第2章 (2)地域の声から確認できる脆弱性

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前節の景気ウォッチャーのコメントから、物価上昇は全国的な課題であるが、インバウンドは観光業のシェアの高い地域、米国の関税措置は製造業のシェアの高い地域で関心が強い。各地域が強い関心を示しているテーマは、その地域の経済活動を支える産業と密接に関連する傾向があり、それは、裏返せば、平常時には地域の経済活動を支える産業がこうした環境変化や事象の発生に対して構造的な脆弱性を抱えているとも言える。そこで本節では、インバウンド需要の変動や米国の関税措置に強い関心を示す背景を分析した上で、それぞれの地域が抱えている構造的な脆弱性を確認したい。

(1)インバウンドの変動から確認できる脆弱性

(訪日外国人は南関東、近畿で多い)

まず、インバウンド需要の変動から確認できる構造的な脆弱性を確認する。訪日外国人数はコロナ禍を経て増加が続いており、2025年に過去最高の4000万人を突破した。訪日外国人延べ宿泊者数の推移をみると、南関東と近畿が多いものの、徐々にその他地域も増加しており、インバウンド需要の各地域経済への貢献度が高まっていることがうかがえる(図表2-5)。このようにインバウンド需要は全国に拡大しつつあるものの、それでも南関東と近畿の占める割合は大きく、全体の約3分の2であり、訪日外国人の消費動向をみても、南関東、近畿のインバウンド消費額が群を抜いている(図表2-6)。このため、訪日外国人の動向に一旦変動が起きると、こうした訪日外国人が多い地域では観光業を中心に地域の景況感がその影響を大きく受ける可能性がある。

(インバウンド需要変動の影響は、百貨店で大きい)

そこで、景気ウォッチャー調査におけるコメントを更に深掘りし、インバウンド需要の変動の影響を受けやすい業種・職種を確認する。2025年以降に「外国人・インバウンド」に言及した景気ウォッチャーの割合を業種・職種別に集計すると、現状・先行き判断共に言及割合は百貨店とホテル・旅館で高いことが分かる(図表2-7)。百貨店やホテル・旅館はインバウンド需要の変動の影響を受けやすく、それが言及割合に現れていると考えられる。一方、インバウンド需要の変動の影響を受けやすいと考えられる飲食業でも言及するコメントはみられるものの、百貨店やホテルほど高くはない。

次に、宿泊業や百貨店への実際の影響を売上や稼働状況から影響を確認してみる。まず、百貨店だが、第1章で示したように、訪日外国人の多い北海道、関東、中部、近畿、九州・沖縄における百貨店の販売額は、日本で大災害が起こるとの風説の広がった2025年夏頃にかけてと、中国政府より日本への渡航を避けるよう注意喚起があった11月以降に鈍化する動きがみられ、訪日外国人の増減の影響を受けていると考えられる。一方で、同じ地域の宿泊施設の稼働状況をみると、2025年は夏頃も年末以降も前年とほぼ同じか、むしろ高い稼働状況にあり、稼働率が低下する動きはみられない(図表2-8)。2025年に入ってからのインバウンド需要の変動は、2025年夏にしても同年11月以降にしても、香港や中国本土といった中華圏からの訪日客の減少が主体であった。これらの訪日客は、欧米諸国からの訪日客に比べると、買い物を重視する傾向があり13、免税売上げの大きかった百貨店では、その代替が生じにくかったと考えられる。一方、宿泊業では、他国・他地域からの訪日外国人や国内需要によって一定程度代替されたとみられる。結果として、2025年のインバウンド需要の変動については、訪日外国人の多い地域の百貨店でその影響が大きかったと考えられる。

(2)米国の通商政策の変化から確認できる脆弱性

(自動車産業が主要産業である地域は影響を受けやすい)

続いて、米国の通商政策の変化から確認できる構造的な脆弱性を確認する。製造品出荷額の地域別内訳をみると、東海が25%、近畿、南関東がそれぞれ約16%と、これら3地域で全国の半分以上の出荷額シェアを占めている。しかし、域内の製造業のシェアをみると東海に続いて北関東、中国地方が高いシェアとなっている14。次に、各地域の輸出額の輸出先割合をみると、米国向けの割合は北関東が4割と12地域で最も高い割合となっている(図表2-9)。中国地方の米国向け輸出の割合は北海道や東北を下回るが、主要産業でもある自動車の輸出額の輸出先割合でみれば、最も割合が高くなるのは北関東で、その次に続くのが中国地方である。

第1章でも言及したとおり、米国による相互関税が発表された2025年4月以降、北関東や中国地方では自動車を中心に米国向けの輸出の減少がみられ、生産も減少する動きがみられた。その後は地域間に差異はあるものの持ち直しに転じたが、北関東は2025年末まで対前年比でマイナスが続いていた。また、企業収益の動向をみても、北関東、東海、中国地方では2025年度の大企業・製造業の経常利益計画が当初計画から大きく下方修正されている。自動車については輸出価格を引き下げつつ、輸出台数を確保する動きがみられ、内閣府が行ったヒアリングでも、「自動車メーカーの努力により、川下の企業に影響が及んでいない可能性がある」との声も聞かれ、関税によるコスト上昇を自動車メーカーが負担し、これが収益を下押ししている可能性がある。こうした域内経済における製造業のシェアの大きさ、また主要産業の米国への輸出比率の大きさに応じて、米国の関税引上げの影響が及んでいるものとみられる。

また、輸出と企業収益の関係性をみると、製造業のシェアの高い地域では、輸出の変化と企業収益の変化の間に相対的に高い正の相関関係がみられ、製造業に強みを持っている地域ほど、輸出の減少が地域企業の収益に与える影響が大きいと考えられる(図表2-10)。


13 観光庁「インバウンド消費動向調査」によれば、2024年の一般客1人当たり旅行支出のうち買物代は、中国が11.9万円、香港が8.9万円であるのに対し、ドイツは4.4万円、フランスは6.3万円、米国は5.8万円、カナダは5.5万円。
14 内閣府政策統括官(2025)p.12、13。
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