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第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第2章 地球温暖化に取り組む各国の対応

まとめ

 地球温暖化問題は、現在の国際社会で各国に共通する最大の問題の一つであり、国際的な枠組みの下で、長期的な視点で対応することが必要である。本章の記述を踏まえ、改めて以下を指摘したい。
 まず、京都議定書の枠組みの下で排出削減を約束している国・地域のGHG排出量は、世界の30%程度にすぎず、長期的には、中国、インド、アメリカ等の大量排出国が世界の排出量を大幅に増加させ続けることが見込まれる。国際的な枠組み作りに当たっては、こうした大量排出国を取り込むことが必要である。
 第二に、GDP当たりでみた我が国の排出効率は、先進国の中では上位に属するが、ほかの先進国と比較して、近年、排出効率の向上に足踏みがみられ、特に、エネルギー産業、運輸、家計や事業所のエネルギー消費による排出が他国と比べても増加している。もとより、長期的視野に立った地球全体の排出量の大幅な削減には革新的な技術の開発を待つほかないが、京都議定書に定められた目標達成のためにも、国際貢献の観点からも、我が国においては、こうした部門を中心に一層の努力が必要と考えられる。そのためには、想定し得るあらゆる手段についてその得失を検討していくべきであろう。
 第三に、排出削減のための手段の選択肢として、途上国を含めて国際社会に急速に広がりつつある排出権取引等の経済的メカニズムについて、我が国でも十分な議論が必要と考えられる。排出権取引は適切に運用されれば配分した枠内に排出量を確実に抑制する有効な手段であり、排出抑制には明らかな効果があると考えられる。さらに、排出削減に係る費用効率の面からも有効であるとの指摘が多い。排出権取引は、州レベルでの制度を含めると我が国を除く主要先進国をカバーしつつあり、京都メカニズムとのリンクにより中国を中心とする途上国を含め世界的に大きな市場を形成しつつある。こうしたことを踏まえ、我が国においても、そうした制度の導入の是非について、議論を十分に尽くすべきである。
 第四に、その際、重要な点は、経済的メカニズムは、そのタイプによって、各産業の負担や競争力、家計の所得分配、経済全体などに与える影響が大きく異なることである。また、各国・地域で同様の制度的枠組み・運用を取ることができれば、産業別の競争力への影響を緩和する可能性もあると考えられる。このため、排出権取引等の経済的メカニズムを導入する場合には、諸外国の動向も視野に入れつつそうした影響を十分に検討し、長期的視点に立って、我が国の実状を踏まえた制度設計を行う必要があると考えられる。例えば、EUの例に倣い、当初は排出権をグランドファザリングにより配分し、その後、長期的な目標に向けて排出の総枠を段階的に削減するとともに、オークションの比率を増やしていくことも一案と考えられる。また、そうした影響に対して、ほかの税制や社会保障制度も含めた経済財政政策全体として対応をとることも含めて検討すべきであろう。そうした点を考慮した上で、経済成長と温暖化対策を両立させる観点などから、ほかの手段による排出削減と得失を十分に比較考量して、導入の適否を議論することが重要であると考えられる。


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