第2部 重点課題への対応

第4章 自由で活力ある経済社会の創造

自由で活力があり、内外に開かれた経済社会を創造するためには、自由な企業と個人のイニシアティブをいかし、市場経済の活力を十分に発揮できるようにしていくことが重要である。まず、競争阻害的な規制や商慣行を是正すること等により、日本経済の高コスト構造を是正し、産業の活性化を促進することが必要である。また、産業活動の自由度を拡大し、産業の活性化を促す観点から、企業を取り巻く法・制度等について見直しを行うとともに、個人や企業の自由な発想をいかした新規事業への円滑な資金供給を図る。経済構造の変革過程において、失業が増大しないように、雇用機会の創出を図るとともに、円滑な労働移動を実現するため、参入しやすく転出しやすい労働市場を整備する。さらに、金融システムの安定性確保に努めると同時に、金融の自由化・国際化を進め、金融機関等の創意工夫を十分引き出し得るような環境を作ることが必要である。加えて、活力ある地域経済を創出し、地方分権を一層進め、地域や住民の自由なイニシアティブによって、個性ある地域経済を発展させることが重要である。

第1節 高コスト構造是正・活性化の促進

1.規制緩和政策の推進
規制緩和は、競争を活発化させ、日本経済の高コスト構造を是正し、企業の自由な創意工夫を引き出すことによって、新規事業を創出するものである。また規制緩和は、市場アクセスを改善し、我が国経済を国際的に調和のとれたものにする上でも有効である。
規制については、従来の経緯にとらわれることなく、廃止を含め抜本的に見直すべきである。経済的規制については、原則自由・例外規制を基本とする。社会的規制については、技術革新等の進展に伴い、その意義、必要性が薄れてきたものもあるので、不断に見直しを進め、本来の政策目的に沿った必要最小限なものとすることを基本的な考え方とする。このため、3年間に前倒しされた規制緩和推進計画を着実に実施するとともに、透明性を確保しつつ、内外からの意見・要望、行政改革委員会の監視結果等を踏まえ、定期的にその見直しを行い、改定する。規制の新設は必要最小限にすることを基本方針とし、原則として当該規制を一定期間経過後に見直すこととする。地方公共団体においても、国・地方を通ずる規制緩和の推進の観点から、規制の見直しを進めることが重要である。また今後、規制緩和を推進する中で、企業と消費者の自己責任原則を確立することが重要であり、そのためにも、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るとともに、民間の経済活動に関しても透明性を向上させるため、行政と企業においてより一層の情報公開を進める 必要がある。
2.競争政策の積極的展開
公正かつ自由な競争を一層促進することにより、日本市場をより競争的かつ開かれたものとするとの観点から、規制緩和とともに競争政策の積極的展開を図る。このため、独占禁止法を厳正・的確に運用する。さらに、競争政策の国際的調和の推進を図ることが重要である。
個別法による独占禁止法の適用除外カルテル等制度(28法律、47制度)については、平成10年度末までに原則廃止する観点から見直しを行い、平成7年度末までに具体的結論を得る。また、その他の適用除外カルテル等制度についても、引き続き、必要な検討を行う。
再販売価格維持制度については、これまでの指定品目の範囲の縮小後の状況等の調査を行い、平成9年度末までにすべての指定品目(一般用医薬品14品目、小売価格が1030円以下の化粧品14品目)について、取消しのための所要の手続の実施を図る。医薬品については、現行指定品目に関し、上記調査を行い、調査の結果を踏まえ、平成8年度中に指定取消しのための手続を実施する。また、再販適用除外が認められている著作物について、平成9年度末までにその範囲の限定・明確化を図る。
3.高コスト構造是正・活性化のための行動計画
我が国経済の活性化及び国民生活の豊かさを実現するためには、高コスト構造を是正し、産業の活性化を促進することが焦眉の課題となっている。そのため、高コスト構造是正・活性化のための行動計画を策定した(別紙参照)。
本行動計画は、生産・消費等の活動において、共通のコスト構成要因であること、国民の関心が高いことなどの観点から、10分野(物流、エネルギー、流通、電気通信、金融サービス、旅客運送サービス、農業生産、基準・認証・輸入手続等、公共工事、住宅建設) について、コスト削減・活性化に資する目標を設定するとともに、目標達成のために、規制緩和、競争政策の積極的展開を図ることはもとより、商慣行の是正、インフラの整備、情報公開・ディスクロージャーの充実等の観点から、コスト削減・活性化に資する政策を示し、可能な限りその実施時期を明示した。
なお、目標期間は、原則として平成12年度(2000年度)までとするが、流動的な内外経済情勢の下で本行動計画の実効性ある推進を図るため、指標等を用い、毎年、実施状況等を点検する。

第2節 新規事業展開と既存産業再構築への支援

我が国産業の革新的な展開を図り、「自由で活力がある経済社会」を創造するためには、規制緩和等の推進により、高コスト構造による経済の歪みを是正するとともに、独創的で幅広い産業のフロンティアを開拓する環境を整備することが必要である。
このため、規制緩和と競争政策の積極的な展開を図り、企業を取り巻く法・制度の見直し、法人課税についての幅広い観点からの検討、輸入・対内直接投資の促進、国際的な交流機能の強化の推進を行うとともに、ベンチャー企業等への資金供給の円滑化を図る。また、企業レベルの新商品開発等による事業革新の円滑化を支援するとともに、中小企業は、新たな産業やビジネスの形態を生み出していく母体であることから、中小企業に対しては創造的事業活動に対する支援の充実を図る。さらに、新規産業創出等のための発展基盤の整備として人材育成、科学技術の創造、情報通信の高度化を図る。
1.ダイナミックな企業活動を促すための環境整備
(1) 法・制度の見直し
企業組織関連法・制度については、商法における
  • 1) 合併手続の簡素化
  • 2) 会社分割規定の整備
    独占禁止法における
  • 3) 合併・営業譲受等の届出制度
  • 4) 株式保有の報告制度
  • 5) 役員兼任の届出制度について、制度の趣旨・目的、企業の負担軽減、国際的整合性の確保等の観点から、見直しを図る。
    また、持株会社規制については、事業支配力の過度の集中を防止するとの趣旨等を踏まえつつ、事業者の活動をより活発にする等の観点から具体的検討を行う。
(2) 法人課税のあり方
法人課税については、公正・中立を基本とし、我が国経済の国際化の進展、産業構造の変化等を踏まえ、課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げるという基本的方向に沿って、我が国の税体系に占める法人所得課税の地位に留意しつつ、幅広い観点から検討を行う。
(3) 輸入・対内直接投資の促進
輸入の促進や対内直接投資の拡大により競争を促進させる観点から、市場開放措置や輸入促進地域、輸入関連インフラ等の整備、税制、金融上の措置等の輸入促進支援策を実施するとともに、我が国の高地価等の対内直接投資阻害要因や、競争制限的な慣行等の輸入阻害要因の是正に努める。また、対内直接投資を行う外国企業等に対し、事業展開の円滑化等を目的とした税制、金融等における政策的支援等を行う。
(4) 国際的な交流機能の強化
ダイナミックな企業活動が国際的に展開されていくためには、我が国に人、物、情報等の国際交流拠点が形成されていることが重要である。そのため、社会資本整備を通じた空港及び港湾の国際的な交流拠点機能の強化並びに情報通信インフラの整備拡充を推進する。
2.ベンチャー企業等への資金供給の円滑化
担保力・信用力は不足しているが、研究開発力等を有する将来有望なベンチャー企業等に対する資金供給をより一層円滑化するため、以下の施策を推進する。
(1) ベンチャー・キャピタルの機能強化
ベンチャー・キャピタルがより有効にその機能を発揮し、創業・立ち上がり期にあるベンチャー企業への投資が強化されるよう、資金源の拡充等により多様な資金を導入することを通じて、ベンチャー・キャピタル自身の財務面での基盤強化を図る。また、ベンチャー・キャピタルが大学・研究所等との間で情報や技術の交流を行う体制を構築することにより、情報提供等を通じたベンチャー企業への支援体制の充実を図る。
(2) 公的支援制度の活用
創業・発展期のベンチャー企業や新分野に進出する中小企業への資金供給を円滑に進めるため、これらの企業に対する公的な支援制度を着実に実施するとともに、ベンチャー企業等の多様なニーズの把握に努める。また、これらの制度に関する情報提供等を一層促進し、より利用しやすくする。
(3) 資本市場を通じた資金調達の円滑化
ベンチャー企業等の資金調達需要にこたえる観点から、一定の要件を満たす新規事業を実施する企業を対象に店頭特則市場が開設され、さらに同市場の株式公開制度等について所要の整備が図られたところであり、今後においても株式市場を通じた資金調達の円滑化が進展することが期待される。また、平成8年1月より、企業が公募社債を発行する際の適債基準等を撤廃する。公開により資本市場から資金調達することを目指すベンチャー企業等においては、投資家に対してリスク要因も含めた経営内容・財務状況を分かりやすく開示する必要があり、このためできる限り早い段階から企業会計の重要性 を認識し、その整備に努めることが必要である。
(4) 民間金融機関による円滑な資金供給
銀行等民間金融機関は、企業への融資に当たっては、事業内容、成長力等を的確に把握すべく引き続き事業審査能力の向上を図るとともに、知的財産権を担保とした融資に取り組む等、適切な対応を行うことが求められている。
3.創造的中小企業に対する支援等
我が国産業の革新的な展開を通じて産業構造の変革を図るためには、経済環境の変化に即応した新規開業や、新製品・新サービスの開発、生産工程や流通方式の改善等の技術開発とその成果の事業化といった創造的事業活動・事業革新が求められるが、特にその担い手として、企業家精神に富み、迅速かつ柔軟な対応の利く中小企業への期待が大きい。このため、事業革新法の活用を通じた企業の事業革新の円滑化を支援するとともに、個々の意欲ある中小企業や創業者等に対する支援の充実を図る観点から、中小企業創造活動促進法、中小企業新分野進出等円滑化法等の活用により、以下の施策を講じる必要がある。
(1) 中小企業の新分野進出、新製品・新サービスの開発や経営基盤の強化、さらに創業者や創業前の個人に対する経営資源の補完等のため、研究開発等事業による技術革新、情報化、人材の確保・育成等に対する支援を行う。
(2) 中小企業の情報ネットワークの構築、企業連携、融合化等異業種間の技術交流、公的機関による技術指導・情報提供等の施策を推進するとともに、企業集積の再構築に対する支援を行う。
(3) 中小企業の海外展開、海外製品の取扱等積極的な国際的事業活動の推進のため、事業展開に係るアドバイス、輸入関連情報等の提供等の支援を行う。
(4) 流通構造の変化に対応した中小卸売業者の物流効率化、共同化、情報化等を促進するとともに、中小小売業者が行う商業基盤施設の整備、情報化への対応、ソフト事業の推進、国際化への取組、事業の共同化等の事業の革新を支援する。
4.人材の育成、科学技術の創造及び情報通信の高度化による発展基盤の確立
(1) 新たな産業のフロンティアを開拓するため、能力開花型社会の構築により、創造性に富み、かつ企業家精神にあふれた人材の育成を図る。
(2) 新規産業を創出するため、独創的な研究開発の推進を通じ、科学技術の創造を進める。
(3) 今後の新規産業や雇用の創出等において中心的役割を担うことが期待される情報通信 の高度化を積極的に推進する。
5.今後成長が期待される分野
以上の施策は、企業の自由な創意工夫を引き出すことによって、新規事業を創出する ものである。今後、高い成長が期待できる分野(いわゆる「成長期待分野」)としては、
  • 1) 高度情報化の進展による情報通信関連(例えば、コンピュータ等の情報通信機器、移動体通信等の高度通信)
  • 2) 多様化する企業ニーズを充足させるための企業活動支援関連(例えば、リース、広告)
  • 3) 労働の質の向上等のための人材関連(例えば、専修学校、社員教育サービス)< BR>
  • 4) 少子・高齢化の進展等に対応した医療保健・福祉関連(例えば、在宅医療関連、福祉用具)
  • 5) 所得水準の向上や自由時間の拡大等を背景とした余暇・生活関連(例えば、旅行、文化・芸術鑑賞、外食)
  • 6) 高度化・多様化する居住ニーズに対応するための良質な住宅関連(例えば、高齢者住宅、住宅リフォーム)
  • 7) 地球環境問題の顕在化等に伴う環境関連(例えば、廃棄物処理、公害防止装置、低公害車)
    等が考えられる。

第3節 雇用の創出と労働市場の整備

規制緩和の進展等を背景に産業構造が変化する過程において、労働力需給のミスマッチによる失業問題が発生するおそれがある。こうした中で雇用の安定を図ることは、国民生活の安定の実現に向けての最大の課題である。
この課題の達成のためには、新たな雇用を創出するとともに、産業間・企業間の円滑な労働移動を可能とする参入しやすく転出しやすい労働市場を整備していくことが必要である。
1.雇用の創出
雇用の創出のためには、これまで述べたような新規事業の展開や既存産業の事業革新等の支援を通じ、経済の活性化を図っていく必要がある。
特に意欲ある中小企業や創業者に対して雇用機会の創出のための環境整備を行っていくことが重要であるため、魅力ある職場作り、出向や雇入れを通じた新分野展開等を担う人材の確保に対する支援策を講じていく。
こうしたことにより、今後の成長期待分野等における新たな雇用機会の創出を図っていくこととする。
2.参入しやすく転出しやすい労働市場の整備
(1) 労働力需給調整機能の強化等
産業間・企業間の労働移動を円滑に行うため、国及び事業主団体等の民間部門の連携の下に雇用情報等を迅速・的確に提供するネットワークも含めた情報提供機能、転職に必要な知識の修得等のコンサルティング機能の強化を図る。
また、有料職業紹介事業について、取扱職業の範囲及び紹介手数料のあり方に関し、平成7年中に検討を開始する。労働者派遣事業の適用対象業務の範囲について、中央職業安定審議会の審議を踏まえ、見直しを進め、平成7年中に検討結果を取りまとめる。
さらに産業間・企業間の労働移動に伴う失業をできるだけ回避するには、企業において再就職のあっせん等失業なき労働移動に向けた積極的対応が行われることが望ましい。このため、業種雇用安定法の機動的な運用を図るとともに、転職とともに増加すると考えられる系列外企業への出向を円滑に行うため、出向支援機能の強化を図る。
あわせて、勤労者の持つ技能・知識を具体的に評価・診断する方法の整備を進めることとする。
(2) 労働移動に関して非中立的な制度の見直しの検討
参入しやすく転出しやすい労働市場の整備に当たっては、転職によって経済的に不利にならないようにするという観点から、労働移動に関して非中立的な諸制度について検討する。具体的には、適格退職年金における年金間のポータビリティの確保、退職一時 金の算定基礎・支給率の見直し、勤続年数を資格要件とする福利厚生制度の見直しなどの問題について広く関係者において検討する必要がある。
3.中高年ホワイトカラー、新卒者・若年者に対する支援
事業の再構築等によって雇用調整が向けられる可能性が高い中高年ホワイトカラーが、高度で専門的な能力を習得できるよう、ビジネス・キャリア制度の拡充や教育訓練の充実を図るとともに、機動的な出向等のあっせん等により、失業なき労働移動を支援する。
また、新卒者等若年者の雇用をめぐる不安感を払拭するため、職業紹介や情報提供等に関する積極的な支援策を講じつつ、採用選考期間を年に複数回設けることや、未就職卒業者やいわゆる第2新卒者にも広く応募の機会を与えること等について社会的な議論を深め、併せて職業に関する体験機会の提供等の対策を推進する。

第4節 健全で活力ある金融システムの構築

健全で活力ある金融システムを構築することは、安定した取引基盤を提供するとともに、今後の発展分野を含め、必要な分野に円滑に資金を供給することを通じ、我が国が新たな経済社会のフロンティアを切り拓いていく上で、不可欠の前提条件を成すものである。このため、金融システムの安定性確保に努めると同時に、金融の自由化・国際化を進め、金融機関等の創意工夫を十分引き出し得るような環境を作っていく。
1.金融機関等の経営の健全性確保
(1) 金融システムの安定性を確保するためには、金融機関等の経営の健全性を確保していくことが重要であり、このため金融機関等による不良債権の早期処理を促進する。不良債権の処理に当たっては、信用秩序の維持や預金者保護に配慮しつつ、金融機関等による不良債権の早期処理に向けた厳しく真剣な取組努力を通じ、おおむね5年以内のできるだけ早期に積極的な処理を進め、問題解決の目処をつける。その際、単なる帳簿上の処理にとどまらず、不良債権の担保となっている不動産の流動化の促進を図る。また、これと同時に、個々の金融機関等においては、最大限の合理化努力を行い、自己資本の充実を進めるなど体質の強化を図るとともに、自己責任原則の下に自らのリスク管理能力を高めることが求められる。
(2) 金融機関等の経営の健全性のチェックに当たっては、市場の自律機能を活用していくことが重要であり、このため金融機関等が経営内容のディスクロージャーを一層充実させつつ、預金者、株主、債権者といった市場参加者が、市場を通じて発せられる様々な 形のシグナルに着目し、これを活用していくことが求められる。
2.金融システムの安定化を図るための制度的対応
金融システムの安定化を図るための対応として、検査・モニタリング体制の強化を図るとともに、自己資本比率規制等の健全性諸比率基準の活用等を図るなどより透明なものとしていく。また、多角的な視点からの幅広い国民的議論を踏まえつつ、金融機関等の経営の健全性を確保するため、例えば自己資本の充実度等の一定の基準に基づき、早期に経営を是正するための措置等を導入すること、及び金融機関等の経営破綻が生じる場合に備え、その影響が金融システム全体に波及することを防止し、預金者を保護するため、預金保険を拡充すること等について検討を行い、所要の措置を講じるなど、積極的に対応していく。
3.金融自由化・国際化の推進
(1) 金融の自由化・国際化を推進し、金融・資本市場における有効かつ適切な競争を促進するとともに、資金調達・運用手段の多様化を進め、市場のより一層の効率化・活性化を図る。
(2) 金融の自由化・国際化の進展に応じて、金融機関等には、金融商品・サービスの内容に関して客観的かつ正確な情報を分かりやすく提供していくことが求められる一方、預金者や投資家においては、金融商品の選択に当たって自己責任の認識を持つことが必要であり、監督当局、金融機関等はこのような考え方について国民の意識の啓発に努める。
(3) 金融派生商品取引にはそのリスク管理が困難な面もあるが、国民経済的有用性も大きいことから、金融機関等の市場参加者が自らの責任において、その業務の特性に応じたリスク管理手法や体制を確立するとともに、適切なディスクロージャーに努める。

第5節 首都機能の移転と活力ある地域経済社会の展開

1.世界を代表する都市・東京の役割
東京は、政治・行政の中心であるのみならず、経済、学術、文化、情報、ファッション等あらゆる分野の高次都市機能が生まれ、集積し、世界を代表する都市の一つとしての地位を築いてきた。今後とも、中枢機能の高度化等を図ることにより、21世紀においても世界中から、情報、資本等の集まる国際中枢都市としての輝きを発揮することを可能とする。
2.首都機能の移転
首都機能の移転は、国政全般の改革促進の契機となるものであり、21世紀に向けて新しい社会を築く上での重要な課題である。また、一極集中メカニズムの是正や災害に強い国土づくりの観点からも大きな役割を果たすことが期待されるものであることから、国会等の移転に関する法律に基づき積極的に検討を進め、移転の早期実現を目指す。なお、首都機能の移転先においては、日本の歴史や文化、理念や価値観、将来へのビジョン等を自らの国民及び世界に語りかける日本の顔となるような都市が創られることが期待される。
3.地域経済の現状と課題
(1) 地域間経済格差は、昭和36年から総じて縮小傾向にある。昭和54年からは再びゆるやかな拡大傾向が見られたものの、平成元年を境に4年にかけて縮小に向かってきており、東京圏における人口の転出超過にも影響を与えている。この格差縮小は、戦後ほぼ一貫して推進されてきた工業等の地方分散政策及び交通・情報通信基盤整備の成果等を示すものである。
(2) こうした傾向を一層着実なものとするためにも、地方中枢・中核都市等の拠点地域を核とした広域的な経済・生活圏の形成を促進する。さらに、拠点都市法、頭脳立地法等に基づき、拠点地域を中心に企画・管理、研究開発等の都市的で高度な業務の集積を進 め、先端的な産業の育成・誘致を推進するとともに、全国的な産業構造の転換に適切に対応する。
(3) 国際分業体制の再構築の中、地方経済がその果たすべき役割を積極的にとらえ、企業の海外事業展開や産業構造転換を支援するとともに、国際的にも魅力のある産業立地環境を実現することにより、地方の経済・生活圏が海外とりわけ東アジアと直接結び付きつつある状況に適切に対応する。
4.活力ある農林水産業の展開
良質・安全・新鮮な食料が適正な価格で安定的に供給されることは、生活の安定の基本であり、より効率的で多様な選択ができる食料供給システムが求められている。一方、我が国農林水産業は、労働力の減少と高齢化が進行しており、その活性化が急務となっている。このため、ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策の着実な実施等を通じ、より生産 性の高い生産構造の実現と多様なニーズに対応した農林水産業の展開を促す。
(1) 農業者の創意工夫のための条件整備
経営感覚に富んだ農業の実現を図るための条件整備を進める。このため、農産物の生 産・流通の合理化・効率化を進めるとともに、米については、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」等に基づき、流通規制の緩和や生産調整手法の改善を図る。また、投入資材に係る規制の緩和、農協による事業運営の見直し等により、コスト削減のための条件を整備する。さらに、農産物の品質・生産方法等についての客観的な規格・ 表示基準の整備・普及に努める。加えて、農家子弟以外の者も農業に積極的に参入できるための条件整備に努める。
(2) 意欲ある農業者への支援
国土条件等の制約の中で生産性の高い農業を実現するため、農業経営基盤強化促進法の積極的運用等を通じて担い手へ農地の過半を集積するとともに、大区画ほ場整備等の高生産性農業基盤整備等を重点的かつ加速的に推進する。また、生産現場に直結する技術開発を加速する。さらに、市場・技術情報等の収集・分析や消費者との交流に必要な情報通信の高度化を促進するとともに、意欲ある農業者の規模拡大等に必要な資金の円滑な供給のための支援を行う。
(3) 国土・環境の保全と農業
農業・農村は、適切な生産活動を通じ国土・環境保全に寄与しているが、中山間地域等においては耕作放棄地が増加しており、農地の保全・管理と有効活用のための総合的な対策を講じる。また、生産性との調和を図りつつ環境への負荷軽減に配慮した環境 全型農業の確立・推進を図るとともに、生態系に配慮した農村整備等を行う。
(4) 持続可能な森林経営の推進
森林・林業については、木材の生産から加工・流通にわたり連携する流域管理システムの確立を図り、木材供給体制の整備や複層林、育成天然林等の施業を推進し、森林の保水等の機能に対する流域住民の関心を高めるなど国民の参加も得つつ、森林の多面的機能を発揮させるための森林の整備と山村の活性化を図る。また、世界の森林の保全と持続可能な経営の確立に向け、国内外における取組の一層の推進を図る。
(5) 新海洋秩序の下での水産業の展開
水産業については、漁業生産基盤の整備、漁業経営の体質強化と併せ、資源管理型漁業の実施・定着のほか、環境保全に配慮した養殖業、栽培漁業など「つくり育てる漁業」を積極的に推進するとともに、消費者等のニーズに即した流通・加工体制を整備する。また、国連海洋法条約に沿った漁業制度や生産体制の整備を図るとともに、海外漁業協力等を通じて世界の海洋資源の持続的利用を進める。

第5章 豊かで安心できる経済社会の創造

急速な経済成長を遂げた戦後の半世紀を経て、人々の豊かさと安心に対する意識も変化してきている。
豊かで安心できる経済社会を創造するためには、老若男女一人一人が個性と能力を発揮する機会の確保、労働時間と自由時間の適切なバランス、セーフティネットとしての社会保障の充実、くらしの基盤である住宅や社会環境などの整備、災害への万全の対応、環境 と調和した持続可能な経済社会システムの構築などの課題がある。
これらの課題の実現に当たっては、様々な施策を適切かつ効率的に組み合わせて実施するとともに、国民、企業、政府それぞれが相応の負担を分かち合うなどの最大限の努力と貢献が必要とされるものである。

第1節 老若男女共同参画社会の構築

豊かで安心できる経済社会においては、老若男女一人一人の個性が尊重され、その持て る能力に応じて社会の中で様々な役割を有し、意欲的に社会に参加することができる公正な機会が保障された老若男女共同参画社会を構築する必要がある。
このため、男女の固定的役割の見直し、女性の能力発揮支援等や高齢者、障害者の社会 参加を積極的に図るとともに、ボランティア活動参加の支援、豊かな学習環境の形成を図る必要がある。
1.女性、高齢者等の雇用、就業支援
(1) 女性の社会進出に対応した雇用環境の整備
1) 少子・高齢化の急速な進展、核家族化等に伴い、育児や家族の介護の問題は労働者が働き続ける上で妨げになっていることから、男女労働者が共に充実した職業生活と家庭生活を営むことのできる環境作りを進めることが一層重要となっている。このため、育児休業制度等の定着、介護休業制度等の普及促進等による育児休業・介護休業を取得しやすく職場復帰しやすい環境作り、延長保育など就業ニーズに合わせた保育所の整備、事業所内託児施設の整備等に対する支援、育児・介護費用の助成等労働者が働き続けやすい環境作り、育児・介護のために退職した者に対する再就職支援等労 働者の職業生活と家庭生活との両立支援対策を総合的、体系的に推進する。
2) 男女雇用機会均等法と労働基準法の女子保護規定の法令等の見直しを含めた更なる方策について幅広い検討を行う。
(2) 高齢化に対応した雇用環境の整備
60歳定年が義務化される平成10年度前のできるだけ早い時期に60歳定年に移行するようにするとともに65歳までの継続雇用制度の普及を図る。また、早期再就職の促進を始めとする高齢者の多様な就業ニーズに対応した多様な形 態による雇用・就業の促進、高齢期における職業生活の設計の援助、高齢者が働きやすい職場環境の整備を図る。
(3) 障害者の雇用促進のための環境整備
障害者の雇用機会を確保するため、すべての企業において法定雇用率が達成されるよう、引き続き雇用率制度の厳正な運用を行うとともに、障害者雇用に関する援助・相談の充実を図る。また、地域レベルでの職業リハビリテーションの実施等障害の種類・程度に応じたきめ細やかな対策を総合的に推進する。
(4) 多様な働き方を可能にする環境整備
経済社会の変化の中で増加する傾向にあるパートタイム労働者や派遣労働者等多様な就業形態の者について、その適正な労働条件、就業条件の確保や雇用管理の改善に向けた施策を推進するなど、多様な働き方を可能にする環境整備に努める。
2.ボランティア活動による社会参加
(1) ボランティア活動参加への環境整備
いつでも、誰でも、どのようなことからでもボランティア活動に参加できる条件作りを行う。このため、次のような施策を講じる。
1) 知識や技術習得のための研修の充実、ボランティア活動に参加するきっかけ作り、社会福祉施設等の受入れ体制の整備
2) ボランティア休暇制度の導入、企業のフィランソロピー活動の支援等の推進
3) 市民活動団体に法人格を付与する仕組みの検討、ボランティア活動を支援するための 環境整備
(2) ボランティア活動に関する情報ネットワーク
ボランティア活動に関する情報へのアクセスを容易にするため、市町村及び都道府県にボランティアセンター等の機関を整備し、ボランティア情報のネットワーク作りを行う。また、これらの情報が有効に活用されるためにコーディネーターの養成、サービス提供におけるコーディネート機能の充実を図るとともに、郵便局におけるボランティア活動に関するリーフレットの配付等の様々な啓発の機会を活用する。
3.豊かな学習環境の形成
個人がその能力を発揮し、満ち足りたくらしを送り、社会参加をしていく上で、多様な学習ニーズに対応した生涯学習の機会を活用することが重要である。
生涯を通じた学習機会を提供するため、生涯学習関連施設の整備及び学習内容の充実を図るとともに、情報化の進展にかんがみ、学習情報のデータベース化やネットワーク化による生涯学習情報提供システム整備事業、放送や衛星通信を活用した遠隔教育などを推進し、より多くの学習機会を提供していく。

第2節 自由時間の確保と活用に対する支援

1.ゆとりのための労働時間の短縮
我が国の労働時間の短縮の流れを一層確実なものとし、年間総労働時間1800時間の達成 ・定着を図るため、
1) 年次有給休暇の取得促進
2) 完全週休二日制の普及促進
3) 所定外労働の削減
を柱として取組を進める。
年次有給休暇の取得促進については、ゆとり休暇推進要綱により、労使の自主的な取組を促進し、その完全取得を目指すとともに、リフレッシュ休暇制度やボランティア休暇制度等、多様な休暇制度の普及に努める。
完全週休二日制の普及促進については、労働時間短縮を進めにくい中小企業への支援措置などにより、週40時間労働制への円滑な移行を図る。
所定外労働の削減については、労使の削減に向けての取組を促進するとともに、企業に対する指導などにより、労働時間管理の適正化に努める。
また今後、裁量労働制の対象業務について、当該業務の実態と時間管理のあり方等を十分踏まえつつ、その拡大を図るとともに、フレックスタイム制の更なる普及に努めることにより、自律的・創造的かつ効率的な働き方を実現する。
2.自由な生活時間のための条件整備
文化、スポーツ、観光、レクリエーション、自然との触れ合い志向等の多様なニーズに 対応した各種施設の整備を順次図る。その際、社会教育施設や学校施設を地域のレクリエーション活動に活用する等、既存の施設の有効活用を十分考慮するとともに、自然公園地 域での自然との触れ合いや農山漁村地域での自然環境・文化を活用した農林漁業体験等の滞在型余暇活動等を行える条件を整備する。

第3節 自立のための社会的支援システムの構築

少子・高齢化が進展する中で、人々が毎日のくらしを豊かに安心して送れるようにするためには、基礎的所得の確保、健康の維持向上、疾病の予防・回復、育児や介護への適切な対応を行うなど、社会的支援システムの構築を目指す。このような社会的支援システム を必要に応じて活用することによって、個人の自立や家族の健全な役割を基礎にした活動が実現され、個人の生きがいと社会の発展につながっていく。
1.自助、共助、公助の適切な組合せによる安心の確保
社会的支援システムの構築に当たっては、国民、企業、政府(公的部門)それぞれが適 切に対応することが必要である。つまり、各人が課題を自ら解決すること(自助)、社会 的な助け合い(共助)を支援していくこと、また公的なサービス(公助)を充実すること を適切に組み合わせていくことが必要である。
具体的には次のような考え方に立って、施策を展開する。
  • 1) 健康の維持、寝たきりの防止など、社会的支援ニーズの発生そのものの抑制
  • 2) 個人の自助能力の向上と自助努力の支援
  • 3) 社会的支援インフラやソフトの整備等、公的システムによる基礎的安心の確 保
  • 4) 公的サービスと適正価格で購入できる民間サービスの多様な組合せ
  • 5) ボランティア活動やNPO(民間非営利団体)の活動によるサービス提供とそ の支援(個人や地域が有する自助能力を社会的に再分配する)
2.国民の対応
(1) 国民による自助、共助
国民に対し、健康管理の知識、簡単な介護技術の習得、住宅のバリアフリー化等の機 会を提供し、介護問題等に対する自助努力を支援することにより、自助能力向上へのイ ンセンティブを与える。また、社会連帯による国民相互の助け合い、家族の支え合いを 支援していくことが必要である。
(2) ボランティア活動やNPO活動の支援
国民のボランティア活動やNPO活動を支援するため、市民活動団体に法人格を付与 する仕組みを検討するとともに、その活動を活性化するための環境整備に努める。
(3) 利用者負担の適正化
公的サービスに対する国民(受益者本人)の利用者負担を適正化する。
(4) 能力に見合った適正な負担
社会的支援サービスを充実させるためには、国民各世代が能力に見合った広く公平か つ適正な負担を分かち合うことが必要である。特に、高齢世代は平均的に見れば他の世 代に比して多くの資産を有する一方、高齢世代の家計における公的負担は他の世代に比 して低くなっている。このため、高齢世代内の所得・資産格差が高いことを踏まえなが ら、高齢世代も能力に見合った広く適正な負担を担う方策を検討する。
3.企業の対応
(1) 企業の社会的支援サービスへの取組の支援
1) 医療保健・福祉関連産業等への支援
社会的支援サービスの質の向上に資するため、医療保健・福祉関連産業等に係る分 野への企業の進出や投資が重要である。そのため、これらの医療保健・福祉関連産業 等への円滑な労働力の参入の実現に努める。
2) 競争条件の整備と利用者保護
公的部門及び民間部門の両部門を通じて競争原理が働く条件整備を行い、社会的支 援サービスを必要とする国民が適正な価格で多様な民間サービスを購入できるように する。その際、社会的支援サービスの公共的な性格に着目して質の確保を図り、対人 サービスとして大幅な省力化が難しいことを踏まえ、市場による自由な競争を促進し つつ、公的補助等の政策的な支援の充実を図る。
さらに、公正な情報の提供、契約内容の明確化により、社会的支援サービスの利用 者の保護に十分配慮する。
(2) 企業の社会貢献活動等
事業所内保育施設の整備等、企業による従業員に対する支援サービスの提供を促進す るとともに、ボランティア休暇制度の普及等、企業の社会貢献活動を促す環境整備に努 める。
4.公的部門の対応
(1) 総合的な施策の展開
社会的支援ニーズに効率的に対応するためには、各個人の市場価格では計れない個別 的負担も含めたトータルコストの増大をできる限り抑制することを目指した総合的な施 策の展開が必要である。このような視点から、次のような施策を行う。
i) 医療、保健、福祉等を適切に組み合わせ、最適サービスを効率的、一体的に提供 する(ケアマネジメント)。
ii) 企業年金、国民年金基金、個人年金等の普及を図り、公的年金制度の補完を図る。
iii) 高齢者の有する不動産資産を生前の生活保障に活用する方策を検討する。 また、個人それぞれが健康管理を行い、疾病や要介護状態等を予防することが必要で ある。一方、要介護状態の予防及び介護負担の軽減の観点から、健康診断や住宅のバリ アフリー化等を充実するとともに、これらの施策による予防効果や負担軽減の効果等の 検証に努める。
さらに、公的部門の施策の総合的な展開に当たって、次の点に留意する。
  • 1) 公的サービス供給の最適化と効率化 家族による介護等の物理的・精神的な負担を軽減するため、「自立した生活」を送 るために必要な基礎的部分については適切かつ公平な負担を求めつつ、公的なサービ ス(福祉等)を充実する。
    また、支援ニーズのうち公的責任で担う部分についても、民間部門を含めたサービ ス提供者間の適正な競争を促進するとともに、ボランティアの協力を得ることによっ て、最適かつ効率的なサービスを提供する。
  • 2) 社会保障給付全体の適正水準のあり方 介護等の予防的施策の効果並びに年金等の現金給付と医療や福祉等のサービス給付 の連携等を検討しつつ、社会保障給付全体の増加や公的負担の上昇をできる限り抑制 する。
  • 3) 政府支出における配分のあり方
    少子・高齢化の進展を踏まえ、政府支出全体にわたり、真に必要な分野へ配分し、 必要性の薄れた分野への支出を削減する。
(2) 高齢者保健福祉サービスにかかる総合的な社会的支援の基盤整備
1) 「高齢者保健福祉推進十か年戦略」を見直して、平成6年(1994年) に策定された
「新ゴールドプラン」を着実に推進し、高齢者保健福祉サービスの供給を量的、質的 に強化する。この際、国のみならず都道府県や市町村がそれぞれの役割を果たし、都 道府県老人保健福祉計画や市町村老人保健福祉計画に基づき、それぞれの地域の実情 にあった整備を行う。
2) 多様な介護サービス提供に対応した介護費用の社会保険化を検討する。これにより、 医療、福祉等の各制度にまたがって提供されてきた介護サービスの一元化を図り、要 介護者の不必要な長期入院の解消や介護サービス提供における費用負担の公平化等を 図る。
3) 介護を支える人材育成のため、ホームヘルパー養成研修の充実や公共職業能力開発 施設における介護関係の訓練科目を整備する。さらに、家庭における介護に関する実 践的な知識・技術の習得を支援する。
(3) 高齢者等に配慮した住宅・社会資本の整備
高齢者、障害者等を含むすべての人々が安全・円滑に日常生活を送ることができるよ うにするため、以下のような住宅・社会資本の整備を推進する。
1) バリアフリー化など高齢者、障害者等に配慮した住宅の整備
2) 歩道の段差切下げ、交通ターミナルや公共的建築物におけるエレベーターの設置な どバリアフリーのまちづくり
3) 病院、福祉施設、鉄道駅等の周辺を中心とした幅の広い歩道の整備
4) 福祉施設や医療施設と一体となった公園の整備
5) 高齢者、障害者等にやさしい官庁施設の整備
(4) 子育てに係る総合的な社会的支援の基盤整備
子育てに係る女性の負担軽減等、社会全体として子どもを健やかに産み育てられる環 境を整備するため、「緊急保育対策等5か年事業」を着実に推進する。その際、各地方 公共団体における具体的な住民ニーズに適切に対応するため、地方公共団体による自主 的な子育て支援のための計画の策定を支援する。
また、次のような子育てに関する基盤整備を行う。
1) 公共施設等を利用して、児童に対し伝統的な遊び、しつけ、おけいこごとや子ども の自学自習などを手助けする地域住民等の取組を支援する。また、子育てに関する相 談体制等の整備を図る。
2) 今後の多様な保育サービスに対する需要を踏まえ、公的保育所についても契約型の保 育サービス提供の導入を検討する。また、民間による保育サービスの円滑な供給環 境の整備や各利用者に対する利用料補助の仕組みについて検討する。
3) 企業が事業所内保育施設を整備したり、外部の保育サービスを利用して、従業員の ために保育サービスの提供を行う場合や保育料の補助を行う場合の支援、優遇策を講 じる。
4) 入園料・保育料を減免する就園奨励事業の推進等、幼稚園の整備を図る。
(5) 社会的支援における地方公共団体の役割の重視、措置制度の再検討
地域によって社会的支援に対するニーズは様々に異なることから、地域的な課題を的 確に把握している市町村が中心となって在宅福祉サービス及び施設福祉サービスを一元 的かつ計画的に提供する体制を整備し、実施していくことが必要である。
さらに、多くの人々が必要とする社会的支援ニーズを踏まえ、行政処分による措置制 度を総合的に再検討し、公的な関与の下、広く一般の人々が自由に選択し利用できる普 遍的なサービス提供のあり方を検討する。
5.公平かつ適切な給付と負担のあり方
(1) 社会全体の負担の抑制
今後の我が国の社会保障の給付と負担を公平かつ適切なものとするためには、以下の 視点に立って、社会全体の負担を抑制する必要がある。
1) 予防的施策を充実することによって社会的支援ニーズの発生をできる限り抑制する。
2) 個々の施策間の連携を図り、サービス供給を効率化することにより、社会保障給付 全体の増加をできる限り抑制する。
3) 家計における租税や社会保険料等の公的負担と各家庭において介護等を行う負担や 民間サービスを購入する費用等の私的負担のあり方を総合的にとらえ、社会全体とし ての負担の抑制を考慮する必要がある。
(2) 社会保障制度の長期的な安定と効率化
1) 医療保険制度については、高齢化の進展に伴う慢性疾患の増加などの医療需要の変 化等に対応した医療供給体制の整備を踏まえつつ、医療保険財政が構造的赤字体質に 変化してきている中にあって老人医療費を中心とする医療費の適正化を総合的に進め るとともに、高齢者世代と若年齢世代の間の負担の公平、各保険制度内、保険制度間 の給付と負担の公平等の実現を図る。
2) 年金制度については、平成6年の財政再計算において、60歳台前半における雇用と 年金の連携や年金受給世代と現役世代における給付と負担の均衡を図るための制度改 正を実施したところであり、制度の円滑な運用に努めつつ、引き続き給付と負担の適 正化を進めていく。また、被用者年金制度全体の長期的安定と制度間の給付と負担の 不均衡を是正する等の観点から、公的年金制度の一元化のあり方を検討し、必要な措 置を講ずる。さらに、年金制度の効率的な運営を図るため、基礎年金番号制の平成9 年からの導入を目指す。
(3) 社会保障財政に係る中長期的な見通しの検討
今後の社会保障のあり方については、国民的議論を展開し、あらゆる世代を通じたコ ンセンサスを得ることが必要である。このため、給付内容とそれに伴う負担の水準等に 関する選択肢として社会保障財政についての中長期的な見通しを提示する必要がある。 その際、社会保障の財源構造のあり方については、制度に対する貢献が給付に反映され るという点で、受益と負担の関係が明確である社会保険料負担中心の枠組みを今後とも 基本的に維持しつつ、世代内、世代間の公平の実現について勘案する必要がある。
6.情報通信システムや技術革新の動向を踏まえた社会的支援の充実
ICカード等による各自の健康情報の集積化や医療情報等のネットワーク化、情報通信 インフラの遠隔医療・在宅医療への応用を進める。また、高齢者、障害者、介護や育児を 行う者等にとって、情報通信インフラの活用は雇用機会の拡大や生活支援につながってい く。
こうした可能性を伸ばせるよう、情報通信インフラのハード・ソフト両面にわたる整備 を行う。
また、新しい治療、診断方法の研究開発や先端技術を活用した医療福祉機器、日常の生 活の中で利用することのできる在宅医療・介護機器及び身近な福祉用具等の研究開発・普 及を進める。このため、標準化の研究及び規格化の充実を含め、ユーザーの視点に立ち、 使いやすさ等に配慮した良質な医療福祉機器及び福祉用具の研究開発の促進、支援を行う。

第4節 災害に強く、安全なくらしの実現

1.災害への備えと対応
我が国は、その自然的、社会的条件等から、地震、豪雨、火山噴火、渇水等の災害に対 して脆弱な状況にある。経済・社会の健全な発展を図るため、阪神・淡路大震災の経験等 を礎として、国、公共機関、地方公共団体、住民等が一体となって災害対策に努め、災害 による被害を軽減する必要がある。
(1) 災害に強い国土づくり・まちづくりの推進
1) 災害に強い国土づくりの推進
各種災害から国土を保全し、国民の生命、身体及び財産を保護するため、地域の特 性を勘案しつつ、災害に強い国土づくりを推進する。このため、治山治水事業、急傾 斜地崩壊対策事業、海岸保全事業等の国土保全事業を総合的かつ計画的に実施する。 また、首都圏等の大都市圏に集中した中枢機能の防災性の向上と併せ、首都機能の移 転のための積極的な検討、諸機能の地方分散を進めるとともに、各種ネットワークシ ステムの多重化等を推進し、諸機能の代替性の確保を図る。
2) 災害に強いまちづくりの推進
まちづくりの原点が安全等であることにかんがみ、総合的な防災能力を有するまち づくりを推進する。このため、避難地、避難路、緊急輸送路、防災活動拠点ともなる 幹線道路、都市公園、河川、港湾、防災安全街区や消防用施設等を、防災上の観点か ら有機的に配置し、災害に強い都市構造の形成を図る。
また、関係機関と密接な連携をとりつつ、ライフライン共同収容施設としての共同 溝・電線共同溝の整備等を進める。
さらに、構造物・施設等の耐震性等の確保、老朽住宅密集市街地の解消や液状化対 策の推進等を図る。
(2) 迅速な災害応急対策及び災害復旧・復興を実現するための体制整備
1) 迅速な災害応急対策のための体制整備
災害発生時における迅速な情報の収集・伝達は、人命等に係る被害の最小化を図る ための重要な第一歩である。このため、被害の早期予測システムの開発、衛星通信の 整備、情報通信施設の耐震性の強化等により、防災関連情報の収集・連絡体制の充実 を図るとともに、災害情報・予警報の住民等への伝達体制の強化等を図る。
また、国等の職員の非常参集体制の整備、防災関係機関相互の連携の強化、緊急物 資輸送等の応急対策やライフライン施設の迅速な応急復旧等を実現するための体制・ 施設の整備を図るとともに、食料・飲料水等の適切な備蓄を進めるなど、迅速な災害 応急対策のための備えの充実を図る。
2) 迅速かつ円滑な災害復旧・復興のための体制整備
被災地の迅速かつ円滑な復旧・復興は、経済活動や国民生活の回復・安定化の観点 から重要である。このため、構造物等のデータの整備保全やバックアップ体制の整備 等を進め、可能な限り迅速かつ円滑な災害復旧・復興のための備えの充実を図る。
(3) 国民等の防災活動の支援
災害発生時においては、自らの身の安全を自らが守ることが不可欠である。このため、 自主防災思想の普及・徹底、防災知識の普及に努める。また、防災訓練の実施・指導、 自主防災組織の育成・強化、防災ボランティア活動の環境整備、企業防災の支援等を図 る。
(4) 災害に関する調査・研究等の推進
災害に関する調査・研究等を進めることは、災害予防、災害応急対策、災害復旧・復 興のあらゆる面で重要である。このため、地震を始めとする各種災害の発生の仕組み・ 防止対策等に関する調査・研究を推進し、その成果の防災施策への活用を図る。また、 災害に関する観測体制・施設の充実・強化を図る。
2.良好な治安の維持
無差別テロ事件や頻発する銃器を用いた凶悪犯罪の発生など、我が国の治安面への危惧 が高まってきている。
サリン等の大量殺戮物質を使用した無差別テロ事件に対しては、「サリン等による人身 被害の防止に関する法律」を円滑に運用していくことを始め、政府が一体となって再発を 防止する。また、銃器使用犯罪の防止については、銃器対策推進本部等を中心に、関係機 関による取締りや広報啓発活動の実施など、総合的な対策を推進する。また、関係諸外国 との緊密な情報交換及び捜査協力体制の強化を推進する。
3.安全でおいしい水の確保
異臭味のない水道水など、安全で良質な水道水を安定的に供給するため、水道原水の水 質の保全に努めるとともに、安全で水質、水量、水圧のレベルの高い水道を整備する。ま た、渇水や地震等の災害にも適切に対応できるよう、ダム等による水道水源の確保、老朽 管の更新、緊急時給水拠点の整備等を推進し、水道システム全体のライフライン機能を強 化する。
4.製造物責任制度の円滑な運用
製造物責任制度の円滑な運用を図り、消費者被害の防止・救済を実効あるものとするた め、原因究明体制の充実強化、裁判外紛争処理体制の整備、事故情報の収集・提供の充実 強化など関連する諸施策を推進する。

第5節 ゆとりある住宅・住環境の形成

住宅は、個人にとって、健康・生活の基盤であり、自由時間の大部分を過ごすという意 味で最も重要な生活空間であると同時に、家族と暮らし、家族をはぐくむ場でもある。こ の場合、個人が住宅を通じて得る便益(住宅サービス)は、住戸及び宅地そのものから得 られる便益のみならず、周辺の環境、交通の利便性、医療その他の生活サービスへのアク セスなども含めたものである。
今日における国民の多様なライフスタイル等に応じたゆとりある居住を実現するために は、地域コミュニティの充実促進、水と緑豊かで良好な都市・住環境を整備することと併 せて、国民の居住地選択の自由度を利用面に着目して拡大することが重要である。このた め、中古住宅流通市場を始め、住宅市場を拡大し、かつ、活用する視点に立ち、以下のよ うな施策を講ずる。
1.良質で多様な住宅ストックの形成
住宅金融についての安定的な資金の確保に努め、公共主体による適切な補完を行いつつ、 民間資金による良質な住宅の建設を促進する。
宅地供給については、職住近接の、環境に優れたゆとりのある居住を実現するための宅 地供給を図るため、鉄道新線・新駅の周辺地区等開発ポテンシャルの高い地域の開発に重 点を置き、地方公共団体の地域整備の方針に即応しつつ、民間保有地の有効活用も図る。
これらにより、平成2年6月に策定された旧「公共投資基本計画」にあるおおむね平成 12年(2000年)を目途に1戸当たり平均床面積を 100平方メートル程度とすることを目標 とし、住宅適地の土地の有効利用等を図り、高度化・多様化する居住ニーズへ対応した良 質で多様な住宅ストックの形成を図る。
2.既存ストックの有効活用と住み替えの円滑化
リフォーム、大規模な模様替え、維持管理体制の充実、住情報の整備、不動産流通市場 の充実等により既存ストックの有効活用を図り、世帯のライフステージ等に応じた住み替 えを円滑化する。
この際、住み慣れた地域に留まりたい意向を持つ高齢者等の居住の安定にも配慮する。
3.利用面を重視した住宅建設の促進
国民の土地保有に対する意識転換の促進と併せて、賃貸住宅建設投資の環境整備、定期 借地権制度の普及促進等を図り、利用面を重視した良質な住宅建設を促進する。
4.高齢化対応の推進
高齢化に対応した標準的設計指針の普及等により住宅のバリアフリー化を進めるととも に、福祉施策と連携した住宅の整備を促進し、住宅ストックの高齢社会への対応を図る。
5.良好な住環境の形成
道路、公園等の公共施設の整備に加え、都市計画、建築規制誘導制度等を適切に活用し、 水と緑豊かな開放空間の確保や良好な街並み形成を進め、安全性、保健性が確保され、快 適性、利便性等にも優れた良好な住環境の形成を図る。
この際、土地に関する権利の制限が、公共の福祉の増進を通じ、結果的に個々の住民の 利益となることについての理解を深めるよう努める。
6. 住宅市場の拡大を通じた良質な住宅サービスの提供
消費者と供給事業者が対等な立場で活発に取引を行える住宅市場を通じて、良質な住宅 サービスを提供する。とりわけ、今日における国民の多種多様な住宅ニーズに応じて、そ れぞれの満足するサービスを効率的に供給するため、民間住宅供給、欧米諸国に比較して 特に立ち後れている既存住宅流通などを含め、より広い自由な市場の機能の拡大が必要で ある。

第6節 職住近接の都市構造の実現

職住の立地が近接した都市構造を形成することは、実労働時間の短縮と同様に勤労者の 職務に係る拘束時間を軽減し、勤労者とその家庭にゆとりをもたらすことから、その実現 を図る必要がある。新たに住居を求めるより多くの勤労者について、そのニーズを踏まえ ながら、おおむね1時間程度を目安としつつ、職住がより近接し得るような都市構造の実 現に向けて、以下の施策を講ずる。 (1) 大都市圏においては、工場跡地等の低未利用地、市街化区域内農地の有効利用、低層 密集住宅地の整備等により住宅宅地供給を促進する。 (2) 国民の居住地選択の拡大を図ることを通じ、良好な通勤状況にある地方への定住等を 促進するため、多極分散型国土の形成等を図る国土政策を着実に実施する。 (3) 大都市の都心部において、良質な賃貸住宅を中心とする多様な住宅供給や土地の有効 利用等を図り、都心居住を推進する。 (4) 大都市近郊、業務核都市等の周辺部、地方都市部において、適切な立地の良質で魅力 ある住宅地の供給を図る。 (5) 大都市圏を中心とした長時間通勤の是正に資するため、新線の建設等の鉄道整備、ボ トルネック解消等の道路交通渋滞対策等の交通政策を着実に実施する。 (6) テレワーク等の勤務形態の変革に資する高度情報通信社会の構築のための政策を着実 に実施する。

第7節 地域の多様性に応じた豊かなくらしの実現

1.大都市圏における豊かなくらしの実現
大都市圏においては、諸機能の集積を背景に、多様な利便性の享受の機会に恵まれる等 の利点が多いものの、都市・住環境整備の立ち後れ、交通混雑、大規模災害の懸念、身近 な自然の喪失等の問題が依然として見られる。また、都心部に限って見れば、人口の空洞 化による既存社会資本ストックの遊休化等の問題も生じている。このため、以下の施策を 実施する。
(1) 良質な住宅及び住宅地の供給を進めることと併せて、都市・住環境整備を推進し、ま た、都心部においては、居住支援機能の維持・強化等を図ること等により、大都市圏全 体について水と緑豊かでゆとりある都市空間としての整備を図る。
(2) 複々線化等の鉄道整備を推進するとともに、輸送需要の平準化に資する時差通勤制度 、フレックスタイム制度の一層の普及に努め、鉄道混雑の緩和を図る。また、道路ネット ワークの効率的な整備と併せて、相乗りの促進、公共交通機関への乗り継ぎの促進等の 交通需要マネジメント施策を実施する。
(3) 都市防災構造化等防災対策を推進し、大規模災害時における被害の軽減を図る。
(4) 東京圏においては、首都機能の移転も視野に入れ、業務核都市の育成による諸機能の 適正配置を図り、諸機能の東京都区部への一極依存構造に起因する問題に対処する。
2.地方都市における豊かなくらしの実現
(1) 地方都市の現状と課題
戦後我が国の経済力や所得水準は着実に向上してきたが、その高さと比べて生活の豊 かさが実感できないでいるとともに、多くの地域で自然の減少や生態系への悪影響が見 られ、地方都市においても自然や都市の景観に美しさが失われようとしている。また、 地方中枢・中核都市の多くについては着実な発展が見られるものの、その他の生産条件、 居住条件の不利な地方中小都市等においては人口減少・高齢化が急速に進行しており、 国土資源の適正管理やコミュニティの維持が困難になっている。このため、各地域が自 らの判断と責任の下に主体的に地域づくりに取り組めるような枠組みを作り、国土全体 の状況や時代の変化に適切に対応したグランドデザインや地域づくりの新たなコンセプ トを構築する。
(2) 質の高い交流基盤の形成
豊かなくらしを実現するとともに、グローバルな経済に適切に対応するため、いつで もどこでも一定水準の都市的な社会・経済の諸機能・サービスを享受できる交流基盤と して、質の高い交通・情報通信インフラを整備するとともに、新しい国土軸や地域連携 軸について検討を深める。
なお、高度情報通信社会の構築に当たっては、地方が後れることのないよう全国的に 整備し、情報通信ソフトの円滑な提供を図る。
(3) 個性豊かな地方のくらし
地域のイニシアティブにより、豊かな自然や個性的な伝統文化をいかしたゆとりある くらしの実現を図る。また、「まちおこし」、「村おこし」や地域の国際化等を通じ、 多様化する国民の価値観に対応した地域固有の「かお」を創造することなどにより、地 方定住志向の定着を図る。
このためにも、地域をリードする人材を育成・招請するとともに、地域から全国に情 報を発信していくことが必要である。
3.中山間地を含む農山漁村における豊かなくらしの実現
農山漁村、特に高齢化等の著しい中山間地域においては、消費者等のニーズを踏まえ、 多様な経営の相互連携を通じ地域ごとの条件をいかした特色ある農林水産業の展開を図る。 また、域内資源の活用やアクセス条件の改善による多様な就業機会の創出、人材の確保・ 育成等を通じ、地域の活性化を促す。同時に、都市と比べ遅れている生活排水処理施設等 の生活環境基盤の効率的・効果的な整備を推進する。また、農山漁村集落及びその周辺の 景観保全に努めるとともに、農林地等の保全を通じ公益的機能の十分な発揮を図り、都市 住民もこれらのアメニティを享受できるよう、滞在型余暇活動の条件整備を進める。さら に、情報通信の高度化を図り、地域からの発信を促す。

第8節 消費生活の充実のための内外価格差是正・縮小

我が国は、名目所得が世界で最も高い国の一つとなったが、物価水準が他の諸国と比較 して割高であり、名目所得の高さほどには生活の豊かさを感じることができない。内外価 格差を早急に是正・縮小し、消費者の多様な選択の幅を拡大し、国民に豊かさをもたらす ため、生計費の購買力平価をこれまで以上に改善する必要がある。
1.規制緩和の推進
競争を活発化し、生産性の低い分野の生産性を上昇させ、内外価格差を是正・縮小する ために、規制緩和を推進する。このため、3年間に前倒しされた規制緩和推進計画を着実 に実施するとともに、透明性を確保しつつ定期的に見直しを行い、改定する。
2.競争政策の積極的展開
公正かつ自由な競争を一層促進することにより、我が国市場をより競争的かつ開かれた ものとし、また、規制緩和後において競争制限的行為が行われることのないよう、独占禁 止法の厳正な運用を行うなど競争政策の積極的展開を図る。
3.合理的な商慣行と消費者行動
流通系列化、建値制、リベート制等を利用し、さらに再販売価格維持制度により行うも のを含め、メーカーが小売価格の形成等に関与しようとする民間慣行等は価格形成の伸縮 性を阻害し、価格を割高で硬直的なものとする傾向があった。また、日本人の消費者行動 には、外国に比べ価格感応度が低く、品揃え、ブランドイメージ等を重視することや品質 等について極めて要求水準が高いという傾向が観察される。
このため、規制緩和等を促進することにより、競争阻害的な民間慣行が是正され、価格 弾力的な消費者行動が可能となるような環境整備を図る。また、コスト構造や制度面の違 い等を含めた広範な内外価格差調査及び要因分析を実施し、その結果を規制緩和の推進に 反映させるとともに、調査結果の適宜適切な公表等による情報の一層の提供を行うことに より、情報格差をなくし、事業者、消費者の合理的な行動を促進する。
4.適切な公共料金政策
公共料金等価格規制については必要最低限のものとしつつ、低廉で良質なサービスの確 保を図るため、競争的環境の整備、経営の効率化等の推進に併せ、事業の内容・性格等を 勘案しつつ、価格設定のあり方の検討、料金の多様化、弾力化を推進する。公共料金の改 定に当たっては、公共料金関連事業の内容の透明性を確保し、国民の十分な理解を得るよ う、情報公開を進める。
5.輸入・対内直接投資の推進
輸入の促進や対内直接投資の拡大による競争を促進させる観点から、市場開放措置や輸 入促進地域、輸入関連インフラ等の整備、税制・金融上の措置等の輸入促進支援策を実施 するとともに、我が国の高地価等の対内直接投資阻害要因を是正し、競争制限的な慣行等 の輸入阻害要因の削減に努める。

第9節 有限な資源、環境保全に配慮した社会の構築

1.ごみゼロ社会の実現と省エネルギー・省資源、地球温暖化問題対策の推進
(1) 環境への負荷が少なく、環境と調和した持続可能な経済社会構築の一環として、大気 汚染問題、水質汚濁問題等への対応とともに、廃棄物循環型の「ごみゼロ社会」の構築 を目指す。その際、廃棄物・リサイクル対策の第一は廃棄物の発生の抑制、次いで再使 用、再生利用、熱回収を伴う焼却処理等、埋立等という優先順位に従い、適切な処分方 法を選択する。このため、国、地方公共団体、事業者、消費者等すべての社会構成者の 主体的参加と協力、役割分担により、ハード(設備)、ソフト(社会的仕組み)を総合 した社会インフラを整備・確立する。
具体的にハードの面では、一般廃棄物を単に燃やして埋める処理から極力リサイクル を推進するための設備、また焼却処理の熱エネルギーを活用するごみ発電等の設備の整 備を進める。ソフトの面では、廃棄物発生の抑制、回収、再使用、再生利用、適正処分 に関する社会制度を確立し、そのためのインセンティブメカニズムの導入・活用に努め る。以上により、21世紀初頭を目途に一般廃棄物循環型処理率をほぼ 100%とすること を目指す。
また、くらしの中の環境配慮をいかすよう啓発活動・環境教育・情報提供を一層促進 するとともに、自然と共生し、省エネルギー・省資源等のエネルギー消費効率向上・環 境保全行動を促進するインフラ整備等各般の施策の実施に努める。さらに、生物多様性 国家戦略に沿った施策を推進する。
(2) 地球温暖化問題について、我が国のCO2 排出総量は、92年度には既に一人当たり排 出量が90年度水準で安定化した場合の2000年度の見通しの水準に達していた等、2000年 における目標の達成に向けて一層の努力が必要な状況にある。このため、気候変動に関 する国際連合枠組条約を着実に実施し、国際的連携を図りつつ、地球温暖化防止行動計 画に基づきCO2 等の温室効果ガス排出抑制や吸収・固定の拡大、技術開発及びその普 及等に努め、同計画に定める目標を達成するものとする。また、第1回締約国会議の結 果を踏まえ、国際的な枠組み作り等に向けて積極的に努力する。
2.市場機能を活用した仕組みによる環境保全
環境と調和した経済社会構築のためには、様々な対策を複合的・総合的に組み合わせる こととする。その中で、汚染者負担の原則の下、環境コストを価格に反映させるというル ールを国民の理解を得て確立し、その実現のための経済的措置の活用について検討を進め る等、可能な限り市場の機能を積極的に活用する。ただし、経済的措置について具体的措 置の導入に際しては、国民の理解と協力を得るよう努力する。また、環境関連産業発展の 基盤整備を行い、環境保全関連製品等の供給・利用の促進を図るほか、環境関連の基礎的 な技術開発を推進する。

第10節 文化の重視

人々が心にゆとりとうるおいを持って生活する上では、経済性、機能性、効率性といっ たこれまでの評価基準に加えて、文化を重視していく必要がある。こうした考え方に立っ て、人々が文化に身近に触れ、自らも創造的な文化活動を行うことができるような環境作 りをするとともに、国内外における文化の保存に積極的に貢献していくこととする。
例えば、音楽、絵画等様々な芸術を鑑賞する機会及び自らが文化活動に参加する機会の 拡充を図るとともに、文化活動に携わる人材の養成や文化に関する総合的な情報提供を行 う。また、企業による文化支援活動や文化団体による文化活動の促進を図る。さらに、史 跡の整備や地域の伝統芸能の保存振興等を図っていくことにより、人々が地域の歴史や伝 統に親しめる機会を拡充する。
また、我が国の都市や地域の国際的に見た文化的な魅力を高めて、諸外国の人々が日本 を訪れるようにすることや、国民の繊細な美意識、伝統的工芸・技術等を今日の産業にい かしていくことを通じ、日本の文化を世界に発信していくことは、経済の活性化に資する ことになる。

第6章 地球社会への参画

グローバリゼーションの進展の下、世界経済の中で大きな比重を占める我が国は、世界 の平和と繁栄の目立たない受益者に留まることはできない。我が国としては、自らが経済 システムを改革し、その国際的調和を図るとともに、世界の望ましいあり方や、その実現 のための道筋、すなわち、グランド・デザインについて、自らの考え方を世界に向けて提 示し、地球社会の発展に積極的に参画していく。

第1節 内外に開かれたシステムの構築

1.制度・仕組みの国際的調和の推進と市場アクセスの一層の改善
制度・仕組みの国際的な調和を進め、市場アクセスの一層の改善等を図ることが、緊急 の対応を要する重要課題となっている。このため、以下の施策を講じていく。 (1) 規制緩和の推進
「規制緩和推進計画」を着実に実施するとともに、フォローアップの充実、毎年度の 見直し・改定を行っていく。また、競争政策の積極的展開を図るため、独占禁止法の運 用強化、競争政策の国際的調和の推進を図る。
(2) 輸入促進及び投資環境の整備
OTO(市場開放問題苦情処理体制)の機能を一層活用する。また、輸入協議会の機 能を積極的に利用するとともに、対日投資会議の活用を図る。情報提供や金融、税制面 の支援策の活用や総合的土地政策の推進による高地価の是正等投資環境の整備を図るこ と等により製品輸入と対内直接投資の拡大を図る。
(3) 輸入促進地域等
輸入促進地域(フォーリン・アクセス・ゾーン)、輸入関連インフラ等の整備を、地 域経済の発展、地域社会との共生との視点も踏まえ進める。
(4) 基準・認証制度
基準・認証制度等については、基準や、認証方法等に関し、国際的な整合性を図ると ともに規格・基準の相互承認制度の導入等のため、各国・地域との協議を進める。
2.調和ある対外経済関係の形成
(1) 国際的に調和のとれた対外均衡の達成
経常収支の黒字額は、世界の経済動向等によっても、大きく影響を受けるものであり、 我が国の政策のみによって、コントロールできるものではないが、我が国としては、現 在縮小傾向にある経常収支の黒字を更に大幅に削減するとの強い決意の下、我が国経済 構造の改革や輸入促進策等を更に進めることにより、国際的に調和のとれた対外均衡の 達成に努める。
(2) 為替レートの安定等
為替レートについては各国経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移するこ とが望ましく、そのためにも、インフレなき持続的成長を目指した経済運営が重要であ る。短期的・思惑的な為替変動が生じた場合には、今後とも為替市場における緊密な協 力など、主要国と協議・協調しつつ対応していく。
さらに、為替レートは、円高が急激に進んだ局面においては、我が国輸出産業への影 響などデメリットの面が強調される傾向が強い。しかしながら、本来、円レートの上昇 は、我が国経済にデメリットのみならずメリットをももたらすはずのものであり、円高 のメリットをも享受しやすい体質へ我が国の経済構造を転換していくことが必要である。
(3) 円の国際化
円の国際化の進展は、基本的には我が国企業等の為替リスクの管理を容易にする等望 ましい方向であると言える。我が国の貿易・資本取引の大きさ・役割にかんがみ、今後、 更に円の国際化が進むと考えられる中で、我が国としては、引き続き、金融・資本市場 へのアクセス改善等一層の環境整備を進めていく必要がある。

第2節 世界経済の枠組み作り等への積極的参画

1.マクロ経済政策協調・構造政策協調
(1) マクロ経済政策協調
マクロ経済運営に当たっては、自国のインフレなき持続的成長を図ることが基本であ り、そのことが結局は世界全体の経済発展にも資することになる。また、国際的な協調 を重視するあまり、自国の経済運営を歪めてしまってはならない。こうした考え方を踏 まえ、各国の経済動向が相互に影響を与え合うこともあり、我が国としても、先進国首 脳会議、OECD、G7等の場を通じ、経済動向について共通認識を得、政策運営につ いて率直な意見交換に努めるなど、政策協調を進める。
(2) 構造政策協調
マクロ経済運営に関連する事項のみならず、ヨーロッパの高失業率等の構造問題等に ついても、様々な場を利用し、意見交換を行うとともに、政策面の協調を図る。
2.貿易・投資の枠組み作り
(1) 多角的自由貿易体制の維持・強化
自由で開かれた貿易の枠組みの下で発展してきた我が国としては、世界的な多角的自 由貿易体制の維持・強化へのモメンタムを維持し、今後、より多くの国々がこの枠組み に参加し、また、WTO協定の着実な実施と自由で開かれた貿易・投資の枠組みの更な る発展が図られていくよう、一層の努力をする。
このため、各国のWTO協定の実施状況を厳しく監視し、貿易相手国の政策に問題が あればその是正を求めていくとともに、WTOの紛争解決手続を適切に活用していく。
(2) 貿易・投資の枠組み作りへの積極的参画
ウルグァイ・ラウンド後の新たな課題として既に国際的な論議が始まっている諸テー マや、各国の規制制度の改革等に関し、以下のような考え方に基づき、OECD等にお ける国際論議に、より一層積極的に参画していく。
1) 貿易と労働基準をめぐる国際的な論議が、偽装された保護主義に結びついていかな いよう、OECD等の場で積極的な働きかけを行う。
2) 輸入増大への緊急措置としては、一時的な輸入制限(いわゆるセーフガード措置) が認められているが、産業の構造改善及び転換を円滑にするための国内政策も重要で あることについて、国際的な議論を喚起していく。
3) 貿易と環境との関係の問題については、「環境と開発に関するリオ宣言」等におい て、原則的な考えが示されており、持続可能な開発の実現に向け、貿易と環境を相互 に支持的なものとするべく、十分な検討を進めていく。
4) 多国間協議の場を利用し、貿易と競争政策との関係の問題については、競争政策の 推進、競争制限的な貿易政策への規律の強化等に関し、議論を進め、また、規制制度 の改革についても、議論を深めていく。
5) 投資の更なる自由化については、OECDでの「多数国間投資協定」策定に向けた 作業やAPECでの投資自由化の議論などに積極的に参画していく。
このような投資ルールの策定に当たっては、途上国もその枠組みの内に入ることが 重要である。
6) 地域経済統合が、多角的自由貿易体制の維持・強化への努力を減殺することのない よう、また、域外に対し貿易制限的にならないよう、監視を行い、問題があれば国際 的な議論を喚起していく。なお、APECについては、「開かれた地域協力」を目指 す。

第3節 アジア太平洋協力における我が国の積極的な役割

世界経済の中でも、活力に満ちた地域となっているアジア・太平洋地域においては、A PECによる地域協力の枠組みが形作られてきており、我が国の役割に対する期待も大き い。APECにおいては、我が国は、その経済力、技術力等を地域の課題解決のため活用 するだけではなく、域内で協力しながら解決すべき課題の選定、課題解決のための枠組み 作り、域内の貿易・投資の枠組み作りについても積極的に参画する。
1.貿易・投資の自由化・円滑化
APECにおいては、昨年(1994年)のボゴール宣言を受け、域内の貿易・投資の自由 化・円滑化が重要な課題の一つとなっている。この目標達成のため、我が国としては、本 年(1995年)の大阪会合において採択された包括性・WTO整合性・同等性・無差別・透 明性・スタンドスティル・同時開始、継続的過程及び異なるタイムテーブル・柔軟性並び に協力を一般原則とした「大阪行動指針」に沿い、今後、明年(1996年)のAPEC閣僚 会議に向け我が国としての「行動計画」を策定する。
また、大阪会合においては、各メンバーが貿易・投資の自由化・円滑化に真剣に取り組 む決意を内外に示すための具体的な自由化・円滑化措置を「当初の措置」として提示した。 我が国としても 697品目につきウルグァイ・ラウンド合意の関税引下げの約2年間前倒し 実施、基準・認証・輸入等を中心とする50項目の新たな規制緩和策等を提示した。
「大阪行動指針」の実施及び「当初の措置」により、自由化が加速され、域内のビジネ スに目に見える利益をもたらすことが期待される。
2.多面的協力の重視
また、発展段階の異なる国々等の集まりであるAPECにおいては貿易・投資の自由化 ・円滑化のみならず、メンバーの特性をいかした経済・技術協力も進めるべきである。こ のため、我が国としては経済・技術協力についても、持続可能な成長及び衡平な開発の達 成を目指した「大阪行動指針」に沿い、これまで我が国が提案してきたいわゆる「3Eス タディ」に基づいたエネルギー・環境面の協力、「前進のためのパートナー(PFP)」 による協力、税関手続・基準・認証分野における協力、中小企業大臣会合を通じた中小企 業等育成のための協力など、域内の諸課題の解決に向けた協力等を進めていく。
さらに、大阪会合では、我が国は他のAPECメンバーに対しても貿易・投資の自由化 ・円滑化に係る積極的協力を期待する旨呼びかけを行ったところであり、我が国としては、 これに関連する協力事業を拡大するべく、APEC中央基金に、必要に応じ、適切な案件 の形成を受ける形で今後数年間で合計 100億円を上限に拠出することとする。
3.更なる発展の確保
アジア太平洋地域における急増する人口及び急速な経済成長により、食料及びエネルギ ーの需要並びに環境への負荷が急激に増大すると予想され、この地域の経済的繁栄を持続 可能なものとするため、長期的課題として、これらの相互に関連した広範な問題を取り上 げることとし、共同行動に着手する方法について更に協議を行う。

第4節 我が国金融・資本市場の役割

(1) 今後、ますます世界経済の一体化が進み、我が国と先進諸国やアジア等途上国との経
済的結び付きが深まっていくと見込まれる中にあって、内外に開かれ、革新的でかつ安 定的な金融・資本市場を提供することが求められている。このため、取引のグローバル 化の進展、市場間競争の強まり、円の国際化に対するニーズの高まり等の状況変化を踏 まえ、ニューヨーク、ロンドンと並ぶ世界の三大国際金融センターの一つとして、我が 国金融・資本市場を、市場機能が円滑に発揮され、国内外の資金需要者及び投資家から 見てより魅力的な市場とするための環境整備に努める。
(2) オフショア市場の環境整備や外為市場における取引慣行の国際基準に合わせた整備等
を進めるとともに、株式市場における新規公開の促進を図るほか、社債の適債基準の撤 廃等を踏まえ社債市場の整備を進めるなどの措置を講じる。短期の資金調達手段として のCP(コマーシャル・ペーパー)についても、有価証券の中での位置付け等に留意し つつ、そのあり方を検討していく。また、有価証券取引税のあり方については、我が国 の税体系における資産課税のあり方についての議論も踏まえつつ、株式譲渡益課税を含 む証券税制全体の中で検討を進める。
(3) 今後は格付が本格的に投資家情報として位置付けられることを踏まえ、格付機関自身
が適切な改善を図っていくことを通じて、投資家から高い評価を得ていくことが求めら れる。これに加え、情報通信システムの整備等、我が国金融・資本市場が国際金融セン ターとして適切な役割を果たしていく上で必要な環境の整備を進める。

第5節 地球的規模の課題への貢献

地球環境問題、エネルギー問題、人口爆発、これに伴う食料問題や貧困問題、エイズ問 題などは、一国のみの対応では解決し得ない。これらの課題については、対応すべき課題 や、課題解決のための枠組み等について、国民の理解を得ながら、世界に向けて積極的に 提案するとともに、我が国が有している経済力・技術力・科学的知見を活用すべきである。
1.地球環境問題への対応
地球環境問題に対して、率先して国内対策に取り組むとともに、対外的には、世界全体 の持続可能な発展に向けてリーダーシップを発揮する。このため、国際的連携を図り、国 際的な枠組み作りへの貢献、国際機関の活動支援を行う。また、開発途上地域の環境保全 においては、環境と開発の両立に向けた自助努力を支援し、資金協力、技術協力等の施策 を行う。
2.エネルギー面での貢献
長期的には厳しいものが見込まれる世界のエネルギー情勢を踏まえて、中東諸国等産油 国との友好関係の増進を図るとともに、エネルギー需要の拡大が予想されるアジア・太平 洋地域を始めとして、経済協力、技術協力、海外投資への支援、APECの枠組み等を活 用した協力など各種の政策を講じていく。
3.保健・医療面、麻薬問題での貢献
保健・医療面、麻薬問題における技術協力、共同研究、研究者の養成等による人的な支 援やエイズ対策、人口問題等の事業に関する総額30億ドルの援助(1994年度から2000年度 まで)を始めとする支援など、WHO(世界保健機関)、UNDCP(国連薬物統制 計画)、二国間等を通じた積極的な貢献を行う。
4.食料問題への貢献
今後、世界の食料需要の増大が見込まれる一方、生産の伸びは鈍化し、その結果として 中長期的には食料需給の逼迫、価格上昇の可能性もある。
我が国としては、貿易の一層の自由化に向けた国際的な取組や地球環境問題等への対応 と整合性をとりつつ、いわゆる国際分業論を単純に当てはめることなく、長期的・世界的 な視点に立ち、また、途上国については自立的な発展の支援を基本にして、食料の安定供 給の確保に協力、努力していく。
5.旧計画経済圏諸国の市場経済化への支援
依然、市場経済の基盤が十分に整備されていると言い難い旧計画経済圏の諸国に対して、 国際機関や他の支援国と協調を図りつつ、資金面での支援、市場経済の基盤整備のノウハ ウを移転する知的な面での支援を適切に組み合わせ、協力を行う。
6.科学技術面での貢献
我が国としては、「科学技術創造立国」を目指し、新たな経済活力の源泉となる研究開 発や、地球規模の課題を解決するような研究開発を、国際的な人材交流や国際共同研究の 推進、研究協力のスキームの充実を行いつつ、積極的に推進し、その成果を世界へ向けて 発信していく。
7.情報通信の高度化に関する貢献
世界的な情報通信の高度化に関し、技術開発、日本からの情報発信の推進、著作権やセ キュリティ等制度面での国際調和への対応、開発途上国におけるそれぞれのニーズに応じ た支援など積極的な貢献を行う。

第6節 ODAの新時代の構築

1.ODAの新時代の構築に向けての取組
我が国は、国際貢献の重要な柱であるODA(政府開発援助)を、政府開発援助大綱を 踏まえて実施しており、世界一の援助供与国となっている。今後、我が国の財政事情は厳 しくなると予想されるが、国民の理解と支持を得ながら、途上国の諸課題に機動的かつ包 括的に対処しつつ、中長期的観点から、ODAを多面的に拡充し、ODAにおいて、世界 に対し指導力を発揮できる我が国ODAの新時代を構築していく。
(1) ODAの質・量両面にわたる充実のため、第5次中期目標の達成に引き続き努めると ともに、公正、透明で効果的、効率的な援助の実施、広報活動の推進等、実施面での着 実な改善に努める。
(2) 従来からの途上国の開発課題のほか、地球的規模の問題、民主化・市場経済化支援、 途上国への女性支援(WID)等の新たな課題に積極的に取り組む。
(3) 援助の前提としての途上国の開発政策やあるべき援助理念について調査・研究を行い 、ODAの知的資産の構築に努め、その成果を途上国、他の援助国、国際機関との意見交 換、開発経済学の発展等に活用していく。
具体的には、 1途上国のニーズにこたえるため、日本等の経験について開発政策の観 点からの整理に努め、 2途上国の開発政策に関する知的支援に当たり、途上国側の求め に応じ、その政策受入能力等を勘案し、各国の実情に則して、日本等の経験の活用に努 めるとともに、東アジア諸国等が他の途上国に対し知的支援を行う場合に、その促進の ための支援を行い、 3国際援助機関、内外の学識者等と協力し、日本等の経験を参考に、 望ましい開発政策のあり方の検討に努める。
(4) 国別援助方針の対象国数を拡充する。また、国境を越えた地域単位での開発の現状と 課題を把握するよう努めるとともに、その特定の局地の広域的発展のため、熟度の高い 案件について局地開発協力を推進する。さらに、APEC等の地域協力が世界経済に寄 与するよう可能な支援に努める。
(5) 国民参加型援助の推進のため、NGO(非政府団体)や地方公共団体に対する従来か らの支援策を今後とも拡充するよう努める。さらに、経済協力における国、援助機関及 び地方公共団体の間での有機的連携を強化するとともに、NGOへの支援を促進する。
2.広範な経済協力の推進
途上国支援のための貿易、直接投資、援助等を含む包括的アプローチを推進するととも に、途上国への資金協力計画の達成に引き続き努める。また、事業の一部を民間に任せる 方式に対し、諸条件が整う場合、各種関連スキームを用いて支援する。
3.援助実施体制の整備
援助要員の拡充と援助人材育成・活用の推進、開発教育・研究の推進と援助研究の交流 拡大、他の援助国、国際機関との連携の強化等に努める。

第7節 国際的に開かれた社会の創造

我が国が、対外政策として、多様な国々が地球社会において共存していく道を探求し、 世界に対し様々な提案を行っていくとすれば、国内においても、異なる価値観の人々に対 し、より受容力の高い社会を構築していく必要がある。
外国人や外国の文化・慣習をも受け入れる受容力の高い社会の構築のためには、国民一 人一人が日常生活のなかで、どのように外国人や外国文化に接するかに係るところが大き いが、公的部門においても、以下のような施策を進めていく。
1.外国人にも住みやすい環境の整備
公的サービスについて、市町村等の窓口で提供される各種パンフレットの外国語による 表記等、様々な努力が図られてきているが、今後とも外国人によるアクセスを容易にする 工夫が求められる。
不法滞在者については、不法滞在者を発生させないための施策を行うことがもとより重 要ではあるが、例えば現実に滞在している不法残留者の緊急かつ重大な疾病の治療に対応 せざるを得ない医療機関や一部の自治体が回収努力を行っても回収できない医療費を負担 しているという問題等もあり、こうした点について早急に取組を講じていく必要がある。
2.人と文化の交流
日本人の国際理解の促進を図るとともに外国人の対日理解を図るため、国際理解教育の 推進、コミュニケーション能力に重点を置いた外国語教育の推進、映像国際放送の推進、 国際観光交流の推進を図る。また、芸術文化関係者の海外への派遣や世界的な文化遺産の 保護への協力等の文化交流の推進を図る。
また、有識者、文化人の派遣招請計画の充実、研究者・留学生の受入体制の整備充実を 図るとともに、地方公共団体による地域レベルの国際交流・国際協力の充実、青少年の国 際交流の充実等への支援を図る。
3.外国人労働者問題への対応
専門的・技術的分野の外国人労働者については可能な限り受け入れる。このため、我が 国経済、社会等の状況の変化に応じて在留資格に関する審査基準の見直しを進める。一方、 いわゆる単純労働者の受入れについては、我が国経済社会に多大な影響を及ぼすとともに、 送出し国や外国人労働者本人にとっての影響も極めて大きいと予想されることから、中長 期的な視点に立って慎重に検討すべきである。また、技術協力の観点から、技能実習制度 の推進を図る。

第7章 発展基盤の確立

新しい経済社会を支える基盤として、以下により、1)人材の育成、2)科学技術の創造、 3)情報通信の高度化、4)社会資本整備の推進を図る。

第1節 人材の育成


自由度が高く自己責任が重視される社会に対応した意欲を持ち自立できる人材、人間性 や社会的ルールなどのモラル・マナーを身に付け、情報活用能力、国際的交流能力、創造 的能力を備えた今後の経済社会の変化に柔軟に対応し得る人材の育成を図る。
このため、 1)すべての人に画一的な教育訓練を施すのではなく、個人の能力を発見し、 2)個性に対応した学習機会の提供などによりその能力の開発・向上を支援し、 3)能力に見 合った職場などの挑戦の機会を提供することなどによりその能力が存分に発揮され、 4採 用・処遇等における多様な能力評価や学校歴より学習歴を重視した人物評価の普及・定着 を推進することなどにより個人の持つ多様な能力が適正に評価される、「能力開花型 社会」を構築する。
1.学校教育の役割と課題
(1) 学校教育においては、道徳的資質、基礎的な知識・技術の修得とともに、個性と自立 を重視し、創造性を持った変化に対応できる人材の育成を図る。
(2) このため、個性化・多様化やゆとりある教育の実現、多様な人材の教員への登用、社 会人の受入れの推進など、教育改革を一層推進する。大学については教育内容・方法の 改善などの各大学における改革の取組を更に支援する。
(3) 個に応じた多様な教育を展開するため、ティームティーチング等の新しい指導方法に 対応した教職員配置の改善を図る。
(4) 少子化に対応し、育英奨学金の貸与等の教育費負担軽減のための施策を実施する。
(5) 情報化に対応し、教育用コンピュータの設置や教員の資質の向上を図る。さらに、 高等教育段階においては、システムをサポートするスタッフの確保にも努める。また、国 際化に対応し、JETプログラムを推進するとともに、国際理解教育を行う。
(6) 研究者・技術者の育成・確保のため、高等教育機関の充実や大学院に進学する優秀な 学生の確保、若手研究者の育成を図る。
(7) このため、平成6年10月に策定された「公共投資基本計画」の考え方を踏まえて教育 関連施設の計画的整備を行うほか、教員の研修機会の充実など、ソフト面を含めた総合 的インフラの整備を図る。
2.職業能力開発の推進と課題
(1) 職業能力開発においては、企業及び勤労者の自主的な職業能力開発の取組を基本とし て、職業生涯全期間にわたる職業能力開発を促進するとともに、経済社会の変化に対応 し得る人材の育成体制の積極的整備を図る。
(2) このため、有給教育訓練休暇制度や長期休暇制度の普及、助成措置、職業能力開発の 機会の充実などにより個人主導の職業能力開発を一層支援する。
(3) 産業の高付加価値化等に対応した人材育成体制を整備するため、ビジネス・キャリア 制度の拡充、生涯能力開発センター(仮称)の整備等によるホワイトカラー労働者の職 業能力開発の推進、公共職業能力開発施設における訓練コースの質的・量的充実、中小 企業の人材育成・技能振興支援の充実などを図る。
(4) 職業能力評価の推進や職業能力開発に関する情報提供、相談援助の充実を図るととも に、女性・高齢者等の能力開発を一層促進する。
3.家庭・地域社会の役割と課題
(1) 家庭教育は、すべての教育の基礎ともなるものである。また、地域社会における教育 は、道徳性や社会性を育成するため重要である。
(2) 家庭の教育力の向上のため、家庭教育に関する様々な学習機会や情報の提供等を図る 。また、家族が共に過ごす時間を増やすため、月2回まで段階的に進められてきた学校週 5日制について更に拡大することなど今後のあり方について検討する。
(3) 社会教育施設、地域子育て支援センター等の整備や家庭教育を支援するグループの育 成など子育てのための環境整備を図る。
(4) 地域における体験の場等の整備や情報の提供、指導者等の養成・活用などとともに地 域社会を担う人材の育成のため、学習拠点の充実等を図る。

第2節 科学技術の創造

独創的な研究開発の推進及び経済社会における科学技術の有効活用により、新規産業の 創出等を通じた経済フロンティアの拡大を図り、活力を持ち豊かで安心できるくらしを実 現する社会を構築していく。このため、研究開発という知的な創造活動によって得られる 技術や知識等に加え、研究開発を効果的・効率的に行うことを可能とする種々の資本を含 む知的資本の整備を進め、「科学技術創造立国」を目指す。
知的資本の整備に当たっては、フロンティア開拓型の研究開発への移行が求められてい る現状にかんがみ、官民における研究開発が積極的に進められるよう、研究開発施設・設 備等のハードの側面のみならず、研究経費の確保や創造的な科学技術系人材の育成・確保、 研究開発のインセンティブ付与・競争原理の導入・研究開発成果の市場化等を促進する観 点からの研究開発に係る制度や仕組みの整備などソフトの側面を併せて一体的に整備する ことが必要である。この際、政府は、研究開発基盤の整備や基礎的・独創的研究の実施、 独創的な科学技術系人材の育成・確保など民間においては十分な取組が期待できない政策 を積極的に実施し、研究開発に係る資源の充実を図るとともに、科学技術系人材の交流・ 転職等の円滑化や研究開発資金の調達・活用の円滑化、知的財産権の適切な保護強化及び 開発者への付与、研究情報の蓄積・流通の促進など研究開発資源の効果的な活用を可能と する制度・仕組みの整備を行う。
1.知的資本整備の基本的方向
(1) 将来の発展基盤となる知的資産の獲得
研究開発活動によって得られた、知識・情報の蓄積である「知的資産」は、次の世代 へと引き継がれ、将来の我が国産業・経済の維持・発展を導くことはもちろんのこと、 地球的課題の解決、豊かな国民生活の実現を図るための鍵となる重要な役割を果たす。 このため、基礎研究など独創的、先端的な研究開発を重点的に推進する。また、経済フ ロンティアの拡大を目指し、物質・材料、情報通信・電子、ライフサイエンス等の重要 研究開発分野の中から、新たな産業の創出につながることが期待される研究開発を重点 的に推進し、我が国の将来の発展基盤となる知的資産の獲得を図る。
(2) 研究開発インフラ等の整備
大学や国立試験研究機関を始めとした公的セクターの老朽化・狭隘化・陳腐化した施 設・設備の改善を含めたハード型研究開発インフラの強化を図るとともに、研究情報ネ ットワークの早急な整備、研究開発の基礎となるようなデータ蓄積及びソフトウェアの 開発の積極的推進、我が国で実施された研究成果を的確に世界に提供するデータベース の整備等を行う。
(3) 研究交流・知的財産制度等研究開発環境の整備
研究開発現場における競争原理の導入、公的機関の研究開発活動に係る制度・慣行・ 手続上の制約の緩和や弾力化等を推進する。国際的人材の活用や国際的な共同研究の推 進、研究交流制度の拡充及び科学技術系人材が転職等を円滑に行い得る環境の整備、産 官学の交流・連携の円滑化のための環境整備を推進する。さらに、研究開発成果の円滑 な事業化を促進する資金調達環境の整備、公的セクターにおいて実施された研究成果の 産業界への普及活動の積極化等を推進する。
研究者・技術者の研究開発とその成果の実用化へのインセンティブを高めるため、研 究者個人に研究資金を支援するグラント制度の量的質的拡充や研究者・技術者に対する 能力と成果に応じた報酬をベースとした処遇システムの導入の検討等を進める。また、 審査処理期間の短縮化、権利付与範囲の適正化、権利侵害の合理的解決策の確立等知的 財産制度の整備改善等を推進する。さらに、研究活動を円滑に進めるため、基本規格や 試験・評価方法等の標準化を促進する。なお、従来の有形の資産から、無形の資産であ る科学技術やソフトウェア等の知的財産の重要性が十分認識されるよう、これらについ ての普及・啓発を推進する。
(4) 創造的科学技術系人材の育成・確保
大学院の学生や博士課程を修了した若手の研究者に対する支援の一層の強化を図る。 「研究者・技術者」という職業の魅力を向上させるためには、企業、大学及び国立試験 研究機関において適切な評価に基づく処遇等の改善が必要である。また、大学、国立試 験研究機関等が自由で多様かつ効果的な研究開発活動を行える体制を整備する。さらに、 若者の科学技術離れにも対応し、青少年に科学技術の創造性などその魅力を正確に伝達 するため、学校教育及び社会教育における科学技術に関する学習の振興を一層図るとと もに実際に科学技術に触れられる展示施設の整備や各種イベントの開催など多様な機会 を提供する。
2.知的資本の総合的計画的整備
知的資本の整備を実効性あるものとするため、政府は、研究開発の推進に関する総合的 な方針、研究施設等の整備、その他研究開発推進のための環境整備等知的資本の整備を内 容とした「科学技術基本計画」を策定し、その総合的計画的な整備を推進する。また、で きるだけ早期に政府研究開発投資の倍増の実現を図。

第3節 情報通信の高度化

豊かで安心できる国民生活と自由で活力ある経済社会の実現を確かなものとしていくた め、高度情報通信社会の早期構築を目指す。そのため、諸制度の改善とともに、必要性を 勘案しつつ公的部門の情報化を進めるなど、所要の環境整備を行う。
1.高度情報通信社会構築の意義
(1) 情報通信の高度化は、オンラインショッピングや電子出版物など、従来は無かった新 たなサービスを国民に提供する。また、従来の地理的・社会的な条件の中で形成されて きたコミュニティを越え、自己の選択と責任でコンピュータネットワーク上の仮想コミ ュニティへの参加を可能とする。このように、情報通信の高度化は、国民に多様な選択 と自由な参加をもたらすこととなる。
(2) 産業分野においては、生産・流通部門の効率化、意思決定の迅速化等により、広範な 産業分野で生産性の向上を可能にする。また、今後、情報通信を活用した、企業向けや 家庭向けサービスの普及など、新しい産業の展開が期待される。このように、情報通信 の高度化は、産業分野に生産性の向上と新産業の創出をもたらすこととなる。
2.公的部門における情報通信の高度化
(1) 高度情報通信社会の構築は、「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」の考え方に 沿って、基本的には民間主導で進めることとし、公的部門は、同基本方針及びこれを受 けて策定された公的部門の情報化実施指針に基づいて、公的部門におけるネットワーク の整備や公的アプリケーションの開発・導入等の施策を講じ、所管する分野における情 報化を推進する。行政の情報化については、「行政情報化推進基本計画」に基づき、国 民への情報提供の高度化など、積極的に情報化に向けた取組を進める。また、公的部門 は、データの形式や接続手順等について、自らの標準化により、社会全体への波及を図 る。
(2) 公的部門の情報通信の高度化には、ハードウェアの整備のみならず、運営のための人 材やソフトウェアが必要な場合が少なくない。そのため、「公共投資基本計画」の考え 方に沿って、必要な社会資本の整備を進めることとし、その際、人材の育成や使いやす い魅力あるソフトウェアの整備が極めて重要であることにかんがみ、その確保について も適切に配意する。
3.情報通信の高度化に向けた環境整備
(1) 現在の制度や慣行には、情報通信の高度化を想定していないものがあり、その障害と なる事例が生じている。諸制度の見直しに当たっては、その目的に配意しつつ検討を行 い、その結果を踏まえて見直しを進め、電子化された情報の処理への早期の移行を目指 す。また、技術の進歩とともに進展しつつある通信と放送の融合について、新産業の創 出、消費者保護等の観点から、早急かつ積極的に検討を進める。
(2) 高度情報通信社会の実現のためには、新しい魅力あるコンテンツが積極的に創作・供 給され、コンテンツを適切かつ円滑に利用することができる環境の実現が重要である。 このような観点から、著作権の保護と利用の円滑化のための仕組みを含め、著作権等の あり方について早急に検討を進める。
(3) 高度情報通信社会においては、プライバシー侵害の可能性が増加するとともに、情報 の流通や処理に関しての不正行為の発生も考えられるので、これらの変化に対応した適 切な法制度の整備等の対策を進める。また、情報の流通が容易になることに伴い、名誉 棄損や公序良俗に反する情報の頒布・取引等が増加することが考えられる。そのため、 表現の自由等との調整に留意しつつ、法制度の整備等の対応を図るとともに、学校教育 等においても情報の流通におけるルール遵守を徹底させるよう取り組む。
(4) 高度情報通信社会の構築に当たり、国民や産業分野の参加の促進にとって、通信コス トの与える影響が大きい。そのため、「規制緩和推進計画」を着実に実施するとともに、 公正かつ有効な競争条件の整備を徹底することで競争を活発化し、より一層の通信料金 の低廉化を図っていく。また、将来的には定額制も視野に入れるなど、利用者が利用し やすく、サービスを提供する民間企業の創意工夫がいかされる、需要喚起型の料金体系 の実現を目指す。
(5) 光ファイバーや衛星通信を始めとするネットワークインフラの民間主体の整備とそれ に対する公的な支援など、適切な官民の分担によるハードウェア、ソフトウェアを含め た情報通信インフラの整備を計画的に推進する。
(6) 情報通信の高度化の初期段階においては、変化に十分対応できない人々が社会生活上 不利になると懸念されている。このため、公的機関における諸手続や情報提供等に関し ては、情報通信を活用した手段に急激に移行することなく、当分の間、従来の方法と新 しい方法の提供とを併存させることとする。特に身体障害者向けの機器については、公 的部門は民間部門と協力して開発に当たる。
(7) 産業構造の転換や企業内の情報通信の高度化を利用した効率化の過程においては、各 企業内における組織の変革の進展や雇用需要の減少が考えられる一方、情報通信を核と した新たな産業や雇用の創出も期待されており、新たな産業分野への展開の支援と産業 ・業種間の労働力の円滑な移動が必要となる。このため、職業紹介システムの強化等を 図るとともに、あらゆる分野の労働者が情報通信の高度化に対応できるよう、職業訓練 等により職業能力の開発・向上に努める。
4.産業分野の取組への期待
高度情報通信社会は、経済社会を構成する各界各層が広範かつ積極的な取組を行うこと によって構築されていくものと考えられ、中でも産業分野の果たす役割は大きい。 (1) サービスやネットワークの提供者が、利用者の具体的なニーズを的確に捉え、新たに 事業化を図ることにより、情報通信に関連した市場を発展させ、真のゆとりと豊かさの 実感できる国民生活の実現に貢献することが期待される。 (2) 高度な情報通信システムの利用者の増大を図るため、機器やソフトウェアを提供する 企業が利用者のニーズを的確に把握しつつ競争的な取組を行うことにより、利用者にと って使いやすく廉価な機器やソフトウェア等を開発するとともに、製品開発等を支える 根幹的な理論・技術の研究開発に積極的に取り組むことが期待される。

第4節 社会資本整備の推進

1.公共投資基本計画の推進
(1) 社会資本整備については、「公共投資基本計画」の考え方に沿って、財政の健全性を 確保しつつ、積極的な計画の促進に努める。国民生活の豊かさを実感できる経済社会の 実現に向け、下水道、都市公園、廃棄物処理施設、住宅・宅地の整備等の直接的に国民 生活の質の向上に結び付くものへの配分の重点化を継続しつつ、この中で、急速な高齢 化の進展に対応した福祉の充実を図るとともに、高度情報化等にも適切に対応する。
(2) 公共投資の地域別配分については、地域の活性化を通じた多極分散型国土の特色ある 発展を図ることを基本とし、重点的、効率的配分を行い基礎的条件整備を積極的に推進 する。なお、施設の運営に当たる要員、運営のための仕組み、機器や資材、サービスな どの施策が揃って初めて機能するものについては、必要に応じ社会資本の運営のための 人材・ソフト等の確保にも配意する。
2.社会資本の整備目標
(1) 社会資本整備は、様々な政策目的に沿って実施されている。それぞれの政策目的は相 互に密接に関連しており、一つの社会資本が複数の政策目的のために整備されている場 合も多いが、先進諸外国に比較して立ち後れた国民生活の質の向上に結び付くものを重 視する必要があること、阪神・淡路大震災の経験等を礎として、各種の自然災害に強く 安心できるくらしの実現が求められていること、本格的な少子・高齢社会の到来を間近 に控え、高齢者の介護問題等への適切な対応を図る必要があること、高コスト構造の是 正、グローバリゼーションへの対応等の構造改革が求められている我が国の現下の経済 情勢等にかんがみ、高度な情報通信インフラや基幹的交通ネットワーク等を利用した活 力ある経済社会の基盤の整備が重要であることなど、我が国が現在直面する主要な課題 を踏まえると、政策目的は大きく以下の3つに整理される。
  • 1) 快適な生活環境の形成
  • 2) 安全で安心できる生活の確保
  • 3) 新しい日本経済の発展基盤の構築
(2) 国民が真に豊かさを実感できる社会を実現するため、これらの政策目的を踏まえつ つ、利用者の視点に立って社会資本の整備目標を分かりやすく示すことにより、それぞれ の施策の方向を示すとともに、これらの整備目標等を踏まえて社会資本の着実な整備を図 る(別表参照)。 (3) なお、都道府県、市町村等地域のレベルでみた場合、政策目的は必ずしも全国一律で ある必要はない。住民に身近な社会資本の整備は地方が主体となって行うことが基本で あり、地方公共団体は、それぞれの個性を踏まえて政策目的を整理し、地域の総合的な 政策主体として長期的なビジョンに基づき、地域の特性に応じた個性豊かな社会資本の 整備を実施することが求められる。

第8章 行財政改革の推進等

構造改革を推進していくに当たっては、公的部門の改革を進める必要がある。このため、 以下により、行財政改革の推進等を図る。

第1節 行政改革

1.行政改革の推進
国民経済の成熟化、人口の急速な高齢化や価値観の多様化、さらには国際情勢の激変な ど内外情勢は大きく変化し、戦後の我が国の発展を支えてきた行政システムも今や様々な 歪みを生じ、従来どおりのあり方をそのまま踏襲していたのでは社会のニーズに対応でき なくなっている。
変化への対応力に富み、簡素で効率的かつ国民の信頼を確保し得る行政を確立するため、 これまでの臨時行政調査会及び3次にわたる臨時行政改革推進審議会の答申等を尊重する とともに、現在検討が進められている行政改革委員会の意見をも尊重し、その改革を進め ていく。
改革の方向としては、「官から民へ、国から地方へ」であり、官と民との関係では規制 緩和等、国と地方との関係では地方分権、国民の信頼確保の観点からは行政情報の公開を 進める。
2.地方分権の推進
個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現のため、住民に身近な行政は住民に身近な地方 公共団体において処理することを基本として、地方分権を推進する。これにより、地方に おいて自らの地域に責任を持つ自立した地方自治を確立し、地域社会・経済の特色ある発 展を促進する。この場合、国と地方公共団体の役割分担に即した国から地方公共団体への 権限委譲等の推進、国と地方公共団体との役割分担に応じた地方税財源の充実確保、地方 公共団体の行政体制の整備及び確立を図ることにより、その行財政基盤を強化するととも に、併せて地域経済の成長の一助とする。
3.情報公開の推進
処分、行政指導及び届出に関する手続に関し、共通する事項を定めることによって、行 政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的として制定された行政手続法 の趣旨を踏まえた行政運営を行う。
行政を一層公正で民主的なものとし、行政に対する国民の信頼を確保する観点から、行 政機関の保有する情報を公開するための法律の制定その他の制度についての本格的な検討 を進める。公共料金の改定に当たっては、公共料金関連事業の内容の透明性を確保し、国 民の十分な理解を得るよう、情報公開を進める。
国民による公開情報の活用を容易にするため、急速に進歩しつつある情報通信技術の成 果を行政分野に積極的に導入し、効率的、効果的な行政の実現を図るよう、行政の情報化 に計画的に取り組む。

第2節 財政改革等

1.財政改革の推進と財政運営
(1) 我が国財政は、公債残高が約 221兆円(平成7年度末見込み)に達し、これによる利 払費のため政策的経費が大きく圧迫されるなど構造的にますます厳しさを増している。 また、国際的に比較しても、主要先進諸国の中でも、公債依存度、利払費率、長期政府 債務残高いずれも最高水準にある。
(2) こうした中で、我が国財政は、今後、急速に進展する高齢化への対応、着実な社会資 本の整備、国際社会における責任の増大など、真に時代の要請に沿った財政需要に対応 し、財政の資源配分機能を有効に発揮できるようにしていく必要がある。このため、財 政構造の改善を図り、その対応力を回復することが急務であり、これにより限られた財 源を重点的・効率的に配分することとする。また、財政事情等を勘案しつつ、経済状況 の変動に応じ適切かつ機動的な財政運営に努める。
(3) 今後、急速な高齢化の進展等に伴い、国民負担率が更に上昇すると見込まれるが、経 済の発展、社会の活力を損なわないよう、極力その上昇を抑制する。
(4) 中長期的に経済の成長を継続させていく上で、財政の健全性の確保が重要である。こ れは、主要先進諸国の共通認識となっており、実際に財政健全化に向けた努力がなされ ているところである。こうした中、我が国においては、現世代の負担は、近年、国民負 担率が40%を下回る水準で横ばいとなっている一方、全体としての受益水準はその間着 実に上昇しており、この分だけでも将来世代に対し相当程度の追加負担を負わせること になっているため、この観点からも、早急な財政の健全化を推進していく必要がある。
(5) 計画期間中の財政運営に当たっては、公債依存度の引下げ等により、公債残高が累 増しないような財政体質を作りあげるよう努める。このため、歳出面においては制度の根 本にまでさかのぼった見直しや施策の優先順位の厳しい選択を行うなど徹底した洗い直 しを行うとともに、税外収入等歳入面においてもあらゆる努力を傾注し、財政改革を一 層強力に推進する。
2.今後の税制のあり方
租税負担のあり方については、活力ある豊かな経済社会を実現するという観点を踏まえ、 高齢化、経済のストック化、国際化といった我が国経済の構造的な変化に対応しつつ、税 負担の公平性、経済活動等への中立性、制度の簡素性という基本原則の下、所得・消費・ 資産等の間でバランスのとれた税体系の構築を目指して、幅広く検討する。
3.今後の地方財政運営
(1) 地方財政については、地方債等の地方の借入金残高が約 121兆円(平成7年度末見込 み)に達するなど、ますます厳しさを増している状況にあるが、一方で、住民に身近な 社会資本の整備、少子・高齢社会への対応、災害に強い安全なまちづくり等において、 地方公共団体が果たすべき役割は大きい。計画期間中の地方財政の運営については、財 源の重点的かつ効率的な配分を行い、政策課題に適切に対応する。また、地方財政の健 全性を確保するため、地方公共団体においても経費の節減合理化を推進する。 (2) 補助金等については、地方行政の自主性の尊重、財政資金の効率的使用の観点から、 地方分権推進法の趣旨に沿って、国と地方公共団体の機能分担のあり方、費用分担のあ り方の見直しを踏まえ、地方公共団体の自主性に委ねるべきものにあっては補助事業の 廃止や一般財源化等を進めるほか、零細補助金の整理、類似補助金の統合・メニュー化 等を推進し、真に必要なものに限定していくなどにより、より一層の整理合理化を進める。

第3節 金融政策

金融政策は、経済の健全な発展の基盤として通貨価値の安定を図ることを基本として、 経済状況の変動に応じ適切かつ機動的に運営する。また、金融自由化・国際化の進展等を 踏まえ、今後とも引き続き金融政策の有効性を高めるよう努める。