第2章のポイント
1.アメリカの景気は後退
- アメリカでは、2007年12月から景気後退。個人消費が減少するなど内需が低迷する一方、外需が景気を下支えする「外需依存型」に。
- 先行きを見ていく上では、以下の四つが重要なポイント。
- 金融危機が金融機関の貸出行動を通じて実体経済に与える影響:金融機関の家計向け、企業向け貸出態度の厳格化
- 住宅市場の調整:住宅価格低下で住宅取得環境は改善しているが、金融機関の住宅ローンの貸出態度は厳格化、差押物件増加により供給過剰
- 雇用情勢の悪化:雇用悪化のスピードが速く、S&L危機による景気後退(90年代初め)に迫る勢い
- 家計のバランスシート調整:家計の債務残高の可処分所得比は80年代平均の約2倍と高水準、債務負担感の増加から個人消費は更に抑制
- アメリカ経済の見通しとリスク要因
- 09年はマイナス成長。金融危機の影響が09年中に収束すると仮定すると、09年の終わりには、景気は緩やかに持ち直す見込み。
- ただし、以下のような下振れリスクの可能性が圧倒的に大きく、その場合は、10年になっても回復スピードは遅く、L字型の景気回復パターンとなる。
2.ヨーロッパの景気は後退
- ユーロ圏では07年秋から景気後退。(i)住宅バブルの崩壊、(ii)個人消費の冷え込み、(iii)輸出の鈍化が要因。
- EU拡大で新規加盟諸国への直接投資が増大し、ヨーロッパの金融機関の対外貸出も増加、証券化も進展。
- ユーロ圏の見通しとリスク要因
- 09年はマイナス成長。金融危機の影響が09年中に収束すると仮定すると、09年の終わりには、景気は緩やかに持ち直す見込み。
- ただし、以下のような下振れのリスクの可能性が上振れよりも大きい。
- 金融危機の長期化・深刻化
- 世界経済全体の回復の遅れによる輸出の停滞 等
- 英国の見通しとリスク要因
- 住宅バブル崩壊と金融危機の影響はユーロ圏より大きく、景気後退は深く、長い。景気が緩やかに持ち直すのは2010年になってから。
- しかも、ユーロ圏と同様の下振れリスクに加え、デフレとなるリスクが相当程度見込まれる。
3.アジアの景気は減速
- 中国は、5年連続の二けた成長の後、一けた台の成長に鈍化。GDPの4割を占める投資は、不動産開発投資の減速と過剰設備の問題に直面。
- 中国の見通しとリスク要因
- 今後は、欧米の景気後退に伴う輸出の減速は避けられないものの、堅調な個人消費や財政拡大に支えられて大幅な減速は回避し、09年の成長率は8%台を維持する見込み。
- ただし、輸出が予想以上に大きく減速した場合、過剰設備や雇用の問題が顕在化する下振れリスクもある。
- 中国以外のアジア経済も、景気減速が鮮明に。NIEs、ASEAN諸国は輸出依存度が高いことから、欧米の景気後退の影響を強く受けて更に減速
- 本格的な回復は世界経済が持ち直す10年からになる。
4.世界経済の見通しとリスク
- 2009年の世界経済は1%程度の成長へ落ち込む見込み。欧米の景気後退とアジアの減速が更に深刻化・長期化すれば、世界同時不況に陥る可能性もある。
- 過去の世界同時不況(第1次・第2次石油ショック後)との相違点
- BRICs等の成長著しい新興国の存在。ただし、世界経済に占めるシェアがまだ小さく、米欧日の成長率低下分をこれら新興国が補って世界全体の成長率を維持・拡大するのは容易でない。
- 金融危機の存在。景気後退が銀行システムの混乱を伴う場合はより深刻化・長期化する(IMFによれば平均7.6四半期を要する)。
- 世界同時不況からの回復時には、消費、特にアメリカの消費が世界全体の回復をけん引した。しかしながら、今回は、アメリカの消費の早期回復は期待できず、世界の景気をけん引するエンジンに乏しい状況が続く可能性が高い。
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