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第3章 世界経済の見通しとリスク

第1節 アメリカ経済の見通しとリスク

2.経済見通しに係るリスク要因

   見通しに係る下振れリスクは弱まっているものの、依然としてリスクのバランスは下方に偏っている。

●下振れリスク

(i)金融機関の経営不安の再燃
   金融機関が保有する商業用不動産向け貸出の残高は、サブプライムローンを上回る規模となっているが(第1章参照)、オフィスや店舗に対する需要の低下から商業用不動産の収益率が低下し、延滞率の上昇や不良債権化が進展しており、新たな金融不安をもたらす可能性がある。特に、中堅・中小金融機関では総資産に占める商業用不動産向け貸出の割合が高く、また地域密着型の経営を行うところが多いことから、地域経済の低迷により商業用不動産の収益性が低下すれば、保有資産の劣化により経営破たんが拡大するおそれがある。

(ii)金融危機と実体経済悪化の悪循環による信用収縮の更なる深刻化
   金融機関の保有資産における不良債権化率は上昇を続けており、金融機関の貸出態度は依然として厳しい状況にある。信用収縮の長期化により、景気が低迷して企業収益や雇用が悪化すれば、企業の経営破たんや家計向け貸出の延滞の増加により不良債権が更に増加し、一層の信用収縮をもたらすという悪循環に陥るリスクがある。

(iii)雇用情勢の想定以上の深刻化
   雇用情勢は悪化を続けており、失業率が、戦後のピークである10.8%(1982年11月及び12月、第二次石油危機後の景気後退時)を超えて上昇していく場合には、所得環境の悪化から個人消費を更に下押しするおそれがある。

(iv)長期金利の上昇
   財政の持続性に対する不信の高まりを受けて長期金利が上昇すれば、国内金利の上昇を通じて個人消費や投資を抑制するおそれがある。また、利払い負担の増加に伴い財政の硬直化が進展すれば、今後の景気動向に応じた弾力的な財政運営を妨げるおそれがある。

●上振れリスク
    メインシナリオにおける想定以上に、景気の回復テンポが加速する場合の要因としては以下が考えられる。

(i)資産価格の上昇
   金融システムの安定化や景気の回復が加速し、株価や住宅価格が上昇に向かう場合には、家計や金融機関のバランスシート調整に係る負担が軽減され、家計への信用の流れが回復する可能性があるとともに、資産効果を通じて個人消費が拡大する可能性がある。

(ii)世界経済の想定以上の回復に伴う輸出拡大
   世界経済の回復に伴い想定以上に各国の需要が高まる場合には、輸出の拡大を通じて景気の回復テンポが加速する可能性がある。


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