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第2章 緊急避難的な経済政策からの出口戦略

第4節 金融システム安定化の現状と今後

1.主要国の金融システム安定化策(資本注入、不良債権処理、債務保証等)

●アメリカにおける金融システム安定化策の動向
   アメリカでは、リーマン・ブラザーズの破たんにより発生した金融危機に対応するため、08年10月に成立した金融機関から不良資産を買い取るための7,000億ドルのプログラム(TARP:Troubled Asset Relief Program)に基づき、金融機関へ資本注入を行っている。09年11月10日までに3,145億ドルの資本が注入されている。
   また、不良債権処理については、09年3月に発表された不良資産の買取りを行う官民投資プログラム(PPIP:Public-Private Investment Program)のうち、09年7月に財務省及び民間投資家に代わって不良証券に投資する「不良証券投資ファンド」の詳細が発表された(1) 。これによると、ファンドは買取り対象をAAAもしくは同等の格付けが付与された商業用不動産ローン担保証券(CMBS)及び住宅ローン担保証券(RMBS)とするとされた。そして、財務省が選定した9社の投資マネージャーが、民間投資家から最低5億ドルずつ株主資本を調達するとともに、財務省が最大300億ドルの出資または貸出を行うとされた。この発表に基づき、09年10月以降、7つのファンドで総額164億ドル規模の買取ファンドが設定された(第2-4-1図)
   債務保証については、連邦預金保険公社(FDIC)は08年10月以降、暫定流動性保証プログラム(TLGP:Temporary Liquidity Guarantee Program)において、債務保証プログラム(DGP:Debt Guarantee Program)を創設し、金融機関が新規に発行する債務を保証した。当プログラムによる債務保証額は09年5月には約3,500億ドルに達したが、09年10月のFDIC理事会において、緊急の場合を除き、09年10月末に終了することが決議された。また、破たん処理(預金保険)の保護策として、FDICは、08年10月に開始した預金保護の上限を10万ドルから25万ドルに引き上げる制度を13年末まで、決済用預金の全額保護についても10年6月末まで延長している。一方、リーマン・ブラザーズの破たん以後、同公社が保証の対象としている預金取扱機関の破たんは急増しており、FDICの支払準備金計上額は急激に増加した。FDICは悪化した預金保険準備率(FDICの総資産/保護対象預金残高)の改善を目的として、09年9月に11年までの保険料の支払いの前倒しと保険料の増額を発表した。

●ヨーロッパにおける金融システム安定化策の動向
   ヨーロッパの金融システム安定化策をみると、まず資本注入については、08年10月以降、ドイツ(800億ユーロ)、フランス(400億ユーロ)、英国(500億ポンド)を始め各国で資本注入枠が設けられ、EU全体ではGDP比2.6%(09年9月時点)の規模に達している。また、このうち実際の注入額は同0.5%規模となっている。
   債務保証についてはドイツ政府が銀行間取引に対して4,000億ユーロの保証を行うほか、フランスでも同3,200億ユーロを保証、英国では金融機関が新たに発行する債務について2,500億ポンドの保証が付されている。加えて、英国では、資産保護スキーム(09年1月)によりRBS(3,250億ポンド)及びロイズ(2,600億ポンド)の保有資産に対する損失保証が発表されている(2) 。こうした債務保証の規模はユーロ圏でGDP比20.6%、EUで同24.7%の規模とみられる(3)
   こうした各国の一連の金融システム安定化策を合計すると、ユーロ圏でGDP比36.5%、EUでは同43.6%規模に達している(09年9月時点)。
   ただし、不良債権処理については懸念が残っている。ドイツでは、09年7月に金融機関の不良債権をバランスシートから切り離すためのバットバンク法が成立したが、同法のスキームでは、損失に係る最終的なコスト負担を連邦政府ではなく、各銀行や株主が負担するため、制度の利用は進んでいない(4) (第2-4-2図)。なお、アイルランドでも、09年11月に不良資産の受け皿となる資産管理公社(NAMA:National Asset Management Agency)の設立に係る法案が議会で承認されている。
   ヨーロッパではアメリカに比べて不良債権処理が遅れており、金融システムへの懸念が完全に払拭され、金融システムが正常化するのにはまだ相当の時間を要すると考えられる。例えば、IMFは、アメリカの金融機関は約1兆250億ドルの潜在的な損失のうち約4割が償却や引当がされておらず未処理であるのに対し、ヨーロッパ(ユーロ圏:約8,140億ドル、英国:約6,040億ドル)では、潜在的な損失のうち約6割が未処理であると指摘している(5)


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