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第2章 緊急避難的な経済政策からの出口戦略

   2008年9月の世界金融・経済危機の発生は、100年に一度の危機として認識され、1929年の世界大恐慌の教訓や我が国のバブル崩壊後の経験も踏まえ、各国政府・中央銀行は、前例のない規模で、財政政策、金融政策、金融システム安定化策を展開してきた。すなわち、金融システムを安定化させるため、個別金融機関への資本注入や債務の政府保証等の施策を08年秋以降次々と講じ、また、危機に引き続いて起きた経済の急速な落ち込みを緩和するため、中央銀行は、政策金利を史上最低水準まで引き下げるだけではなく、CPや国債を買い取るなど非伝統的な金融政策にも踏み込み、さらに、各国政府は、公共投資や減税等、大規模な財政刺激策を行ってきた。こうした思い切った政策措置の効果に支えられ、危機の発生から1年を経て、世界経済は持ち直しに向かっている。
   しかしながら、こうした緊急避難的な各種の政策措置には副作用もある。金融危機が収束し、景気が回復した後も継続すれば、ミクロ面では市場の資源配分機能をゆがめて経済の効率性を低下させ、また、マクロ面ではインフレ、財政収支の悪化による長期金利の上昇といった弊害をもたらしかねない。他方、政策措置の拙速な解除は、景気回復の腰折れや金融システム不安の再発を招きかねない。
   こうしたことから、いかにして非常時の政策を解除し、平時の政策運営に戻していくかという「出口戦略」に関心が集まっている 。
   本章では、出口戦略に係る論点を概観した上で、金融・経済危機に対応するために講じられた財政政策、金融政策、金融システム安定化策について、政策措置の内容と現状、効果の評価について分析し、出口戦略において考慮すべき事項、出口に向けた最近の動きを検討する。最後に、出口の先の新たな政策の枠組みに向けた潮流を鳥瞰する。


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