月と09年4月の2回にわたり、過剰財政赤字是正勧告を受けた(第2-4-23図)。
第2-4-24図

(2)財政再建の取組

●政権・時代背景
  80年代後半は、景気回復、歳出抑制を基調とした財政運営、国営企業の民営化等による歳入増により、財政赤字は縮小傾向にあった。しかし、91~93年には景気の後退により歳入の減少と政府支出の増加から財政収支は急速に悪化し、90年には▲2.4%だった財政収支GDP比は、93年には▲6.4%となった。
  ユーロに参加する条件である経済収れん条件達成のために、93年に成立したバラデュール内閣(37)は、「経済・社会再建プログラム」を策定した。雇用対策を重視しつつ、歳出削減や石油製品税の増税を実施した。94年1月には、「財政5か年計画法」を成立させ、財政再建目標を示すとともに毎年の歳出の伸び率を物価上昇率以下に抑えることとした。
  95年のシラク大統領就任を受けて発足したジュペ内閣(38)も、経済収れん条件達成のために、歳出抑制や付加価値税率の引上げ等の財政再建を進め、国営企業の民営化も実施した。90年代後半には、景気回復による税収増もあり、97年には財政収支がGDP比▲3.0%となり、98年に通貨統合への参加が決定した。
  さらに、97年に発足したジョスパン内閣は、2000年までに財政収支をGDP比▲2%以下にすることを目指し、中央政府及び社会保障会計の赤字削減を進め、2000年の財政収支はGDP比▲1.5%となった。
  その後、所得税率の段階的引下げや連帯付加税の段階的廃止等による税収の減少と社会保障費の増大により、財政赤字が再び拡大し、02年には財政収支のGDP比が▲3.2%となり、ECOFINは、03年6月に、過剰財政赤字是正を勧告した。しかし、04年の予算において構造的財政赤字削減への取組がみられたことや景気後退を受けて、同年11月に、過剰財政赤字是正の達成期限が05年まで延長され、制裁手続が一時停止されることが合意された。
  引き続き財政再建が進められ、03年には、年金満額受給に必要な保険料の拠出期間の延長等を盛り込んだ年金改革等もあり、06年まで財政赤字が縮小した。
  しかし、世界金融危機による景気悪化の影響を受け、財政赤字が拡大した。09年3月に、09~11年まで財政収支のGDP比▲3%を上回る状況が継続するとの財政収支見通しが欧州委員会により示されたことを受け、09年4月にECOFINは過剰財政赤字是正勧告を行った。
  こうした事態を受け、フランスは10年以降、財政再建を進めることとなった。国内労働組合の反対やデモ活動もあったが、年金受給開始年齢の60歳から62歳への引上げや、年金の満額受給開始年齢の65歳から67歳への引上げ等を盛り込んだ年金制度改革案が提案され、10年10月27日に議会で可決された。また、11~14年複数年財政計画案において、財政収支については13年までに安定成長協定において定められたGDP比▲3%を達成する計画を公表した。この計画と整合的な11年予算案も公表され、公務員削減及び医療保険支出の伸びの抑制等の歳出削減や、税額控除等の削減による歳入増加が盛り込まれた。

●予算の決定システムの改革
  01年に制定された予算組織法により、予算関連文書の充実、歳出科目区分の再編が行われ、議会が予算をより実質的に監督できる体制が整えられた。また、予算科目ごとに目標及び業績評価指標の設定が行われるようになった。06年予算から同法に基づいた予算編成が行われている。
  予算関連文書の充実が図られた結果、予算関連文書は、政府のバランスシート、損益計算書、キャッシュフロー計算書、付属文書が作成されている。
  また、歳出科目区分が再編され、以前は省(ministere)、章(titres)、部(parties)、項(chapitres)に分かれ、省及び章が議決対象となっていたが、実質的には項で管理されていた。項は約850あったため、国会で実質的な審議を行うのは難しい状況にあった。01年の予算組織法の改正により、予算単位がミッシオン、プログラム、アクシオンに再編(39)され、予算は、32あるミッシオン(40)ごとに国会で議決されることとなった(第2-4-25表)。
  05年予算までは、国会で審議されるのは、予算全体の6%のみであり、実態としては、残りの94%は自動的に承認されていた。歳出科目区分の再編により、すべてのミッシオンについて国会で審議が行われるようになった。
  また、ミッシオンの下には、合計123のプログラム(41)が設けられているが、これについても国会の承認が必要とされている。なお、このプログラムの下に複数のアクシオンが設けられている。
  国会で審議対象となる項目数が約850から123に減少したことで、以前に比べ、予算の柔軟性と国会による予算のチェック機能が同時に高められることとなった。
  また、省等の組織単位ではなく、ミッシオンといった行政目標ごとに予算項目が再編されたことで、より予算と実際の施策の関連付けが強化された。
  プログラム及びアクシオンは、人件費や経常的経費といった7つの章(titre)に分割される。各プログラムには複数の目標及び業績指標が設定されている。プログラム責任者は、プログラムの成果に責任を持つと同時に、歳出に関してプログラム内での裁量が認められている。具体的には、プログラム内であれば、章の歳出額を変更することが可能である。ただし、人件費の歳出総額は増額できないこととなっている。
  08年の憲法改正により、09年の予算編成から、単年の予算編成と併せ、2年に1度、複数年の財政計画を法定化することとなった。翌年の予算については、従来どおり、プログラム単位まで支出が確定されるが、翌々年の予算については、一段上の予算項目であるミッシオンまでが確定されることとなった。これにより、複数年予算をあらかじめ策定すると同時に、毎年の歳出に弾力性を確保することが可能となった。

●成長戦略
  10年補正予算で、350億ユーロの「未来への投資基金」が設立されることとなった。知識経済、競争力の強化、イノベーションの3つを目標に掲げ、5つの重点分野、すなわち(1)高等教育及び職業訓練、(2)研究、(3)産業、(4)持続可能な開発、(5)デジタル振興に対し、民間資金と組み合わせた形で投資を行い、フランス経済の成長力を高めるとしている。

(3)財政再建の評価

●財政再建が成功した要因
  94~2000年にかけて、財政赤字が縮小した。これは、景気回復や、ユーロ参加のため、経済収れん条件達成に強くコミットする必要があったことが要因であるといえる(第2-4-26図)。ただし、財政収支はこの間も赤字であり、経済収れん条件は満たしたものの、黒字に転換することはなかった。

●財政再建にかかる課題
  フランス政府は、10年以降の経済見通しについて、高めに設定されていると欧州委員会から指摘されている。実際に、欧州委員会やIMFによる経済見通しと11年以降について比べると、フランス政府の見通しは高めであることがわかる。これが、財政再建計画の信認を損なわないかどうか、今後、状況の推移を注視する必要がある(第2-4-27表)。


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