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第2章 財政再建と経済成長、金融システム

第4節 先進各国の財政状況と財政再建の取組

10.韓国

(1)財政の現状

●財政収支は安定的
  韓国の統合財政収支(71)は、1980年代後半に入ってから改善した(第2-4-42図)。しかし、アジア通貨危機後の98年には、統合財政収支がGDP比約▲4%と大幅に悪化した。その後、2000年に統合財政収支は再び黒字に転換し、世界金融危機後の09年まで維持した。また、管理対象収支(72)は、98年と09年を除くとおおむねGDP比▲2%から+1%で推移しており安定している。

●債務残高は低水準
  国家債務残高(73)は、増加傾向にあるものの、09年はGDP比33.8%と他の先進国と比較して低水準である(第2-4-43図)。特に、98年と09年はGDP比で約4%ポイント上昇しており、内訳では、一般会計部門が大きく増加している。また、外国為替市場の安定のために発行される外国為替平衝証券(74)は増加傾向にある。

●歳入と歳出
  韓国の一般会計の歳入は、国税が約9割を占めている。国税の構成比をみると、付加価値税の割合が約3割、所得税が約2割、法人税が約2割となっている(第2-4-44図)。
  他方、歳出については、10年度予算の配分をみると、福祉・保健分野が約3割と最も高い構成比率である(第2-4-45表)。また、予算計画によれば、今後10年から13年にかけて構成比が増加することが見込まれる分野は、教育、福祉・保健、R&Dであり、構成比が減少する主な分野は、一般行政、農林水産、社会資本整備等となっている。

(2)財政再建の取組

(i)政権・時代背景
  韓国の財政再建は、1980年代にまでさかのぼる。朴正熙(パク・チョンヒ)政権(1963~79年)は、輸出産業支援や重化学工業化戦略による政府投資規模を拡大した。その結果、インフレが高進し、79年のオイルショック後、80年にはコメ不作もあり、消費者物価上昇率は前年比30%近くとなった(第2-4-46図)。
  この状況を受け、全斗煥(チョン・ドファン)政権(80~87年)は、金融政策及び財政政策を引き締め、87年には統合財政収支の黒字を達成した(前掲第2-4-42図)。この頃に、歳入の範囲内に歳出を抑える均衡財政の原則が確立し、以後の財政運営の基礎となった。

(ii)財政政策の枠組み
●財政ルール
  上述のように、財政ルールの原則は均衡することであるが、法律等で特に明文化されてはいない。97年以降の赤字国債の発行の推移をみると、アジア通貨危機や台風被害(03年)、世界金融危機といった韓国経済に大きな影響が発生した時以外は、赤字国債発行による補正予算を組むことはほぼ行われておらず、平時における均衡財政は暗黙のルールになっていると考えられる(75)

●中期財政フレーム(中期財政見通し)
  04年9月に、これまで単年度主義であった予算編成を多年度編成に移行させる中期国家財政運用計画(04~08年)が発表された(76)。これにより、硬直的であった財政運営に景気循環を考慮する要素を取り入れることができるようになった。ただし、この計画では、毎年歳入が歳出を上回る見通しとなっていた。
  これに続き09年9月に財政計画(09~13年)が発表された。この計画では世界金融危機の影響にかんがみ、09~12年までは財政赤字を容認するものの、徐々に縮小させ13~14年に均衡財政となる見通しとなっている。

(iii)財政再建の内容・手法
  中期国家財政運用計画と合わせて、各種制度の改革も実施されている。04年から本格実施された予算総額配分自律編成制度は、予算当局が事前に予算総額および各省庁・分野別のシーリングをトップダウンで設定し、各省庁はその範囲内で予算要求をする仕組みとなっている。また、予算成果管理制度は、各省庁が予算編成時に事業目標およびその達成度を定量化した成果指標を作成し、予算執行後はその結果・評価を外部に公表するとともに、次回の予算編成への反映を義務付ける制度である。これらの要素を含めた国家財政管理法が07年1月に施行され、法制化に至った。

(iv)経済成長との関係
  統合財政収支が黒字を達成した87年以降、黒字基調が継続したが、アジア通貨危機後の98年にはGDP比▲3.9%と再び悪化した。これは、危機の影響等により経済成長率がマイナスとなり税収が減少し、景気を下支えするための財政出動を行ったためである。また、ウォンはドルに対して約5割の大幅な減価をしたため、純輸出が大幅にプラスとなり、経済成長にプラスに寄与した(第2-4-47図)。一方、金融政策はIMFの支援条件(77)(コンディショナリティ)により高金利政策が採られ、無担保コール翌日物は98年1月に月平均で25.3%と急上昇したものの、98年末には危機前の10%台を下回る7%台まで急落しており、金融緩和に向かっていった(第2-4-48図)。99年には、輸出の好調や緩和的な金融政策もあり、財政を引締め方向に転じたが、実質経済成長率は10.7%となり、税収は回復し、2000年には統合財政収支は1.1%のプラスに転じた。
  この財政再建のパターンは、今次の世界金融危機にも当てはまるものと考えられる。08年秋からのウォンの大幅な減価は、輸出を後押しし、経済を早期に回復させており、政策金利の大幅な引下げは、景気を下支えした。09年に赤字となった財政収支を均衡に戻す環境は整いつつある。11年の予算案によると、統合財政収支については、11年にGDP比0.4%の黒字に転換するとしている。また、管理対象収支については、11年にGDP比2.0%のマイナスと、10年予算比で0.7%ポイント改善するとしている。

(3)財政運営の評価

●財政運営が安定している要因
  韓国財政の安定要因は、平時には一貫した均衡財政が採られていることである。これは、予算当局によるトップダウンでのシーリングや、当年予算編成時の歳出規模抑制等が徹底されているためである。ただし、世界金融危機のようなショックに対しては拡張的な財政政策が採られ、経済を下支えしている。その後、再び均衡財政に戻す見通しを立てられるのは、金融緩和政策や通貨下落による輸出の好調等により、経済が早期に回復を果たしているためと考えられる。

●財政運営にかかる課題
  韓国の財政政策は、世界金融危機のような大きなショックには対応しているものの、いわゆる景気循環に対応した財政運営を行っていないため、今後は景気循環にも対応できる財政運営が求められると考えられる。また、今後少子高齢化が急速に進むと予測される。国連推計によると、韓国全体の人口に占める65歳以上の人口の割合は、2010年は11%であるが、2030年は23.2%と20年間で約2倍となっている。また、韓国統計庁によると09年の合計特殊出生率は、1.15と超少子化社会となっている。したがって社会福祉の運営をどのような形で実施していくのかという問題は、今後の韓国の財政運営をさらに難しいものにすると考えられる。


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