まえがき
「世界経済の潮流」は2002年春に創刊され、以後年2回公表しています。第8号にあたる本書は、世界経済の動向・政策分析編(第 I 部)と展望編(第 II 部)から構成されています。
第 I 部では、世界経済が2003年後半から着実に回復を続ける中、世界的な経常収支不均衡、住宅価格の上昇、という現在世界経済が抱える2つの大きなテーマを取り上げています。アメリカの経常収支赤字はかつてない高水準に達していますが、かつての双子の赤字とは異なり、家計が赤字となり、逆に民間企業が黒字となっています。また、先進国に加え産油国、中国やアジア新興国など世界中からアメリカに資金が還流していますが、それらはアメリカ経済の成長展望に支えられています。また、現在世界経済を牽引しているアメリカ経済の成長は、堅調な増加を続ける国内の消費や設備投資に依存しています。
そこで、本報告では、第1章で、世界の貯蓄・投資不均衡の状況に加え、特に企業部門の貯蓄・投資バランスの現状や、アジア危機及びITバブル崩壊後の企業部門の調整過程等を分析しています。第2章では、幾つかの先進国でみられている住宅価格上昇について、その現状及び背景を分析するとともに、資産効果を通じた消費拡大効果について、アメリカ、英国を中心に分析しています。また、ITバブル崩壊等極めて大きな需要ショックに対する緩和策として住宅価格等を通ずる資産効果を用いる政策の有効性、等を評価しています。
第 II 部では世界経済の展望を扱っています。2006年の世界経済も引き続き米国及び中国経済によって牽引され、前年より成長率は低下するものの、着実な成長を続けるものと見込まれます。リスク要因としてはこれら米・中の経済動向に加え、原油価格の高止まりやアメリカの経常収支赤字の為替による調整等が存在します。その他、トピックとして、原油価格高騰の現状、背景とその世界経済への影響をとりあげています。
本書が、世界経済の現状及び展望について理解を深める一助となれば幸いです。
平成17年12月
内閣府 政策統括官(経済財政分析担当)
高橋 進