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1 アメリカ     United States of America

<2002年>

アメリカ2002年 アメリカ経済のこれまで

<2003年の経済>
 2003年全体では2%台半ばとなる見込みである(民間機関55社平均2.7%(2003年10月)、政府見通し2.3%(2003年7月)、議会予算局2.2%(2003年8月))。民間機関の見通しは春時点(2.4%)と比べ、上方修正となっている。
 2003年前半は1〜3月期に景気の回復力が弱まり、1.4%の成長にとどまったが、4〜6月期は設備投資の大幅増等で3.3%の成長となった。この背景としては、イラク戦争終結による先行き不透明感の払拭により、マインドが改善し、生産が緩やかに増加するなかで、高い生産性に支えられた高収益が株価の上昇と設備投資の増加をもたらしたことが挙げられる。また、家計部門においても、住宅価格の上昇による資産効果等から消費が増加基調で推移した。
 年後半は5月に成立した減税パッケージが個人消費を刺激する効果に加え、企業部門の収益の増加が設備投資を増加させることが期待されるなど、成長はさらに加速し、4%台の成長が見込まれている。
 純輸出は、輸入の増加が続く一方、輸出が減少し、マイナスに寄与している。経常収支赤字は2002年以降拡大傾向にあり、2003年1〜3月期にはGDP比5.2%の過去最高となり、4〜6月期も同5.1%と高水準で推移している。また減税等の影響から財政収支赤字も拡大しており、再び「双子の赤字」となっている。

<2004年の経済見通し>
 成長率は2004年前後半を通じ、3%台後半の成長となることが見込まれている(民間機関55社の平均3.9%(2003年10月)、政府見通し3.7%(2003年7月))、議会予算局3.8%(2003年8月)、IMF見通し3.9%(2003年9月))。3%台半ばの成長を見込んでいた春時点に比べ上方修正となっている。また、景気回復に伴い、経常収支赤字は拡大傾向が続き、GDP比5%程度の赤字が続くことが見込まれる。物価は前年比2%程度の安定した伸びが続くとみられる。
 下方リスクとして、雇用の回復の遅れと住宅価格の下落が挙げられる。雇用の回復の遅れは消費者マインド及び所得の悪化を通じ、また住宅価格の下落は逆資産効果を通じ、個人消費にマイナスの影響を与える可能性がある。

アメリカの主要経済指標実質GDP成長率の実績と見通し

<2003年5月の景気刺激パッケージ>
 3月中旬のイラク戦争開始後、ブッシュ大統領は戦費を中心とする2003年度補正予算を提示し、議会では、航空業界支援を内容に加え総額790億ドルとブッシュ大統領の提示よりさらに40億ドル増額した予算を可決した。
 議会では財政赤字の拡大を懸念する声が高まり、1月に大統領が提案した追加景気刺激パッケージ(今後11年間で総額6,700億ドル規模)について、上下院はそれぞれ大統領提案から減税規模を縮小した案を可決した。両院協議会での調整を経て、最終的には今後11年間で3,500億ドル規模となる案が可決され、5月28日ブッシュ大統領が署名、成立し、当初の大統領提案の半分程度の規模に縮小されて実施されることになった。

景気刺激パッケージ(Jobs and Growth Tax Relief Reconciliation Act of 2003)の概要

1 2001年ブッシュ減税の前倒し実施
(1)税率引下げ
  1)所得税率10%適用枠の拡大 (2003、2004年の時限措置)
  ・2003年 単身者6,000ドル→7,000ドルに、夫婦 12,000ドル→14,000ドルに拡大
  ・2004年 上記枠をインデクセーション(インフレ率で調整)
 2)所得税率引下げ (2004年、2006年実施予定を2003年に前倒し)
  ・27%→25%、30%→28%、35%→33%、38.6%→35%
(2)子育て世帯への所得税控除増額、結婚重課の軽減 (2003、2004年の時限措置)
  1)子供一人当たりの税額控除枠を年間600ドルから1,000ドルへ拡大
  2)夫婦合算申告者の標準基礎控除額を単身者の標準基礎控除額の2倍とする。
  また、税率15%の適用所得を単身者の2倍とする。

2 企業関係
(1)2003年5月から2004年末までに取得された特定の資産について、初年度50%の
   特別減価償却を認める。
(2)設備投資償却枠の上限金額を25,000ドルから100,000ドルまで引上げ
   (2003年から2005年まで)

3 キャピタルゲイン、配当課税関係 
(1)キャピタルゲイン課税の税率引下げ
  10%→5%(ただし2008年は非課税)、20%→15%  
   (2003年5月6日〜2008年末の間の売却、保有1年以上の場合に適用)
(2)配当課税
  内外の企業から個人保有者が受け取る配当所得に対しキャピタルゲイン課税と
  同率を適用(2002年から2008年末まで)

4 州政府に対し2年間で200億ドルの支援基金(財政赤字、医療支出対策)を設立

 可決された景気刺激パッケージでは、所得税率の引下げ、子育て世帯への所得税控除増額などの2001年減税の前倒し実施、減価償却費枠拡大による設備投資促進、キャピタルゲイン・配当課税減税が実施されることとなった。子育て世帯への所得税控除増額は、2003年度分は7月から小切手による還付が実施された。配当課税については、当初の大統領提案では撤廃とされたが、最終的には時限付の税率軽減にとどまった。また、財政状況が悪化している州政府に対する支援基金の設立が、可決案では新たに盛り込まれた。

<今後の財政運営の見通し>
 行政管理予算局(OMB)は7月に、2003年年央財政見通しを発表した。それによれば、2003年度から2008年度の財政収支はそれぞれ、予算教書時の見通しよりも赤字が大幅に増額修正され、2004年度から2008年度の5年間の財政収支赤字合計は3割以上増加する見込みである。2003年度ではその要因として、景気悪化による税収減、イラク戦争にかかる戦費と戦後復興費用、景気刺激パッケージ等が挙げられている。
 OMBは、景気回復に支えられることで単年度収支の赤字額が2006年度には2003年度の半分まで縮小することが、重要であるとしている。また、現在の財政収支赤字は経済が景気回復の過程にあること、対テロ戦争、国土安全保障支出の増加、個人所得税の還付等を反映したものであるとしている。そして、景気回復政策を続けながら支出を厳格に律する限りは、その財政収支赤字は、巨額で懸念されるものではあるが運営可能な水準としている。
 一方、8月にアメリカ議会予算局(CBO)が発表した経済財政見通し改定においても、2004年度から2008年度の5年間の財政収支赤字合計額は1兆4,450億ドルと、OMBの見通しとほぼ同じ水準が見込まれている。

表1 財政収支見通し

表2 予算教書時からの改訂要因


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