第3章 (2)地域経済が直面する課題

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続いて本節では、安定的な成長に向けて、地域経済が直面する課題を整理する。

(1)地域経済が直面する課題

(需要先の多様化など外的ショックの域内経済への影響拡大を防ぐ取組が必要)

インバウンド需要の変動や米国の関税引上げの影響から確認できる地域経済の脆弱性の一つは、過度に特定の国や地域に需要が集中することにより、ひとたび環境変化や突発的な事象が生じて、それらの国・地域からの需要が急減すれば、地域経済への影響がより深刻化するおそれがあるということである。

前章において、インバウンド需要の変動の影響について、百貨店とそれ以外の業種で影響に違いが生じる背景の一つとして、代替需要が存在するかどうかという点に言及した。例えば、2025年11月に中国政府により日本への渡航を避けるよう注意喚起がなされた後の景気ウォッチャーの景気判断理由(以下、「コメント」)をみると、百貨店では、中国人客が減ったことによる売上減をカバーするには至っていないといったコメントがみられるが、宿泊業では、中国人客の予約が減少しているものの他の地域の予約で穴埋めできているといったコメントが比較的多くみられる点が対照的である。また、内閣府が行ったヒアリングでも、百貨店からは「爆買いしていた中国人客が減少し代替する需要がない」という声があった一方、ホテルからは「その他の国や国内客需要があるので問題ない」との声が聞かれた。

米国の関税引上げについては、ひと頃に比べれば影響を懸念する声は少なくなったものの、米国向けの輸出の多い北関東では、景気ウォッチャー調査の先行き判断においてコメントが引き続き一定数存在し、米国の関税引上げを不安要素として地域経済の景況感に影響を及ぼしている。また、米国への輸出シェアが高い産業が基幹産業である地域では、関税引上げの影響が及ぶ範囲がその産業内に止まらない可能性もある。製造業と非製造業における賃金変動の関係をみると、製造業の就業者比率の高い地域では、製造業の賃金上昇が非製造業の賃金上昇に波及する傾向がみられる(図表3-1)。このことは、地域経済を主導する産業の動向が、同じ地域のその他産業にも影響を及ぼす可能性を示唆しており、こうした波及効果を通じて域内経済に好循環を起こすことは地域経済の持続的な発展に向けた重要なカギとも言える。他方で、賃金の引上げの原資となる企業収益の減少が続くようなことになれば、求人の抑制や賃金引上げの鈍化、そして地域経済の押下げ、他業種への波及という形で影響が地域内で業種を超えて拡大する可能性もある。我が国の製造業はこれまでも様々な外的なショックを乗り越えてきた。今回の米国の関税引上げにも輸出価格の引下げなどで対応しており、地域内で雇用や賃金に影響が拡大する動きはみられない。しかし、中長期的な視点では、同様の事案が起きた場合に備えて輸出先の多様化等を通じて域内経済への影響拡大を防ぐ取組も必要と考えられる。

(観光関連業種では人手不足への対応・収益力向上のために労働生産性向上が急がれる)

また、高い付加価値を生み出す強靭な構造を持つことが一時的な需要変動に負けないための重要な要素でもあり、そのために労働生産性向上の取組は重要となる。各地域の業種別の労働生産性の伸びを確認すると、訪日外国人の多い近畿、北海道や沖縄では、インバウンド需要の影響を強く受けると考えられる小売業や宿泊・飲食サービス業の労働生産性が相対的に低い水準にとどまっていることが分かる(図表3-2)。

労働生産性は賃金と正の相関があり、労働生産性が上昇すれば賃金も上昇するという関係がある。観光関連業種の宿泊・飲食サービス業でもその関係はみられるが、その賃金・労働生産性はいずれも相対的に低い水準にとどまっている(図表3-3)。インバウンド需要が地域経済の成長の推進役としての役割を高めつつある中においては、観光関連業種の労働生産性を高めていくことが、地域の安定的な賃金上昇と消費活性化に貢献すると考えられる。そのためには、ロボット導入やデジタル技術の活用など、業務の省力化を図ることで、労働者1人当たり及び時間当たりの収益を高める工夫がますます重要になってくる。

さらに、労働需給面をみると、小売業や宿泊・飲食サービス業では人手不足が深刻な状況にある。全国の職業別の有効求人倍率をみると、商品販売従事者、宿泊・飲食施設の従業員を含む飲食物調理、接客・給仕職業従事者の倍率は、全体の有効求人倍率を大きく上回っている状況にある(図表3-4)。

人手不足感が相対的に強い要因としては、小売業や宿泊・飲食サービス業が労働集約的な業種であるという点がある。全国の売上高人件費率をみると、特に、宿泊・飲食サービス業では売上高人件費率が非常に高い水準にある(図表3-5)。また、売上高人件費率が高いということは簡単には賃金を上げられないという構造にあるとも考えられる。こうした収益構造は、設備投資によって短期的に転換し得るものではないが、人手不足が深刻化する中では資本が労働を代替する技術の活用を着実に進めなければ、収益の面でも人手の確保の面でも、悪循環に陥るおそれがある。継続的な賃金上昇に加え、人手不足への対応という点でも観光関連業種における労働生産性を高めるための取組が急がれる。

(2)地域経済の安定的な成長に向けて

(安定的な成長に向けて直面する課題を一つ一つ解消していくことが重要)

今回のレポートでは、インバウンド需要の変動や米国の関税措置など、環境変化や事象の発生に起因する脆弱性に焦点を当てて議論を進めた。

まず、特定の国や地域に需要先を集中することから生じる脆弱性を指摘した。これは供給元についても同様のことが言える。一つの需要先・供給元に過度に依存する構造があるならば、そうした構造を変えていくことが、地域経済の成長の基盤を強化することにつながる。

また、労働生産性の低い業種の労働生産性向上も地域の成長力の強化に向けて重要である。インバウンド需要の変動の影響を強く受けると考えられる観光関連業種の労働生産性は相対的に低い水準にとどまっている。インバウンド需要が拡大する中で宿泊・飲食サービス業など観光関連業種では人手不足感が強いにも関わらず、賃金水準は依然として低い。観光業が地域経済の成長の推進役として役割を高めつつある状況を踏まえれば、観光関連業種の労働生産性を向上させ賃金をより高めていくことが地域経済の安定的な成長に向けて重要な課題と言える。小売業では人手不足を生産性向上で補うためにセルフレジ・レジレス等の導入が近年伸びており、セルフレジについては地方圏での導入が進んでいる(図表3-6)。また、飲食業でも近年深刻化する人手不足を背景に、ファミリーレストランなどで配膳ロボットを目にする機会が増えている。

宿泊業でも、こうしたロボット導入やデジタル技術の活用など業務の省力化を通じて、生産性向上につながる可能性がある。例えば、沖縄県うるま市には、産学官連携のもと、宿泊・観光分野におけるデジタル技術の活用を通じた生産性向上を目的とした実証実験施設「タップホスピタリティラボ沖縄」が設置されている。同施設では、ロボット、モバイル、クラウド等各種システムを組み合わせ、宿泊予約、チェックイン、滞在中の各種サービス、チェックアウトに至るプロセスを連携・一元管理し、ホテル運営の自動化・効率化を目指した実証実験が行われている(図表3-7)。宿泊業の労働生産性向上に向けて、こうした新しい技術の導入による業務の省力化が急がれる。

今回のレポートでは、景気ウォッチャー調査におけるコメントのテキスト分析を通じて、地域経済が直面する課題を浮き彫りにした。地域経済にとっては、長期的には人口減少への対応が重要課題であることは言うまでもない。また、円安や金利上昇、原油価格が大きく変動しており、こうした事象の発生が地域経済の景況感に与えるリスクにもよく注意する必要があることも言うまでもないが、地域経済が持てる力を発揮し、安定的に成長していくために、本レポートで示した地域経済のボトルネックとなっているとみられる課題を一つ一つ解消していくこともまた重要と考えている。本レポートが地域経済の安定的な成長を実現する上での参考となれば幸いである。

コラム3:観光業の生産性向上への取組

本文では、沖縄県の実証実験施設を紹介したが、その他の効率化・省人化を進めている取組事例を紹介する。宿泊施設においては、実際に、フロント業務、食事の準備・配膳などで効率化・省人化を進めている事例がある(コラム3図表1)。

例えば、自動チェックイン機や電子宿帳システムの導入である。これによりフロント業務における人員の負担軽減につながるとともに、ペーパーレス化による業務効率化を実現することができる。また、ロボットを導入している宿泊施設の事例では、配膳ロボットの導入により食事会場の配下膳業務を自動化し、清掃ロボットを導入している施設では、共有スペースの清掃業務時間の短縮につなげるなど、これまで多数の人員を割かなければならなかった業務において負担の軽減につながっている。

このように、宿泊施設においても効率化・省人化のための投資が徐々に進んでおり、生産性向上に向けた更なる投資が期待されるところである。

コラム4:円安、金利上昇の影響

本文では、景気ウォッチャー調査において言及割合が特に高い、「価・値上」、「外国人・インバウンド」や「米国・関税」について分析し、その課題を整理してきた。一方、2025年末頃に言及割合が高まっているワードとして、「円安・為替」と「金利・利上」がある。

「円安・為替」については、物価や企業コストへの影響について、家計動向関連では円安の結果として物価上昇が進み、それが消費活動に影響することを示唆するコメント、企業動向関連では原材料の輸入価格への影響を示唆するコメントがみられる。

次に、「金利・利上」については、金利上昇で住宅の購買力の低下が懸念される、金利上昇で設備投資への影響が懸念されるといったコメントがみられ、主に、金利上昇の影響を受けやすい住宅関連や企業動向関連でみられる(コラム4図表1)。

今のところ、これらのワードへの言及は、いずれの地域でも先行き判断におけるコメントが中心であり、かつその割合も大きくて5%に達する程度にとどまり、0%の地域もみられる。こうした状況を踏まえると現時点で景況感への影響は限定的と考えられるが、一定数の言及コメントがみられることから引き続き注視していく必要がある。

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