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第1章 世界経済の回復の潮目の変化

第2節 アジア経済

3.インド経済の動向

  インドでは、08年の世界金融危機発生を受けた金融・財政スタンスからの出口戦略を進めつつ、内需を中心に景気拡大が続いている。以下、こうしたインド経済の現状や先行きについてみていく。

(1)景気の現状

●内需を中心に景気拡大が続く
  実質経済成長率は、09年以降回復基調に転じ、10年1~3月期からは2四半期連続で前年比8%以上と更に伸びを高めている(第1-2-42図)。
  産業別にみると、GDPのうち大きな割合を占める製造業(09年16.3%)や商業・ホテル・運輸・通信部門(IT・ソフトウェア産業を含む)(09年27.2%)の寄与が再び高まっている。
  需要項目別にみると、個人消費は、10年1~3月期にはやや伸びが低下したものの、堅調に推移している。総固定資本形成は、09年10~12月期以降再び寄与が大きくなっているが、10年4~6月期には1~3月期の高い伸びの反動もあってやや伸びが低下した。純輸出は、09年以降輸入の伸びが輸出の伸びを下回っていたことからおおむねプラスで推移していたが、好調な内需を受け輸入の伸びが高まっており、10年4~6月期には、再びマイナスに転じている。

●内需は好調
  消費の動向をみると、乗用車と二輪車の販売は、ともに台数ベースでは10年7月以降4か月連続で過去最高を更新し、10年1~10月でそれぞれ09年の年間販売台数を超えている。10年3月から9月にかけての5回にわたる政策金利の引上げや、08年12月から実施されていた景気刺激策の一部が10年4月に解除となるなどの消費の下押し懸念があったにもかかわらず、前年比でみても20%以上の伸びが続いており、旺盛な内需に支えられていることがうかがえる(第1-2-43図)。
  また、商業銀行(36)信用与信残高(非食料部門)をみると、08年末以降の景気の減速に伴い前年比で伸びが大きく低下していたが、09年10月以降は上昇が続いている。10年7月以降は、インド準備銀行(RBI:Reserve Bank of India)が10年度の目標としている前年比20%を超える伸びもみられ、設備投資等の資金需要の回復を示しているとみられる。ただし、8月以降は相次ぐ利上げ等の影響もあるとみられ、前年比の伸びは横ばいとなっている(第1-2-44図)。

●貿易は輸入の伸びが輸出を上回って推移
  貿易動向をみると、輸出は、10年前半と比較すると、7~9月期は前年の反動や回復ペースが緩やかになっている世界経済の影響もあるとみられ、伸びが鈍化している。一方、輸入の伸びは、09年10~12月期に前年比でプラスに転じてから輸出の伸びを上回って推移しており、09年は縮小していた貿易赤字は再び拡大している。前年比60%を超えた10年1~3月期の輸入は、国際商品価格の上昇の影響を受けたとみられる原油による寄与も大きかったが、その後、原油の寄与は低下し、それ以外の寄与が高まっており、堅調な輸入の伸びは好調な内需を反映しているとみられる。(第1-2-45図)。

●生産の伸びは鈍化傾向にあるものの堅調に推移
  続いて生産の動向をみると、鉱工業生産は、資本財と耐久消費財の高い伸びにけん引されて09年1~3月期を底に伸びが高まってきたが、前年の反動もあって10年4月以降鈍化傾向にある。しかし、内訳をみると、耐久消費財は伸びがやや低下傾向となっているものの、自動車販売の好調等を受けて、依然として二けた台の伸びが続いている。また、資本財も、10年9月には前年比で減少となるなど、このところ変動が大きいものの、傾向としては高水準で推移しており、投資の堅調さを示唆している(第1-2-46図)。

●物価はこのところ低下がみられるものの、依然高水準で推移
  インド政府・金融当局が最も重視する物価指標である卸売物価をみると、09年6月を底に上昇が続いた後、10年4月の前年比11%をピークに、その後は低下がみられるものの、依然として、RBIが当面の目標としている4.0%~4.5%を超える高水準となっている。上昇に転じた当初は、農業生産減少の影響を受けた食料品(一次食品及び加工食品)価格が押上げ要因となっていたが、09年半ばにはマイナスの伸びとなっていたその他工業製品についても、景気回復に伴い徐々に上昇し、物価全体の伸びに大きく寄与している(第1-2-47図)。また、燃料エネルギー価格についても、10年6月に政府が発表した燃料価格統制の撤廃と価格引上げもあり上昇している。

●金融・財政政策は出口戦略へ
  前述のような好調な国内経済の下、金融・財政政策の出口戦略が進められている。金融政策をみると、09年4月以降据え置かれていた政策金利が10年に入ってから3月、4月、7月(2回)、9月、11月と相次いで引き上げられた結果、レポ・レートは引上げ以前の4.75%から6.25%となった(第1-2-48図)。RBIは、9月の金融政策決定会合において金融政策スタンスの正常化のプロセスはほぼ終了したとしていたが、物価上昇率が依然として高いことなどを受け、11月にも再度利上げを実施した。
  財政政策は、10年度予算案において景気刺激策の見直しと財政再建へ向けた取組が示されている。その取組の一つとして挙げられている財政赤字削減についてみると、09年度のGDP比で7.1%の財政赤字を同5.5%まで低下させるという10年度の目標は、景気拡大を背景に税収増が見込まれることなどにより(37)、達成可能と見込まれている。

(2)景気の先行き

●農業生産の回復や好調な内需を受けて拡大傾向が続く見込み
  09年6~9月期のモンスーン期における雨不足は、前述のとおり09年後半から10年前半にかけて、農業生産の減少により物価上昇要因となるなどの影響を及ぼしたが、10年の同期間における降雨量は、国内全体で長期平均の102%という例年並みの降雨量となった。降雨量には地域差があったため、例年以下となった地域における生産量減少や、モンスーン期後にも過度の降雨に見舞われている地域での収穫への悪影響も考えられるが、インド農業省の発表によると、10年秋(カリフ期)における食糧穀物の生産は前年同期比10.4%と見込まれている(事前推定)。農業生産の回復により、農村地域の所得環境の改善や食料品価格の低下が見込まれることから、消費は今後も堅調であるとみられる。ただし、RBIは、食料品価格の上昇の背景には、国民の所得向上に伴う消費パターンの変化といった構造的な要因の可能性もあると指摘しており、今後もこうした上昇圧力については引き続き存在することに留意が必要である。
  また、購買担当者指数(PMI)が、製造業及びサービス業全体では改善/増加を示す50ポイントを上回る堅調な推移を続けている。ただし、製造業の新規受注や新規輸出受注は10年1月以降横ばいないし低下し、10月の新規輸出受注は10年に入ってから最低となっており、サービス業の新規受注も、ピークとなった6月の63.3ポイントから10月までに10ポイント低下している。これら先行きを示す指標の低下については注視する必要がある(第1-2-49図)。
  このようにインド経済の先行きについては、注意すべき点はあるものの、当面、これまで同様に内需を中心とした景気拡大が続くことが見込まれる。


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