第3章 世界経済の見通しとリスク |
第2節 ヨーロッパ経済の見通しとリスク
2.経済見通しに係るリスク要因
足元で下げ止まったヨーロッパ経済は、政策で支えられている側面が強く、自律的な景気の回復の芽が乏しい。また、金融危機と実体経済悪化の悪循環も続いていることから不確実性が高く、先行きに関するリスクは依然として下方に偏っている。
●下振れリスク
上記のメインシナリオに反して、以下のような場合には景気は二番底に陥るおそれがある。
(i)不良債権処理の遅れ等による金融市場と実体経済の悪循環の長期化
第2章第4節でみたように、ヨーロッパの不良債権処理はアメリカに比べて遅れており、IMFの国際金融安定性報告書(09年9月30日)では、ヨーロッパにおける損失推計額(ユーロ圏:約8,000億ドル、英国:約6,000億ドル)のうち約6割が償却や引当がされず未処理とされている。また、ユーロ圏金融機関の貸出態度は厳格化したまま変化していない状況にあり、貸出の伸びも下げ止まっておらず信用収縮が続いている(第1章第4節参照)。
(ii)中・東欧経済の低迷の長期化による金融・実体経済面への悪影響
バルト三国を始めとした中・東欧諸国では、金融危機を受けて08年末から景気の低迷が続いており、IMFやEUによる支援を受けている(ハンガリー、ラトビア、ルーマニア、ポーランド等)。また、中・東欧への貸出債権が多いオーストリア(4)やスウェーデン(5)の金融機関は、不良債権の増加による業績の悪化に直面している。オーストリアやスウェーデンには、ドイツ等他の西欧諸国の金融機関が貸出債権を保有しているため、中・東欧経済の悪化はこうした一部の金融機関の業績の悪化を通じてヨーロッパ全体の金融システムの不安定化につながるおそれがある。
(iii)雇用情勢の想定以上の深刻化
メインシナリオよりも失業率が悪化した場合には、所得環境の悪化を通じて個人消費を下押しする懸念がある。
(iv)財政赤字拡大に伴う長期金利上昇
財政の持続可能性への懸念等から、アイルランド、ギリシャ、イタリア等の国債利回りはドイツ国債利回りとの金利スプレッドが拡大している。現在では09年2月から3月のピークよりは低下したものの、これが再び拡大すれば、消費や投資が抑制され、景気回復の足かせとなるおそれがある。
(v)緊急避難的な財政・金融政策の拙速な転換による景気の腰折れ
欧州委員会は09年11月、合計13か国に対する財政再建の目標と時期を明確化した。各国は遅くとも11年には財政再建を開始し、毎年の構造的財政収支を0.5〜2%ポイント改善させることになる(第2章第2節参照)。しかしながら、10年に入ってもGDPギャップが拡大するとみられる国が多い中で、景気の現状と見通しに比べて財政再建のタイミングが時期尚早である可能性がある。
●上振れリスク
上記のメインシナリオに反して、以下の場合には予想外に早いペースで景気が持ち直す可能性もある。
世界経済の想定以上の回復に伴う輸出拡大
ユーロ圏の域外輸出は、現在、中国等アジア向けを中心に伸びている。今後、景気刺激策の効果や在庫調整の進展等によって主要輸出先であるアメリカ、さらには中・東欧諸国の景気が想定以上に持ち直した場合、輸出から生産、雇用、消費へとその恩恵が波及し、景気の回復ペースは比較的速いものになる可能性がある。