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第 II 部 第1章のポイント

2006年の世界経済は2005年とほぼ同程度の成長を維持する見込み

●世界経済は着実に回復している。2004年半ばには原油価格の高騰等を背景に一時的に成長は緩やかになったものの、05年の1〜3月期には持ち直した。世界経済全体(日本に関係の深い22か国・地域)の05年の成長率は04年をやや下回り3.1%程度になり、06年は3.2%程度と05年と同程度の成長を維持すると見込まれる。

1.アメリカ経済は潜在成長率を若干上回るペースで拡大

●05年のアメリカ経済は03年以降持続する原油価格の高騰にもかかわらず順調に拡大した。ただし、ハリケーン「カトリーナ」の影響等により雇用、消費等が一時的に減速しており05年10〜12月期の成長率は若干緩やかになるとみられている。06年には依然として潜在成長率をやや上回る成長を確保すると見込まれる。
●こうした景気拡大を背景に、04年半ば以降の政策金利の引上げは慎重なペースで継続された。また、原油価格が過去最高水準を更新する形で上昇、高止まりし、物価上昇等を通じた経済全体への影響が懸念されたが、エネルギーを除いた消費者物価の上昇は今までのところ落ち着いた動きを示しており、景気への下押し圧力は限定的なものにとどまっている。

2.アジア地域は中国を中心に引き続き高い成長が続く

●中国では04年初頭から鉄鋼等の一部業種においてみられた投資過熱に対し、政府は直接規制や金利引上げ等のマクロコントロールを実施しているものの、05年前半の成長率は9%を上回った。政府はマクロコントロールを通じたソフトランディングを目指して注意深い政策運営を続けており、05年の成長率は9%台となる見込みである。また、06年から実施される「第11次5か年計画(06〜10年)」では、従来の成長重視・投資主導型の方針を改め、全面的な小康社会(少しゆとりのある社会)建設の実現という最終目標に向け、持続可能な成長を目指す方針が示されており、06年の経済成長率は8%台になると予測される。

3.ユーロ圏は外需依存の緩やかな回復が続く

● ユーロ圏では、04年後半は内需が一時的に回復したが、05年には再び減速した。一方で、世界経済の持ち直し、年初からユーロが減価傾向にあることを受けて、4〜6月期には輸出が増加しており、年後半の景気は輸出主導で回復のペースをやや強めると予測されている。物価については、エネルギー価格の上昇がみられるが、エネルギーを除く物価上昇率はこれまでのところ安定している。05年の成長率は、04年の2.1%から1.3%程度まで減速すると見込まれる。06年は2.0%程度に回復すると予測される。

4.2006年世界経済の抱えるリスク

● 世界経済が今後抱えるリスクとしては、原油価格高騰、アメリカ経済の失速、為替レートの急速な調整と長期金利の上昇、中国経済の失速等の下方リスクがある。


第 II 部 世界経済の展望

 世界経済(日本に関係の深い22か国・地域)は着実に回復している。2004年半ばには原油価格の高騰等を背景に一時的に成長は緩やかになったものの、05年の1〜3月期には持ち直した。世界経済のけん引役を果たしてきたアメリカ経済は、05年は昨年と比べれば若干減速したものの、おおよそ3%台後半の成長をし、先進国中最も高い成長となっている。中国では04年初に一部業種で固定資産投資の過熱が発生し、直接規制や金利引上げ等のマクロコントロールが実施されているものの、経済全体としては9%を上回る成長が続いた。一方、ヨーロッパでは各国間で成長率にばらつきがみられる中での緩やかな景気回復となった。これら22か国の05年の成長率は04年をやや下回り3.1%程度になると見込まれる。
 以下では、まず第1章で06年の世界経済見通し、及び今後のリスクポイントを整理する。その後、第2章で最近の世界経済の動向、先行きをみる上で重要なトピックとなっている、原油価格の高騰について取り上げる。

第1章 2006年の経済見通し

 2006年の世界経済(日本に関係の深い22か国・地域)は全体として05年とほぼ同程度の3.2%程度の成長が見込まれている。これは、世界経済の成長は06年の前半にかけて原油価格の高騰から若干緩やかになるものの、その後、各国の景気支持的なマクロ経済政策や、長期金利が低く抑えられているなど、世界的に見て金融市場が健全なこと、企業のバランスシート改善等を反映して成長が再び加速するとみられているためである。本章では、05年及び06年の経済見通しのポイントを地域別に検討する。検討にあたっては民間機関の平均的な見方(10月25日までの公表分)を参考とした(第1-1-1表)。なお、国・地域別のより詳しい動向は別添の資料を参考されたい。

1.アメリカ

 アメリカ経済は05年前半は1〜3月期に前期比年率3.8%の成長を遂げ、その後、4〜6月期には同3.3%、7〜9月期には同3.8%の成長となった。雇用面では、05年は非農業雇用者数が8月までで04年平均値の18.3万人を超える平均20.3万人のペースで増加し、また所得環境が良好であったこともあって個人消費も増加率が3%台半ばから後半で推移するなど、景気は拡大を続けている。しかし、8月下旬にメキシコ湾岸に上陸したハリケーン「カトリーナ」の影響から雇用の増加も一時的に鈍化し、消費の伸びも7月の自動車販売台数が大きく伸びた反動もあって、その後、足元では減速がみられており、05年10〜12月期の成長率は若干緩やかになるとみられている。
 こうした景気拡大を背景に、04年半ば以降政策金利の引上げが慎重なペースながら継続して行われた。また、原油価格が過去最高水準を更新する形で上昇し、高止まりする中で、物価上昇等を通じた経済全体への影響が懸念されたが、原油価格上昇の川上から川下への転嫁は石油関連商品には波及したものの、エネルギーを除いた消費者物価の上昇は今までのところ落ち着いた動きを示しており、景気への下押し圧力は限定的なものにとどまっている。
 06年の成長率は05年とほぼ同様に3%台半ばで推移すると予測され、依然として潜在成長率(アメリカ政府、議会予算局ともに3.2%)をやや上回る成長を確保するとみられている。

●住宅市場の過熱懸念について
 アメリカにおける住宅投資は2000年のITバブル崩壊とそれに伴う一時的な景気低迷期を通して一貫して増加を続けている。こうした中、アメリカにおける住宅価格は大幅に上昇している。アメリカ連邦住宅貸付機関監督局(OFHEO)が四半期毎に公表している住宅価格指数によると、住宅価格は02年から03年にかけてそれぞれ6.9%、6.5%と緩やかながらも鈍化基調を示し、ソフトランディングに至るかにみえていたものの、04年には11.0%、05年に入ってからは12〜13%台で上昇するなど高まってきている。ただし、05年半ば以降、住宅価格の一部指標で伸び率の鈍化がみられており、今後とも動向を注視する必要がある。
 住宅価格の上昇は、第I部第2章でもみたようにホームエクイティローンやキャッシュアウト(現金化)といった経路を通じて個人消費を下支えしていることから、住宅価格の急激な下落は家計のバランスシートの悪化を通じて個人消費を急速に冷え込ませるおそれがある。また、貸手側においても、インタレストオンリーローンやほかの金利調整型のモーゲージローンが急激に増加しており、それらの金利が非常に低く設定されるなど貸出基準が緩くなっている。そのため、住宅価格が急落した場合にはこれらのローンが不良債権化することで、金融機関のバランスシートが悪化し、ひいては金融市場全体の混乱へとつながるおそれがある。
 この点に関しては、金融当局も懸念を示しており、FRBのグリーンスパン議長も05年の7月の議会証言にて初めて住宅市場の状況について「froth(泡)」という表現を用い、その後も9月には、「幾つかの地域では、住宅価格は維持不可能な水準にまで上昇してきているようにみえる。」と述べているなど、住宅市場はアメリカ経済のリスク要因として強く意識されている。

●過去最高水準を上回る原油価格の高騰
 原油価格の動向をWTIでみると、03年までは30ドル前後で推移していたが、04年春以降は40ドルを超え、10月には50ドル台にまで上昇し過去最高水準を更新した(後述、第2-1-1図参照)。05年には、ハリケーンの影響もあり8月には70ドルに迫る水準まで上昇する場面もあった。その後、05年10月には60ドル前後で推移している。
 こうした原油価格高騰に対しては、価格上昇圧力等を通じた経済に対する悪影響が懸念された。しかしながら少なくとも05年10月まではコア・インフレは比較的落ち着いた動きにとどまり、原油価格高騰の実体経済に対する悪影響は顕在化しなかった。この理由としては、エネルギー効率性の向上、エネルギーのほかの財に対する相対的な価格低下等が挙げられる。しかし、単位労働コストが1〜3月以降上昇するなど、物価上昇圧力は次第に高まってきていると考えられ、今後の価格転嫁の状況次第ではインフレの加速、それに対応した政策金利引上げペースの加速等を通じて実体経済に影響を与える可能性も考えられる。

●FRBはインフレ圧力への警戒を示し、政策金利は慎重なペースで上昇
 このような中、FRBは05年11月のFOMC(連邦公開市場委員会)声明において、「エネルギーやその他のコストの累積的な上昇はインフレ圧力を高める可能性がある」とするなど、インフレ圧力の高まりに対して懸念を強めつつある。FRBは04年6月以降景気拡大を持続させながら物価上昇圧力へも十分配慮するという形で微妙な均衡を維持しつつ、0.25%ずつという慎重なペースで政策金利を引き上げてきたが、アメリカの堅調な成長や原油高による先行きインフレ懸念等により、市場では05年内の金利引上げの継続を見込む展開となっている。

2.アジア

 北東アジアの05年前半は中国を中心に景気拡大が続いた。06年は、世界経済の景気の回復及び中国の堅調な景気の拡大等から、アジア経済全体は引き続き堅調に推移するものと予測される。

(1)北東アジア(中国、韓国、台湾、香港)

 05年の見通しは7%程度と見込まれている。原油価格高騰の影響等から景気の拡大が緩やかになる国がみられるものの、引き続き中国の景気拡大がけん引する姿となっている。
 06年は、原油高の影響があるものの、IT関連財等の輸出の回復が見込まれ、6.5%程度になると予測される。

●依然として高成長が続く中国
 中国の05年の成長率は9%台となる見込みである。04年初頭から鉄鋼等の一部業種においてみられた投資過熱に対し、政府は直接規制や金利引上げ等のマクロコントロールを実施し、05年の成長率を8%前後と景気の緩やかな減速を目標としていたが、固定資産投資等は依然として高い伸びを続け、成長率も9%を上回って推移している。政府はマクロコントロールを通じたソフトランディングを目指して注意深い政策運営を続けている。

コラム 過熱した中国の不動産市場

 中国では、2002年頃から不動産販売価格上昇率が高まり始め、「不動産バブル」の懸念が高まった。不動産販売価格上昇率の著しい伸びがみられたのは、沿岸部を中心としたごく一部の都市に限られたものではあったが、例えば最も上昇率の高かった上海では、03年半ば以降04年前半にかけて前年比20〜30%という高い水準で推移した。
 このように不動産販売価格が高騰した背景には、01年のWTO加盟や元の切上げ期待等による海外からの資金流入が急増したことがある 。中国では株式市場や債券市場が未整備であることに加えて資本移動規制等制約も多いことから、不動産が収益率の高い投資先として、これらの量の資金が流入したものとみられる。また、これに加え、地方政府が自らの業績(経済成長率の高さ)を高めるために、投資を積極的に行うインセンティブを持っているという中国特有の要素も、不動産販売価格の上昇に拍車をかけたとの指摘もある。
 中国はここ数年10%近くの高成長を続けており、不動産販売価格の上昇はある程度は許容されるものではあるが、上海の不動産価格と賃貸価格の上昇率(前年比)を比較すると、04年は前者が10〜30%であったのに対し後者はわずか4〜5%の上昇にとどまるなどかい離は大きかった 。また、年収に対する不動産販売価格の比率も、一時は10倍以上となっていた。
 このように、不動産バブルへの懸念が高まる中、政府は不動産投資の抑制に本格的に乗り出した。先進国と異なり、金融仲介機能が十分発達していないこともあり、政府は金融政策ではなく、より直接的な方法で不動産投資抑制策を実施している。05年3月には住宅ローン金利の引上げ及び頭金返済比率の全国的な引上げ、さらには上海市に限定したキャピタルゲイン課税を導入した。その後6月1日には全国を対象として、個人が購入した住宅を2年以内で転売する際、転売価格の5%程度の営業税を徴収することとした。
 以上のような政府による各種不動産投資抑制政策の効果もあって、中国の不動産販売価格上昇率は04年後半以降急速に低下し、05年に入り1桁台にまで低下している。

中国の住宅価格上昇率

 また、「第11次5か年計画(06〜10年)」への建議(05年10月11日公表)では、従来の成長重視・投資主導型の方針を改め、全面的な小康社会(少しゆとりのある社会)建設の実現という最終目標に向け、あらゆる格差の是正や環境保護、省エネ、社会保障制度の整備等に重点を置き、持続可能な成長を目指す方針が示されており、06年の経済成長率は8%台になると予測される。
 台湾ではIT関連財の輸出の鈍化、香港では中国向け輸出の好調等がみられ、05年の成長率について、台湾は3.6%程度、香港は5.0%程度と見込まれている。06年は、IT関連財の輸出の回復から台湾は3.9%程度、香港は4.4%程度になると予測される。

●緩やかな景気回復が続く韓国
 韓国では輸出の減速や内需の低迷から、景気の回復は緩やかなものとなっており、05年は3.5%程度の成長と見込まれる。民間消費は緩やかな回復基調にあるものの、クレジットカード利用優遇策に対する反動として生じた家計債務の調整は緩やかであり、さらに原油高等の影響により消費者マインドが低迷していることから、民間消費の回復基調は力強いものではないとの見方も依然として強い。
 06年は世界経済及びIT関連財需要の回復による輸出の堅調な伸びが期待され、4.2%程度と加速すると予測される。

(2)ASEAN:シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン

 ASEAN各国は、原油価格変動の影響を受けやすい国が多いことから、04年の6.2%から05年の成長率は4.7%程度と減速することが見込まれる。06年は世界経済の回復による輸出の増加が期待され、5%程度に加速すると予測される。

●原油高の影響が強く、景気の拡大は緩やかになっている
 シンガポールは、IT関連財輸出の伸びが同分野における04年後半以降の世界的な需要の減速を反映し減速したほか、内需の伸びも大きく低下し、05年は3.8%程度にやや減速すると見込まれる。06年は世界需要の回復を背景としたIT関連財の生産及び輸出の増加から、4.5%程度に加速すると予測される。
 タイでは、04年12月のスマトラ島沖大地震による津波の被害による観光業の不振、干ばつによる農作物生産の落ち込みがみられたほか、原油価格高騰の影響が大きく、05年は4.2%程度に減速すると見込まれる。06年は政府による公共投資計画等により5.1%程度に回復すると予測される。
 インドネシア、マレーシア及びフィリピンでは、原油価格高騰の影響から、05年の成長率は減速すると見込まれ、06年もその影響が残ると予測される。

3.欧州4カ国
(ヨーロッパ4、ドイツ、フランス、イタリア、英国)

 欧州では、世界経済の回復と連動して景気回復が続いているものの、アメリカ、アジアの景気拡大に比べると緩やかな回復にとどまっている。

●ユーロ圏は外需依存の緩やかな回復が続く
 ユーロ圏では、04年後半は内需が一時的に回復したが、05年前半には再び減速した。ドイツ等では消費者信頼感の低迷が続き、消費は抑制されており、04年まで堅調な回復を続けていたフランスでも内需はやや弱い動きとなった。特にドイツでは消費の回復には時間がかかるとみられる。一方で、世界経済の持ち直しや、年初からユーロが減価傾向にあることを受けて、4〜6月期には輸出が増加していることから、企業は輸出拡大期待を強めて景況感が改善し、生産も増加している。年後半の景気は輸出主導で回復のペースをやや強めると予測されている。物価については、エネルギー価格の上昇がみられるが、エネルギーを除く物価上昇率はこれまでのところ安定している。
 なお、ユーロ圏の05年の成長率は、04年の2.1%から1.3%程度まで減速すると見込まれる。06年は1.9%程度に回復すると予測される。

●英国は回復が続くも減速
 英国では、これまでの住宅価格の上昇が沈静化し、住宅価格上昇による資産効果が弱まったこと等から、05年前半は、これまで景気を支えてきた消費の伸びが鈍化した。年後半は住宅価格の上昇は緩やかに推移し、消費も回復すると見込まれている。物価については、エネルギー価格を中心に上昇がみられる。
 05年の成長率は、前年の3.2%から2.0%程度まで減速すると見込まれる。06年は2.3%程度と予測される。

4.世界経済の概観

 以上の地域別の動向を総合すると、日本にとって関係の深い世界経済全体としては、05、06年はそれぞれ3.1、3.2%程度の成長が見込まれ、04年から低下すると予測される(第1-1-2図)。また消費者物価上昇率は05年は2.9%程度になると見込まれ、06年は3.7%程度と04年に比べ若干上昇するものと予測される。
 地域別に過去10年の趨勢的な成長率と06年の成長率を比較すると、成長達成度(06年の成長率/過去10年の平均成長率)はアメリカ、北東アジア、ASEAN、ヨーロッパ4すべての地域でおおむね1程度と予測される。すなわち世界経済全域で過去のトレンドに沿った成長率を達成することになると予測される(第1-1-3図)
 この結果、05年の中心シナリオとしては、アメリカ経済が潜在成長率をやや上回る3%台半ばの成長となる中で、アジアやヨーロッパも過去の平均的な成長率を実現する姿になると考えられる。
 上記の中心シナリオに対して世界経済を取り巻く環境には異なる成長経路をもたらす幾つかのリスクがある。場合によっては中心シナリオが想定する成長率を下回るような事態も考えられる。

●リスク1:原油価格高騰
 05年に入ってからも原油価格は過去最高の水準を更新し続けており、世界経済に与える悪影響が懸念されてきた。各国のエネルギー効率改善に向けたこれまでの取組等もあり、現在までのところその影響は限定的なものとなっている。しかし60ドルを上回る水準が常態化するようになると、産油国への所得移転効果による購買力の喪失や波及効果によるインフレ率の加速等、様々な経路を通じて世界経済の減速を引き起こす可能性は否定できない。既に述べたように、特に現在の世界経済の回復をけん引する原動力にもなっているアメリカや中国にその影響が強く現れる場合には、世界経済全体への悪影響が懸念される。

●リスク2:アメリカ経済の失速
 現在の世界経済はアメリカ経済の景気拡大に依存する形での景気回復を続けており、アメリカ経済の変調は直ちに世界経済全体に影響を及ぼすことになる。
 中心シナリオでは06年のアメリカ経済は潜在成長率をやや上回る程度の成長を遂げることを想定している。しかし既にみたとおり、コア・インフレ率は落ち着いた動きにとどまっているものの、単位労働コストが上昇するなど物価上昇圧力は高まってきており、金利引上げを通じた金融政策の運営についてFRBと市場参加者との間の意思疎通に問題が生じると、予期せぬ経済の減速が発生する可能性もある。例えば期待物価上昇率が急激に上昇した場合等には、長期金利の急上昇等を通じて、景気を減速させる可能性がある。
 その他にも、リスク要因1及び3として挙げている原油価格の高騰、為替レートの急激な調整等も、物価上昇圧力の急激な高まりやドルの信頼性の低下をもたらすことにもなり、最終的にはアメリカ経済の減速をもたらす可能性が存在し、世界経済全体にも大きな影響を与えることになる点に留意する必要がある。

●リスク3:為替レートの急速な調整と長期金利の上昇
 アメリカの経常収支赤字と財政赤字、特に前者は過去の実績と比較しても持続可能でない水準に達しているとの指摘もあり、それがドルに対する信頼性を急激に損なわせる懸念も存在する。これら双子の赤字の長期的な維持可能性については様々な解釈が可能であろうが、市場関係者の評価としてドル保有のリスクが表面化するような場合には、世界的な資金の流れが滞り、アメリカの資金需要を支えきれなくなるおそれがある。
 また、アメリカの長期金利は政策金利の引上げにもかかわらず4%前半と低い水準で推移しているものの、インフレ期待の急速な台頭により急上昇するおそれもある。FRBのグリーンスパン議長も2月の議会証言においてこのことを「謎」(Conundrum)とし、同様に6月のIMFの会議においても「通常みられない動き」(unusual behavior)としているなど、理由についてはコンセンサスが得られていない。仮に長期金利が急上昇した場合には、双子の赤字を持続不可能なものとし、アメリカ経済の失速を通して世界経済へ悪影響を与えるおそれがある。

●リスク4:中国経済の失速
 中国経済が世界経済全体に占める割合が高まった結果(04年におけるGDPのシェア4%、輸出入のシェア7%)、中国経済の動向が世界経済に与える影響も大きくなってきている。これまで、中国経済の拡大はアジア各国の中国向け輸出の拡大を通して世界経済を押し上げる方向に作用してきただけに、中国経済の急減速が与える影響も大きいと考えられる。
 中国の実質消費は所得の増大等から堅調に推移しているものの、依然として投資けん引型の経済成長(04年投資率44.2%、名目GDP成長率17%に占める固定資産投資の寄与度7.8%)となっている。04年初頭、鉄鋼、セメント、アルミ、不動産等の一部業種においてみられた投資過熱に対しては、直接規制や金利引上げ等のマクロコントロールが実施され、固定資産投資の伸びは抑制されてきた。しかし、05年に入ってからは、不動産投資の伸びに若干の抑制がみられるものの、エネルギー及びインフラ分野における投資の伸びは高まっており、1〜9月期は前年同期比27.7%増と高い伸びが続いている。中国政府としては、こうした投資の動きには注視しつつも、景気の現状認識及びその政策に変更はないと思われるが、今後の景気過熱及びその引締めを上手くコントロール出来ず失速した場合、世界経済に悪影響を与えるおそれがある。


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