第2章 (1)地域経済の関心の高い環境変化・事象
本節では、景気ウォッチャーの景気の現状・先行き判断理由に着目し、各地域経済で関心の強い事象を確認する。
(1)2025年以降の景気ウォッチャー調査のコメント
(景気ウォッチャーのコメントは地域の関心事を図るバロメーター)
景気ウォッチャー調査では、調査客体である景気ウォッチャーに対して景気判断を行うに当たって、その景気判断理由(以下、「コメント」)を求めており、その結果をテキストデータとして公表している。これらのコメントには、その時々の様々な出来事が反映され、特定のワードに着目することで、調査時点において当該地域でどのような事象が話題や関心事となっていたかを把握することができる。いわば、地域の関心事を図るバロメーターと言える。
例えば、2025年以降において「万博」というワードに着目すると、大阪・関西万博開催期間前後に「万博」に言及する景気ウォッチャーのコメントは全ての地域でみられたが、その中でも、開催地である近畿では、当然、他地域を圧倒する数のコメントがみられ、万博開催期間中は毎月多くの景気ウォッチャーが「万博」に言及していた。特に、2025年4月から10月は毎月15%程度の景気ウォッチャーが言及しており、近畿では「万博」が非常に関心の高い事案であったことが分かる。
このように、地域別に景気ウォッチャーのコメントを分析し、主要ワードの言及割合の推移を確認すれば、その地域において関心の高い環境変化や事象が浮き上がってくる。以下では、上記の「万博」も含めて、「価10・値上」、「外国人・インバウンド」や「米国・関税」など、主要ワードに言及しているコメントを集計し、そのワードに言及しているコメントの割合を求めてみた。これにより各地域の景気ウォッチャーがどういった事象や問題に関心を抱いているかが把握できる。
(2025年以降、物価上昇、インバウンド、米国の関税措置に関する言及割合が高い)
2025年に入ってからのコメント集計結果をみると、現状・先行き判断11 のコメント共に「価・値上」、「外国人・インバウンド」、「米国・関税」に言及する景気ウォッチャーが多いことが分かる。
「価・値上」に言及するコメントの割合は高い状態が続いており、現状・先行き判断共に過去1年程度を通じて全ての地域でおおむね3割程度で推移している。コメントの内容をみると、値上げで売上が増加したといった物価上昇をポジティブに捉えるコメントもあるが、大半は、物価上昇で客の財布のひもが固いといった物価上昇をネガティブに捉えるものである。
また、「外国人・インバウンド」に言及するコメントみると、北海道、近畿や九州といった地域で言及割合が高い(図表2-1(1)(4)(6))。さらに、言及割合の大きさは時期によって違いがみられ、現状・先行き判断共に日本において大災害が起こるとの風説の広がった2025年前半に加え、中国政府より日本への渡航を避けるよう注意喚起がなされたことを受けて、2025年第4四半期以降もその割合が高まっている。
次に「米国・関税」に言及するコメントだが、北関東、東海、中国地方といった地域で言及割合が高いが、その割合は現状・先行き判断共に2025年4月の米国の相互関税の発表から7月の日米間の関税交渉の合意までの間で大きく高まっている(図表2-1(2)(3)(5))。東海では2025年4-6月期に現状判断で1割程度の景気ウォッチャーが、先行き判断では2割弱の景気ウォッチャーが関税に言及してコメントするなど製造業のシェアが高い地域で関心が高い事象であることが分かる。
(2)地域の景況感への影響
(物価上昇は全国的にネガティブな反応が続くものの、意識に変化の動き)
こうしたワードに言及している景気ウォッチャーが景況感に対してどのような見方を持ち、それが地域の景況感にどの程度の影響を及ぼしているのかを確認する。ここでは、各地域で言及割合の高い、つまり関心の高い事象である物価上昇、インバウンド、米国の関税措置について、それらに関連する「価・値上」、「外国人・インバウンド」、「米国・関税」というワードに言及する景気ウォッチャーの判断が域内のDI押下げにどの程度影響したかを計算した12。
まず、物価上昇の影響だが、現状・先行き判断共に全ての地域でほぼ毎月DIの下押し要因となっており、継続する物価上昇が景況感を押し下げる要因となっていることが分かる(図表2-2(1)(2))。一方、2025年半ば頃から、現状判断については多くの地域で下押しの影響が小さくなってきている。これには、二つの要因があり、一つ目は物価上昇に言及するコメントの割合が低下する動きがみられたため、二つ目は商品単価の上昇が収益の増加につながるなどといった、物価上昇を前向きに捉えるコメントが増えているためであり、物価上昇に対する意識は徐々に変わりつつあることがうかがえる。
(インバウンド需要の変動や米国の関税措置の影響は地域や時期ごとに異なる)
次に、インバウンドの変動と米国の関税措置の影響をみると、地域や時期ごとに異なる動きとなっている。まず、インバウンドの変動の影響については、2025年中、春から夏頃にかけてと、年末以降に現状・先行き判断で下押し要因となった地域がみられる(図表2-3(1)(2))。春から夏頃にかけては、日本で大災害が起こるとの風説が広がり、それを受けて香港などアジアを中心とする国・地域からの訪日客が減少したこと、年末以降は11月に中国政府より日本への渡航を避けるよう注意喚起が行われた結果、主に中国からの訪日客が減少したことを受けたものであり、現状判断では、いずれの時期でも、近畿や九州で下押しの影響が比較的強く出たとみられる。
続いて、米国の関税措置の影響だが、景気ウォッチャーのコメント数は米国の通商政策の変化に合わせて2025年に入ってから増加しており、米国による相互関税が発表された4月に現状・先行き判断共に下押しの影響が最も大きくなり、北関東、東海、中国地方といった地域で影響が強く出ていた。日米間の関税交渉の合意がなされた2025年7月以降は言及する景気ウォッチャーが減少するとともに、日米合意を前向きに捉えるコメントもみられ、2025年後半にかけて押上げに転じた地域もある(図表2-4(1)(2))。さらに、現状判断では言及するコメント数は少なくなっているため、DIの変動要因とならない地域・月もあるが、北関東では2026年に入ってからも下押し要因となる月もあり、地域によっては長く景況感を押し下げる要因となっていることがうかがえる。また、先行き判断では、影響が小さくなっているものの、引き続き域内の景況感の下押し要因となっている地域は多く、輸送用機械など地域の基幹産業への影響を懸念する見方は消えていないと考えられる。
コラム2:景気ウォッチャー調査改善の取組
景気ウォッチャー調査は、地域の景気動向を迅速かつ的確に把握するため、地域の景気に関連の深い動きを観察できる立場にある人々(景気ウォッチャー)が肌で感じる景気判断を集める調査である。月末に調査を行い、翌月初めにはその調査結果を公表しており速報性が非常に高い調査でもある。
本調査は2000年に開始されたが、それから四半世紀が経った。その間に、EC取引の高まり、スポットワークなど新たな働き方が広がるなど、日本経済を取り巻く環境も大きく変わっている。このため、2025年6月に調査の改善に向けていかなる取組が必要かを議論するために、「景気ウォッチャー調査研究会」を立ちあげ、改善に向けた議論を進めた。その結果は2025年10月に中間提言としてまとめられ、その提言に沿って、最新の産業構成に即した景気ウォッチャーの業種・構成比に組み換えるとともに、景気ウォッチャー(調査客体)の人数を2050人から3000人に拡大する予定である。これにより景気ウォッチャー調査が地域経済の構造変化や景気変動をより鮮明に映し出す、迅速で更に精度の高い調査となることが期待される。
内閣府では、まず試行的に景気ウォッチャーを3000人に拡大した調査を2026年秋頃から行うこととしている。試行調査を経て(試行調査の結果は参考系列として公表予定)、2029年度から3000人での調査に移行する予定である。
<景気ウォッチャー調査研究会について>
- ◇委 員
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- (座長)宅森 昭吉
- 景気循環学会副会長
- 岩下 真理
- 野村證券株式会社市場戦略リサーチ部
エグゼクティブ金利ストラテジスト - 鈴木 将之
- 住友商事グローバルリサーチ株式会社経済部シニアエコノミスト
- 土屋 隆裕
- 公立大学法人横浜市立大学データサイエンス学部長・教授
- 広田 茂
- 京都産業大学経済学部教授
- 前田 和馬
- 株式会社第一生命経済研究所経済調査部主任エコノミスト
- 大和 香織
- 三井住友信託銀行調査部チーフエコノミスト
- ◇開催実績
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- 第1回 令和7年6月23日 景気ウォッチャー調査創設の背景と経緯について
- 第2回 令和7年7月18日 有識者からのヒアリング
- 第3回 令和7年9月10日 調査における実務上の課題、現場からみた改善案について
- 第4回 令和7年9月24日 研究会の議論を踏まえた課題の整理について
- 第5回 令和7年10月22日 中間提言について(中間提言は2025年10月27日公表)
- 第6回 令和7年12月15日 調査の改善に向けた見直しについて
<景気ウォッチャー調査研究会 中間提言(2025年10月27日)(概要)>
1.ウォッチャーの業種区分・基準構成比の見直し
- 最新の標準産業分類を踏まえつつ、業種区分・基準構成比の見直しを進めるとともに、その業種区分・基準構成比のもとで試行的な調査(以下「試行調査」という。)の実施を検討すべき。その際、集客力のあるレジャー施設運営者、利用が増えている民間職業紹介事業者など景気に敏感と考えられる業種、サンプルの過小な業種の存在を踏まえるとともに、従来からの景気に敏感なウォッチャーの視点の重要性も考慮すべき。
- 近年伸びている消費者向けECやオンライン決済サービス、売上や店舗数を大きく伸ばしている全国チェーン店等の関係者にもウォッチャー委嘱を働きかけるべき。その際、地域の環境変化を踏まえ、景況感を捕捉できる事業者に委嘱を検討すべき。
2.サンプルサイズ・試行調査
- 地域別・業種別も含めた調査の精度向上等のため、サンプルの抜本的拡充を図るべき。
- 試行調査を実施する場合、過去のデータとの連続性、公表の速報性、コメントの文章量や街角景気ならではの現場の実感としての回答が維持されるべき。試行調査の公表の在り方を検討すべき。
- ウォッチャー確保に支障をきたすことがないよう工夫すべき。
3.今後検討すべきその他課題
- ユーザーの利便性を高める取組、景気ウォッチャー調査の認知度・利用度を高める取組、ウォッチャーのモチベーションをさらに高め、回答率の維持・向上に資する取組を進めるべき。