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第2章 緊急避難的な経済政策からの出口戦略

第1節 出口戦略の論点

   出口戦略を策定するに当たっては、様々な論点を検討する必要があるが、以下では、各国に共通する特に重要な論点を取り上げる(1)

●出口戦略実施のタイミング
   非常時から平時への出口までの移行期間においては、平時の経済政策運営において考慮する要素に加え、金融危機という非常時特有の要素もにらみつつ政策運営を行う必要がある。平時の経済財政政策や金融政策においては、例えば、経済見通しや期待インフレ率、長期金利の動向等を念頭において政策運営を行うが、危機後においては、これらに加え、金融機能の回復、資産市場の状況や、金融危機に伴う信用収縮の状況についても注意深くみる必要がある。特に、信用収縮の継続は、通常よりも景気後退を長期化させる可能性があり、出口のタイミングを検討する際には慎重に見極める必要がある。
   また、具体的に出口戦略を立てる際には、個々の政策手段ごとにきめ細かく個別に検討を行い実施していく必要がある。例えば、ある手段を解除するに先立ち、別途の準備的な措置が必要であったり、あるいは解除の対象とすべき手段が市場への影響力が大きいものである場合には、解除のスピードはゆっくりと徐々に行うのが適切である。また、市場への介入に対する市場の反応の大きさは、その政策の影響力の大きさを示すものとは限らない。ある政策に対して市場の反応がなくなったからといって、必ずしも解除すべきということにはならない。活用されずとも制度を作っておくこと自体が市場を安定化させる効果を持っているような場合もある(2)

●市場機能の維持・回復との関係
   さらに、市場に与えるゆがみが大きい政策は、優先的に解除対象とすべきである。例えば、政府部門による不良資産の買取りと、金融機関の不良債権に対する政府保証の供与とでは、危機の収束後では後者の方が市場機能をゆがめる効果が大きく、優先的に解除すべき政策である。
    非伝統的金融政策や個別金融機関への流動性支援策等の中には、個別企業に関する信用リスクや金利変動等の市場リスクを伴う措置が多く含まれ、また、こうした措置は、損失の発生により納税者負担を生じさせる可能性がある。したがって、このような政策には、通常は財政政策が担う、市場の資源配分機能への介入という側面があり、政策が長期にわたって維持された場合の副作用についても留意する必要がある。

●市場との対話
   出口に向かう過程で市場の安定を図るためには、市場との対話を通じて、出口戦略の実施のタイミングと方法を明確化し、市場参加者の期待の安定化を図ることが望ましい。特に、出口戦略の発動のタイミング、時間軸を示すため、例えば、日本銀行が量的緩和解除の際に用いたように、解除の条件として参照する経済指標を明らかにすることも、市場参加者の期待の安定化に資すると考えられる。
   また、国ごとに出口戦略実施のタイミングが異なる際には、国際的な裁定取引により資本フローをかく乱する可能性がある。特に、政策金利の引上げのタイミングが遅いとの期待が形成された場合、当該国通貨を借り入れて外貨で運用するキャリー・トレードを誘発し、為替レート等に影響を与える可能性がある。各国によって景気の回復の度合いが異なることから、利上げのタイミングを一致させることは難しいが、国際間で緊密な情報共有を行い、こうした影響についても考慮した対応が必要であろう。
   なお、各国の出口戦略へ向けた国際的な検討は始まったばかりであるが、09年11月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議においては、IMFから出口戦略の基本原則とすべき事項が提示された(第2-1-1表)。


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