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第2章 先進国同時景気後退と今後の世界経済

第2節 ヨーロッパの景気は後退

4.ヨーロッパ経済の見通しとリスク

 以上のようにヨーロッパ経済は景気後退入りしているが、景気後退がどの程度続き、どの程度深いものとなるか、そのメインシナリオを提示し、その上振れと下振れの双方のリスクについて検討する。

(1)メインシナリオ(ユーロ圏)

 ユーロ圏は、2007年秋から景気後退入りしている。経済成長率は、08年は年初の上振れもあり1%程度とみられるが、09年はマイナス成長の見通しである(第2-2-32表)
  金融危機の影響が09年中に収束すると仮定すると、09年終わりから緩やかに持ち直しの動きが現れ、10年には1%程度に回復するとみられる。なお、潜在成長率については2%程度とみられているが、レバレッジ解消や移民労働力の流れの変化等の構造変化により1%台後半程度へ低下している可能性がある。
(第2-2-31表)
  以下、ユーロ圏の個別項目について概観する。
(i)個人消費:09年は0%近傍で推移し、09年後半から回復に向かい、10年には1%程度に回復するとみられる。
(ii)設備投資:08年に大きく減速した後、09年にはマイナスへと落ち込む。プラスに転じるのは09年後半以降とみられる。
(iii)住宅投資:08年にマイナスとなり、09年にはマイナス幅が拡大する。プラスに転じるのは10年以降とみられる。
(iv)外需:09年以降、低い水準でのプラスが継続するとみられる。

(2)経済見通しに係るリスク要因(ユーロ圏)

上記の先行きに関するメインシナリオについては、上振れ、下振れのリスクが考えられるが、リスクの多くは下方に偏っているとみられる。

●上振れリスク要因

 メインシナリオに反して、09年後半に景気が回復する場合の要因としては、以下が考えられる。
(i)物価下落、貯蓄率の低下による個人消費の回復
  物価上昇率(21) の下落が予想以上に進み、実質賃金・実質可処分所得が増加した場合、個人消費が増加する可能性がある。
  ドイツ、フランス等の貯蓄率(それぞれ08年約12%、約13%)(22) が何らかのきっかけによるマインドの変化により大幅に低下した場合、ユーロ圏の消費増加をけん引する可能性がある。
(ii)アメリカ及び世界経済の早期回復
  アメリカ経済の09年後半の急回復、それに伴う世界経済の早期回復によりドイツの輸出環境が改善して設備投資が増大する場合、これがユーロ圏全体をけん引する可能性がある。
(iii)財政政策による景気の下支え
  欧州委員会は08年11月26日、向こう2年間で総額2,000億ユーロ(EUの年間GDP比約1.5%)の景気刺激策の案を加盟国に提示した。内訳は各国予算で行うものが1,700億ユーロ、EU予算で行うものが300億ユーロとなっている。こうした財政政策が高い波及効果をもたらす、あるいは、更に追加的な財政出動が行われれば、消費や投資といった内需だけでなく、域内貿易による相乗効果により輸出環境が改善し、09年の成長率はゼロ近傍にまで押し上げられる可能性がある。

●下振れリスク要因

 続いて、メインシナリオに反して、10年になっても回復の兆しが現れない場合の要因としては、以下が考えられる。
(i)金融危機の長期化・深刻化
  さまざまな安定化策の効果が現れず、金融システムの不安定が続く場合、回復が遅れる可能性がある。
(ii)隠れた不良資産の顕在化
  現在明らかとなっている不良資産以外に隠れた不良資産が予想以上に大きく、それが顕在化する場合には、回復が遅れる可能性がある。
(iii)住宅市場の調整の長期化
  住宅市場の調整が長引く場合、特にスペイン、アイルランド等住宅バブルの度合いが大きかったユーロ圏構成国ではこれが回復の足かせとなり、ユーロ圏全体の回復に影響するとみられる。
(iv)世界経済全体の回復の遅れ
  ユーロ圏の景気回復においては外需の役割も大きいが、アメリカ等先進国、新興国ともに需要が回復せず、ユーロ圏の輸出が回復しない場合、ユーロ圏全体の景気回復も遅れるものとみられる。なお、ユーロ圏の輸出(07年)に占める相手先別シェアは、英国15.3%、アメリカ13.0%、ロシア4.5%、中国(香港除く)4.0%となっている。

(3)メインシナリオ(英国)

 英国は、ユーロ圏と同様、既に景気後退入りしている。経済成長率は、08年は年初に堅調であったことから1%程度(実績見込み)のプラスとみられるが、09年は▲1%を超えるマイナス成長となる見通しである(第2-2-32表)。
  アメリカやユーロ圏より後退の度合いは深く、長期にわたるとみられ、持ち直しの動きが現れるのは10年以降とみられる。
  以下、個別項目について概観する。
(i)個人消費:08年後半から減速し、09年にはマイナスへ落ち込む。プラスに転じるのは10年以降とみられる。
(ii)設備投資:08年に大きくマイナスとなった後、09年は更にマイナス幅が拡大する。プラスに転じるのは10年以降とみられる。
(iii)住宅投資: 08年に大幅なマイナスとなり、09年も同程度の大幅なマイナスが続き、プラスに転じるのは10年以降とみられる。住宅価格は更に下落するとみられ、住宅投資は信用収縮による住宅ローンの縮小から落込みが続く。こうした住宅低迷による逆資産効果が、消費を抑制するとみられる。
(iv)外需:輸入の伸び悩みから、外需の寄与度は09年に0%台半ば〜1%程度となり景気を下支えする。ポンド安は輸出へのプラス効果をもたらすが、輸出相手国の景気低迷から、その効果は減殺される。

(4)経済見通しに係るリスク要因(英国)

上記の先行きに関するメインシナリオについては、上振れ、下振れのリスクが考えられるが、英国においてもリスクの多くは下方に偏っているとみられる。

●上振れリスク要因

 メインシナリオに反して、09年後半に英国の景気が回復する場合の要因としては、以下が考えられる。
(i)物価下落による個人消費の回復
  消費者物価上昇率の下落が予想以上に速く進み、実質賃金・実質可処分所得が増加すれば、個人消費を増大させる可能性がある。ただし、英国は家計債務残高の可処分所得比が07年176.9%(うち住宅が132.4%を占める)と他のヨーロッパ諸国より高いため、実質個人所得が増加しても債務の返済にあてられる可能性もあり、消費に直ちに結びつくとは限らないことにも留意すべきである。
(ii)アメリカ及び世界経済の早期回復
  アメリカ経済の09年後半の急回復、それに伴う世界経済の早期回復により英国の輸出環境が改善し、これに足元のポンド安(対米ドル、対ユーロ)が維持されれば、英国の輸出が増加する可能性がある。
(iii)財政政策による景気の下支え
  08年11月24日に発表されたプレ・バジェット・レポートでは総額200億ポンド(約2兆7,000億円)の景気対策が講じられているが、それ以上の追加策がなされた場合、その効果により成長率が押し上げられる可能性がある。

●下振れリスク要因

 続いて、メインシナリオに反して、10年になっても英国の景気に回復の兆しが現れない場合の要因としては、以下が考えられる。
(i)金融危機の長期化・深刻化
  さまざまな安定化策の効果が現れず、金融システムの不安定が続く場合、回復が遅れる可能性がある。
(ii)隠れた不良資産の顕在化
  英国の成長を主導した金融業・金融関連産業において、保有する不良資産の規模が予想以上に大きく、その処理に長期を要する場合、これが回復の足かせとなる可能性がある。
(iii)住宅市場の調整の長期化
  住宅バブルの影響が予想以上に深刻で住宅市場の調整が長期化する場合、住宅投資の回復が遅れ、住宅価格の低迷による消費抑制効果により個人消費の回復が遅れる可能性がある。
(iv)世界経済全体の回復の遅れ
  先進国及び新興国ともに需要が回復せず、特に英国の外需において重要なユーロ圏経済の回復が遅れる場合、ポンド安にもかかわらず英国の輸出回復が遅れる可能性がある。なお、英国の輸出(07年)に占める相手先別シェアは、ユーロ圏51.7%、アメリカ14.6%、BRICs4.8%となっている。
(v)デフレのリスク
  BOEの「インフレーション・レポート」(08年11月)における消費者物価上昇率見通しでは、09年後半以降、デフレに陥るリスクが示されている(第2-2-33図)。特に10年7〜9月期頃にはデフレとなる確率が相当程度見込まれている。前述のとおり、英国は家計債務残高の可処分所得比が高いため、デフレとなった場合、債務返済の実質的な負担が高まり、個人消費の回復が遅れる可能性がある。また、同様の債務負担の高まりから、企業の設備投資の回復も遅れる可能性がある。


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