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第2章 緊急避難的な経済政策からの出口戦略

第5節 出口の先の金融政策・金融システム安定化策の枠組み

1.危機を踏まえた新しい金融政策・金融システム安定化策の潮流

   今回の世界金融危機と一連の政策対応を踏まえ、金融危機を未然に防ぐためには、個々の金融機関の監督だけでは不十分であり、金融システム全体に関わるリスクを監視するとの観点から政策運営に当たるべきとの議論が高まっている。このような観点から金融システム安定化を図る政策は「マクロ・プルーデンス政策」と呼ばれる。
   マクロ・プルーデンス政策は、金融市場の安定と、その結果としてマクロ経済の安定を確保することを目的として、金融システムにおいて生じる各種のリスクへ対処するための政策である。従来の政策と比べ、例えば、資産、株式、証券化商品の市場価格とその長期的な均衡水準からのかい離の程度や金融機関のレバレッジの状況、また、従来監督下におかれていないヘッジファンド等の活動が金融システム全体に関わるリスクを高めていないかどうかなどの要素を重視すべきと考えられている。
   マクロ・プルーデンス政策は、従来の主に物価安定を目標とする中央銀行のマクロの金融政策と、各金融監督当局による個別金融機関の監督・規制というミクロの金融行政のすき間で手薄となっていた部分を埋め、金融資本市場のシステミック・リスクに対処することを狙っており、中央銀行と金融機関監督当局の双方の連携を必要とするほか、新たな協議機関の設置等、制度的な枠組みを整えることも求められる。以下では、マクロの金融政策とミクロの金融監督の双方の視点を踏まえて、総合的な観点からから危機を未然に防ぐための「マクロ・プルーデンス政策」の実現に向けた欧米での取組について述べる。


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